絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百八十三話 攻略作戦、出動Ⅴ
『どうも、はじめまして』
相手のリリーファーはムラサメに向けて攻撃をするわけでもなく、それよりも先に頭を下げた。いわゆる挨拶というやつだ。挨拶は昔から存在するルールではあるが、これを戦闘で、しかもリリーファー同士の戦闘においてやったことのある人間を、レナは少なくとも見たことがなかった。
しかし、挨拶というものは返さねばならない。それが流儀というものだ。それが例え、今まで挨拶をしたことがない場面であったとしても。
「どうも」
ムラサメも頭を下げ、それに答える。
戦場であるにもかかわらず、敵対するリリーファーはどちらも頭を下げている。その状況は一瞬戦場ではないのかと疑うほどの、静謐な雰囲気に満ちていた。
『……さて、話を戻しましょう。私の名前はアルバス・レムーリアといいます。一応、法王庁自治領の聖騎士を操る起動従士としては、それなりに強いと自覚しております』
「どうも。私も名乗ったほうがいいのかね。私の名前はレナ。それだけで構わない」
『敵に名乗る必要などない、と』
ムラサメは首肯する。
『まあ構いませんよ。私とて覚えるつもりは毛頭ありません。それがどういう意味か……おわかりですね?』
「ああ」
レナはそういうと、コックピットに座る彼女の目の前にあったキーボードにコマンドを打ち込んだ。
それはムラサメを前方へ動かし、戦闘を開始するコマンドを意味していた。
だが、当の相手は戦う素振りを見せることがない。
『……やれやれ。頭の固いお人だ。すぐ戦闘で、力で見せつける。それが果たして「平和」を導くのでしょうか? ペイパスの国王も言っていましたっけ。言っていたかどうかはちょっと正直曖昧なところですけれど、「平和を求める」だなんてそんな戯言、今の世界でそんな手段を用いて言っているんですから笑い話ですよ。平和なんてものはもっとこう――』
そう、長い話を言いながら、アルバスの乗るリリーファーは再び何かを撃ち放った。
それがムラサメに命中したと同時に、行動を停止した。
『――こう、スマートにしなくちゃ。ね?』
レナはリリーファーで見えないアルバスの表情がどことなく想像できたような気がした。
――ニヒルな笑みを浮かべている。彼女はアルバスの表情をそう想像して、それに返すように彼女もニヤリと笑みを浮かべた。
対して、アルバス・レムーリアは彼女が乗り込んでいるリリーファー『クロノス』のコックピットにてほくそ笑んでいた。
どうして起動従士はここまでも作戦を考えることのない人間なのだろう、と。考えるだけで笑いが止まらなかった。
彼女のリリーファーは時を止めることができる。
その言葉を聞いて、信じることができる人間がいったいどれくらいいるのだろうか。少なくとも今ここにいる起動従士がそれを聞いて最初に考えることはそれを『疑うこと』だ。突拍子過ぎてそれが本当かどうかも解るはずがない。
しかしこのクロノスはそれをやってのけるのだ。だから、そう呼ばれている。時間を司る神として有名なクロノスというのを、彼女のリリーファーにつけたのも、クロノスにつけられている能力から来ているものだ。
「……ああ、ほんとうに面白い」
この笑い声は、仮にまだ彼女が外部スピーカーの接続をオンにしていたら、丸聞こえだっただろう。しかし今は外部スピーカーの接続をオフにしてそれを何度も確認しているため、問題はない。
これで四機がクロノスの能力に倒れてしまった。この能力は能力を所持しているリリーファーが解除するための方法を実行しない限り、解除することは出来ない。即ち今停止している四機はクロノスが解除しなければ動くことすら憚られるということだ。
「……さて、残りは六機、ですか。いくらなんでもあと六機これを対処するには難しそうですね……」
彼女はある『命令』の下、動いていた。
――ユースティティアまでやってくるはずの敵を『足止め』しろ。
撃退ではなく足止め、である。その足止めの時間は、彼女の味方がやってくるまでのおよそ数十分だ。
ユースティティア付近は平地なので、山道に時間を取られることも少ない。だから、そう時間がかからないのだ。その数十分さえどうにかしてしまえば、あとはこっちのものである――アルバスはそう考えていた。
しかし、この能力さえあればその程度の任務は簡単に遂行することができる。
アルバスはそう考えると、また笑いが止まらなかった。
対して、『バックアップ』副リーダーを務めるグランハルトは自身の乗り込んでいるムラサメのコックピットにて、考えていた。
あの兵器はいったいなんだというのだろうか。
攻撃、というよりも足止めである。殺傷能力はないようだが、動くことが出来ないというのは非常に厄介だ。
「……それにしてもレナはもうちょっと考えて行動して欲しかったなあ……。一応リーダーなんだからほかに示しがつかないじゃないか」
わざと彼はレナのリリーファーへの通信をオンにした状態で呟いた。
『……それは私に対する愚痴か?』
直ぐにレナの返事はあった。
それを聞いて、グランハルトは微笑む。
「そうだよ。まったく、どうしてくれるか。君が引っかかってくれたおかげであのリリーファーが持つ能力が解ればいいんだけど……案外世界はそう簡単に回ってくれていないようだし」
『なんで解らんのだ。私が必死の思いで、命をかけて体験したというのに』
「いや、まだ死んでないよね……」
閑話休題。
そんなことよりも、あのリリーファーについて考えなくてはならない。
あのリリーファーが放った弾丸が命中したことで、当たったリリーファーは行動を停止した。これさえ聞けば弾丸に命中しないように行動すればいいだけではないかと思うが、そうはいかない。
その攻撃を食らったあと、どう対処すればよいのか。それが問題だった。
「レナ、色々と聞かせて欲しい――」
グランハルトが悠長にレナに質問しようとしたその時だった。
『……いつまでそんな悠長に物事を進めているつもりですか?』
声が聞こえた。
それがアルバスの声だと気付くまで、そう時間はかからなかった。
アルバスの乗るリリーファー、クロノスは既にムラサメの前に着いていた。
『戦場でそんな時間をかけてしまっては簡単にやられてしまいますよ』
そう言ってクロノスはムラサメの足――正確にはその膝にあたる部分に針のようなものを刺した。
『ぐああっ……!』
それと同時にレナが声を上げた。
グランハルトは直ぐにあることを思い浮かべた。
「レナ! どうして『同調』を強めているんだ!」
同調。
それはリリーファーと起動従士の精神をリンクさせる機能のことだ。通常戦闘においてそれを行う機会というのは非常に少ないのは起動従士の身体にかかる過負荷によるものだ。同調することでリリーファーの力をさらに引き出すことが出来るが、その代わりにダメージを感じるようになってしまう。勿論、リリーファーの腕が破壊されたら起動従士の腕が破壊されるのかといったらそういうわけではなく、『それ相応』のダメージが起動従士に行くに過ぎない。
即ち起動従士の肉体に応じて体感ダメージが違うということになる。鍛えていればダメージを受けても然程酷い怪我とは感じないだろうし、そうでなければさらに酷いものとなる。
レナは知る由もないだろうが、今クロノスが刺した同調を高まらせる薬剤である。リリーファーには血管ににたエネルギー循環管がいたるところに張り巡らされていて、クロノスはそれを的確に突いた。
『知らん! だが勝手に……』
『さあて、楽しい楽しいパーティの始まりですよ。法王庁に反逆する人間は即ち神に反逆する者。苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで、死になさい』
そしてクロノスは躊躇なくムラサメの右足を引き抜いた。
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