絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百九十六話 攻略作戦、終盤Ⅱ
その頃、ユースティティア外郭から襲撃を行っていたバックアップはあるものを見つけた。
空を飛ぶ、何かだ。
それは鳥にも見えたし、船にも見えた。
だが、そうだろうか?
実際にそれは鳥であり船であり人工物であるのだろうか?
いいや。
実際はそのどれもが違う。不正解だ。
「いや、あれは……」
グランハルトはコックピットに備え付けられた双眼鏡を通してそれを見て確信した。
それは撮りでもなく船でもなく――人間だった。
杖を持った人間が、空を飛んでいたのだ。否、正確には空を飛んでいるのではない。
「飛んでいるのではなくて……こっちに落ちてくる!?」
そして。
その人間は、地面に落下した。いや、着地したといったほうがいいかもしれない。なぜならその人間は二本の足で確りと地面に着いているのだから。
常識では考えられないその光景を目の当たりにしてグランハルトたちは目を丸くさせた。確かにそんな光景が目の前で起きたら、誰だってそうするに違いない。
そこに立っていたのはまだ年端もいかない少年だった。少年は杖を持っていた。その杖は少年が持つには少々大きすぎるようにも見えた。
『お初にお目にかかる』
グランハルトが様子を伺っていると、頭に直接声が響いた。少しテノールがかった声に聞こえたそれは、やはり誰が聞いても少年のそれとしか認識しないだろう。
『私はアタナシウスという。名字もあるが、それを今あんたたちに話す筋合いもない。理由は単純明解、私があんたたちをここで全員ブチ殺すからだ』
「若造が何を言っている? 第一この人間はリリーファーにすら乗っていない。そもそも立場ですら対等にないって言うに……」
『あぁ。きっと誰かはそう思っているでしょう。そうに違いありません。私がリリーファーに乗っていないから、そもそも対等に戦えるのか? ……という疑問を。えぇ、えぇ、構いませんよ。人間は考える葦だとどこかの誰かが言っていたくらいだ。そんなことを考えても何の無駄にはなりません。寧ろ考えることはいいことですから』
長々と語り出したアタナシウス。そんなにも彼に余裕があるのには、理由があった。
目の前にあるバックアップのリリーファーが一機たりとも此方に向かってくる気配が無いからだ。きっと様子を探っているのだろうが、長々と語っている内に攻撃されてもいいように幾重にもカウンターを張り巡らしていたアタナシウスにとっては、ちょっと骨抜きな話だった。
『考えると能力は飛躍的向上を見せると聞きます。考える分集中するのでしょう。私としては無心な方がさらに集中させやすいのでは? だなんて思いますが、どうやら人間は一極集中とは行かないようですね』
関係のあるような無いような言葉を話すアタナシウスにグランハルトは怒りを募らせていた。
そして彼はリリーファーコントローラを強く握った。刹那、彼の意識が、彼の命令がコントローラを媒体にしてリリーファーへ流れ込む。
リリーファーは彼から受け取った『命令』を瞬間的に実行する。その命令とは、相手に打ち込む強力な右ストレートだった。
だが、彼はそれを打ち込んでからというものの違和を感じていた。
打ち込んだ『手応え』が、まったくなかったのであった。
『……話は最後まで聞く、って学校で習いませんでした?』
声が聞こえた。アタナシウスの声だ。
アタナシウスはどこに消えた――グランハルトは辺りを見渡すが。
『ここですよ、ここ』
彼は漸く、その声が何処から聞こえてくるのかを理解した。
アタナシウスは乗っていた。
何処に? それは他でもない、リリーファーの腕だ。グランハルトが操縦するリリーファー、ムラサメが彼に一撃を食らわせるために伸ばした右腕に、彼は乗っていたのだ。
まるで、そんなもの苦ではないと言わせるように彼は鼻で笑った。
グランハルトはそれでも冷静さを欠くことはなかった。寧ろ、それくらい当然のこととも言えるだろう。こんなところで冷静を欠いていては、正しい判断を下すことが出来ない。
『あまりにも鈍い。鈍すぎる。こんなものが世界を、大陸を、国を支配するために流通しているのか。おかしな話だ。くだらなくてくだらなくてくだらなくて、ほんとうにくだらない』
そう言うと、アタナシウスはムラサメの関節を杖でトンと叩いた。
刹那、グランハルトの乗るムラサメの右腕の関節が外れた。
グランハルトは同調を弱めていたため、レナのように大きなダメージを受けることもなかった。
だからといって、右腕が外れてしまっているのは変えられようがない事実だ。
「今使えるのは左腕だけか。……ちくょう、難易度が一気に跳ね上がった」
グランハルトは独りごちる。あまり考えたくなかった、リリーファーの破損ということが、まさかこれほどまでに早く起きてしまうものだとはグランハルトも思わなかった。自らを落ち着かせるため、精神統一も兼ねているのだ。
アタナシウスは杖を再びトンと叩いた。
すると今度は彼の足元から大量の水が出てきた。何処かの川から丸々水を写し変えてきたかのようだった。
ムラサメはそれを押し止めようと画策する。しかし、当然ながらムラサメが水を押し止められる範囲は限られているし、とても狭い。だから彼がしている行為はまさに焼け石に水なのであった。
『無駄無駄。無駄だ。もしかしたらその水を押し止めて、或いはこちらに押し返そうとでも思っているのかもしれないけれど、そんなことなんて出来ないしさせないよ。私は聖人だ。岩を簡単に破壊することも出来れば海を割ることも出来るし、人を凍りつかせることも出来れば人を燃やし尽くすことだって出来る。可能性だとか机上の空論だとか考えだとか、そんな甘いものじゃない。現に私は「出来る」。私は有言実行で動いているのだよ。……さて、もう手応えも無くなってきたことだし、そろそろとどめでも刺しちゃおっかな〜』
アタナシウスは杖をくるくると回す。
まるで彼にとって今の戦いはどうでもない、つまらないものだと思わせるようだった。
だが。
刹那、アナタシウスの右半身が消し飛んだ。
否、正確には右手と胸の一部。顔と足には被害はない。
だがそれでも彼に多大なダメージを与えたことには間違いなかった。
それを放ったのはリミシアのリリーファーだった。彼女はちょうどアタナシウスを、動くこと無く狙うことの出来る位置に居たためだ。
『……ほぅ。少し、驚いたよ』
だが、アタナシウスは笑った。笑っていた。狂ったように、壊れたように、笑っていたのだ。
左手に持っていた杖を振り翳し、それを自分の右手があったところに触れる。そして、その部分が徐々に輝き出した。
「不味い! 回復する気か!!」
グランハルトはそれに気付き、単独でコイルガンを放つためにリリーファーコントローラを握った。
しかし、その直ぐに彼が見た光景はコックピットが真っ二つに切り裂かれていく様だった。
それは彼の身体も例外ではなかった。
「…………あ?」
そして。
ムラサメは真っ二つになり、溜め込んでいたコイルガンのエネルギーが暴発して――そのまま爆発した。
「なんだ、君か。別に出てこなくてもよかったのに」
ムラサメを真っ二つにした存在は、アタナシウスの隣に姿を表した。それは、背中にとても巨大な剣を構えていたドレス姿の女性だった。
彼女の名前はキャスカ・アメグルスといい、彼女もまた『聖人』だった。だが彼女の聖人としての力は、アタナシウスのそれとは大きく異なる。
「……あなたが『僕だけでやるから構わない』なんて言ったから傍観していたけど、なんだかヤバそうだったから参戦したまでよ。貸しなんて思わなくていいから」
「大丈夫。私だってそう思うつもりはない。……ところで、もう戦いに飽きてしまったんだよね」
小さく欠伸をしながら言ったアタナシウスに、「また?」とキャスカは冗談めいた笑みを浮かべ首を傾げる。
空を飛ぶ、何かだ。
それは鳥にも見えたし、船にも見えた。
だが、そうだろうか?
実際にそれは鳥であり船であり人工物であるのだろうか?
いいや。
実際はそのどれもが違う。不正解だ。
「いや、あれは……」
グランハルトはコックピットに備え付けられた双眼鏡を通してそれを見て確信した。
それは撮りでもなく船でもなく――人間だった。
杖を持った人間が、空を飛んでいたのだ。否、正確には空を飛んでいるのではない。
「飛んでいるのではなくて……こっちに落ちてくる!?」
そして。
その人間は、地面に落下した。いや、着地したといったほうがいいかもしれない。なぜならその人間は二本の足で確りと地面に着いているのだから。
常識では考えられないその光景を目の当たりにしてグランハルトたちは目を丸くさせた。確かにそんな光景が目の前で起きたら、誰だってそうするに違いない。
そこに立っていたのはまだ年端もいかない少年だった。少年は杖を持っていた。その杖は少年が持つには少々大きすぎるようにも見えた。
『お初にお目にかかる』
グランハルトが様子を伺っていると、頭に直接声が響いた。少しテノールがかった声に聞こえたそれは、やはり誰が聞いても少年のそれとしか認識しないだろう。
『私はアタナシウスという。名字もあるが、それを今あんたたちに話す筋合いもない。理由は単純明解、私があんたたちをここで全員ブチ殺すからだ』
「若造が何を言っている? 第一この人間はリリーファーにすら乗っていない。そもそも立場ですら対等にないって言うに……」
『あぁ。きっと誰かはそう思っているでしょう。そうに違いありません。私がリリーファーに乗っていないから、そもそも対等に戦えるのか? ……という疑問を。えぇ、えぇ、構いませんよ。人間は考える葦だとどこかの誰かが言っていたくらいだ。そんなことを考えても何の無駄にはなりません。寧ろ考えることはいいことですから』
長々と語り出したアタナシウス。そんなにも彼に余裕があるのには、理由があった。
目の前にあるバックアップのリリーファーが一機たりとも此方に向かってくる気配が無いからだ。きっと様子を探っているのだろうが、長々と語っている内に攻撃されてもいいように幾重にもカウンターを張り巡らしていたアタナシウスにとっては、ちょっと骨抜きな話だった。
『考えると能力は飛躍的向上を見せると聞きます。考える分集中するのでしょう。私としては無心な方がさらに集中させやすいのでは? だなんて思いますが、どうやら人間は一極集中とは行かないようですね』
関係のあるような無いような言葉を話すアタナシウスにグランハルトは怒りを募らせていた。
そして彼はリリーファーコントローラを強く握った。刹那、彼の意識が、彼の命令がコントローラを媒体にしてリリーファーへ流れ込む。
リリーファーは彼から受け取った『命令』を瞬間的に実行する。その命令とは、相手に打ち込む強力な右ストレートだった。
だが、彼はそれを打ち込んでからというものの違和を感じていた。
打ち込んだ『手応え』が、まったくなかったのであった。
『……話は最後まで聞く、って学校で習いませんでした?』
声が聞こえた。アタナシウスの声だ。
アタナシウスはどこに消えた――グランハルトは辺りを見渡すが。
『ここですよ、ここ』
彼は漸く、その声が何処から聞こえてくるのかを理解した。
アタナシウスは乗っていた。
何処に? それは他でもない、リリーファーの腕だ。グランハルトが操縦するリリーファー、ムラサメが彼に一撃を食らわせるために伸ばした右腕に、彼は乗っていたのだ。
まるで、そんなもの苦ではないと言わせるように彼は鼻で笑った。
グランハルトはそれでも冷静さを欠くことはなかった。寧ろ、それくらい当然のこととも言えるだろう。こんなところで冷静を欠いていては、正しい判断を下すことが出来ない。
『あまりにも鈍い。鈍すぎる。こんなものが世界を、大陸を、国を支配するために流通しているのか。おかしな話だ。くだらなくてくだらなくてくだらなくて、ほんとうにくだらない』
そう言うと、アタナシウスはムラサメの関節を杖でトンと叩いた。
刹那、グランハルトの乗るムラサメの右腕の関節が外れた。
グランハルトは同調を弱めていたため、レナのように大きなダメージを受けることもなかった。
だからといって、右腕が外れてしまっているのは変えられようがない事実だ。
「今使えるのは左腕だけか。……ちくょう、難易度が一気に跳ね上がった」
グランハルトは独りごちる。あまり考えたくなかった、リリーファーの破損ということが、まさかこれほどまでに早く起きてしまうものだとはグランハルトも思わなかった。自らを落ち着かせるため、精神統一も兼ねているのだ。
アタナシウスは杖を再びトンと叩いた。
すると今度は彼の足元から大量の水が出てきた。何処かの川から丸々水を写し変えてきたかのようだった。
ムラサメはそれを押し止めようと画策する。しかし、当然ながらムラサメが水を押し止められる範囲は限られているし、とても狭い。だから彼がしている行為はまさに焼け石に水なのであった。
『無駄無駄。無駄だ。もしかしたらその水を押し止めて、或いはこちらに押し返そうとでも思っているのかもしれないけれど、そんなことなんて出来ないしさせないよ。私は聖人だ。岩を簡単に破壊することも出来れば海を割ることも出来るし、人を凍りつかせることも出来れば人を燃やし尽くすことだって出来る。可能性だとか机上の空論だとか考えだとか、そんな甘いものじゃない。現に私は「出来る」。私は有言実行で動いているのだよ。……さて、もう手応えも無くなってきたことだし、そろそろとどめでも刺しちゃおっかな〜』
アタナシウスは杖をくるくると回す。
まるで彼にとって今の戦いはどうでもない、つまらないものだと思わせるようだった。
だが。
刹那、アナタシウスの右半身が消し飛んだ。
否、正確には右手と胸の一部。顔と足には被害はない。
だがそれでも彼に多大なダメージを与えたことには間違いなかった。
それを放ったのはリミシアのリリーファーだった。彼女はちょうどアタナシウスを、動くこと無く狙うことの出来る位置に居たためだ。
『……ほぅ。少し、驚いたよ』
だが、アタナシウスは笑った。笑っていた。狂ったように、壊れたように、笑っていたのだ。
左手に持っていた杖を振り翳し、それを自分の右手があったところに触れる。そして、その部分が徐々に輝き出した。
「不味い! 回復する気か!!」
グランハルトはそれに気付き、単独でコイルガンを放つためにリリーファーコントローラを握った。
しかし、その直ぐに彼が見た光景はコックピットが真っ二つに切り裂かれていく様だった。
それは彼の身体も例外ではなかった。
「…………あ?」
そして。
ムラサメは真っ二つになり、溜め込んでいたコイルガンのエネルギーが暴発して――そのまま爆発した。
「なんだ、君か。別に出てこなくてもよかったのに」
ムラサメを真っ二つにした存在は、アタナシウスの隣に姿を表した。それは、背中にとても巨大な剣を構えていたドレス姿の女性だった。
彼女の名前はキャスカ・アメグルスといい、彼女もまた『聖人』だった。だが彼女の聖人としての力は、アタナシウスのそれとは大きく異なる。
「……あなたが『僕だけでやるから構わない』なんて言ったから傍観していたけど、なんだかヤバそうだったから参戦したまでよ。貸しなんて思わなくていいから」
「大丈夫。私だってそう思うつもりはない。……ところで、もう戦いに飽きてしまったんだよね」
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