絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百三十四話 夢
「……私、ずっと言わなかったけど夢があるの。リリーファーに関われる仕事。あのかっこいい……ロボットに携わる仕事に就きたかった。そしてそれは今、叶おうとしている。だからこそ、不安なの」
「不安と思うその気持ちは誰にだってある。仕方無いことだろう。それでも、今ここで逃げ出してしまえば凡てが勿体無いよ。……そうとは思わないかい?」
「でも私にはそれを出来る意志がない。想いがない。力がない」
「意志は君が思っている以上に強いものを持っているさ。想いだって熱い想いが君の心の中にたぎっていることを、僕は知っているよ。そうでなかったら君はあの学校に入学出来てはいないだろう。それに力がないから……といって大会メンバーにはなれないのかい? それは違うだろうよ、力がないのなら、別の業を鍛えればいい。テクニックというやつだ。トリッキーに攻めていく……そういう起動従士はごまんといるはずだ。ジェシーはそういう起動従士になってみたいとは思わないのかい?」
ジェシーは父親からの的確なその言葉を理解して、何度も心の中で反芻した。
彼女は起動従士になりたかった。起動従士になってリリーファーを操って、困っている人を助けたい。彼女はそんな想いを抱いていた。
感情論だけで乗りきれる世界ではないことを、彼女は重々承知していた。だからこそ、拒んだのだ。だからこそ、困ったのだ。
「わたし……」
ここで迷っていていいのか? ここで諦めていいのか? 想いは募っていく。
想いは募っていくほどに、彼女の心の中にある決意が浮かび上がった。
リリーファーに乗りたい。自分もリリーファーに乗ってみんなを救えるような、立派な起動従士になりたい。
決意に満ちた目を、彼女の父親は見ていた。そして頷くと、笑みを浮かべる。
「……決まったようだね。別に僕たちはそれについて拒むことはしないし、強制することはしないよ。君の道を、君の生きる道を歩めばいい。ただし、これだけはしてはいけない。道を歩んで歩み続けて、最終的に後悔しないで欲しい。後悔するのならば、その道を諦めて、自分が行きたい道に進む。最終的に自分が満足できれば……それでいいんだ」
ジェシーの父親はそれだけを言って席を立ち、その場をあとにする。
残されたジェシーとその母親は何も言うことなく、ただその場に座っているだけだった。
「……父さんがああ言ったけど、私も概ねあのとおりだから」
ぽつり、と。
ジェシーの母親はそう呟いた。
ジェシーの母親は俯きながら、ぽつりぽつりと、しかしはっきりと言葉を紡いでいく。
「あなたが後悔しない生き方をしてくれれば、私は別に大丈夫だから。きっとそれは……さっきの話を聞いた限りだと父さんも一緒だと思う。私も父さんの意見に賛成だし、ジェシーのことを応援したいという気持ちは二人揃って持っていることだと思う。だからこそ、あなたには頑張って欲しい。自分の夢を追い求めて欲しいの」
「私は……私が大会のメンバーになって、大会に出てもいいのかな」
「いいに決まっているじゃない。ダメなわけないでしょう? もし、それでダメだったのならまた来年よ。あなたはまだ一年生じゃない。可能性は無限大に広がっていくというのに、ここで諦めちゃつまらないわ。まだまだこれからよ!」
そう言って、ジェシーの母親は顔を上げると、小さくウインクする。それを見て彼女はなんだか楽しくなって小さく笑みをこぼすのであった。
自分は幸せ者だ――ジェシーは思う。こんなふうに自分の立ち位置に立って考えてくれる両親、自分の夢をこうやって全力で応援してくれる両親がこの世界にどれくらいいるのだろうか。ジェシーの両親は少なくとも今ここにいるジェシーの両親だけ、オンリーワンなのだ。彼女の両親という存在は彼女の両親にほかならないのであって、代替は見当たらないし存在しない。
世の中には両親が要らないだの両親を必要としないだのそういう意見もあるかもしれないが、たとえそうであったとしてもその人の両親はその二人しか存在しない、かけがえのないものなのだ。だから、そう無闇矢鱈に言うのは宜しくない。
ジェシーもそう思いながら、心の中で小さく決意を固めた。
起動従士になる、その足がかりとして『大会』に参加することを――。
◇◇◇
次の日、その放課後。
騎士道部部室、と古い木の看板が立てかけられた、その教室の前に彼女は立っていた。
「というかこの古い木の看板、いつのものだろう……? もしかして、昔ここに騎士道部が存在していたとか……?」
そんなことを考えながら、彼女はドアをノックする。
返事はすぐにあった。昨日聞いた、おっとりとした声。恐らくマーズのものである。それを聞いてジェシーは中へ入った。
「あら、ジェシー。また来てくれたのね?」
いち早くそれに反応したのはやはりシルヴィアだった。シルヴィアはそういう観察力に優れているのか、直ぐに誰が入ってきたのか見分けてしまう。それはすごい能力だ。
ジェシーはシルヴィアを見て、言った。
「私も騎士道部に入りたいんだけど、……大丈夫?」
それを聞いてシルヴィアの表情がまるで太陽のように輝いた。
「大丈夫よ! まだ部員は全然足りないからこれから呼び込みでもしたほうがいいのか……なーんてことを先生……えーと、騎士道部の顧問はマーズさんだから、別にマーズさんでもいいんだけど、マーズさんが言っていたの。だから、じゃあ行かなくちゃいけないかなあ……って思っていたところだったのよ!」
シルヴィアはジェシーの前に立って彼女の腕を掴むとぶんぶんと振っていた。よっぽど彼女が入ったことが嬉しかったのだろう。それを見てジェシーもなんだか嬉しくなっていった。
「となると……これで大会メンバーは五人ね。出来ることならあと一人二人くらい補欠で欲しいところだけど……。それはおいおい考えていきましょうか」
ガラガラ、とドアが開けられたのはその時だった。入ってきたのはファルバート、そしてもうひとりの青年だった。黒い髪の落ち着いた様子を見せている青年だった。少年の面影が残っている、生真面目な感じが体中から滲み出ている、そんな青年だ。その割にはファルバートの隣に立っている彼はとても無造作な感じだったが、奇妙なことに隙が見られなかった。だから、彼の立ち姿を見てマーズはすぐに違和を抱いたのだった。
「なんだかファルバートの隣に立っているあなた……まるで軍人みたいね」
それを聞いて青年の眉がぴくりと動く。
そして青年は笑みを浮かべて柔和な表情をマーズたちに示した。
「軍人だなんてそんな……。ただ僕はファルバートの友人なだけですよ。名前はリュート、リュート・ポカマカスです」
そう言ってリュートは一礼する。
それを見てマーズは笑みを浮かべる。
なぜか?
それは彼女の目から見て、リュート・ポカマカスがとても強い存在に見えたからだろう。起動従士としての才能がある、彼女はそう見たからだ。だから彼女は頷きながら、リュートの肩を叩くと、
「……なるほどね。ザイデルの家の人間が見染めたのだから、その才能は光り輝くものになっているのはもはや当然のことでしょう。ならば、疑うこともありません。即決です。リュート・ポカマカス、あなたを騎士道部に入部することを、正式に許可します」
その言葉を聞いて再びリュートは深々と頭を下げた。
これで六名。正規メンバー五名に補欠が一名という計算だ。即ちマーズの言っていた人数が揃ったということになる。
これが意味するのは。
「……ということはこれで、大会のメンバーが決定したということになるな」
崇人の言葉に、マーズはそっちを向いて頷いた。
「不安と思うその気持ちは誰にだってある。仕方無いことだろう。それでも、今ここで逃げ出してしまえば凡てが勿体無いよ。……そうとは思わないかい?」
「でも私にはそれを出来る意志がない。想いがない。力がない」
「意志は君が思っている以上に強いものを持っているさ。想いだって熱い想いが君の心の中にたぎっていることを、僕は知っているよ。そうでなかったら君はあの学校に入学出来てはいないだろう。それに力がないから……といって大会メンバーにはなれないのかい? それは違うだろうよ、力がないのなら、別の業を鍛えればいい。テクニックというやつだ。トリッキーに攻めていく……そういう起動従士はごまんといるはずだ。ジェシーはそういう起動従士になってみたいとは思わないのかい?」
ジェシーは父親からの的確なその言葉を理解して、何度も心の中で反芻した。
彼女は起動従士になりたかった。起動従士になってリリーファーを操って、困っている人を助けたい。彼女はそんな想いを抱いていた。
感情論だけで乗りきれる世界ではないことを、彼女は重々承知していた。だからこそ、拒んだのだ。だからこそ、困ったのだ。
「わたし……」
ここで迷っていていいのか? ここで諦めていいのか? 想いは募っていく。
想いは募っていくほどに、彼女の心の中にある決意が浮かび上がった。
リリーファーに乗りたい。自分もリリーファーに乗ってみんなを救えるような、立派な起動従士になりたい。
決意に満ちた目を、彼女の父親は見ていた。そして頷くと、笑みを浮かべる。
「……決まったようだね。別に僕たちはそれについて拒むことはしないし、強制することはしないよ。君の道を、君の生きる道を歩めばいい。ただし、これだけはしてはいけない。道を歩んで歩み続けて、最終的に後悔しないで欲しい。後悔するのならば、その道を諦めて、自分が行きたい道に進む。最終的に自分が満足できれば……それでいいんだ」
ジェシーの父親はそれだけを言って席を立ち、その場をあとにする。
残されたジェシーとその母親は何も言うことなく、ただその場に座っているだけだった。
「……父さんがああ言ったけど、私も概ねあのとおりだから」
ぽつり、と。
ジェシーの母親はそう呟いた。
ジェシーの母親は俯きながら、ぽつりぽつりと、しかしはっきりと言葉を紡いでいく。
「あなたが後悔しない生き方をしてくれれば、私は別に大丈夫だから。きっとそれは……さっきの話を聞いた限りだと父さんも一緒だと思う。私も父さんの意見に賛成だし、ジェシーのことを応援したいという気持ちは二人揃って持っていることだと思う。だからこそ、あなたには頑張って欲しい。自分の夢を追い求めて欲しいの」
「私は……私が大会のメンバーになって、大会に出てもいいのかな」
「いいに決まっているじゃない。ダメなわけないでしょう? もし、それでダメだったのならまた来年よ。あなたはまだ一年生じゃない。可能性は無限大に広がっていくというのに、ここで諦めちゃつまらないわ。まだまだこれからよ!」
そう言って、ジェシーの母親は顔を上げると、小さくウインクする。それを見て彼女はなんだか楽しくなって小さく笑みをこぼすのであった。
自分は幸せ者だ――ジェシーは思う。こんなふうに自分の立ち位置に立って考えてくれる両親、自分の夢をこうやって全力で応援してくれる両親がこの世界にどれくらいいるのだろうか。ジェシーの両親は少なくとも今ここにいるジェシーの両親だけ、オンリーワンなのだ。彼女の両親という存在は彼女の両親にほかならないのであって、代替は見当たらないし存在しない。
世の中には両親が要らないだの両親を必要としないだのそういう意見もあるかもしれないが、たとえそうであったとしてもその人の両親はその二人しか存在しない、かけがえのないものなのだ。だから、そう無闇矢鱈に言うのは宜しくない。
ジェシーもそう思いながら、心の中で小さく決意を固めた。
起動従士になる、その足がかりとして『大会』に参加することを――。
◇◇◇
次の日、その放課後。
騎士道部部室、と古い木の看板が立てかけられた、その教室の前に彼女は立っていた。
「というかこの古い木の看板、いつのものだろう……? もしかして、昔ここに騎士道部が存在していたとか……?」
そんなことを考えながら、彼女はドアをノックする。
返事はすぐにあった。昨日聞いた、おっとりとした声。恐らくマーズのものである。それを聞いてジェシーは中へ入った。
「あら、ジェシー。また来てくれたのね?」
いち早くそれに反応したのはやはりシルヴィアだった。シルヴィアはそういう観察力に優れているのか、直ぐに誰が入ってきたのか見分けてしまう。それはすごい能力だ。
ジェシーはシルヴィアを見て、言った。
「私も騎士道部に入りたいんだけど、……大丈夫?」
それを聞いてシルヴィアの表情がまるで太陽のように輝いた。
「大丈夫よ! まだ部員は全然足りないからこれから呼び込みでもしたほうがいいのか……なーんてことを先生……えーと、騎士道部の顧問はマーズさんだから、別にマーズさんでもいいんだけど、マーズさんが言っていたの。だから、じゃあ行かなくちゃいけないかなあ……って思っていたところだったのよ!」
シルヴィアはジェシーの前に立って彼女の腕を掴むとぶんぶんと振っていた。よっぽど彼女が入ったことが嬉しかったのだろう。それを見てジェシーもなんだか嬉しくなっていった。
「となると……これで大会メンバーは五人ね。出来ることならあと一人二人くらい補欠で欲しいところだけど……。それはおいおい考えていきましょうか」
ガラガラ、とドアが開けられたのはその時だった。入ってきたのはファルバート、そしてもうひとりの青年だった。黒い髪の落ち着いた様子を見せている青年だった。少年の面影が残っている、生真面目な感じが体中から滲み出ている、そんな青年だ。その割にはファルバートの隣に立っている彼はとても無造作な感じだったが、奇妙なことに隙が見られなかった。だから、彼の立ち姿を見てマーズはすぐに違和を抱いたのだった。
「なんだかファルバートの隣に立っているあなた……まるで軍人みたいね」
それを聞いて青年の眉がぴくりと動く。
そして青年は笑みを浮かべて柔和な表情をマーズたちに示した。
「軍人だなんてそんな……。ただ僕はファルバートの友人なだけですよ。名前はリュート、リュート・ポカマカスです」
そう言ってリュートは一礼する。
それを見てマーズは笑みを浮かべる。
なぜか?
それは彼女の目から見て、リュート・ポカマカスがとても強い存在に見えたからだろう。起動従士としての才能がある、彼女はそう見たからだ。だから彼女は頷きながら、リュートの肩を叩くと、
「……なるほどね。ザイデルの家の人間が見染めたのだから、その才能は光り輝くものになっているのはもはや当然のことでしょう。ならば、疑うこともありません。即決です。リュート・ポカマカス、あなたを騎士道部に入部することを、正式に許可します」
その言葉を聞いて再びリュートは深々と頭を下げた。
これで六名。正規メンバー五名に補欠が一名という計算だ。即ちマーズの言っていた人数が揃ったということになる。
これが意味するのは。
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