絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百十話 ガールズトーク
その反応を見てフレイヤは目を丸くした。マーズがそんな反応をするわけがない、強い意志を持って、ひとりの人間を守ることはあったが――僅か一年足らずしか会っていない人間のことをここまで信じることができるのか、そう思ったからだ。
フレイヤは笑みを浮かべると、呟いた。
「……マーズ、あなた変わったわね。あなたはそんな直ぐに人を信じるような人間じゃなかったのに」
「そうかしら?」
フレイヤの言葉に疑問を浮かべながら首を傾げるマーズ。
フレイヤはマーズの姿をずっと見ていた。だからマーズの気になっているところ、マーズの違っているところ、マーズの仕草を凡て理解していた。ストーカー、というと聞こえが悪いが、彼女は良き理解者のひとりだった。
「……もしかして、タカトと何かうまく行っているとか。そんな感じ?」
「え……、ええっ?」
マーズが顔を赤らめたのをフレイヤは見逃さなかった。
ガッ! と肩を掴んでマーズの身体を揺らす。
「ちょっと、マーズ! その反応はどういうことよ! もしかして、何か進展したの!? リアルが充実してきているの!!」
「ちょ……ちょっと、フレイヤ……。揺さないで……!」
フレイヤがその言葉を聞いて、行動を停止した。マーズは咳き込んで、フレイヤの方を見た。
「別に、私とタカトのあいだに何があってもいいでしょう? 男と女が一つ屋根の下で過ごしていて、一年間何もなかったほうが逆にすごいんだから」
「え……それってもう……?」
「やだ。そこまで私に言わせるつもり?」
「だって、タカトは十一歳……まだ訓練学校の一年生だろう?」
フレイヤの口調が徐々に早巻きになっている。彼女の中でもその話題についてヒートアップしているのだ。
マーズはもじもじさせながら、それに答える。
「……恋愛に年齢なんて関係ないじゃない?」
それはまさに名言とも言える言葉だった。フレイヤはマーズからその言葉を聞いて立ち止まると、脳をフル回転させた。マーズの言葉は至極単純なことであったが、しかし彼女にはそれが理解できなかった。
何度考えても、その答えはフレイヤには理解出来ないものであった。
「……なんというか、あんたってすごいよ」
その呟きは、マーズに聞こえることはなかった。
◇◇◇
次の日は学校が休みだった。そのため別の学校に通っているコルネリアや、いつもは『新たなる夜明け』で活動を続けているエルフィーとマグラスとともに、ハリー騎士団の活動が出来る貴重な日でもあった。
……とはいえ、戦争とか作戦とかそんな大それたものがあるわけではなく、今日はただの演習だった。シミュレートマシンを用いた模擬演習なので、リリーファーを使うこともない。
ハリー騎士団の面々はシミュレートセンターへと来ていた。先ずはメリアに挨拶をしようとマーズは言ったが、メリアはワークステーションの画面とひたすらにらめっこしていて、そんな余裕など無さそうだった。
しかし、彼女に話を通さねばシミュレートによる模擬演習が開始できないこともまた事実だった。代表としてマーズがメリアの部屋に入る。
「マーズ、そういえば聞いたんだけど」
マーズの演習申し込みを聞いたメリアは、それを適当に流しこう言った。マーズは一応彼女に話したからきちんとしてくれるだろう……そう思いながら訊ねる。
「何かあったの?」
「あんた……タカトとヤったんだって?」
それを聞いてマーズは顔を赤くする。
「ちょ、ちょっとそれ! どこ情報よ!」
どこ情報も何も、マーズがそれを言ったのはたったひとりだった。
「フレイヤがそれっぽいことを言ってたからね。気になっちゃって。それでどうだった初夜ってやつは? 痛いのかやっぱり? しっかしよくやるよなあ……相手は十一歳だろ?」
フレイヤはあとで個人的怨みにより練習量を八割増しにしよう、マーズは思うのだった。
「……あのね、別に年齢は関係ないでしょう?」
「いやいやいや、十一歳だぞ。私でも抵抗するなあ……どっちから誘ったんだ?」
こくり。マーズは頷く。
それを聞いてメリアはひゅーひゅーと口笛を吹いた。
「お熱いこって。それにしてもまさかあんたの方から誘うなんてねえ……。まあ、タカトもタカトで奥手そうだし誘うことはしないんだろうけど」
「……とりあえず、今日はフリートークをしに来たわけじゃないのよ」
「解っている、演習だろう? もう準備は進めてあるからシミュレートマシンのある部屋に向かってくれ。おっと、間違って第三シミュレートルームには行かないでくれよ。そこは『あれ』の置いてある部屋だからな。学生に見せてしまったら何があるか解ったものではない」
それを聞いてマーズは頷いて、部屋をあとにした。
第一シミュレートルームにはフレイヤの姿があった。彼女はマーズの姿を視認するとこちらに向かって手を振った。
それに対してマーズはフレイヤの腹に右ストレートを食らわせた。
「ひどいなあ、マーズ。初めて出会った相手にそれかい?」
「元はといえばあんたがあのことをメリアに言ったのが悪いんでしょうが! メリアがああいう面白いことを知ると百倍楽しむのを知っているくせに!!」
「でも、誰にも言うな……なんて聞いてないからねえ」
そう言ってクスクスと笑う。確かにマーズはフレイヤに『誰にも言うな』なんて釘を打ったことはなかった。
「だって面白いことはみんなに言って共有したほうがいいでしょう? だからあなたもいったんじゃないの?」
「そういうつもりで言ったんじゃ……」
「あ、あのー?」
それに割り入るように崇人は言った。それを聞いてマーズは顔を赤くして訊ねる。明らかにその挙動はおかしいと、第一シミュレートルームに居る人間凡てが感じていることだった。
「ど、どうしたのかしら……?」
「とりあえず、演習をやるならやったほうがいいんじゃないか? 時間的にも限られているし……。それに俺たち学生は宿題をやる時間だって勉学に励む時間だって必要だしな」
「……それもそうね」
マーズは頷くと、シミュレートマシンに電源を入れて、そこに入った。それに従うように全員がシミュレートマシンに入る。
『全員、シミュレートマシンに入ったかー?』
シミュレートマシン、そのコックピットの内部にメリアの声が響く。
直ぐに全員が『OK』のサインをメリアに送った。
『よし。全員が入ったのを確認したぞ。メンバーの総計は九人かな。それじゃ、終了するときはマーズ、解っているな?』
「そりゃあ、あなたが呆れるくらいやっているんだからそれくらいは、ね」
それを聞いてメリアは笑みを浮かべる。
『それじゃ、シミュレートマシンを起動するぞ』
そう言って、シミュレートマシンに備え付けられているファンが高速駆動を開始した。シミュレートマシンに接続されているケーブルの先にあるサーバ群の一つ――『ブルーグラスエリア』にハリー騎士団のメンバーの精神が電子化されて送信される。
精神の電子化技術は今でこそ一般化されているとはいえ、未だにきちんと活用できているのはこのシミュレートマシンのみだといえる。ほかにも様々な活用法が考えられたが、そのどれもが電子化を必要としないものばかりだったからだ。
精神、というより正確には脳の電気信号をシミュレートマシンが受け取って『擬似人間』として具現化する。それは難しいことではあるが、かといって一度技術が確定してしまえば難しい話ではない。
しかし、問題もある。サーバに供給される電源が切れてしまったらどうなるのか? サーバが熱暴走を起こして急遽電源を切ったらどうなるのか? などその問題は特にサーバについてだった。
そうしてシミュレートセンターが導いた結論はリリーファーに使われているエンジンの巨大版(ダウンサイジングに倣ってアップサイジングということもある)をシミュレートセンターに置いて、緊急時には即座にそれが発電できるようになっている。そして、その電気によってサーバを冷やす機械を動かしている。古風に見えるが、これが一般的で一番ひねりのないスタンダードなやり方だ。
フレイヤは笑みを浮かべると、呟いた。
「……マーズ、あなた変わったわね。あなたはそんな直ぐに人を信じるような人間じゃなかったのに」
「そうかしら?」
フレイヤの言葉に疑問を浮かべながら首を傾げるマーズ。
フレイヤはマーズの姿をずっと見ていた。だからマーズの気になっているところ、マーズの違っているところ、マーズの仕草を凡て理解していた。ストーカー、というと聞こえが悪いが、彼女は良き理解者のひとりだった。
「……もしかして、タカトと何かうまく行っているとか。そんな感じ?」
「え……、ええっ?」
マーズが顔を赤らめたのをフレイヤは見逃さなかった。
ガッ! と肩を掴んでマーズの身体を揺らす。
「ちょっと、マーズ! その反応はどういうことよ! もしかして、何か進展したの!? リアルが充実してきているの!!」
「ちょ……ちょっと、フレイヤ……。揺さないで……!」
フレイヤがその言葉を聞いて、行動を停止した。マーズは咳き込んで、フレイヤの方を見た。
「別に、私とタカトのあいだに何があってもいいでしょう? 男と女が一つ屋根の下で過ごしていて、一年間何もなかったほうが逆にすごいんだから」
「え……それってもう……?」
「やだ。そこまで私に言わせるつもり?」
「だって、タカトは十一歳……まだ訓練学校の一年生だろう?」
フレイヤの口調が徐々に早巻きになっている。彼女の中でもその話題についてヒートアップしているのだ。
マーズはもじもじさせながら、それに答える。
「……恋愛に年齢なんて関係ないじゃない?」
それはまさに名言とも言える言葉だった。フレイヤはマーズからその言葉を聞いて立ち止まると、脳をフル回転させた。マーズの言葉は至極単純なことであったが、しかし彼女にはそれが理解できなかった。
何度考えても、その答えはフレイヤには理解出来ないものであった。
「……なんというか、あんたってすごいよ」
その呟きは、マーズに聞こえることはなかった。
◇◇◇
次の日は学校が休みだった。そのため別の学校に通っているコルネリアや、いつもは『新たなる夜明け』で活動を続けているエルフィーとマグラスとともに、ハリー騎士団の活動が出来る貴重な日でもあった。
……とはいえ、戦争とか作戦とかそんな大それたものがあるわけではなく、今日はただの演習だった。シミュレートマシンを用いた模擬演習なので、リリーファーを使うこともない。
ハリー騎士団の面々はシミュレートセンターへと来ていた。先ずはメリアに挨拶をしようとマーズは言ったが、メリアはワークステーションの画面とひたすらにらめっこしていて、そんな余裕など無さそうだった。
しかし、彼女に話を通さねばシミュレートによる模擬演習が開始できないこともまた事実だった。代表としてマーズがメリアの部屋に入る。
「マーズ、そういえば聞いたんだけど」
マーズの演習申し込みを聞いたメリアは、それを適当に流しこう言った。マーズは一応彼女に話したからきちんとしてくれるだろう……そう思いながら訊ねる。
「何かあったの?」
「あんた……タカトとヤったんだって?」
それを聞いてマーズは顔を赤くする。
「ちょ、ちょっとそれ! どこ情報よ!」
どこ情報も何も、マーズがそれを言ったのはたったひとりだった。
「フレイヤがそれっぽいことを言ってたからね。気になっちゃって。それでどうだった初夜ってやつは? 痛いのかやっぱり? しっかしよくやるよなあ……相手は十一歳だろ?」
フレイヤはあとで個人的怨みにより練習量を八割増しにしよう、マーズは思うのだった。
「……あのね、別に年齢は関係ないでしょう?」
「いやいやいや、十一歳だぞ。私でも抵抗するなあ……どっちから誘ったんだ?」
こくり。マーズは頷く。
それを聞いてメリアはひゅーひゅーと口笛を吹いた。
「お熱いこって。それにしてもまさかあんたの方から誘うなんてねえ……。まあ、タカトもタカトで奥手そうだし誘うことはしないんだろうけど」
「……とりあえず、今日はフリートークをしに来たわけじゃないのよ」
「解っている、演習だろう? もう準備は進めてあるからシミュレートマシンのある部屋に向かってくれ。おっと、間違って第三シミュレートルームには行かないでくれよ。そこは『あれ』の置いてある部屋だからな。学生に見せてしまったら何があるか解ったものではない」
それを聞いてマーズは頷いて、部屋をあとにした。
第一シミュレートルームにはフレイヤの姿があった。彼女はマーズの姿を視認するとこちらに向かって手を振った。
それに対してマーズはフレイヤの腹に右ストレートを食らわせた。
「ひどいなあ、マーズ。初めて出会った相手にそれかい?」
「元はといえばあんたがあのことをメリアに言ったのが悪いんでしょうが! メリアがああいう面白いことを知ると百倍楽しむのを知っているくせに!!」
「でも、誰にも言うな……なんて聞いてないからねえ」
そう言ってクスクスと笑う。確かにマーズはフレイヤに『誰にも言うな』なんて釘を打ったことはなかった。
「だって面白いことはみんなに言って共有したほうがいいでしょう? だからあなたもいったんじゃないの?」
「そういうつもりで言ったんじゃ……」
「あ、あのー?」
それに割り入るように崇人は言った。それを聞いてマーズは顔を赤くして訊ねる。明らかにその挙動はおかしいと、第一シミュレートルームに居る人間凡てが感じていることだった。
「ど、どうしたのかしら……?」
「とりあえず、演習をやるならやったほうがいいんじゃないか? 時間的にも限られているし……。それに俺たち学生は宿題をやる時間だって勉学に励む時間だって必要だしな」
「……それもそうね」
マーズは頷くと、シミュレートマシンに電源を入れて、そこに入った。それに従うように全員がシミュレートマシンに入る。
『全員、シミュレートマシンに入ったかー?』
シミュレートマシン、そのコックピットの内部にメリアの声が響く。
直ぐに全員が『OK』のサインをメリアに送った。
『よし。全員が入ったのを確認したぞ。メンバーの総計は九人かな。それじゃ、終了するときはマーズ、解っているな?』
「そりゃあ、あなたが呆れるくらいやっているんだからそれくらいは、ね」
それを聞いてメリアは笑みを浮かべる。
『それじゃ、シミュレートマシンを起動するぞ』
そう言って、シミュレートマシンに備え付けられているファンが高速駆動を開始した。シミュレートマシンに接続されているケーブルの先にあるサーバ群の一つ――『ブルーグラスエリア』にハリー騎士団のメンバーの精神が電子化されて送信される。
精神の電子化技術は今でこそ一般化されているとはいえ、未だにきちんと活用できているのはこのシミュレートマシンのみだといえる。ほかにも様々な活用法が考えられたが、そのどれもが電子化を必要としないものばかりだったからだ。
精神、というより正確には脳の電気信号をシミュレートマシンが受け取って『擬似人間』として具現化する。それは難しいことではあるが、かといって一度技術が確定してしまえば難しい話ではない。
しかし、問題もある。サーバに供給される電源が切れてしまったらどうなるのか? サーバが熱暴走を起こして急遽電源を切ったらどうなるのか? などその問題は特にサーバについてだった。
そうしてシミュレートセンターが導いた結論はリリーファーに使われているエンジンの巨大版(ダウンサイジングに倣ってアップサイジングということもある)をシミュレートセンターに置いて、緊急時には即座にそれが発電できるようになっている。そして、その電気によってサーバを冷やす機械を動かしている。古風に見えるが、これが一般的で一番ひねりのないスタンダードなやり方だ。
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