絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百十四話 進級試験前日(後編)
「仰々しい話をしているなあ……ヴィエンス。少し気を抜いたらどうだい?」
ケイスはその話を聞いて笑みを浮かべる。
「部外者には用はない」
対して、ヴィエンスの反応は冷たかった。
それを聞いて、ケイスは頬を膨らませる。
「そう言われると僕もなんだか腹立たしいものを感じるね。第一、今は僕だって会話に参加しているじゃないか。それ以上に何が必要だ? 会話の上では、僕は部外者じゃないぜ?」
「……相変わらず御託が好きだな、ケイス・アキュラ」
「おおっと、君にフルネームを呼ばれるのは随分と久しぶりだねえ」
ヴィエンスとケイスの話はさておき。
「ともかく、俺たちも俺たちで何か作戦を立てなくちゃいけないと思うんだ。……ヴィエンス、リモーナ、今日どこかで集まれないか? 一番手っ取り早いのは俺の家なんだが……」
「お前にはマーズ・リッペンバーという彼女がいるだろうが」
そう茶化したのはケイスだった。
「いやいや、そういうわけじゃないから……」
「タカト、マーズと付き合っていたのか」
「えっ? この前のアレで知らなかったの?」
「いや、まったく興味なかったから聞いてなかった。そうか、知らなかった」
ヴィエンスはニヤニヤと崇人を見ながら笑みを浮かべる。
まるで『いいオモチャを見つけた』などと思っているようだった。
「……ま、まぁいい。ともかくどうだ? 今日は俺の家でチーム内の作戦会議というのは」
その言葉にヴィエンスとリモーナは同時に頷いた。
◇◇◇
崇人が家に入り、いつものようにただいまと言う。それから一歩遅れてヴィエンスたちがお邪魔しますと告げた。
しかしながらマーズの反応は無かった。最初は居ないのかと思ったが、リビングから明かりが漏れているのでただそれに気付かなかっただけ――というのが、どうやら正解のようだった。
「あいつ、本当に『女神』と謳われる起動従士なんだろうな……?」
一部の人間から聞けば怒号と非難が飛びかねない発言だったが、しかし彼はそんなこと気にも止めなかった。
リビングの扉を開け、彼は中に入る。そこには大方の予想通り、マーズの姿があった。彼女は今、完全なオフ状態になっていた。具体的にいえば、テレビを点けていて、それをそのままBGMにでもしてうつ伏せになって漫画を読んでいた。右手にはスナック菓子のようなものがあったが、テーブルに置かれている袋の残骸から見て本日二袋目らしい。
さらに彼女の格好も非常にラフなものだった。白のタンクトップに黒のスパッツ、あとは何も着ていないように見える。流石に下着くらいは着用しているだろうが、裏を返せばそれ以外は何も着ていない可能性がある、ということだ。
……因みにそれくらいラフな格好でいるのは暑いからという理由でも無さそうである。何故ならリビングの中は適切な温度に保たれていて、暑くもないし寒くもないからだ。
「……ただいま」
「なんだ、早かったじゃない。電話とか無かったから今日も補習かなーとか思っていたよ」
マーズは二回目の崇人の言葉で漸く反応を見せた。とはいえそれは漫画から視線を動かさず、というわけだが。
崇人はヴィエンスに合図を送る。そしてヴィエンスもそれを見て頷いた。
「お邪魔します、マーズ副騎士団長」
わざとらしく敬称までつけて、ヴィエンスは言った。マーズはそれを聞いて光速の如き速さで振り返る。
そしてヴィエンスとリモーナを目視して、マーズは固まってしまった。自分のオフの姿を見られるのがよっぽど辛かったのかもしれない。
「えーと……タカト? 何これどっきり? 私まったく聞いてないんだけどさ」
「正確にはさっき急に決まってな。明日進級試験だろ? それがチームを組んでもいい、って話でさ。そんなわけでヴィエンスと……そこにいるリモーナと組んだわけだ。それでその作戦会議をしようとその場所を探したわけなんだが……」
「私の家が手っ取り早い、そういうことかしら?」
マーズはもう起き上がっていて、胡座をかいてクッションを抱いていた。何かしてないと落ち着かない性格なのか、時折クッションを弄くっている。
マーズの言葉に崇人は頷いた。
「あぁ、今日は泊まりで考えようと思ってな。明日はシミュレートセンターに直接集合……ってことになっているんだ。ここからなら若干近いだろ?」
「まぁそりゃそうだけど……って泊まり!? それなら尚更早く言ってよ!」
因みにヴィエンスとリモーナはそれぞれの保護者に了承を得ている。初めは保護者も難色を示していたが、『女神』の名前を出した途端に「それなら構わない」という意見でまとまってしまった。
それほどに女神という称号は絶大であり、信頼されている。そのやりとりを間近で聞いていた崇人はそれを改めて思い知らされるのだった。
「……二人とも、まあ聞くことはないだろうけど、保護者の了承はとっているのよね?」
マーズの言葉に二人は静かに頷く。
即ち二人とも泊まる気満々だということだ。
その反応を見て、マーズは溜め息を吐いた。
「まぁいいわ。部屋は好きに使って。ご飯を作るには……未だ早いわよね。会議は何処で?」
「マーズさえ大丈夫なら、ここでやりたいところなんだが……」
「ここで? まぁ別に構わないけど……。ちょっと待って、今片付けるから」
そう言ってマーズはいそいそとテーブルに置かれているスナック菓子の袋や漫画本を持って自分の部屋に運んでいく。
ソファが片付いて、崇人たちが座れるようになったのはそれから十分後のことだった。各々足元に荷物を置いて、飲み物を持ってきて、腰掛ける。
崇人が一口コップに入っているお茶を飲んで、言った。
「それじゃあ、会議を始めようか。なに、時間はたっぷりあるから焦らずにいこう」
「先ずはコースの概要がないと何にもならないんじゃないか?」
開始早々にヴィエンスはツッコミを入れた。
「そう言われてみれば……マーズ、持ってたりしない?」
「あることにはあるけど……」
崇人がマーズに有無を訊ねたのは『コースの概要を地図にまとめたもの』だ。それがあれば説明も容易に出来る。
マーズは確かにそれを所有している。しかし、彼女がそれを所有しているのは、あくまで当日の防犯対策のためにもらったものだ。因みにマーズが当日シミュレートセンターに行くことを知っているのは崇人だけだ。
「タカト……まさか私が明日行くことを知っててそれを聞いたんじゃないよね?」
マーズは思い切って訊ねた。崇人は「バレた?」とでも言いたげな悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
それを見てマーズは深い溜め息を一つ。
「……流石にそれを見せることは出来ないわ。教えることは、もしかしたら私がもののはずみで言ってしまうかもしれないけど」
「そのもののはずみでいい」
「……冗談を理解した上で言ってるの?」
「ああ。勿論だ」
マーズはそれを聞いて、ソファの後ろにあるホワイトボードに触れた。元々は片付けの苦手なマーズがその片付けが出来ていない部分を隠すために置いたものだったが、今それを使うべきだと彼女は考えたのだ。
彼女は備え付けられていた黒いペンを使ってホワイトボードに文字を書き込んでいく。野原、岩山、市街地、海、地下の大迷宮……単語だけがホワイトボードに並べられていた。
「これが明日のアスレティックコースの概要。上から下に流れる形になるかしらね。これが一つどれくらいあるとかは流石に言えないけど」
「ありがとうマーズ。これで充分だよ」
そう言って崇人は立ち上がると、マーズから黒いペンを受け取った。
「……んじゃ改めて作戦会議といきますか……!」
――彼らの会議は最終的に、徹夜とはいかなくとも深夜まで続けられた。本当はもっと作戦を煮詰めるべきだと考えていたが、しかし睡眠時間を削ってしまうと当日に響いてしまう。だから結局急拵えで意見をまとめあげて、それを最終的な作戦ということにした。若干の不安は残っていたが、作戦がノープランのまま本番を迎えるよりは充分だった。
そして、日付は変わり、二月二十日――進級試験、その当日がやってきた。
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