絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百三十五話 交流会Ⅰ
というわけで。
メンバーが六人になったことをアリシエンスに報告するため、マーズは教員室へとやってきていた。
「なるほど……。思ったよりも早く集まりましたね。最初はどうなることかと思っていましたが、なんとかモデルケースの威信は保てそうです。あなたのおかげですよ、マーズ・リッペンバー」
「いやはや、そんなことはありませんよアリシエンス先生」
マーズは謙遜する。
「……いえ、あなたが頑張ってくれたおかげですよ。私は通常の業務と並行して騎士道部の顧問を行うことが出来ません。あなたの時間が空いていて、ほんとうによかった」
「まあ、私がここにいるってことは即ち平和ってことですからね」
そう言ってマーズは自嘲する。
マーズとしては彼女の力でここまで行ったとは考えていない。もともと舞台が整っていれば学生が勝手にやると考えていたからだ。だからマーズはあくまでも責任を取る立場だけに居ればいい――そう思っていただけなので、だから、彼女としては実際に何かをしたと実感していないのだ。
「まぁ……あとはリーダー決めくらいでしょうか」
マーズはアリシエンスから貰ったコーヒーを冷ましながら言った。
アリシエンスはマーズの言葉を聞き、溜め息を吐く。
「それもそうね……。去年の場合はトントン拍子で決まってしまったというのがあるけれど……今年は?」
「先生の予想通り、ザイデルとゴーファンでその座を争いました」
「やはりそうなったのね……。仕方無いこととはいえ、禍根が息子世代まである事実を目の当たりにすると何とも悲しくなるというか」
「正確にはザイデル側の一方的な恨みにも思えますがね」
漸く飲める程度に温度が下がったのか、マーズはコーヒーを一口啜った。
マーズの言ったことは事実にほかならなかった。ザイデルとゴーファンが争うことに結果的にはなってしまったが実際にはザイデルが自らの地位が低いのを逆恨みしたことによるものだ。はっきり言って、まったくゴーファンたちには関係のないことであるし、彼自身がそれなりの順位――それこそ誰も文句を言わないような、高い順位を叩き出せば良かっただけなのだ。
「……まぁ、そのリーダーを決める戦いで凡てが決着付けばいい話ですが……」
「流石にそれくらいはけじめをつけるつもりでいるでしょう。この戦いで負けてから、さらにそれを所望するようなら男じゃありません。ザイデルの名が廃りますから」
「確かに、それもそうですね」
マーズの言葉にアリシエンスは首肯。このやり取りがもうしばらく続いていた。それを鑑みるに、どうやら完全に騎士道部はマーズに一任するように思えた。いくらなんでもそれはどうなのだろうか――なんてことを思ったが頼まれたからにはやらざるを得ない。それが彼女の理念であったからだ。
「そういえば、アリシエンス先生。ひとつ、騎士道部でやりたいと思っていることがあるんですけど、もしよろしかったら先生もいらっしゃいませんか」
「やりたいこと? ……なんでしょう」
「歓迎会です」
間髪いれずに彼女は言った。
歓迎会。それは部活動などのグループで新入りが入った時に行われるパーティめいた集まりのことだ。そういうのをやることでギクシャクしていたメンバーは結束力を高める。別に今回のメンバーが全員一年生ならば問題もなかったが、二年生が何名かいるために歓迎会をして交流を図るべきではないかとマーズは常常考えていたのだ。
「歓迎会、ねえ……。まあ、どちらかといえば一年生と二年生の交流会……そういうことかしら?」
「ええ。そういうことになります。大会では個人の能力のほかに団体の、チームワークも問われることは毎年おなじみです。そして今年は……ルールも変わるらしいですからね」
「今までのトーナメント・システムを撤廃し、競技で執り行う。あなたもさすがに知っているようね」
「ちょっといろんなことに首を突っ込んでいるワーカーホリックが私の知り合いにいるものでね。こういう情報はけっこう知れ渡ってしまうんですよ」
そう。
彼女たちが心配しているのはそれだ。
今年から大会は大きく変わってしまう。それについて、対処できるのかどうか――それが心配だったのだ。
今まで、少なくとも去年までは団体戦と個人戦でトーナメント・システムを導入していた。だが、それでは面白みに欠けると考えたのか、大会運営側はルールを大きく変更した。そのひとつとなるのが、『競技制』だ。いわゆる学校の運動会のようなシステムだ。それを導入したのだ。今まで仕事を休んでまで見に行っていた観客が、休み過ぎないようにした……というわけではないが少なくともこれによって様々な場面が変更されるのは確かだ。
現に今年はティパモール近郊にあったスタジアムは使わず、ヴァリス城近郊にある巨大スタジアムへと移転となった。理由は簡単。競技を執り行うために、巨大なスタジアムを自ずと必要になってしまうからだ。
「それで問題になるのはやはり競技ですが……あなたはそれを知っているんですか?」
アリシエンスは訊ねる。しかし、マーズは首を横に振った。
「さすがにそこまでは聞き出せませんでした。やっぱり箝口令が敷かれているみたいです。アリシエンス先生の方では何か掴んでいたりしていません?」
「それがねえ……今年から大会の運営委員会のシステムががらっと変わってしまって。私が今いるのはどちらかというと選手のサポートの方なのよ。そして競技とかルールとかを制定している部門は別にあって、そこの情報は重要だから秘匿性が高くなっている。だから、そう簡単に教えてもらうことも出来ない。……でも、さすがにこのまま何も知らないままで行くと対策もできないままになるからグダグダになってしまうのは確実。それは運営も望んでいないから、何かルールが提示された……いわゆるルールブックのようなものが届くんだと思います」
「ルールブック……ですか」
マーズはアリシエンスの話を聴きながらいろいろと展開の遅い運営に怒りを募らせていた。とはいえ、目の前にいるアリシエンスも運営の一人に入っているが、彼女に怒りをぶつけてもまったくの無駄であることは知っている。
今年は去年と違って五チーム、計二十五名が参加する。もっとも、それは正規メンバーの数だけであり補欠やサポートメンバーなどを加えるとその二倍から三倍くらいに増えてしまうのだが。
「まあ、私は運営の一端を担っているとはいえ、そのために集められた有識者『オプティマス』の一員でしかないことに変わりはありませんし、それも最大で来年までです。来年以降は新たにこの学校の先生が選ばれるかどうかも解らないですし……私がまだ運営として活動できるのもある意味運がいいといえるでしょう」
「運も実力のうち、って言いますよ。アリシエンス先生」
そう言ってマーズは笑みを浮かべる。
対してアリシエンスは「それもそうね」とだけ言って、コーヒーを口に運んだ。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
「交流、会か。確かにそれもいいかもしれないな」
崇人はマーズからそれを聞いて小さく頷いた。
今、彼らがいるのは彼らの住む家のリビングである。部活動は早々に終わったため、現在食事を取りながら話をしているのだった。ちょうどいいタイミングだった――ということもあるのだろう。だから、マーズは今彼にまず意見を聞いているのだ。
「どうかな。そうすればまあ、団結力は高まると思う。はっきり言ってあのメンバーでリモーナは浮いている。だって、彼女だけ二年生だからね。だから、その浮いているものをできるだけ減らしておきたい。それが今回の交流会の目的だ。団体戦でどういう競技が出るか知れたものじゃないからね」
「まだはっきりとしていない、っていうことか」
そう言って崇人はフォークで綺麗にスパゲッティを絡め取って、それを口に運んだ。
メンバーが六人になったことをアリシエンスに報告するため、マーズは教員室へとやってきていた。
「なるほど……。思ったよりも早く集まりましたね。最初はどうなることかと思っていましたが、なんとかモデルケースの威信は保てそうです。あなたのおかげですよ、マーズ・リッペンバー」
「いやはや、そんなことはありませんよアリシエンス先生」
マーズは謙遜する。
「……いえ、あなたが頑張ってくれたおかげですよ。私は通常の業務と並行して騎士道部の顧問を行うことが出来ません。あなたの時間が空いていて、ほんとうによかった」
「まあ、私がここにいるってことは即ち平和ってことですからね」
そう言ってマーズは自嘲する。
マーズとしては彼女の力でここまで行ったとは考えていない。もともと舞台が整っていれば学生が勝手にやると考えていたからだ。だからマーズはあくまでも責任を取る立場だけに居ればいい――そう思っていただけなので、だから、彼女としては実際に何かをしたと実感していないのだ。
「まぁ……あとはリーダー決めくらいでしょうか」
マーズはアリシエンスから貰ったコーヒーを冷ましながら言った。
アリシエンスはマーズの言葉を聞き、溜め息を吐く。
「それもそうね……。去年の場合はトントン拍子で決まってしまったというのがあるけれど……今年は?」
「先生の予想通り、ザイデルとゴーファンでその座を争いました」
「やはりそうなったのね……。仕方無いこととはいえ、禍根が息子世代まである事実を目の当たりにすると何とも悲しくなるというか」
「正確にはザイデル側の一方的な恨みにも思えますがね」
漸く飲める程度に温度が下がったのか、マーズはコーヒーを一口啜った。
マーズの言ったことは事実にほかならなかった。ザイデルとゴーファンが争うことに結果的にはなってしまったが実際にはザイデルが自らの地位が低いのを逆恨みしたことによるものだ。はっきり言って、まったくゴーファンたちには関係のないことであるし、彼自身がそれなりの順位――それこそ誰も文句を言わないような、高い順位を叩き出せば良かっただけなのだ。
「……まぁ、そのリーダーを決める戦いで凡てが決着付けばいい話ですが……」
「流石にそれくらいはけじめをつけるつもりでいるでしょう。この戦いで負けてから、さらにそれを所望するようなら男じゃありません。ザイデルの名が廃りますから」
「確かに、それもそうですね」
マーズの言葉にアリシエンスは首肯。このやり取りがもうしばらく続いていた。それを鑑みるに、どうやら完全に騎士道部はマーズに一任するように思えた。いくらなんでもそれはどうなのだろうか――なんてことを思ったが頼まれたからにはやらざるを得ない。それが彼女の理念であったからだ。
「そういえば、アリシエンス先生。ひとつ、騎士道部でやりたいと思っていることがあるんですけど、もしよろしかったら先生もいらっしゃいませんか」
「やりたいこと? ……なんでしょう」
「歓迎会です」
間髪いれずに彼女は言った。
歓迎会。それは部活動などのグループで新入りが入った時に行われるパーティめいた集まりのことだ。そういうのをやることでギクシャクしていたメンバーは結束力を高める。別に今回のメンバーが全員一年生ならば問題もなかったが、二年生が何名かいるために歓迎会をして交流を図るべきではないかとマーズは常常考えていたのだ。
「歓迎会、ねえ……。まあ、どちらかといえば一年生と二年生の交流会……そういうことかしら?」
「ええ。そういうことになります。大会では個人の能力のほかに団体の、チームワークも問われることは毎年おなじみです。そして今年は……ルールも変わるらしいですからね」
「今までのトーナメント・システムを撤廃し、競技で執り行う。あなたもさすがに知っているようね」
「ちょっといろんなことに首を突っ込んでいるワーカーホリックが私の知り合いにいるものでね。こういう情報はけっこう知れ渡ってしまうんですよ」
そう。
彼女たちが心配しているのはそれだ。
今年から大会は大きく変わってしまう。それについて、対処できるのかどうか――それが心配だったのだ。
今まで、少なくとも去年までは団体戦と個人戦でトーナメント・システムを導入していた。だが、それでは面白みに欠けると考えたのか、大会運営側はルールを大きく変更した。そのひとつとなるのが、『競技制』だ。いわゆる学校の運動会のようなシステムだ。それを導入したのだ。今まで仕事を休んでまで見に行っていた観客が、休み過ぎないようにした……というわけではないが少なくともこれによって様々な場面が変更されるのは確かだ。
現に今年はティパモール近郊にあったスタジアムは使わず、ヴァリス城近郊にある巨大スタジアムへと移転となった。理由は簡単。競技を執り行うために、巨大なスタジアムを自ずと必要になってしまうからだ。
「それで問題になるのはやはり競技ですが……あなたはそれを知っているんですか?」
アリシエンスは訊ねる。しかし、マーズは首を横に振った。
「さすがにそこまでは聞き出せませんでした。やっぱり箝口令が敷かれているみたいです。アリシエンス先生の方では何か掴んでいたりしていません?」
「それがねえ……今年から大会の運営委員会のシステムががらっと変わってしまって。私が今いるのはどちらかというと選手のサポートの方なのよ。そして競技とかルールとかを制定している部門は別にあって、そこの情報は重要だから秘匿性が高くなっている。だから、そう簡単に教えてもらうことも出来ない。……でも、さすがにこのまま何も知らないままで行くと対策もできないままになるからグダグダになってしまうのは確実。それは運営も望んでいないから、何かルールが提示された……いわゆるルールブックのようなものが届くんだと思います」
「ルールブック……ですか」
マーズはアリシエンスの話を聴きながらいろいろと展開の遅い運営に怒りを募らせていた。とはいえ、目の前にいるアリシエンスも運営の一人に入っているが、彼女に怒りをぶつけてもまったくの無駄であることは知っている。
今年は去年と違って五チーム、計二十五名が参加する。もっとも、それは正規メンバーの数だけであり補欠やサポートメンバーなどを加えるとその二倍から三倍くらいに増えてしまうのだが。
「まあ、私は運営の一端を担っているとはいえ、そのために集められた有識者『オプティマス』の一員でしかないことに変わりはありませんし、それも最大で来年までです。来年以降は新たにこの学校の先生が選ばれるかどうかも解らないですし……私がまだ運営として活動できるのもある意味運がいいといえるでしょう」
「運も実力のうち、って言いますよ。アリシエンス先生」
そう言ってマーズは笑みを浮かべる。
対してアリシエンスは「それもそうね」とだけ言って、コーヒーを口に運んだ。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
「交流、会か。確かにそれもいいかもしれないな」
崇人はマーズからそれを聞いて小さく頷いた。
今、彼らがいるのは彼らの住む家のリビングである。部活動は早々に終わったため、現在食事を取りながら話をしているのだった。ちょうどいいタイミングだった――ということもあるのだろう。だから、マーズは今彼にまず意見を聞いているのだ。
「どうかな。そうすればまあ、団結力は高まると思う。はっきり言ってあのメンバーでリモーナは浮いている。だって、彼女だけ二年生だからね。だから、その浮いているものをできるだけ減らしておきたい。それが今回の交流会の目的だ。団体戦でどういう競技が出るか知れたものじゃないからね」
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