絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百三十一話 二回目の邂逅
「失礼します」
次いで、凛とした声が扉の向こうから聞こえてきた。
扉が開けられ、そこに立っていたのは一人の少年だった。ウェーブがかった髪に、青い瞳をもつ少年。
「ファルバート・ザイデルといいます。騎士道部はこちらだと聞いてやって来たのですが」
それを聞いてマーズは立ち上がり、ファルバートの前に立った。
「あなたがファルバートくんね。噂は聞いているわ。まさかあなたも騎士道部に来てくれるなんて……」
「噂は所詮噂に過ぎません」
マーズの言葉をファルバートは華麗に受け流しながら、話を続ける。
「ところでここに入部すれば『大会』への優先的な出場権が手に入る……そう聞いたのですが」
「ええ、その通りよ。ただ、あなたの言葉を敢えて一つ訂正するなら、『優先的』ではなくて『確実に』ということかしらね」
確実に? マーズの言葉を聞いてファルバートは首を傾げる。
ええ、とマーズは頷いて、
「この部活動は『大会』などの起動従士関連の大会に参加するために結成されたチームのようなもの。部活動……というよりもチームと言ったほうが断然正しい言い回しでしょうね」
「チーム……つまりこれに入ればチームの一員として、大会に代表で参加出来ると」
「そう。ただしリーダーはもう決まっているけどね。ここにいるシルヴィアさんよ」
ファルバートはそれを聞いてシルヴィアとメルを睨み付ける。
しかしその姿勢を直ぐに改めて、マーズに訊ねた。
「……お言葉ですが、それを変えるつもりは?」
「学力試験及び入学式の日に行ったリリーファーを用いた訓練の結果、それらを総合的に評価した結果よ。それを変えることは、残念だけど出来ない」
それを聞いて、さらに表情を悪くさせるファルバート。気持ちが悪いだとかそういう感情ではなく、気に入らないのだろう。
それを見てマーズは笑みを浮かべる。
「……もしかして、気に入らないのか。自分ではなく、ゴーファンの者が評価されているという事実を受け入れたくないのか?」
それを聞いてファルバートはマーズを睨み付ける。どうやら図星だったらしい。
「はっきり言って君たち三人は甲乙つけ難い存在であるということは百も承知だ。だがな、リーダーという存在は一人でなくてはならない。それでいて中立でなくてはならない。君のようにそうやって……一つの思考を押し付けるような人間には、はっきり言ってリーダーには向いていないだろうな」
マーズの言葉は簡潔かつ的確にまとめられていて、さらに芯が通ったものだった。だからこそファルバートはマーズの言葉に何も言い返すことが出来なかったのだ。
自分がそこで言い返していれば、自分が弱く見えてしまう。彼はそう思ったからだ。だから彼は、ただマーズを睨み付けるだけにした。
「……ですから、あなたたちははっきり言ってほぼ同等の実力といえるでしょう。それは確実です。しかしながら、三人が同じ実力を持つゆえに誰がリーダーと化しても問題が起きるのはもはや予定調和だ……。ならば、どすれば良いのか。そんなの、簡単だよ」
マーズはソーサーを置いていた机を小さく叩く。
「――模擬戦をすればいい」
マーズの言葉に口を入れるものはいない。皆彼女の話を真剣に聞いているのだ。
彼女の話は続く。
「新しいメンバーを入れるときも何らかのいざこざがあっても……私は常にそうしてきた。至極単純で一番白黒はっきり付きやすいだろう?」
それを聞いていくうちにファルバートの唇が緩んでいく。それはマーズが自分を違うシステムで改めて評価しようとしているのを面白く思っているのか、それとも自分が正当に評価されつつあるのを実感しているからか、はたまたその両方からかもしれなかった。
ファルバートは言った。
「……解りました。それではいつ、どこで行いましょうか? 流石に今日というのは無理ですが、出来る限りマーズさんのスケジュールに合うようにこちらも調整出来れば……と」
「そうね、三日後というのはどうかしら。三日後なら確か『あそこ』が空くはずだし」
それを聞いていち早くピンと来たのは崇人だった。だから、マーズの言葉に小さく溜め息を吐いた。
「いくらなんでも、流石にそろそろあいつを休ませてやれよ……。絶対に早死にするぞ?」
「どちらにしろ『大会』メンバーになった彼らには遅かれ早かれ連れていく場所だ。ならそれでいいじゃないか。それにバーチャルの世界なら横入りも少ない」
「あ、あの……さっきから何の話をしているんですか?」
おいてきぼりをくらっていたシルヴィアがマーズと崇人に訊ねる。
それを聞いてマーズと崇人は二人同時にこう答えた。
「「リリーファーシミュレートセンターだよ」」
次いで、マーズはその詳細を告げていく。
「要はシミュレートセンターのシミュレートマシンを用いて、仮想空間にダイブ。それによって仮想的に戦闘を行う……そういうことよ」
「でも、シミュレートセンターって少し前に乗っ取られたりしていませんでしたか?」
訊ねたのはシルヴィアだった。
確かにその通りだ。二月に、進級試験を初めてそのシミュレートセンターで行った時に、テロリストが占拠して一時学生たちが仮想空間に閉じ込められた。
それによって大きく批判を受けたのはほかならないシミュレートセンターの人間だ。ひいてはその責任者であるメリアが責任を取って、センターの所長を退く予定だった。
しかしマーズがメリアのことをなんとかしようと画策した。そして現にメリアはまだこの場所にいる。
「……まあ、いろいろあったけど、今でも彼女はシミュレートセンターにいるし、シミュレートマシンの開発と研究を行っているわ」
「まぁ、そういう事情はどうでもいいですね、模擬戦をする上では必要としない情報です。……模擬戦については三日後、シミュレートセンターで行う。それだけが解ればあとはどうだっていい」
「どうだっていい……か。あなたは少しくらい他人に興味を持ってみたら? 開ける世界だって――」
「そんなもので開ける世界なら、自分自身を信じて生きていったほうがましです」
マーズの言葉を遮るようにファルバートは言った。
そして踵を返した彼は、そのまま外へ出ていった。廊下を歩くファルバートの足音がどんどんと小さくなっていくのを聞いて、マーズは小さく溜め息を吐いた。
扉が再び小さくノックされたのはその時だった。しかし扉はファルバートが無造作に開け放ったままであるので訪問者の姿は丸わかりだった。
栗色のショートボブをした少女だった。眼鏡をかけて、目がくりっとしている。どこかおっとりとした雰囲気を見せる少女だった。
「えっと……あなたも騎士道部に入りたいのかしら?」
マーズが訊ねると彼女は俯いた。どうやらファルバートたちよりかはあまり意志が固くないようだった。
身体をもじもじさせながら少女はただその場に立っていた。
「あ、ジェシーじゃない!」
しかしその姿をみたいなシルヴィアはそう言って立ち上がった。対してジェシーと呼ばれた少女はびくりと身体を震わせると顔を上げる。
ジェシーは直ぐにシルヴィアの姿を発見し、そこで彼女は漸く安堵するのだった。
しかしずっとジェシーの視線がシルヴィアに向いていた訳でもない。時折目線を露骨に反らしていたりする。まるでなにか後ろめたい気持ちがあるのではないか――マーズにそう思わせる程に。
「あ、あのっ……ごめんなさいっ!」
しかし、ジェシーはマーズたちに向かって頭を下げた。
突然の行動にマーズたちは驚愕した。彼女がマーズたちに謝罪するような要素がまったく見当たらなかったからだ。
頭を下げたまま、ジェシーの話は続く。
「わたし……いつも食堂でタカト先輩とシルヴィアたちが話しているのを、とても楽しそうに話しているのを見ていて気になっていたんです。だけどなかなか切り出せなくて……。そしたら今日、あのマーズさんがその会話に参加して、さらに放課後にどこかに向かったので……」
「気になって後をつけた、ってこと?」
シルヴィアの言葉にジェシーはこくりと頷く。
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