絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百三十話 騎士道部
「びっくりしました。まさかマーズ・リッペンバーさんがこの学校に来ているなんて」
シルヴィアの言葉にメルは頷く。それを見てマーズは、
「やっぱり双子って聞いたからすごいそっくりなのかってことを期待していたんだけど……期待通りねえ。すごいそっくり。なんというか、鏡写しみたいに」
……ものすごく見当はずれな発言をするのだった。
崇人は溜息を吐いて、まだ情報を完全に把握していないシルヴィアとメルとに情報を共有するため、簡潔に述べた。
「はっきり、簡単に言ってしまえば今日から一ヶ月程度マーズはここの教員となる。僕たちの授業も担当してくれるだろうし、もしかしたら一年生の授業も担当するだろう。ここは学年に応じて先生を分けられるくらい先生が過多にいるわけでもないからな。そして、もう一つ。僕たちが結成した部活……騎士道部の部活顧問としても、マーズが入ることになった。こっちはいつまでやるかは不明だということだから、まあ、かなり長いあいだずっといることになると思う」
それを聞いてさらにシルヴィアとメルの目が丸くなる。当然だろう。これほどのビッグニュースを聞いて驚かない方がおかしいというものだ。
シルヴィアは心を落ち着かせるために水を一口。喉が潤い、気持ちを整えたのを自らで確認して、マーズに言った。
「そ、それじゃ……マーズさん自らが指導してくださる……ということですか!?」
「まあ、そういうことになるわね。少なくとも、今年の『大会』は大分波乱になるらしいし」
それを聞いて崇人は首を傾げる。
「どういうことだ?」
「あら、聞いてないの? 『大会』にはもちろん起動従士となった学生は出ることができない。ということはあなたたち全員今度の大会には出れないのよ。ということは今出る確率が高いのはここにいるシルヴィアただ一人。まあ、メルちゃんが出るっていうのならまあまあ話は別だけど、あなた確か技術士志望なのでしょう?」
「いいえ、起動従士も技術士も学んでいきたいと思っています。だから、私も出ます」
話がまったく読めなかった。
「……つまり、あなた技術士にもなりたいし起動従士にもなりたい……『多重技術』を手に入れようとしているの?」
「なんだ、そのデュアルスキルって」
マーズの驚きが理解できず、崇人は訊ねる。
「多重技術ってのは名前のとおり複数の技術を持つ人間のことよ。今の時代では、起動従士として極めるまでの才能を持った人間は、技術士や魔術師になるまでの才能を持たないと言われているの。それもそうよね。起動従士と技術士と魔術師は頭の仕組みが全部違うって言われている。まあ、昔は魔術師で魔術を極めている人間が起動従士として強い力をその恣にした人間だっているわけなんだけどね。実際にはもう百年以上出ない計算らしいよ」
「その計算って、どこが計算したんだよ」
「リリーファーシミュレートセンター。ひいてはメリアね」
またあいつか……とかそんなことを思いながら、崇人は再びメルを見る。
メルはぎこちない態度をとっていた。当然だろう。今彼女たちの前にいるのは最強のリリーファーを操縦する起動従士で、さらにその隣に立っているのは『女神』と謳われるこちらも最強の起動従士なのだから。
「どうした、メル? なんだか落ち着かない様子だが……」
「ええっ?」
メルは答える。その素振りはどう見ても普通ではなかった――その正体をシルヴィアだけ気づいていたためか、シルヴィアはくすくすと笑っていた。
だが、崇人はそういうものにイマイチ鈍感だったためか、まったく分からないのであった。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
『騎士道部』の部室は空き教室の一つを利用することとなった。教室が余っているから致し方ないことにも思えるが、やはり部活動ともなれば特有の空間を得たいものである。
教室は閑散としていた。当然のことだが、どうやらこの教室は数年は使われていないらしい。何故なら教室の扉を開けた瞬間に溜まっていた埃が外に飛び出て来たからだ。
「……どうやら先に、この部屋の掃除を済ませなきゃいけないようね」
マーズの言葉に拒否反応を示す人間など、居るはずもなかった。
片付けのみで二時間ほど時間を費やし――結果としてその日の部活動はそれだけで終了してしまった。
しかし漸く綺麗になった教室を見ると、やはり綺麗にして正解だったのは自明だ。
マーズは、恐らく自分の家から持ってきたであろうティーカップを傾け、中に入っている紅茶を啜った。
「あ、ずるい! 俺たちは自前の水筒に入っている飲み物か、或いは売店で済ましているってのに……こいつお湯を沸かして紅茶を飲んでいやがる!」
「別にイケナイことではないでしょ? だってこの学校の教員は皆お湯を沸かしてコーヒーなり紅茶なり飲んでいるわよ? カップラーメンを作って一人寂しいお昼を過ごしている教員だって、私の時代にはいたし」
「そういうわけじゃないんだよなぁ……。つまりだな、俺が言いたいのはどうしてお前だけ飲んでいるんだって話だよ」
「私が持ってきたんだから私が飲むのは当然でしょう? それに私は『私専用の』とは一度も言っていないんだけど?」
つまり、それは『誰だってその紅茶を飲んでもいい』ということだ。もちろん、マイカップは持参する必要はあるが。
崇人は適当なところから椅子を持ってきて、腰掛ける。
「で、マーズ。おまえ、どこまで今回の大会の内情を知っているんだ?」
「あっ、早速それ聞いちゃう?」
マーズは悪戯めいた笑みを浮かべて、ソーサーを机の上に置いた。
「僕は出ないから何にも対策を取りようがないが……要はこの学校の教師陣の狙いは、クラスから一々輩出するのではなくて、『この部活』で大会に出場する……ということを言いたいんだろ」
その言葉に学生たちは驚いた。
中でも一番驚いたのはヴィエンスだ。立ち上がり、目を見開いて崇人に訊ねる。
「タカト、そりゃ本当か?」
「あぁ。とはいえ、確証が掴めない以上僕の妄想であり戯言に過ぎないがな」
「いいや、それは本当だよ」
しかしマーズは、あっさりとそれを認めた。
「もとはといえば先輩……アリシエンス先生がいち早く大会制度の改革に乗り出していてね。本当は来年あたりからこの制度を開始しましょう、って話だったんだけど、結局この学校は制度開始前のモデルケースとなった。モデルケースだからといって、それなりの成績を出さなくては学校の名が立たない……とアリシエンス先生が考えたかどうかは甚だ疑問に感じるけど、要はそういうこと」
クラスから出すのではなく、大会専門の部活動をつくりチームとして参加する。
大会のシステムとしてはそれが一番合理的とも言えよう。だって大会に出たい人間は自ずとその部活動に入ることになるのだから。
「なるほどなぁ……、アリシエンス先生も考えたね」
そう言ったのはリモーナだった。
「そういえば崇人と俺は参加出来ないが、別に『起動従士ではない』ということだけが条件ならリモーナも参加出来ないか?」
ふと、思い出したように言ったのはヴィエンスだ。そして、それは紛れもない事実だった。リモーナは起動従士ではない。はっきり言ってしまえばただの学生だ。ただの学生ならば参加要件は満たしており、普通に大会に参加出来るはず――ヴィエンスはそう考えたのだ。
「そういえば……。全然考えていなかったわ、ごめんなさいリモーナさん。あなたにも大会参加資格が、確かに存在するわ」
「ほんとうですか……!」
リモーナは頬を紅潮させ笑みを浮かべる。学生にとって大会への参加とはそれほどまでに栄誉のあることなのだ。
マーズは再び紅茶を啜り、
「となると問題になるのは……そのメンバーね。今は三人だからあと二人。出来ることなら補欠を一人くらい用意しておきたいわね……」
去年みたいなことになるなんて殆ど有り得ないけどね、とマーズは付け足す。
騎士道部の部室、その扉がノックされたのはちょうどその時だった。
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