絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百六話 マスメディア
「慎ましい胸を張られても割と困る……というか張る胸もなくね?」
「あんた、流石に怒るよ?」
そう言ってマーズは持っていたフォークを握って崇人の頭につきつけた。
崇人はそれを見て表情が強ばる。
「……解ればいいのよ。いいじゃない、別に。貧乳でも愛してくれる人がいるわよ。きっと」
「貧乳というよりまな板に近いというか」
「なんか言ったか!? 天国に送り届けてやろうか!!」
「すいませんマジすいませんでしたっ!!」
崇人はそう言って土下座する。土下座はしたモン勝ちだ。ちなみに古事記には書かれていない。
「……まあ、いいわ」
立ち上がったマーズだったが、崇人の土下座を見てやる気をなくしてしまったらしく座ってまた食べ始めた。
「……どうしたのよ、タカト? いつまで続けているつもりなの。冷めちゃうわよ?」
「ゆ、許してくれたので……?」
「そんな簡単に頭を下げられると攻撃する気も失せるってものよ。いいから、食べなさい」
そう言われて、崇人は席に座ると再び食事の時間に移った。
ハンバーグを食べたので次は副菜を食べてみることにする崇人。おかずとは変わりないが、それでも魅力的な副菜が並べられている。野菜炒めやフライドポテトなどを見るともはやここは異世界ではなくただのファストフード店なのではないかという疑いすらかかってくる。だがここは偽りない異世界なのだ。しかもどこか遠い国では崇人の世界でいうところの関西弁を使う国民もいるらしく、異世界ともともといた世界の違いがつかなくなってしまう。
「そういえば……ヴィーエックはきっと帰りたかっただろうな」
呟きはマーズに聞こえたらしく、マーズは顔を上げた。しかしマーズは直ぐに俯いて、
「……あいつは仕方なかった。あいつは『シリーズ』に侵食されてシリーズそのものになっちまったんだよ。そして挙句の果てが……あれだ。私もヴィーエックが『異世界』からやってきた人間など知らなかったものだから……済まなかった」
「いや、別にマーズが謝ることじゃないよ」
そう。
別にこのことについては誰も悪いわけではなかった。崇人がヘマをしたからヴィーエックがシリーズになったわけでもないし、マーズがそうしたわけでもない。
つまりは全くの偶然。或いはヴィーエックの意志で彼はシリーズになったのだ。
だが、崇人はそれをマーズの口から聞かされたのだが、それでも腑に落ちなかった。
彼はどうしてそこまでシリーズになりたかったのか? ということだ。誑かされたのか? 裏切られたのか? 騙されたのか? 様々な思いが渦巻いていく。
しかし彼は未だにそれについて結論を見出すことなどできていなかった。それは仕方ないようにも思える。
「……まあ、タカト。気を落とすな。いつか、いつかきっと……お前のいた世界に戻ることが出来るだろうよ。残念ながら、それがいつの話になるか言うことはできないが、な」
そう言ってマーズは付け合せのポテトサラダを一口。
それもそうだった。別に彼が悔やんだからといってヴィーエックが戻ってくるわけではない。大会前の、あの平穏な日常が戻ってくるわけではない。崇人が元の世界に戻れるわけでもないのだ。
「……そうなんだよなあ。そうなんだよ。別に俺が悔やんでも戻れるわけでもない。死んでしまった人が戻ってくるわけでもない。それは自然の摂理にほかならないんだよな……。だから俺は頑張らなくちゃいけないんだ」
「自分の身体を犠牲にしてでも?」
「それで俺の周りの人が助かるなら」
即答だった。マーズはそれを聞いて目を丸くしたが、直ぐにそれを戻して目を細める。
「そうか……。だったら、その思いをずっと忘れないほうがいい。いつかその場面がやってくるだろうが、それまでにその意志は同じかどうか解らない。それでも……自分の意志を持ち続けることは、きっと大事なことだ」
マーズはそう言って食事を再開した。
それを聞いて崇人は微笑むと、残っていたご飯を掻っ込んだ。
◇◇◇
洗い物を済ませ、マーズと崇人はテレビを見ていた。テレビの内容はずっとこの前の戦争について語られていた。この前の戦争はマスメディアが言いやすいようにした『北方戦争』があまりにもメジャーになってしまったために正式名称を変更してしまうくらいになっていた。
そう。
戦争なんて終わってしまえばこんなものだった。
戦争は終わってしまえばどうでもいい――ただ人々の娯楽として消費されていくだけなのだ。ただ、『あの時は怖かったね』だとか『あの時のリリーファーはよくやってくれた』だとか言ってくれるだけで、それもしばらくすれば普通の世論に戻ってしまう。
世界とはそういうもので、残酷だ。
世界とは正しい人間には現実を、汚い生き方をする人間には幻想を見せるものだ。決して前者に幻想を与えることなく、かといって後者に現実を見せつけることも殆どない。
そんな世界だった。
そんな世界を理解しながら、マーズはテレビで連日流れているリリーファー批判を眺めていた。
戦争が終わって一週間くらいは戦争の被害だとかリリーファーの良かったところだとか、大体はいい方向に言っていく。
だが一週間も過ぎてしまえば徐々にその話題が無くなっていったのか、「どうして戦争を行ったのか」だとか「戦争をする意味は果たしてあったのか」だとか、最終的には「リリーファーは必要だったのか」という意見にまで飛躍する。
完全にマスメディアが自分たちの持っている権利を私利私欲のために使っている、その著しい場所であるともいえるが、それを批判する人間なんていない。
実際に戦争の場面に直面した人間ならともかく、今回の戦争は特にそんな場面に直面した人間がいない。即ち直接戦争を目の当たりにした人間がヴァリエイブルには非常に少なかった。戦争の現実を知っているのはせいぜい兵士かその家族くらいに留まっていたののだ。
一方マスメディアはテレビと瓦版という媒体を通して連日戦争について報道している。するとそれしか見ていない人間にとって、瓦版とテレビの情報イコール真実に繋がってしまうのだ。その情報に意見を誘導する情報が少しづつ混じっていることなど知るはずもない。
そして最終的にリリーファーなど要らない――そういう意見が台頭していくのだ。
何を言っているんだ、ふざけるな。マーズはそう思っていた。リリーファーがいなかったら戦争の時、国民を誰が守るというのか? 戦争が起きてしまった時、リリーファーが他国から攻め込んできたとき、誰が守るというのか?
その答えはリリーファーにほかならない。だが、リリーファーに助けてもらうのは当たり前……いや、寧ろ必要ない、そう思っている国民があまりにも多い。
そしてそれがマスメディアによる世論操作だということに、国民は気付くこともない。
……とはいえ、そのリリーファー叩きも数日も経てば落ち着きいつもの情勢に戻る。だが、戦争やら紛争やらがいつも起きているこの世界にとって落ち着いた情勢は殆どないとも言えるだろう。流石に毎日リリーファー叩きがあるわけではないが、マスメディアが本気でリリーファーを正義の味方など思っているかどうかと訊ねられると、疑問しか浮かんでこないものだった。
「……気分が悪い」
そう言ってマーズはテレビのチャンネルを変えた。そこではロボットアニメが放映されていた。リリーファーめいたロボットに乗った少年少女が世界に突如出現した『ノワール』なる敵と戦うストーリーである。今は第六シーズン第四十一話が放送されており、主人公とヒロインのデートシーンから始まるものであった。
「忘れていたよ、いつもこの時間はこれを見ていたんだった……」
そう言いながらマーズは起き上がるとクッションを抱きかかえながらテレビに集中した。
マーズが面白いと思うアニメは、いったいどんな内容なのだろう? 崇人はそう思って、マーズと一緒にそのアニメを見てみることにした。
そのアニメは主人公とヒロインのデートシーンから始まる。そのデートシーンというのがベンチに腰掛けて話をしているというなんともベターな展開である。
「……ね、こんな二人っきりで話をするなんて珍しいよね」
どうやらヒロインはそれがデートであると認識していないらしく、そう主人公に語りかけた。
対して主人公は、
「そ、そうだね! 今日はいい天気だよね!」
……ダメダメだった。人生の半分は恋愛というものに縁がなかった崇人ですら、今の主人公の発言はいかがなものかと思った。
「何してんのよ! なんでそこでいい天気とかいうのよ! シジマの馬鹿!」
どうやらその主人公はシジマというらしい――と割とどうでもいい情報を手に入れて、崇人は再びテレビ画面に意識を集中させる。
「あんた、流石に怒るよ?」
そう言ってマーズは持っていたフォークを握って崇人の頭につきつけた。
崇人はそれを見て表情が強ばる。
「……解ればいいのよ。いいじゃない、別に。貧乳でも愛してくれる人がいるわよ。きっと」
「貧乳というよりまな板に近いというか」
「なんか言ったか!? 天国に送り届けてやろうか!!」
「すいませんマジすいませんでしたっ!!」
崇人はそう言って土下座する。土下座はしたモン勝ちだ。ちなみに古事記には書かれていない。
「……まあ、いいわ」
立ち上がったマーズだったが、崇人の土下座を見てやる気をなくしてしまったらしく座ってまた食べ始めた。
「……どうしたのよ、タカト? いつまで続けているつもりなの。冷めちゃうわよ?」
「ゆ、許してくれたので……?」
「そんな簡単に頭を下げられると攻撃する気も失せるってものよ。いいから、食べなさい」
そう言われて、崇人は席に座ると再び食事の時間に移った。
ハンバーグを食べたので次は副菜を食べてみることにする崇人。おかずとは変わりないが、それでも魅力的な副菜が並べられている。野菜炒めやフライドポテトなどを見るともはやここは異世界ではなくただのファストフード店なのではないかという疑いすらかかってくる。だがここは偽りない異世界なのだ。しかもどこか遠い国では崇人の世界でいうところの関西弁を使う国民もいるらしく、異世界ともともといた世界の違いがつかなくなってしまう。
「そういえば……ヴィーエックはきっと帰りたかっただろうな」
呟きはマーズに聞こえたらしく、マーズは顔を上げた。しかしマーズは直ぐに俯いて、
「……あいつは仕方なかった。あいつは『シリーズ』に侵食されてシリーズそのものになっちまったんだよ。そして挙句の果てが……あれだ。私もヴィーエックが『異世界』からやってきた人間など知らなかったものだから……済まなかった」
「いや、別にマーズが謝ることじゃないよ」
そう。
別にこのことについては誰も悪いわけではなかった。崇人がヘマをしたからヴィーエックがシリーズになったわけでもないし、マーズがそうしたわけでもない。
つまりは全くの偶然。或いはヴィーエックの意志で彼はシリーズになったのだ。
だが、崇人はそれをマーズの口から聞かされたのだが、それでも腑に落ちなかった。
彼はどうしてそこまでシリーズになりたかったのか? ということだ。誑かされたのか? 裏切られたのか? 騙されたのか? 様々な思いが渦巻いていく。
しかし彼は未だにそれについて結論を見出すことなどできていなかった。それは仕方ないようにも思える。
「……まあ、タカト。気を落とすな。いつか、いつかきっと……お前のいた世界に戻ることが出来るだろうよ。残念ながら、それがいつの話になるか言うことはできないが、な」
そう言ってマーズは付け合せのポテトサラダを一口。
それもそうだった。別に彼が悔やんだからといってヴィーエックが戻ってくるわけではない。大会前の、あの平穏な日常が戻ってくるわけではない。崇人が元の世界に戻れるわけでもないのだ。
「……そうなんだよなあ。そうなんだよ。別に俺が悔やんでも戻れるわけでもない。死んでしまった人が戻ってくるわけでもない。それは自然の摂理にほかならないんだよな……。だから俺は頑張らなくちゃいけないんだ」
「自分の身体を犠牲にしてでも?」
「それで俺の周りの人が助かるなら」
即答だった。マーズはそれを聞いて目を丸くしたが、直ぐにそれを戻して目を細める。
「そうか……。だったら、その思いをずっと忘れないほうがいい。いつかその場面がやってくるだろうが、それまでにその意志は同じかどうか解らない。それでも……自分の意志を持ち続けることは、きっと大事なことだ」
マーズはそう言って食事を再開した。
それを聞いて崇人は微笑むと、残っていたご飯を掻っ込んだ。
◇◇◇
洗い物を済ませ、マーズと崇人はテレビを見ていた。テレビの内容はずっとこの前の戦争について語られていた。この前の戦争はマスメディアが言いやすいようにした『北方戦争』があまりにもメジャーになってしまったために正式名称を変更してしまうくらいになっていた。
そう。
戦争なんて終わってしまえばこんなものだった。
戦争は終わってしまえばどうでもいい――ただ人々の娯楽として消費されていくだけなのだ。ただ、『あの時は怖かったね』だとか『あの時のリリーファーはよくやってくれた』だとか言ってくれるだけで、それもしばらくすれば普通の世論に戻ってしまう。
世界とはそういうもので、残酷だ。
世界とは正しい人間には現実を、汚い生き方をする人間には幻想を見せるものだ。決して前者に幻想を与えることなく、かといって後者に現実を見せつけることも殆どない。
そんな世界だった。
そんな世界を理解しながら、マーズはテレビで連日流れているリリーファー批判を眺めていた。
戦争が終わって一週間くらいは戦争の被害だとかリリーファーの良かったところだとか、大体はいい方向に言っていく。
だが一週間も過ぎてしまえば徐々にその話題が無くなっていったのか、「どうして戦争を行ったのか」だとか「戦争をする意味は果たしてあったのか」だとか、最終的には「リリーファーは必要だったのか」という意見にまで飛躍する。
完全にマスメディアが自分たちの持っている権利を私利私欲のために使っている、その著しい場所であるともいえるが、それを批判する人間なんていない。
実際に戦争の場面に直面した人間ならともかく、今回の戦争は特にそんな場面に直面した人間がいない。即ち直接戦争を目の当たりにした人間がヴァリエイブルには非常に少なかった。戦争の現実を知っているのはせいぜい兵士かその家族くらいに留まっていたののだ。
一方マスメディアはテレビと瓦版という媒体を通して連日戦争について報道している。するとそれしか見ていない人間にとって、瓦版とテレビの情報イコール真実に繋がってしまうのだ。その情報に意見を誘導する情報が少しづつ混じっていることなど知るはずもない。
そして最終的にリリーファーなど要らない――そういう意見が台頭していくのだ。
何を言っているんだ、ふざけるな。マーズはそう思っていた。リリーファーがいなかったら戦争の時、国民を誰が守るというのか? 戦争が起きてしまった時、リリーファーが他国から攻め込んできたとき、誰が守るというのか?
その答えはリリーファーにほかならない。だが、リリーファーに助けてもらうのは当たり前……いや、寧ろ必要ない、そう思っている国民があまりにも多い。
そしてそれがマスメディアによる世論操作だということに、国民は気付くこともない。
……とはいえ、そのリリーファー叩きも数日も経てば落ち着きいつもの情勢に戻る。だが、戦争やら紛争やらがいつも起きているこの世界にとって落ち着いた情勢は殆どないとも言えるだろう。流石に毎日リリーファー叩きがあるわけではないが、マスメディアが本気でリリーファーを正義の味方など思っているかどうかと訊ねられると、疑問しか浮かんでこないものだった。
「……気分が悪い」
そう言ってマーズはテレビのチャンネルを変えた。そこではロボットアニメが放映されていた。リリーファーめいたロボットに乗った少年少女が世界に突如出現した『ノワール』なる敵と戦うストーリーである。今は第六シーズン第四十一話が放送されており、主人公とヒロインのデートシーンから始まるものであった。
「忘れていたよ、いつもこの時間はこれを見ていたんだった……」
そう言いながらマーズは起き上がるとクッションを抱きかかえながらテレビに集中した。
マーズが面白いと思うアニメは、いったいどんな内容なのだろう? 崇人はそう思って、マーズと一緒にそのアニメを見てみることにした。
そのアニメは主人公とヒロインのデートシーンから始まる。そのデートシーンというのがベンチに腰掛けて話をしているというなんともベターな展開である。
「……ね、こんな二人っきりで話をするなんて珍しいよね」
どうやらヒロインはそれがデートであると認識していないらしく、そう主人公に語りかけた。
対して主人公は、
「そ、そうだね! 今日はいい天気だよね!」
……ダメダメだった。人生の半分は恋愛というものに縁がなかった崇人ですら、今の主人公の発言はいかがなものかと思った。
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