絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百七十一話 レティシア・バーボタージュⅦ
「あなた……どうしてこんなことをしたの? こんなことをして、許されると思ったの?」
『そう御託を並べてどうするつもり……!? 私を拒絶したいんでしょう、私を破滅に追いやりたいんでしょう! そんなことは許されない。許してはいけないの。私が好きなのはあなたただ一人……ならば』
――死んでしまえばいいのよ。
レティシアは至って普通な口調でそう言った。
レティシアの話は続く。
『殺してしまえば、死んでしまえば、あなたがほかの人間と何かをするわけでもないし、ほかの人間からあなたを守ることが出来る。だとしたらそれは、とても最高の結果になるとは思わない?』
「……残念だけど、私はそれが素晴らしいとはまったく思えないわね」
マーズは直ぐにその言葉を否定する。
だが、レティシアはそんなことを無視して、さらに話を続けていく。
『あなたという存在が居たから、私はここまでやってこれたの。逆説的に考えれば、あなたも同じでしょう? あなたは私という存在がいたからこそ、この地まで、この日まで、このイベントまでやって来ることが出来たのよ!』
それについてマーズは否定することが出来なかった。確かにレティシアが居なければマーズは別の人生を歩んでいたに違いなかったからだ。
マーズもレティシアも、それぞれがそれぞれに依存していた。
レティシアはマーズに出会ったからこそこの道に進んだ。そして、マーズもレティシアに出会ったからこそこの道に進んだのだ。
共依存。
お互いがお互いに依存し、その関係に囚われて逃げることが出来ないのだ。
『ねえ、マーズ』
レティシアは静かに、ゆっくりとそう言った。
マーズはそれに答えなかった。
『ねえ、マーズ。どうして私の言葉に答えてくれないの? 私のことが嫌いなの? 私のことをあなたはもう見てくれないの?』
「寧ろ……聞きたい。なぜ私なのだろうか? 世の中に女性がたくさんいるだろう……なぜ?」
『マーズ・リッペンバーでなくてはならないからよ。わたしは初めてあなたを見て、私はあなたに恋をしたの。そしてわたしはあなたのものになるべきだと……密かにそう思っていたのよ』
その理論は明らかにぶっ飛んでいた。誰がどう聞いてもネジが一本取れている、と思うくらい見当違いな理論だった。
だが、レティシアにとってもはやそんなことはどうだっていいのだろう。彼女はただ、マーズ・リッペンバーを愛することが出来れば、それだけでいいのだから。
「レティシア。……もうこんなことやめてくれないか。これから何も産み出されない。産み出されることなんてないし、私は戦うことを望んでいないだ。レティシア、あなたを止めるために、敢えてあなたと同じ土俵に立って話をしているのよ。その意味を、解ってほしい」
『結局あなたは、私のことを理解してはくれなかった』
レティシアは、低い静かな声で言った。
その言葉と同時にディアボロスはゆっくりとペスパの目の前を目指して動き始めた。
『あなたは私の感情を理解してくれなかった。私はこれほどまでにあなたを愛しているのにあなたはくだらないと掃き捨てた』
「違う、違うんだレティシア」
『だったら私は考えた……あなたを殺そう、と。だってそうすればあなたは私を拒否することはないでしょう? あなたはずっと私のことを見てくれるでしょう?』
「……果たしてどうだろうな」
『えぇ、そうよね。きっとそんなことをしてもあなたは見てくれない。それはもう、確信したわ。あなたを殺そうとしたって、あなたは強すぎる。とても私には倒すことが出来ない』
一息。
『ならば、どうすればいいのか。……簡単な話だったのよ。どうして、どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのか』
「レティシア、あなた何をする気……?」
マーズは何かを悟ったのか、目を細めてリリーファーコントローラに静かに手を置いた。
レティシアは微笑む。
『簡単な話よ。幼稚園児だって考え付く逆転の発想で当たり前の発想。考えられる中でも最大限、あなたが私を忘れられないようにする手段』
ガコン、と何かのレバーを引き抜いた音が聞こえた。
『そしてそれは、色んな人を巻き込むことになるでしょうね。私は天国にはいけないかもしれないわ』
「よせ……よせ……やめろ……!」
『もう止められないわ、マーズ。もうこれを実行してしまっては、止めることなんて出来ないのよ。せいぜい誰かを助けるといいわ。……どうせ私のことは、もう嫌でも忘れられないようにしてあげるのだから』
「馬鹿なことを言うな!! まさか……」
ここでマーズはひとつの可能性を導き出した。
リリーファーにはその科学技術が漏洩しないために、あるコマンドが用意されている。
それはリリーファーの自爆コマンドだ。コックピットの背面裏にあるレバーを引き抜くことでエンジンがオーバークロックを行い、そのままエンジンにエネルギーが収束されていき――最後には爆発する。
リリーファーのエンジンが生み出すエネルギーは相当量あり、一機が爆発しただけでとてつもない質量が損なわれることとなる。
『そう。自爆のコマンドだよ。このリリーファーにはついているみたいでね。そのまま使うことにしたよ』
「大会用のリリーファーに、そんなものがついている……と? 馬鹿な、有り得ない!!」
『有り得ないと思うことなんてない。世の中はとてつもない素晴らしいことに満ち溢れている。それを君が知らないだけで、それを私も知らないだけ』
「そんな哲学的な言葉を話しているほど、余裕はあるんだな」
『こんな私に付き合ってくれるほど、あなたも余裕があるんだよね? 嬉しい!』
そう言ってレティシアは微笑む。レティシアは自らが何をしたのか解っているのだろうか。
否、解っているからこそこのように普段通りの会話をしているのだ。
……だとしたら、それは立派な策士であるといえよう。
ともかく、このまま行動しないままでいれば、大きな被害が齎されることは間違いないし、それはマーズも解っていた。そして、この様子からすればまだ増援も来そうになかった。
「つまり、わたし一人でやれ……ということだ」
学生が立ち上がる。
その後『女神』と呼ばれる所以となった、彼女の最初の戦闘が――今始まろうとしていた。
◇◇◇
時間は少し遡る。
具体的にはマーズ・リッペンバーがリリーファーに乗り込んで、こちらに向かってくるタイミングでのことだ。
『彼女を殺すことなど出来ないのではないか?』
それはレティシアからの発言ではなく、ディアボロス本体からの発言であった。
そして、その発言にレティシアは否定することなど出来なかった。
僅かな間ではあるが、マーズとレティシアはそれぞれリリーファーの訓練を積んできた。その差は一目瞭然といったところで、マーズのほうが実力は段違いであった。
「……なら、どうすればいい。私を、レティシア・バーボタージュという存在をマーズ・リッペンバーに刻み付けるためには」
『目の前で君が死ねばいいんじゃないかな』
瞬間的に導き出された答えは、レティシアの予想の斜め上をいった回答であった。
ディアボロスの話は続く。
『だってマーズ・リッペンバーは君よりも強い存在なのだろう? だったら君がマーズを倒すことは出来ない。なら考えられるのは、マーズ・リッペンバーにレティシア・バーボタージュの記憶を刻み付けるようにすればいい話になる』
「それが……私が死ぬこと」
『悪くない話だろう?』
レティシアはそれを聞いて何度も頷いた。
「そうよ、それそれ! それならいい。私のこの気持ちを、私とともに忘れられない……これは絶対にそうね!」
『そうだろう? 流石、といってもいいんじゃないかな』
「ええ。さすがよ、ディアボロス! 褒めてあげてもいいくらい……あれ? でも、私はどうやったらマーズの目の前で死ぬことができるの?」
『簡単だ。自爆用のコマンドがある。それを使えばいい』
「自爆用コマンド?」
『コックピットの背面にレバーがあるだろう。それを引けば数分もしないうちにエネルギーが凝縮されてドカン、だ。あとには何も残らないし、目の前で死ぬことができる。完璧だろう?』
「ええ、そうね! 完璧だわ……! さすがね……!」
そう言ってレティシアは恍惚とした表情を浮かべた。
これから起きることを、想像しているようだった。
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『殺してしまえば、死んでしまえば、あなたがほかの人間と何かをするわけでもないし、ほかの人間からあなたを守ることが出来る。だとしたらそれは、とても最高の結果になるとは思わない?』
「……残念だけど、私はそれが素晴らしいとはまったく思えないわね」
マーズは直ぐにその言葉を否定する。
だが、レティシアはそんなことを無視して、さらに話を続けていく。
『あなたという存在が居たから、私はここまでやってこれたの。逆説的に考えれば、あなたも同じでしょう? あなたは私という存在がいたからこそ、この地まで、この日まで、このイベントまでやって来ることが出来たのよ!』
それについてマーズは否定することが出来なかった。確かにレティシアが居なければマーズは別の人生を歩んでいたに違いなかったからだ。
マーズもレティシアも、それぞれがそれぞれに依存していた。
レティシアはマーズに出会ったからこそこの道に進んだ。そして、マーズもレティシアに出会ったからこそこの道に進んだのだ。
共依存。
お互いがお互いに依存し、その関係に囚われて逃げることが出来ないのだ。
『ねえ、マーズ』
レティシアは静かに、ゆっくりとそう言った。
マーズはそれに答えなかった。
『ねえ、マーズ。どうして私の言葉に答えてくれないの? 私のことが嫌いなの? 私のことをあなたはもう見てくれないの?』
「寧ろ……聞きたい。なぜ私なのだろうか? 世の中に女性がたくさんいるだろう……なぜ?」
『マーズ・リッペンバーでなくてはならないからよ。わたしは初めてあなたを見て、私はあなたに恋をしたの。そしてわたしはあなたのものになるべきだと……密かにそう思っていたのよ』
その理論は明らかにぶっ飛んでいた。誰がどう聞いてもネジが一本取れている、と思うくらい見当違いな理論だった。
だが、レティシアにとってもはやそんなことはどうだっていいのだろう。彼女はただ、マーズ・リッペンバーを愛することが出来れば、それだけでいいのだから。
「レティシア。……もうこんなことやめてくれないか。これから何も産み出されない。産み出されることなんてないし、私は戦うことを望んでいないだ。レティシア、あなたを止めるために、敢えてあなたと同じ土俵に立って話をしているのよ。その意味を、解ってほしい」
『結局あなたは、私のことを理解してはくれなかった』
レティシアは、低い静かな声で言った。
その言葉と同時にディアボロスはゆっくりとペスパの目の前を目指して動き始めた。
『あなたは私の感情を理解してくれなかった。私はこれほどまでにあなたを愛しているのにあなたはくだらないと掃き捨てた』
「違う、違うんだレティシア」
『だったら私は考えた……あなたを殺そう、と。だってそうすればあなたは私を拒否することはないでしょう? あなたはずっと私のことを見てくれるでしょう?』
「……果たしてどうだろうな」
『えぇ、そうよね。きっとそんなことをしてもあなたは見てくれない。それはもう、確信したわ。あなたを殺そうとしたって、あなたは強すぎる。とても私には倒すことが出来ない』
一息。
『ならば、どうすればいいのか。……簡単な話だったのよ。どうして、どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのか』
「レティシア、あなた何をする気……?」
マーズは何かを悟ったのか、目を細めてリリーファーコントローラに静かに手を置いた。
レティシアは微笑む。
『簡単な話よ。幼稚園児だって考え付く逆転の発想で当たり前の発想。考えられる中でも最大限、あなたが私を忘れられないようにする手段』
ガコン、と何かのレバーを引き抜いた音が聞こえた。
『そしてそれは、色んな人を巻き込むことになるでしょうね。私は天国にはいけないかもしれないわ』
「よせ……よせ……やめろ……!」
『もう止められないわ、マーズ。もうこれを実行してしまっては、止めることなんて出来ないのよ。せいぜい誰かを助けるといいわ。……どうせ私のことは、もう嫌でも忘れられないようにしてあげるのだから』
「馬鹿なことを言うな!! まさか……」
ここでマーズはひとつの可能性を導き出した。
リリーファーにはその科学技術が漏洩しないために、あるコマンドが用意されている。
それはリリーファーの自爆コマンドだ。コックピットの背面裏にあるレバーを引き抜くことでエンジンがオーバークロックを行い、そのままエンジンにエネルギーが収束されていき――最後には爆発する。
リリーファーのエンジンが生み出すエネルギーは相当量あり、一機が爆発しただけでとてつもない質量が損なわれることとなる。
『そう。自爆のコマンドだよ。このリリーファーにはついているみたいでね。そのまま使うことにしたよ』
「大会用のリリーファーに、そんなものがついている……と? 馬鹿な、有り得ない!!」
『有り得ないと思うことなんてない。世の中はとてつもない素晴らしいことに満ち溢れている。それを君が知らないだけで、それを私も知らないだけ』
「そんな哲学的な言葉を話しているほど、余裕はあるんだな」
『こんな私に付き合ってくれるほど、あなたも余裕があるんだよね? 嬉しい!』
そう言ってレティシアは微笑む。レティシアは自らが何をしたのか解っているのだろうか。
否、解っているからこそこのように普段通りの会話をしているのだ。
……だとしたら、それは立派な策士であるといえよう。
ともかく、このまま行動しないままでいれば、大きな被害が齎されることは間違いないし、それはマーズも解っていた。そして、この様子からすればまだ増援も来そうになかった。
「つまり、わたし一人でやれ……ということだ」
学生が立ち上がる。
その後『女神』と呼ばれる所以となった、彼女の最初の戦闘が――今始まろうとしていた。
◇◇◇
時間は少し遡る。
具体的にはマーズ・リッペンバーがリリーファーに乗り込んで、こちらに向かってくるタイミングでのことだ。
『彼女を殺すことなど出来ないのではないか?』
それはレティシアからの発言ではなく、ディアボロス本体からの発言であった。
そして、その発言にレティシアは否定することなど出来なかった。
僅かな間ではあるが、マーズとレティシアはそれぞれリリーファーの訓練を積んできた。その差は一目瞭然といったところで、マーズのほうが実力は段違いであった。
「……なら、どうすればいい。私を、レティシア・バーボタージュという存在をマーズ・リッペンバーに刻み付けるためには」
『目の前で君が死ねばいいんじゃないかな』
瞬間的に導き出された答えは、レティシアの予想の斜め上をいった回答であった。
ディアボロスの話は続く。
『だってマーズ・リッペンバーは君よりも強い存在なのだろう? だったら君がマーズを倒すことは出来ない。なら考えられるのは、マーズ・リッペンバーにレティシア・バーボタージュの記憶を刻み付けるようにすればいい話になる』
「それが……私が死ぬこと」
『悪くない話だろう?』
レティシアはそれを聞いて何度も頷いた。
「そうよ、それそれ! それならいい。私のこの気持ちを、私とともに忘れられない……これは絶対にそうね!」
『そうだろう? 流石、といってもいいんじゃないかな』
「ええ。さすがよ、ディアボロス! 褒めてあげてもいいくらい……あれ? でも、私はどうやったらマーズの目の前で死ぬことができるの?」
『簡単だ。自爆用のコマンドがある。それを使えばいい』
「自爆用コマンド?」
『コックピットの背面にレバーがあるだろう。それを引けば数分もしないうちにエネルギーが凝縮されてドカン、だ。あとには何も残らないし、目の前で死ぬことができる。完璧だろう?』
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