絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百七話 思い
結局シジマがヒロインのアカネに恋愛めいた話を振ることなく、普段の会話で最初から最後まで占めてしまった。因みに二人の言う『普段』とは敵がよく出てくるだとか自分のロボットにはこんな兵器をつけたいかとかで、とても年頃の男女が話すネタとは思えない。
「何で二人っきりでいいムードなのに……!」
ハンカチを噛みながらマーズは言った。まったく話が進まないこの状況にもだもだしているらしい。
シジマとアカネが普段の会話に比重を置いたそれで放送時間換算にして五分もの時間を費やした。その間、絵は動くこと無く静止画が時折何枚か(しかしそれもパターン化されているのか重複している時がある)の背景画が挿入される以外は二人が話している場面の絵が映し出される。
「……なんだこりゃ? 今のアニメーションってこういうのなのか?」
「何言ってんの? アニメはこういうものよ。心情がうまく出てるじゃない! 今はシジマとアカネの会話だからそれ以外の情報は必要最低限でいいのよ……たぶん」
それって小説とかにすればいいんじゃないだろうか、崇人はそう思ったがそれをマーズに言ったって意味のないことである。
そしてアニメに関してはまったくの素人である崇人が口出ししようたって、相手はその道のプロなのだから、『これはこうだ』と明確に理由を言われればそれまでだ。
場面は変わり、シジマとアカネは公園に現れた敵の姿を見つけた。
敵を倒すにはロボットに乗らねばならない。しかし彼らはロボットに乗っていないし、ロボットのある基地までそう近いわけでもない。まさに絶体絶命、だった。
「やばい、やばいわよシジマ!」
黄色い声援をマーズが出しているのを聞いて、崇人は小さく溜め息を吐いた。幾ら『女神』と呼ばれていようとも、こういう光景を見るとただの人間と相違ない。
さぁこの後どうなるのか――というタイミングで、エンディングテーマが流れ始めた。時計を見ると十五分程しか経っていなかった。
「あれ、もう終わりか。……早くね?」
「早くないわよ、こういうものよ。……いやー、面白かった。来週も楽しみね」
そう言ってマーズは立ち上がると鼻唄を歌いながら上機嫌で何処かに向かった。
崇人はマーズが居なくなった部屋でテレビを見ていた。とはいえ決まったチャンネルを見ている訳ではなく、ザッピングしているだけだった。
鼻唄が聞こえてそれがマーズのものだと確信したのは、それから二十分くらいあとの話だった。崇人の鼻にほんのり石鹸の香りが届いたのもそれと同じタイミングのことだった。
「崇人、風呂入りなさいよ。気持ち良いわよ?」
マーズの格好は非常にラフなものになっていた。上に大きめのシャツを着て、あとは下着のみだ。下着はほのかに桃色というのが、彼女の着ているシャツから透けて見えてしまう。
崇人はそれを一瞬見て、直ぐに顔を覆った。マーズはずっと一人で暮らしてきたから、こんなことなんて気にしていないのだ。
「どうしたのよタカト。もう一年にもなってるのよ。少しくらいまともに見れるようになっても……いいんじゃない?」
「お前はもう少し恥じらいを持てよ……」
崇人がそう言うとマーズは崇人の後ろに立った。そして彼女はその慎ましい胸を崇人の背中に当てた。
「お、おいっ……! 流石に今日はどうしたんだよっ! いつもここまでやらねーじゃんか!」
「タカトは、私を女と見てくれているんだね……ふふふ、嬉しい。本当に嬉しいよ」
マーズは甘だるい声を出してそう言った。まるでそれは崇人を誘惑しているようにも見えた。
崇人はそこでマーズの口からある匂いを感じた。――アルコールだ。それを感じると直ぐに崇人はある結論に辿り着いた。
マーズはアルコールを飲んだのだ。きっと、いや確実に自分の意志で飲んだのだ。
「……アルコールは二十歳からとか決まってないのか」
「そんなものが法律で規制されているのは、きっと貴方の国だけ……よ」
そう言ってマーズは崇人の下腹部に手を伸ばす。そこには小さく盛られた山があった。
「身体は十一歳でも精神は三十五歳……そりゃ欲求が溜まっていてもおかしくはないよね?」
マーズはそう言って崇人のズボンとパンツを下ろした。
「マーズ、なんでこんなことをするんだ」
「……貴方が私の想いに気付かなかったからよ」
マーズは唐突にそう言った。それを聞いて崇人は何も言えなかった。
マーズの話は続く。
「貴方は……ずっと私と一緒にいた。彼女が死んだときも一緒に悲しんだ。貴方を元気にさせようと一生懸命慰めた! けど……貴方の心はずっとあの娘、エスティに向いたままだった」
「だから、こんなことをしたのか」
「貴方は私の想いに気付かなかったのは何故か? それは私の意志が弱かったからよ! 私がもっと強固な意志を持って行動さえしていれば……こんなことにはならなかった! ならなかったのよ……!」
マーズは崇人の背中で涙を流した。嗚咽を漏らしながら涙を流す彼女を見ながら、崇人は頷いた。
「ごめん、マーズ。本当に済まなかった」
崇人はマーズの方を向いて言った。マーズはもうシャツを脱いでいて、さらにブラジャーを取り外していた。慎ましいながらも立派に聳え立つ双丘の天辺には桃色の突起があった。双丘は汗をかいたらしく、光をうっすらと反射していた。
「……ずっと、お前の想いに気づけなかったこと。それを先ずは謝らせて欲しい。……本当に済まなかった。そして、マーズがその行動を選択したのなら俺は止めない。責任も一緒に取る」
「ほんとう?」
「あぁ、ほんとうだ。絶対だ」
マーズは崇人のその言葉を聞いて、何度も、何度も、頷く。
崇人はそれを見て、彼女の身体を抱き寄せた。
――その日の夜は、彼らにとって激情的な夜になったということは、また別の話。
◇◇◇
次の日、マーズは自分の部屋のベッドで目を覚ました。となりにはすうすうと寝息を立てて眠っている崇人の姿があった。
彼女は崇人の顔を撫でる。昨日あったことは彼女にとってとても嬉しかったことだった。
――お前の思いに気付けなかった。
崇人の言葉は今も彼女の胸に残っている。そう言ってくれるだけでマーズは嬉しかった。
崇人が目を覚ますと、マーズは笑みを浮かべて言った。
「おはよう、タカト」
崇人はまだ寝惚けている様子で、うんうんと頷くだけでまた横になった。
「ダメよ、タカト。今日も学校でしょう? 用意しなくちゃ」
そう言ってマーズはベッドから抜け出る。何もつけていない彼女の姿が窓から差し込む太陽の光に照らされ、神々しい美しさを放っていた。
マーズは床に投げ捨ててあった衣類を身に付け、そして部屋から出て行った。
部屋から出て行ったのを確認して、崇人は漸く起き上がる。そして、彼は昨日したことを思い出して顔を隠した。
もともといた世界で三十五年間、こういうこととはまったく無縁だったというのに、この世界で僅か一年というタイミングで行為に及んでしまったこと。
目を瞑れば、昨日の様子が鮮明に思い浮かぶ。マーズの声、顔、胸……そして。
「……あー、もう!」
そんな邪な気持ちを払おうと無意味に叫ぶ崇人。起き上がって、脱ぎ散らかしたパジャマを着ると、彼はリビングへと向かった。
リビングではマーズが珍しくキッチンに立っていた。この『立っていた』というのは調理をするために立っているわけであってレトルト食品を使っているわけではない。
直ぐに崇人の鼻腔を焦げたような香りが擽る。そしてそれはウインナーを焼いている香りだと解った。
「ウインナー?」
「ぴんぽーん、大正解」
そう言ってマーズはフライパンで焼いていたウインナーに焦げ目がついたことを確認して、皿に盛り付ける。皿には既に野菜が盛り付けられており、メインディッシュのウインナーがそこに盛り付けられるのを今か今かと待ち構えていた。
そして、ウインナーが盛り付けられ完成、マーズは鼻歌を歌いながらそれをリビングへと持っていくのだった。
「何で二人っきりでいいムードなのに……!」
ハンカチを噛みながらマーズは言った。まったく話が進まないこの状況にもだもだしているらしい。
シジマとアカネが普段の会話に比重を置いたそれで放送時間換算にして五分もの時間を費やした。その間、絵は動くこと無く静止画が時折何枚か(しかしそれもパターン化されているのか重複している時がある)の背景画が挿入される以外は二人が話している場面の絵が映し出される。
「……なんだこりゃ? 今のアニメーションってこういうのなのか?」
「何言ってんの? アニメはこういうものよ。心情がうまく出てるじゃない! 今はシジマとアカネの会話だからそれ以外の情報は必要最低限でいいのよ……たぶん」
それって小説とかにすればいいんじゃないだろうか、崇人はそう思ったがそれをマーズに言ったって意味のないことである。
そしてアニメに関してはまったくの素人である崇人が口出ししようたって、相手はその道のプロなのだから、『これはこうだ』と明確に理由を言われればそれまでだ。
場面は変わり、シジマとアカネは公園に現れた敵の姿を見つけた。
敵を倒すにはロボットに乗らねばならない。しかし彼らはロボットに乗っていないし、ロボットのある基地までそう近いわけでもない。まさに絶体絶命、だった。
「やばい、やばいわよシジマ!」
黄色い声援をマーズが出しているのを聞いて、崇人は小さく溜め息を吐いた。幾ら『女神』と呼ばれていようとも、こういう光景を見るとただの人間と相違ない。
さぁこの後どうなるのか――というタイミングで、エンディングテーマが流れ始めた。時計を見ると十五分程しか経っていなかった。
「あれ、もう終わりか。……早くね?」
「早くないわよ、こういうものよ。……いやー、面白かった。来週も楽しみね」
そう言ってマーズは立ち上がると鼻唄を歌いながら上機嫌で何処かに向かった。
崇人はマーズが居なくなった部屋でテレビを見ていた。とはいえ決まったチャンネルを見ている訳ではなく、ザッピングしているだけだった。
鼻唄が聞こえてそれがマーズのものだと確信したのは、それから二十分くらいあとの話だった。崇人の鼻にほんのり石鹸の香りが届いたのもそれと同じタイミングのことだった。
「崇人、風呂入りなさいよ。気持ち良いわよ?」
マーズの格好は非常にラフなものになっていた。上に大きめのシャツを着て、あとは下着のみだ。下着はほのかに桃色というのが、彼女の着ているシャツから透けて見えてしまう。
崇人はそれを一瞬見て、直ぐに顔を覆った。マーズはずっと一人で暮らしてきたから、こんなことなんて気にしていないのだ。
「どうしたのよタカト。もう一年にもなってるのよ。少しくらいまともに見れるようになっても……いいんじゃない?」
「お前はもう少し恥じらいを持てよ……」
崇人がそう言うとマーズは崇人の後ろに立った。そして彼女はその慎ましい胸を崇人の背中に当てた。
「お、おいっ……! 流石に今日はどうしたんだよっ! いつもここまでやらねーじゃんか!」
「タカトは、私を女と見てくれているんだね……ふふふ、嬉しい。本当に嬉しいよ」
マーズは甘だるい声を出してそう言った。まるでそれは崇人を誘惑しているようにも見えた。
崇人はそこでマーズの口からある匂いを感じた。――アルコールだ。それを感じると直ぐに崇人はある結論に辿り着いた。
マーズはアルコールを飲んだのだ。きっと、いや確実に自分の意志で飲んだのだ。
「……アルコールは二十歳からとか決まってないのか」
「そんなものが法律で規制されているのは、きっと貴方の国だけ……よ」
そう言ってマーズは崇人の下腹部に手を伸ばす。そこには小さく盛られた山があった。
「身体は十一歳でも精神は三十五歳……そりゃ欲求が溜まっていてもおかしくはないよね?」
マーズはそう言って崇人のズボンとパンツを下ろした。
「マーズ、なんでこんなことをするんだ」
「……貴方が私の想いに気付かなかったからよ」
マーズは唐突にそう言った。それを聞いて崇人は何も言えなかった。
マーズの話は続く。
「貴方は……ずっと私と一緒にいた。彼女が死んだときも一緒に悲しんだ。貴方を元気にさせようと一生懸命慰めた! けど……貴方の心はずっとあの娘、エスティに向いたままだった」
「だから、こんなことをしたのか」
「貴方は私の想いに気付かなかったのは何故か? それは私の意志が弱かったからよ! 私がもっと強固な意志を持って行動さえしていれば……こんなことにはならなかった! ならなかったのよ……!」
マーズは崇人の背中で涙を流した。嗚咽を漏らしながら涙を流す彼女を見ながら、崇人は頷いた。
「ごめん、マーズ。本当に済まなかった」
崇人はマーズの方を向いて言った。マーズはもうシャツを脱いでいて、さらにブラジャーを取り外していた。慎ましいながらも立派に聳え立つ双丘の天辺には桃色の突起があった。双丘は汗をかいたらしく、光をうっすらと反射していた。
「……ずっと、お前の想いに気づけなかったこと。それを先ずは謝らせて欲しい。……本当に済まなかった。そして、マーズがその行動を選択したのなら俺は止めない。責任も一緒に取る」
「ほんとう?」
「あぁ、ほんとうだ。絶対だ」
マーズは崇人のその言葉を聞いて、何度も、何度も、頷く。
崇人はそれを見て、彼女の身体を抱き寄せた。
――その日の夜は、彼らにとって激情的な夜になったということは、また別の話。
◇◇◇
次の日、マーズは自分の部屋のベッドで目を覚ました。となりにはすうすうと寝息を立てて眠っている崇人の姿があった。
彼女は崇人の顔を撫でる。昨日あったことは彼女にとってとても嬉しかったことだった。
――お前の思いに気付けなかった。
崇人の言葉は今も彼女の胸に残っている。そう言ってくれるだけでマーズは嬉しかった。
崇人が目を覚ますと、マーズは笑みを浮かべて言った。
「おはよう、タカト」
崇人はまだ寝惚けている様子で、うんうんと頷くだけでまた横になった。
「ダメよ、タカト。今日も学校でしょう? 用意しなくちゃ」
そう言ってマーズはベッドから抜け出る。何もつけていない彼女の姿が窓から差し込む太陽の光に照らされ、神々しい美しさを放っていた。
マーズは床に投げ捨ててあった衣類を身に付け、そして部屋から出て行った。
部屋から出て行ったのを確認して、崇人は漸く起き上がる。そして、彼は昨日したことを思い出して顔を隠した。
もともといた世界で三十五年間、こういうこととはまったく無縁だったというのに、この世界で僅か一年というタイミングで行為に及んでしまったこと。
目を瞑れば、昨日の様子が鮮明に思い浮かぶ。マーズの声、顔、胸……そして。
「……あー、もう!」
そんな邪な気持ちを払おうと無意味に叫ぶ崇人。起き上がって、脱ぎ散らかしたパジャマを着ると、彼はリビングへと向かった。
リビングではマーズが珍しくキッチンに立っていた。この『立っていた』というのは調理をするために立っているわけであってレトルト食品を使っているわけではない。
直ぐに崇人の鼻腔を焦げたような香りが擽る。そしてそれはウインナーを焼いている香りだと解った。
「ウインナー?」
「ぴんぽーん、大正解」
そう言ってマーズはフライパンで焼いていたウインナーに焦げ目がついたことを確認して、皿に盛り付ける。皿には既に野菜が盛り付けられており、メインディッシュのウインナーがそこに盛り付けられるのを今か今かと待ち構えていた。
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