絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百二十四話 推測
ナポリタンも肉団子の甘酢ソースがけ(という名前らしい。食べる前にマーズが得意気に言っていた)もとても美味しかった。やっぱり何度食べてもレトルト食品のクオリティには驚かされる。
「……そういえば、さ」
食事が七割ほど進んだ、ちょうどそのタイミングで崇人はマーズに訊ねた。
マーズは首を傾げ、どうしたと言った。
「今日始業式……それでいて入学式だったわけなんだけどさ、有名な起動従士の子供が入っているらしいんだよな」
「ゴーファンとザイデル……でしょう?」
それを聞いて、崇人は軽く目を丸くさせる。
「知っていたのか」
「知っていた……まぁ、そうなるけど、実際には毎年無作為に選ばれた起動従士が入学生の状態をチェックするのよ。やっぱり擬似的とはいえ他人との集団生活……それも起動従士の資格を手に入れることが出来る人間って、大抵変わり者ばかりだから、やはりそれなりに噛み合うような人間をうまくマッチングしていかなきゃならない。だからこそ大変なんだ。精神をすり減らしちまうよ。まぁ、そんなことでまいっちまうくらいなら……そいつは起動従士ではないと思うけどね」
マーズはそういいながら溜め息を一つ。
どうやら起動従士は作戦や鍛錬以外にも様々なことがあるらしい――彼はそんなことを思うのだった。
「そういえば、そのゴーファンとザイデルの子供がどうした? まさか入学式初日から何か騒ぎを起こしたんじゃないだろうな」
半分正解だった。
だから崇人はぎこちなく頷いた。
それを見てマーズは目を覆った。
「おい……マジかよ。冗談と言ってくれ。だが、いつかあの家系はぶつかると思っていたが……」
「どういうことだ……?」
崇人にはマーズの言っている言葉の意味がまったく理解出来なかった。
「スロバシュ・ゴーファンとリグート・ザイデルは、はっきり言って犬猿の仲でな。スロバシュ・ゴーファンが常に上を行っていたんだ。……きっとリグート・ザイデルはそれに不満を抱いていたに違いない。だからこそ、息子には『一位』を望んだんだろう。しかし結果は三位、それも一位と二位は彼からすれば天敵のゴーファン家の人間だ。怒り狂っただろうな。ずっと目の上の瘤として居たゴーファンが未だに居るのだから。いつ激突するか解ったものじゃない」
「そうか……。だが、幸いなことに激突はまだ起きていない。そして問題はお互いの家で起きている」
それを聞いて首を傾げるマーズ。どうやら彼女が考えていたのとまた違う方向のことだったらしく、思考が追いついていないのだろう。
「実はな……」
そして、崇人は今日あった出来事を話し始めた。
「……ふむ、つまりゴーファン家の双子の片割れが技師になりたくて、ザイデル家の息子はインフィニティの起動従士であるお前を否定した……と。何だか問題が山積みだな」
崇人の話を聞き終わり、マーズは溜め息を吐く。
マーズもマーズで、崇人が言った言葉についてはまったくの想定外だった。やはり『天才』の子供は『天才』なのか……そう思ってしまう程だった。
「……とりあえず前者はどうすればいいのかしら? 後者は最悪名誉毀損で訴えることは可能よ?」
「それはどうかな。ぽっと出の俺と、二位とはいえ優れた力を持った起動従士の家系。家系だけ見れば後者の方が明らかに発言力は強いだろ、そんなことなんてうやむやにされて、逆にこちら側が攻撃される可能性だって考えられるだろ」
「それはまぁ……。でも現役という点からすれば発言力が強いのはあなたの方よ」
「……そうかもしれない。だが、それだとしても俺は不安でしょうがない。……解るだろ?」
「解らなくはないが……しかしなぁ。私からガツンと一発言ってやってもいいかもしれないが、流石にそれは職権濫用過ぎるだろう?」
マーズの言葉は正しいロジックのもと組み立てられた、正しい考えだった。
「……とりあえず後者の話は置いとこう。前者については考えてある。ルミナスに協力してもらおうと考えている」
「ルミナス、彼女に? でも彼女だって忙しいんじゃ……」
「それをマーズに聞いてきて欲しいんだ。頼むよ」
崇人は手を合わせて頭を下げる。マーズとしても彼のそういう姿は見たくなかった。
だが、マーズはそれでこそ職権濫用のように思えてならなかった。
しかし頭を下げている崇人を見ていて――何故か断れなくなってしまうのだった。
「解った、解ったわ。とりあえず頭を上げてちょうだい。ルミナスに話だけは通してみるから」
「……本当に、済まない」
「いいのよ。私とあなたの仲、でしょう? 別に悲しむことなんてしなくていいのよ」
マーズはそう言って立ち上がる。もう食べ終わったから、そのお皿を片付けるためだ。
それを合図に彼女たちは片付けを開始した。
◇◇◇
「……で、それを私に聞きに来たわけ?」
こくこく、とマーズは頷く。誰が考えるまでもなくルミナスは怒りに満ちているように見える。
マーズは爆弾処理班のように慎重に、かつ丁寧にルミナスに訊ねた。
「……やっぱりダメかしら?」
「ダメ、ではないんだけどね。ちょっと最近イライラしているもんで」
あれ、この展開どこかで見たことあるぞ……?
マーズはそう思いながら、ルミナスの話に相槌を打った。
「納期がたまりまくっているのよ。カーネルが『第六・九世代』なるものを開発してね。今度は第六世代以前の互換を完全に切ったシステムなもんだから私たちのような人間はそれに移行させるための準備に追われている……ってわけよ」
「まぁ、なんというか大変ね。第六世代が出たのって、まだそう昔のことでもないような気がするけど」
「そこが問題なのよ。第六世代が出たのは約一年前。僅か一年で次の第七世代のプロトタイプとも言えるべき、第六・九世代が登場した……これはほかの国にとっても由々しき事態であることには間違いない」
ルミナスの言葉は重く冷たいものであった。
第六世代まで一部互換は残されていたというのに、この第六・九世代になって互換がカットされた。これの意味することは、新たに第六・九世代用に機械を購入し、第六・九世代のリリーファーを購入し、かつ第六・九世代用の技術を学ぶ必要があるというわけだ。
「カーネルはヴァリエイブルに編入されてからヴァリエイブルに卸しているリリーファーについてお金は出していない。強いて言うなら、莫大な研究費がその代わりになっているのよね。なんというか、優遇されているというより優遇せざるを得ないんでしょうねえ。また、独立するなんて言わなければいいけど」
「流石に戦力は削いだから、今度はないと思うけど……。まあ、用心に越したことはないかもね」
「いや、それよりももっとカーネルへの処遇を良くすべきだと思うけどね……。いくらなんでも厳しくなりすぎよ。だって、今の取りまとめってシミュレートセンターが行っているんでしょう?」
カーネルは独立騒動以後、規制が強化された。その一つが、管理権限の譲渡だ。管理権限をカーネル独自で持つのではなく、別の機関が持つシステムとしたのだ。
そしてそのシステムに新たに組み込まれることとなったのが――シミュレートセンターだったわけだ。
「しかしまあ、メリアも大変だ。シミュレートセンターの本来の業務にそれだからな。この前の進級試験の前に行ったんだったら解るだろ。あのてんてこ舞い。あれはそういうことだ。シミュレートセンター本来の業務として存在するシミュレートマシンのメンテナンスに、第六・九世代対応にシステムを組み替えて、かつその第六・九世代の最終チェックを執り行っている。まったく、あいつはほんとうにワーカーホリックだよ。いつか働いたまま死ぬんじゃないかって思うね」
「……そういえば、さ」
食事が七割ほど進んだ、ちょうどそのタイミングで崇人はマーズに訊ねた。
マーズは首を傾げ、どうしたと言った。
「今日始業式……それでいて入学式だったわけなんだけどさ、有名な起動従士の子供が入っているらしいんだよな」
「ゴーファンとザイデル……でしょう?」
それを聞いて、崇人は軽く目を丸くさせる。
「知っていたのか」
「知っていた……まぁ、そうなるけど、実際には毎年無作為に選ばれた起動従士が入学生の状態をチェックするのよ。やっぱり擬似的とはいえ他人との集団生活……それも起動従士の資格を手に入れることが出来る人間って、大抵変わり者ばかりだから、やはりそれなりに噛み合うような人間をうまくマッチングしていかなきゃならない。だからこそ大変なんだ。精神をすり減らしちまうよ。まぁ、そんなことでまいっちまうくらいなら……そいつは起動従士ではないと思うけどね」
マーズはそういいながら溜め息を一つ。
どうやら起動従士は作戦や鍛錬以外にも様々なことがあるらしい――彼はそんなことを思うのだった。
「そういえば、そのゴーファンとザイデルの子供がどうした? まさか入学式初日から何か騒ぎを起こしたんじゃないだろうな」
半分正解だった。
だから崇人はぎこちなく頷いた。
それを見てマーズは目を覆った。
「おい……マジかよ。冗談と言ってくれ。だが、いつかあの家系はぶつかると思っていたが……」
「どういうことだ……?」
崇人にはマーズの言っている言葉の意味がまったく理解出来なかった。
「スロバシュ・ゴーファンとリグート・ザイデルは、はっきり言って犬猿の仲でな。スロバシュ・ゴーファンが常に上を行っていたんだ。……きっとリグート・ザイデルはそれに不満を抱いていたに違いない。だからこそ、息子には『一位』を望んだんだろう。しかし結果は三位、それも一位と二位は彼からすれば天敵のゴーファン家の人間だ。怒り狂っただろうな。ずっと目の上の瘤として居たゴーファンが未だに居るのだから。いつ激突するか解ったものじゃない」
「そうか……。だが、幸いなことに激突はまだ起きていない。そして問題はお互いの家で起きている」
それを聞いて首を傾げるマーズ。どうやら彼女が考えていたのとまた違う方向のことだったらしく、思考が追いついていないのだろう。
「実はな……」
そして、崇人は今日あった出来事を話し始めた。
「……ふむ、つまりゴーファン家の双子の片割れが技師になりたくて、ザイデル家の息子はインフィニティの起動従士であるお前を否定した……と。何だか問題が山積みだな」
崇人の話を聞き終わり、マーズは溜め息を吐く。
マーズもマーズで、崇人が言った言葉についてはまったくの想定外だった。やはり『天才』の子供は『天才』なのか……そう思ってしまう程だった。
「……とりあえず前者はどうすればいいのかしら? 後者は最悪名誉毀損で訴えることは可能よ?」
「それはどうかな。ぽっと出の俺と、二位とはいえ優れた力を持った起動従士の家系。家系だけ見れば後者の方が明らかに発言力は強いだろ、そんなことなんてうやむやにされて、逆にこちら側が攻撃される可能性だって考えられるだろ」
「それはまぁ……。でも現役という点からすれば発言力が強いのはあなたの方よ」
「……そうかもしれない。だが、それだとしても俺は不安でしょうがない。……解るだろ?」
「解らなくはないが……しかしなぁ。私からガツンと一発言ってやってもいいかもしれないが、流石にそれは職権濫用過ぎるだろう?」
マーズの言葉は正しいロジックのもと組み立てられた、正しい考えだった。
「……とりあえず後者の話は置いとこう。前者については考えてある。ルミナスに協力してもらおうと考えている」
「ルミナス、彼女に? でも彼女だって忙しいんじゃ……」
「それをマーズに聞いてきて欲しいんだ。頼むよ」
崇人は手を合わせて頭を下げる。マーズとしても彼のそういう姿は見たくなかった。
だが、マーズはそれでこそ職権濫用のように思えてならなかった。
しかし頭を下げている崇人を見ていて――何故か断れなくなってしまうのだった。
「解った、解ったわ。とりあえず頭を上げてちょうだい。ルミナスに話だけは通してみるから」
「……本当に、済まない」
「いいのよ。私とあなたの仲、でしょう? 別に悲しむことなんてしなくていいのよ」
マーズはそう言って立ち上がる。もう食べ終わったから、そのお皿を片付けるためだ。
それを合図に彼女たちは片付けを開始した。
◇◇◇
「……で、それを私に聞きに来たわけ?」
こくこく、とマーズは頷く。誰が考えるまでもなくルミナスは怒りに満ちているように見える。
マーズは爆弾処理班のように慎重に、かつ丁寧にルミナスに訊ねた。
「……やっぱりダメかしら?」
「ダメ、ではないんだけどね。ちょっと最近イライラしているもんで」
あれ、この展開どこかで見たことあるぞ……?
マーズはそう思いながら、ルミナスの話に相槌を打った。
「納期がたまりまくっているのよ。カーネルが『第六・九世代』なるものを開発してね。今度は第六世代以前の互換を完全に切ったシステムなもんだから私たちのような人間はそれに移行させるための準備に追われている……ってわけよ」
「まぁ、なんというか大変ね。第六世代が出たのって、まだそう昔のことでもないような気がするけど」
「そこが問題なのよ。第六世代が出たのは約一年前。僅か一年で次の第七世代のプロトタイプとも言えるべき、第六・九世代が登場した……これはほかの国にとっても由々しき事態であることには間違いない」
ルミナスの言葉は重く冷たいものであった。
第六世代まで一部互換は残されていたというのに、この第六・九世代になって互換がカットされた。これの意味することは、新たに第六・九世代用に機械を購入し、第六・九世代のリリーファーを購入し、かつ第六・九世代用の技術を学ぶ必要があるというわけだ。
「カーネルはヴァリエイブルに編入されてからヴァリエイブルに卸しているリリーファーについてお金は出していない。強いて言うなら、莫大な研究費がその代わりになっているのよね。なんというか、優遇されているというより優遇せざるを得ないんでしょうねえ。また、独立するなんて言わなければいいけど」
「流石に戦力は削いだから、今度はないと思うけど……。まあ、用心に越したことはないかもね」
「いや、それよりももっとカーネルへの処遇を良くすべきだと思うけどね……。いくらなんでも厳しくなりすぎよ。だって、今の取りまとめってシミュレートセンターが行っているんでしょう?」
カーネルは独立騒動以後、規制が強化された。その一つが、管理権限の譲渡だ。管理権限をカーネル独自で持つのではなく、別の機関が持つシステムとしたのだ。
そしてそのシステムに新たに組み込まれることとなったのが――シミュレートセンターだったわけだ。
「しかしまあ、メリアも大変だ。シミュレートセンターの本来の業務にそれだからな。この前の進級試験の前に行ったんだったら解るだろ。あのてんてこ舞い。あれはそういうことだ。シミュレートセンター本来の業務として存在するシミュレートマシンのメンテナンスに、第六・九世代対応にシステムを組み替えて、かつその第六・九世代の最終チェックを執り行っている。まったく、あいつはほんとうにワーカーホリックだよ。いつか働いたまま死ぬんじゃないかって思うね」
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