絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百二十六話 部活動
次の日、崇人たちが食堂でご飯を食べながら話しているとシルヴィアたちも席をくっつけるようにやって来た。
「おっ、シルヴィアにメル。どうだった、結果は?」
崇人はシルヴィアとメルの表情がどこか嬉しそうなのを理解していたが、敢えて素知らぬふりをして訊ねてみた。
「オッケーでした。……なんというか、思ったよりあっさりと理解を得られたような感じです」
「そうか、それなら良かったんだ。こちらもいい方向の返事をもらえたよ。ただし忙しいらしいから、教える時間をまとまって手に入れるかは……正直言って曖昧なところらしい。だから飛び飛びになっちゃうのは仕方がないことだとして理解してくれ、って言うくらいらしいから」
崇人はマーズから聞いた結果をそのまま伝えた。そのまま伝えてあげたほうが彼女たちも直ぐに理解出来る――そう思ったからである。
それを聞いて直ぐに反応したのはメルだった。メルは頬を紅潮させ微笑する程度だったが、シルヴィアはメルの背中を擦りながら満面の笑みを浮かべていた。あまりにも嬉しいのか、その目からは涙が溢れ出ていた。メルは感情の起伏がおとなしく、シルヴィアのほうがとても感情豊かだった。
「いつからやるとか何をするとか、そういう具体的な内容は決めていないのか?」
訊ねたのはヴィエンスだった。
「具体的なそれについては、未だ相手から聞いてない。だから追々そういうのが来ると思う」
そう言って崇人はポケットから何かを取り出した。携帯端末――スマートフォンだった。
崇人はスマートフォンに指を当て、なぞっていったりそれを押し付けたりした。暫くして、崇人は自分のスマートフォンの画面をシルヴィアに見せた。
「これは……?」
「僕の電話番号とメールアドレス。詳しい日付は僕のほうから聞いておくからとりあえずアドレスでも交換しとこう」
その言葉に頷いたシルヴィアはスマートフォンを取り出し、画面を合わせる。
同時にスマートフォンを振ることで情報が交換され、お互いの連絡先を手に入れるに至った。
帰宅して崇人はマーズに告げた。何を告げたかといえば、それは至極簡単なことだった。
シルヴィアにルミナスが指導を許可したことを話した、ということだ。それを聞いてマーズは一つ溜め息を吐いた。
「一件落着……と言ったところかしらね。私はもう少し時間がかかるものかと思っていたけれど」
「それってどういうことだ?」
崇人は訊ねた。
マーズは一つ溜め息を吐いて話を続けていく。
「スロバシュ・ゴーファンは噂でしか聞いたことがないけど、とても厳格らしいのよ。だからもしかしたら厳しいことになるんじゃないか……なんて思ったけど、時間の無駄だったようね。そんなことを考えなくても、別に良かった」
「別に厳格だとかどうとか語られていたのは想像の範疇にあった、ってことか? なんというか、ひどくめんどくさい話だな。そんな噂をたてられた本人からすりゃたまったもんじゃないんだろうけど」
崇人とマーズはそんな話をしながら、今日も今日とて夕飯時。食事を楽しんでいた。まぁ、勿論マーズには料理が出来ないからレトルト食品のオンパレードになってしまうのはもはや自明のことだった。
「なんというか……さぁ、高望みはしないからせめて少しくらい手作りものの何かを食べたいと思うんだよなぁ……」
ぼやきながら彼はレトルトのミートボールを一口。
対してマーズはほぼ同時に口に放り込んでいた鶏肉の煮込みを飲み込んでから、
「何を言うのかしら。私だって『調理』しているわよ? それに料理だって出来る」
「前者はレトルト食品を温めるだけ。後者は玉子焼きしか作れない。そんな状況なのによくその単語を使えたな?」
崇人はそう言いながら、鶏肉の煮込みを一つ箸で掴んだ。
鶏肉の煮込みはトマト風味だった。トマトとマキヤソースで味付けされているらしい。マキヤソース――マキヤ工業が開発した世界一有名な調味料となっている。マキヤソースは何にでもよく合う調味料だ。だから、こんな感じでよく使われている。因みにマキヤ工業はレトルト食品業界にも進出しており、そのシェアはレプトー食品工業についで二位だ。
だからこそよく使っている人だらけなのだ。特にマーズはマキヤ工業製のレトルト食品をよく食している。だからかもしれないが、気が付けばマキヤ工業製の食品を購入しているのだ。
「……とりあえずルミナスに関しては引き続きマーズによろしく頼むよ。日付さえ解ってくれれば、あとはそれを俺がシルヴィアに教えていく感じにしていくからさ」
「……それ、どう言う意味?」
それを聞いたマーズが明らかに不機嫌な態度を取る。
マーズの表情を見た崇人が、これはいけないと感じ取る。
「い、いや。あくまでも情報交換のためだからね? 決して疚しい意味は……」
「そういうことじゃ、ないの」
マーズは再び食事を始める。
崇人はその意味がよく解らなかった。はっきり言って彼は――あまりにも鈍感だった。
◇◇◇
「部活動を作る?」
次の日、崇人は一時間目の授業が終了したところで二時間目の準備をはじめようとしたときに、一時間目の担当だったアリシエンスがそう声をかけたのだ。
「そう。残念なことに騎士団の業務を学校に持ち込むことは出来ないからね……。だから、きっと君たちも暇なんじゃないかな、と思ってね? 部活動として公式に認められれば、さすがに騎士団の活動を部活動にするわけにもいかないけれど……と思うんだよ」
部活動。
それはこの学校だけではなく、ほかの学校にも普通に備え付けられている、学生に対するシステムのことをいう。アリシエンスがいうには、この学校は学生の自主性を尊重しており、自由に部活動を作ることが出来る。もちろん、設立時には顧問の先生をつけなくてはならないが、裏を返せばそれだけで充分だということだ。
そして、その会話でアリシエンスが顧問になってくれるといったのだ。
だから、崇人が部活動を作るとなったとき、その顧問はアリシエンスということになる。
そんなことを食堂で話していた崇人は、どうすればいいかいつものメンバーに話をしていた。もちろん、そのメンバーにはシルヴィアとメルも含まれている。
「部活動……確かにそれならいいアイデアだな。この校内でも合法的に技術者の勉強をすることだって出来る。最悪マーズをこの学校の卒業生だと言って招いて『部活動練習』の名目で騎士団の活動も出来るわけだ」
ヴィエンスは長々とそう言ってカレーを一口。崇人は相変わらずきつねうどんのうどんを一口啜った。
シルヴィアが恐る恐る訊ねる。
「でもそれってそう簡単に通るものなんですか……?」
「だから言っただろ。この学校は学生に対して自由が通っている。言い方は悪いけど自由すぎるくらいだ。だからこそ、その『自由』ってもんを有効活用しないとな」
ケイスはそう言ってフライドポテトを一本口の中に放り込む。どうやら塩の塊がくっついていたらしく、口をすぼめた。
この学校は学生にとって大きく自由である。そして、その自由に対する義務というのはあまり存在しない。『学生には自由に動いて知識を学び、それを発揮して欲しい』という校長が考えたかららしいが、とはいえこの学風は普通の学校に比べれば珍しいことなのは変わりない。
しかしこの学校でその『自由』をフル活用できている人間は――あまりにも少ないだろう。たしかにこの学校の自由な校風を見て来る人間はいない。この学校はあくまで起動従士になるために入る場所だ。通過儀礼、というと違う意味になってしまうが、この学校が起動従士になるための通過儀礼となっているのだ。
寧ろ、起動従士を専門に扱っている学校だからこそ、それ以外に関する制約をゆるく持っているのかもしれない。
「……まあ、部活動ったって何をしようか、正直なところまだ考えていなくてさ。このあいだにどうやってか決めようかなあ……なんて考えているんだ。どうだ、何かいいアイデアはないかな?」
崇人はあまりにも他力本願すぎた。部活動のアイデアを他人に決めてもらおうというのだから。それを聞いて、崇人以外のほかの人間が一瞬、目を丸くしたのは、そんな崇人の他力本願ぶりに呆れたからかもしれない。
「おっ、シルヴィアにメル。どうだった、結果は?」
崇人はシルヴィアとメルの表情がどこか嬉しそうなのを理解していたが、敢えて素知らぬふりをして訊ねてみた。
「オッケーでした。……なんというか、思ったよりあっさりと理解を得られたような感じです」
「そうか、それなら良かったんだ。こちらもいい方向の返事をもらえたよ。ただし忙しいらしいから、教える時間をまとまって手に入れるかは……正直言って曖昧なところらしい。だから飛び飛びになっちゃうのは仕方がないことだとして理解してくれ、って言うくらいらしいから」
崇人はマーズから聞いた結果をそのまま伝えた。そのまま伝えてあげたほうが彼女たちも直ぐに理解出来る――そう思ったからである。
それを聞いて直ぐに反応したのはメルだった。メルは頬を紅潮させ微笑する程度だったが、シルヴィアはメルの背中を擦りながら満面の笑みを浮かべていた。あまりにも嬉しいのか、その目からは涙が溢れ出ていた。メルは感情の起伏がおとなしく、シルヴィアのほうがとても感情豊かだった。
「いつからやるとか何をするとか、そういう具体的な内容は決めていないのか?」
訊ねたのはヴィエンスだった。
「具体的なそれについては、未だ相手から聞いてない。だから追々そういうのが来ると思う」
そう言って崇人はポケットから何かを取り出した。携帯端末――スマートフォンだった。
崇人はスマートフォンに指を当て、なぞっていったりそれを押し付けたりした。暫くして、崇人は自分のスマートフォンの画面をシルヴィアに見せた。
「これは……?」
「僕の電話番号とメールアドレス。詳しい日付は僕のほうから聞いておくからとりあえずアドレスでも交換しとこう」
その言葉に頷いたシルヴィアはスマートフォンを取り出し、画面を合わせる。
同時にスマートフォンを振ることで情報が交換され、お互いの連絡先を手に入れるに至った。
帰宅して崇人はマーズに告げた。何を告げたかといえば、それは至極簡単なことだった。
シルヴィアにルミナスが指導を許可したことを話した、ということだ。それを聞いてマーズは一つ溜め息を吐いた。
「一件落着……と言ったところかしらね。私はもう少し時間がかかるものかと思っていたけれど」
「それってどういうことだ?」
崇人は訊ねた。
マーズは一つ溜め息を吐いて話を続けていく。
「スロバシュ・ゴーファンは噂でしか聞いたことがないけど、とても厳格らしいのよ。だからもしかしたら厳しいことになるんじゃないか……なんて思ったけど、時間の無駄だったようね。そんなことを考えなくても、別に良かった」
「別に厳格だとかどうとか語られていたのは想像の範疇にあった、ってことか? なんというか、ひどくめんどくさい話だな。そんな噂をたてられた本人からすりゃたまったもんじゃないんだろうけど」
崇人とマーズはそんな話をしながら、今日も今日とて夕飯時。食事を楽しんでいた。まぁ、勿論マーズには料理が出来ないからレトルト食品のオンパレードになってしまうのはもはや自明のことだった。
「なんというか……さぁ、高望みはしないからせめて少しくらい手作りものの何かを食べたいと思うんだよなぁ……」
ぼやきながら彼はレトルトのミートボールを一口。
対してマーズはほぼ同時に口に放り込んでいた鶏肉の煮込みを飲み込んでから、
「何を言うのかしら。私だって『調理』しているわよ? それに料理だって出来る」
「前者はレトルト食品を温めるだけ。後者は玉子焼きしか作れない。そんな状況なのによくその単語を使えたな?」
崇人はそう言いながら、鶏肉の煮込みを一つ箸で掴んだ。
鶏肉の煮込みはトマト風味だった。トマトとマキヤソースで味付けされているらしい。マキヤソース――マキヤ工業が開発した世界一有名な調味料となっている。マキヤソースは何にでもよく合う調味料だ。だから、こんな感じでよく使われている。因みにマキヤ工業はレトルト食品業界にも進出しており、そのシェアはレプトー食品工業についで二位だ。
だからこそよく使っている人だらけなのだ。特にマーズはマキヤ工業製のレトルト食品をよく食している。だからかもしれないが、気が付けばマキヤ工業製の食品を購入しているのだ。
「……とりあえずルミナスに関しては引き続きマーズによろしく頼むよ。日付さえ解ってくれれば、あとはそれを俺がシルヴィアに教えていく感じにしていくからさ」
「……それ、どう言う意味?」
それを聞いたマーズが明らかに不機嫌な態度を取る。
マーズの表情を見た崇人が、これはいけないと感じ取る。
「い、いや。あくまでも情報交換のためだからね? 決して疚しい意味は……」
「そういうことじゃ、ないの」
マーズは再び食事を始める。
崇人はその意味がよく解らなかった。はっきり言って彼は――あまりにも鈍感だった。
◇◇◇
「部活動を作る?」
次の日、崇人は一時間目の授業が終了したところで二時間目の準備をはじめようとしたときに、一時間目の担当だったアリシエンスがそう声をかけたのだ。
「そう。残念なことに騎士団の業務を学校に持ち込むことは出来ないからね……。だから、きっと君たちも暇なんじゃないかな、と思ってね? 部活動として公式に認められれば、さすがに騎士団の活動を部活動にするわけにもいかないけれど……と思うんだよ」
部活動。
それはこの学校だけではなく、ほかの学校にも普通に備え付けられている、学生に対するシステムのことをいう。アリシエンスがいうには、この学校は学生の自主性を尊重しており、自由に部活動を作ることが出来る。もちろん、設立時には顧問の先生をつけなくてはならないが、裏を返せばそれだけで充分だということだ。
そして、その会話でアリシエンスが顧問になってくれるといったのだ。
だから、崇人が部活動を作るとなったとき、その顧問はアリシエンスということになる。
そんなことを食堂で話していた崇人は、どうすればいいかいつものメンバーに話をしていた。もちろん、そのメンバーにはシルヴィアとメルも含まれている。
「部活動……確かにそれならいいアイデアだな。この校内でも合法的に技術者の勉強をすることだって出来る。最悪マーズをこの学校の卒業生だと言って招いて『部活動練習』の名目で騎士団の活動も出来るわけだ」
ヴィエンスは長々とそう言ってカレーを一口。崇人は相変わらずきつねうどんのうどんを一口啜った。
シルヴィアが恐る恐る訊ねる。
「でもそれってそう簡単に通るものなんですか……?」
「だから言っただろ。この学校は学生に対して自由が通っている。言い方は悪いけど自由すぎるくらいだ。だからこそ、その『自由』ってもんを有効活用しないとな」
ケイスはそう言ってフライドポテトを一本口の中に放り込む。どうやら塩の塊がくっついていたらしく、口をすぼめた。
この学校は学生にとって大きく自由である。そして、その自由に対する義務というのはあまり存在しない。『学生には自由に動いて知識を学び、それを発揮して欲しい』という校長が考えたかららしいが、とはいえこの学風は普通の学校に比べれば珍しいことなのは変わりない。
しかしこの学校でその『自由』をフル活用できている人間は――あまりにも少ないだろう。たしかにこの学校の自由な校風を見て来る人間はいない。この学校はあくまで起動従士になるために入る場所だ。通過儀礼、というと違う意味になってしまうが、この学校が起動従士になるための通過儀礼となっているのだ。
寧ろ、起動従士を専門に扱っている学校だからこそ、それ以外に関する制約をゆるく持っているのかもしれない。
「……まあ、部活動ったって何をしようか、正直なところまだ考えていなくてさ。このあいだにどうやってか決めようかなあ……なんて考えているんだ。どうだ、何かいいアイデアはないかな?」
崇人はあまりにも他力本願すぎた。部活動のアイデアを他人に決めてもらおうというのだから。それを聞いて、崇人以外のほかの人間が一瞬、目を丸くしたのは、そんな崇人の他力本願ぶりに呆れたからかもしれない。
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