絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百八十五話 攻略作戦、中盤Ⅰ
ハリー騎士団とメルキオール騎士団の合同騎士団は、山道を漸く越えることができた。それができたのが、だいたい夕方頃だった。それほどペースが遅れていない……マーズはそう実感して、溜息を吐いた。
「……こちら、マーズ・リッペンバー。とりあえず到着したわね。それはそれでよかった。なんとか間に合ったということで、作戦を大幅に立て直す……なんてそんなことがなくてよかった。一先ずこれまでの作戦に同行してもらって、感謝する」
『何を言う、マーズ』
それに返したのはヴァルベリーであった。
ヴァルベリーは鼻を鳴らして、話を続ける。
『どっかの学者も言っていたわ。遠足は最後まで、家に帰るまでが遠足なんだ……と』
「別にこれは遠足じゃないと思いますが」
マーズは呟く。
『それもそうね。でも、遠足も作戦による行軍も一緒。変わらないし、変わることはない。基本は凡て一緒なのよ。凡て変わらない。だから、今回も気合を入れていくのよ。最後まで。決して今のタイミングでそんなことを言ってはいけないの』
「肝に銘じておきます」
マーズはそう言って、頭を下げる。
ともかく、今はそんなことを話している場合ではなかった。ヴァルベリーの言うとおり、これから漸く戦いの地へと出向き、作戦を遂行するのだ。緊張はまだ解すわけにはいかない。
そしてハリー騎士団とメルキオール騎士団は、マーズを先頭にしてその場所を目指す。
目と鼻の先に、その場所は広がっていた。
そこは、なんの変哲もない洞窟だった。松明が入口の両側に設置されている程度だった。ほかの洞窟と強いて違う点を上げるとするならば、その入口があまりにも大きなことだろう。その洞窟の入口は、確かに試算したとおり小型リリーファー『クライン』であれば入ることができる大きさだ。
「……まったく、そういうサイズとかってのはいったいどういうところから調べてくるものなのかね。まったくもって解りゃしない」
マーズは独りごちる。それは一応ほかの起動従士には聞こえないようにスピーカーの電源をオフにしてある。まあ、もし聞かれていたとしてもどうにかすればいいだろう――なんて、マーズはそんな楽観的なことを考えていた。
その時だった。
洞窟の両側から、身を潜めていたのか知らないが、二機のリリーファーが姿を現した。その姿はマーズたちが知るリリーファーのそれとは大きく違っていた。
姿形がまさに女性のそれだった。なめらかな流線型は、女性がそのまま巨大化したのではないかとマーズたちは一瞬そう疑問を浮かべる程であった。
だが、そんなことは有り得ない。そもそも人間が巨大化するなど生物学上有り得ない話なのだ。
でも、現にそのリリーファーはまるで人間のようなフォルムで、その場に立っていた。まるで人間がそのまま仮面や装甲を被って、そういう仮装をしているかのように。
『リリーファー……なのか?』
そう声を上げたのはヴィエンスだった。どうやら彼のリリーファーは通信をオンにしているらしく、マーズのコックピットから彼の声がそのまま聞こえていた。
その存在が本当にリリーファーなのかどうか、それを疑うのはマーズにだって理解出来た。彼女だって、ほんとうにそれがリリーファーなのか疑っていたからだ。実はリリーファーとは違う、別の何かではないのか。法王庁が開発した、新しい人型兵器なのではないか――今でも本気でそれを考えているほどである。
「総員、あの人型兵器……もしかしたら、リリーファーかもしれないが、確認が取れるまであれはリリーファーかどうかも解らん! ともかく、あれを排除する!!」
その掛け声に、ほかの起動従士たちは銃器を発動させることで示した。
◇◇◇
ハリー・メルキオール合同騎士団は行動を開始した。先ず前方に立っていたアレス、インフィニティが攻撃を開始したのだ。
アレスはコイルガン、インフィニティは出力調整済み(出力を予め調整しておかないと、味方も巻き込んでしまう)の『エクサ・チャージ』を放った。
同時に放った攻撃が命中すれば、そのあと動くことはできないだろう。
放って、それが命中して、土煙が立った。それを見て、一瞬だけ彼女たちは思った。
――どうしてこちら側から攻撃をさせたのだろうか?
「なぜだ……。まったく理解出来ない。どうして、どうしてこちら側に先に攻撃させた? 別にあちらから先制攻撃をしたほうが、効率も良かったはず……」
それは即ち。
――先に攻撃させたほうが、敵にとって有利だったから、ということになる。
「しくった!」
マーズは叫ぶと、後ろを振り返る。
しかし、それに気がついたときにはもう遅かった。
後ろに立っていたアシュヴィンが攻撃を受けた。それも、普通の攻撃ではない。コイルガンでもレールガンでもない、何か。銃というよりも打撃というよりも――斬撃に近いその攻撃を、アシュヴィンが食らった。
生憎アシュヴィンに乗っているのはこういう戦法に慣れているエルフィーとマグラスだったからか、或いはただ偶然のことかは解らないが、アシュヴィンが倒れることはなく、直ぐに敵のリリーファーの方に転回した。
しかし敵のリリーファーもそう一筋縄ではいかない。踵を返し、即座にアシュヴィンが放った拳を避けた。
そしてその拳を掴むとアシュヴィンの身体をそのリリーファーの背中に持っていき、そのまま地面に叩き落とした。
「リリーファー相手に……背負い投げをしただと!?」
一番に驚いたのは崇人だった。
背負い投げという概念、いや、そもそもこの世界に柔道という概念があるのかどうかも怪しいところだが、少なくともそんなことをリリーファーで出来るのが驚きだった。
アシュヴィンは地面に着いたまま、動かない。きっと、自分が何で地面に落ちているのか理解が一瞬遅れているのだろう。
「総員、アシュヴィンを援護しろ!」
マーズが激昂する。その声につられてハリー・メルキオール両騎士団はアシュヴィンの前に立っているリリーファーの方へ走っていく。
しかし、遅かった。
そんな簡単に倒せるはずなどない。
そのリリーファーは逆立ちを始めたのだ。そんなこと、ヴァリエイブルにいるリリーファーなら先ずしない芸当だ。
そしてそのリリーファーは逆立ちをしたまま回転し始めた。自らの脚を回転している部分から外に出して、それを攻撃としたのだ。
「このままでは……相手に近づけない!」
マーズは舌打ちする。対して崇人はそれを見て感心すらしていた。ここまでトリッキーな戦いをするリリーファーを、彼は見たことがなかったからだ。
「うおおおおおおお!!!!!!」
だが、そんな攻撃をものともしないと言わんばかりに一機のリリーファーが、相手のリリーファーめがけて駆け出した。
そのリリーファーがガネーシャ……即ちヴァルベリーの乗っているリリーファーであることに気付くのにそう時間はかからなかった。
「よせ、ヴァルベリー! 何も解らず無闇矢鱈に特攻をするのは……!」
マーズは彼女を止めようとした。
しかし、ヴァルベリーは止まろうなど思ってもいなかった。
ガネーシャと敵のリリーファーが衝突を起こす。それによって回転していた敵のリリーファーはそれを停止する。それは即ち、回転していたことで蓄えられていたエネルギーが、そのままガネーシャにぶつけられたことを指していた。
『こちら、ヴァルベリー! 敵を止めたぞ! さっさと攻撃しろ!!』
その声を聞いて、クライン六機は一斉にコイルガンを、敵のリリーファーめがけて撃ち放った。
「……こちら、マーズ・リッペンバー。とりあえず到着したわね。それはそれでよかった。なんとか間に合ったということで、作戦を大幅に立て直す……なんてそんなことがなくてよかった。一先ずこれまでの作戦に同行してもらって、感謝する」
『何を言う、マーズ』
それに返したのはヴァルベリーであった。
ヴァルベリーは鼻を鳴らして、話を続ける。
『どっかの学者も言っていたわ。遠足は最後まで、家に帰るまでが遠足なんだ……と』
「別にこれは遠足じゃないと思いますが」
マーズは呟く。
『それもそうね。でも、遠足も作戦による行軍も一緒。変わらないし、変わることはない。基本は凡て一緒なのよ。凡て変わらない。だから、今回も気合を入れていくのよ。最後まで。決して今のタイミングでそんなことを言ってはいけないの』
「肝に銘じておきます」
マーズはそう言って、頭を下げる。
ともかく、今はそんなことを話している場合ではなかった。ヴァルベリーの言うとおり、これから漸く戦いの地へと出向き、作戦を遂行するのだ。緊張はまだ解すわけにはいかない。
そしてハリー騎士団とメルキオール騎士団は、マーズを先頭にしてその場所を目指す。
目と鼻の先に、その場所は広がっていた。
そこは、なんの変哲もない洞窟だった。松明が入口の両側に設置されている程度だった。ほかの洞窟と強いて違う点を上げるとするならば、その入口があまりにも大きなことだろう。その洞窟の入口は、確かに試算したとおり小型リリーファー『クライン』であれば入ることができる大きさだ。
「……まったく、そういうサイズとかってのはいったいどういうところから調べてくるものなのかね。まったくもって解りゃしない」
マーズは独りごちる。それは一応ほかの起動従士には聞こえないようにスピーカーの電源をオフにしてある。まあ、もし聞かれていたとしてもどうにかすればいいだろう――なんて、マーズはそんな楽観的なことを考えていた。
その時だった。
洞窟の両側から、身を潜めていたのか知らないが、二機のリリーファーが姿を現した。その姿はマーズたちが知るリリーファーのそれとは大きく違っていた。
姿形がまさに女性のそれだった。なめらかな流線型は、女性がそのまま巨大化したのではないかとマーズたちは一瞬そう疑問を浮かべる程であった。
だが、そんなことは有り得ない。そもそも人間が巨大化するなど生物学上有り得ない話なのだ。
でも、現にそのリリーファーはまるで人間のようなフォルムで、その場に立っていた。まるで人間がそのまま仮面や装甲を被って、そういう仮装をしているかのように。
『リリーファー……なのか?』
そう声を上げたのはヴィエンスだった。どうやら彼のリリーファーは通信をオンにしているらしく、マーズのコックピットから彼の声がそのまま聞こえていた。
その存在が本当にリリーファーなのかどうか、それを疑うのはマーズにだって理解出来た。彼女だって、ほんとうにそれがリリーファーなのか疑っていたからだ。実はリリーファーとは違う、別の何かではないのか。法王庁が開発した、新しい人型兵器なのではないか――今でも本気でそれを考えているほどである。
「総員、あの人型兵器……もしかしたら、リリーファーかもしれないが、確認が取れるまであれはリリーファーかどうかも解らん! ともかく、あれを排除する!!」
その掛け声に、ほかの起動従士たちは銃器を発動させることで示した。
◇◇◇
ハリー・メルキオール合同騎士団は行動を開始した。先ず前方に立っていたアレス、インフィニティが攻撃を開始したのだ。
アレスはコイルガン、インフィニティは出力調整済み(出力を予め調整しておかないと、味方も巻き込んでしまう)の『エクサ・チャージ』を放った。
同時に放った攻撃が命中すれば、そのあと動くことはできないだろう。
放って、それが命中して、土煙が立った。それを見て、一瞬だけ彼女たちは思った。
――どうしてこちら側から攻撃をさせたのだろうか?
「なぜだ……。まったく理解出来ない。どうして、どうしてこちら側に先に攻撃させた? 別にあちらから先制攻撃をしたほうが、効率も良かったはず……」
それは即ち。
――先に攻撃させたほうが、敵にとって有利だったから、ということになる。
「しくった!」
マーズは叫ぶと、後ろを振り返る。
しかし、それに気がついたときにはもう遅かった。
後ろに立っていたアシュヴィンが攻撃を受けた。それも、普通の攻撃ではない。コイルガンでもレールガンでもない、何か。銃というよりも打撃というよりも――斬撃に近いその攻撃を、アシュヴィンが食らった。
生憎アシュヴィンに乗っているのはこういう戦法に慣れているエルフィーとマグラスだったからか、或いはただ偶然のことかは解らないが、アシュヴィンが倒れることはなく、直ぐに敵のリリーファーの方に転回した。
しかし敵のリリーファーもそう一筋縄ではいかない。踵を返し、即座にアシュヴィンが放った拳を避けた。
そしてその拳を掴むとアシュヴィンの身体をそのリリーファーの背中に持っていき、そのまま地面に叩き落とした。
「リリーファー相手に……背負い投げをしただと!?」
一番に驚いたのは崇人だった。
背負い投げという概念、いや、そもそもこの世界に柔道という概念があるのかどうかも怪しいところだが、少なくともそんなことをリリーファーで出来るのが驚きだった。
アシュヴィンは地面に着いたまま、動かない。きっと、自分が何で地面に落ちているのか理解が一瞬遅れているのだろう。
「総員、アシュヴィンを援護しろ!」
マーズが激昂する。その声につられてハリー・メルキオール両騎士団はアシュヴィンの前に立っているリリーファーの方へ走っていく。
しかし、遅かった。
そんな簡単に倒せるはずなどない。
そのリリーファーは逆立ちを始めたのだ。そんなこと、ヴァリエイブルにいるリリーファーなら先ずしない芸当だ。
そしてそのリリーファーは逆立ちをしたまま回転し始めた。自らの脚を回転している部分から外に出して、それを攻撃としたのだ。
「このままでは……相手に近づけない!」
マーズは舌打ちする。対して崇人はそれを見て感心すらしていた。ここまでトリッキーな戦いをするリリーファーを、彼は見たことがなかったからだ。
「うおおおおおおお!!!!!!」
だが、そんな攻撃をものともしないと言わんばかりに一機のリリーファーが、相手のリリーファーめがけて駆け出した。
そのリリーファーがガネーシャ……即ちヴァルベリーの乗っているリリーファーであることに気付くのにそう時間はかからなかった。
「よせ、ヴァルベリー! 何も解らず無闇矢鱈に特攻をするのは……!」
マーズは彼女を止めようとした。
しかし、ヴァルベリーは止まろうなど思ってもいなかった。
ガネーシャと敵のリリーファーが衝突を起こす。それによって回転していた敵のリリーファーはそれを停止する。それは即ち、回転していたことで蓄えられていたエネルギーが、そのままガネーシャにぶつけられたことを指していた。
『こちら、ヴァルベリー! 敵を止めたぞ! さっさと攻撃しろ!!』
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