絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百五十七話 一報
その一報を聞いたラグストリアルは、青ざめた表情であった。
「ペイパスが独立……だと?! レインディア、レインディアはどこだ!!」
ラグストリアルは激昂し、レインディアを呼びつけた。
「レインディア、ここに」
「どういうことだっ!! ペイパスにはカスパール騎士団を派遣していたはず。それがどうしてああいう事態に発展するんだ!!」
「報告によりますとカスパール騎士団のリーダー、リザ・ベリーダは元々ペイパス王国の諸侯の出身だったそうです。そして、ベリーダ家は大臣を務めたこともある由緒正しい家で、ペイパスの元国王も懇意にしていたそうです」
「どうしてそれをさっさと言わん!! ああ、我が国はボロボロだぞ……。バルタザールも奪われ! カスパールも奪われた!」
「ですが私たちには最強のリリーファーがいます」
「たった一機しかいないではないか! 一機で何が出来る!? 例え『最強』だと謳われようとも! 一機では意味がないのだ!」
「しかし、陛下。最強というものは二機以上いてはおかしいとは思いませんか。一機だからこそ、そのリリーファーは『最強』であるといえるのではないでしょうか」
「屁理屈を言っている場合ではない! ともかく、何とかせねば……」
「お呼びでしょうか。陛下」
そこに現れたのは、黒いシルクハットをつけた一人の男――ラフターだった。
「ラフター! よくここまで戻って来れたな」
「国の一大事に戻ってこないわけには参りません」
ラフターの言葉にラグストリアルは何度も頷く。
「カスパール騎士団にもこれくらいの尊敬があってほしかったものだが……致し方あるまい」
「カスパール騎士団が、裏切ったというのですか?」
「そうだ。カスパール騎士団のリーダー、リザ・ベリーダはペイパスの元国王と懇意にしていたらしい。今回のクーデターを考えついたのもおそらくリザ・ベリーダかもしれん。いや、それで間違いないだろう。ともかく、ペイパスにも人手を割かねばなるまい。今居るバックアップの人数と、リリーファーの数を早急に算出してこい、レインディア」
「御意に」
「私は?」
「今回の作戦を立て直す必要がある。だからお主は残っておれ」
その言葉を聞いてラフターは恭しく微笑み、頭を下げた。
「かしこまりました」
王の間がラフターとラグストリアルの二人きりとなった。
ラグストリアルはラフターを近くに寄せる。
「一先ず、戦況を理解しているな?」
「ええ。ですが、私は独立を宣言した、というところまでしか聞いておりませんので……」
「それだけ解ればいい。問題はどうやってペイパスを再び我がヴァリエイブルのものにするか、だ。生憎まだ兵士は相当数ペイパスに残っている。リリーファーも然りだ。報告によればペイパス王国国内にはバックアップが三名いると聞いている。彼らと、基地に配備されているリリーファーを用いて今度こそペイパスの血筋を根絶やしにする」
それを聞いてラフターの眉がぴくりと動いたが、ラグストリアルはさして気にしなかった。
ラフターは感情を抑えて、質問する。
「敵の本拠地の目星は付いておられるのですか?」
「中央監理局という場所があるらしい。軍隊の管制塔のような役割を持っている場所のようだな、制御をここで行っている場所だ。ラジオの電波からそこだと推測出来る。まったく、若い小娘がとんでもないことを為出かしたよ」
ラフターは笑顔を崩さず、ラグストリアルの首にナイフを当てた。
「そこまでよ」
――レインディアの声が背後から聞こえたのは、その時だった。彼女は杖を構えて、ラフターの首元に近づけていた。
「レインディア、どうなさったのですか? あなた、バックアップの確認に向かったのでは?」
ナイフを仕舞って、冷静に対処するラフター。
それに対してレインディアはその体勢を崩さない。
「最初から嫌な気配はしていましたよ、陛下。そして今、確信に変わりました」
「……そうだな」
ラグストリアルは静かに頷く。
「なにをおっしゃっているのですか。私はただ、ヴァリエイブルのために働いているではありませんか」
「国王陛下の首にナイフを当てることの、どこが国のために働いている……と言えるんだ?」
レインディアは杖の先端をラフターの首元に当てる。
「さあ、言ってみてくださいよ。どうすれば、国王陛下の首元にナイフを当てることが、そういうふうに解釈できるのか。私解らないんですよねえ。政治とかからっきしで。教えていただけるとありがたいんですけど」
ラフターはレインディアの顔を見ることはできていないが、レインディアの表情が笑っていないことくらい理解できていた。
ラフターはここで漸く失敗した――と思った。そしてレインディアという存在について、過小評価しすぎていた。
「……まさか、レインディア。君に気づかれるとは思いもしなかったよ」
「私だって、最初は大臣がそんなことをなさっているとは思いませんでしたよ」
ラフターは息を吐いた。
「いつ気づいた?」
「確信に変わったのは今ですね。疑問を感じたのはさっき帰ってきた時です。あなたは急いで戻ってきたというのに息が上がっていないし、汗もかいてはいなかった。まるでこの出来事を予測していたかのように」
「……まいったな。そこまで見られていたとは、ね」
「メイドをなめてもらっては困りますよ、大臣……いや、ラフター。メイドはご主人様の細かい仕草を見て何が必要なのか、何をすべきなのかをチェックするのもお仕事の一つです。それで培われた観察眼はそう簡単に見破れやしません」
「……そのようだな」
ラフターはため息をつく。
「さあ、そのナイフを放しなさい。地面に置きなさい。そしてそれを、私の方に蹴るのです」
そう言われて、ラフターはナイフを離した――。
――のではなく、それを即座に持ち替えて、再びラグストリアルの首元に添えた。
「私がそんな簡単に諦める人間だと思っていたのか、レインディア。だとしたら私は失望したなあ。そんな人間をヴァリエイブルの王家直属のメイドにしたなんて」
「やめなさい!」
「……レインディア、お前人を殺したことはあるか?」
ラフターの口調は先程の丁寧な口調とは違って、若干乱暴な口調に変わっていた。恐らく、これが本来のラフター・エンデバイロンの口調なのだろう。
レインディアはその質問を聞いて、少なからず動揺した。
そしてそれは顔に出ていた。
「……やはり、な。お前は人を殺したことがない。そして人を殺すこともできないよ。甘い、優しいんだ。そんな人間に私の、ペイパスの希望を止めてもらっては困る」
「だが、私は……」
「殺せる、というのか?」
「――ッ」
言葉を打ち切るレインディア。
唇を噛んで、上目遣いでラフターの方を見た。
ラフターは高らかに笑った。まるでレインディアが今どんな感情を表に出しているのかが、解っているかのように。
「ハハハ。恥ずかしくないのか、レインディア? 敵の前でそんな表情を見せていて、だ」
「何を……私はいつものままだ……!」
「本当か? 神に誓って、そうだと言えるか?」
「……ああ!」
「だったら、私を殺せるのか? 殺すことで解決するのか? それじゃあ、そのやり方はヴァリエイブルと一緒だ。自分と同じ意見の人間を、グループを殺して無理やり自分のものにする。そういうやり方がお好みというわけだ」
「違う!!」
「違わないだろう。現に私はヴァリエイブルに長年勤めてきて、そんな人間を数え切れないくらいたくさん見てきた。諸侯も兵士も起動従士も、みんなそうだ。そりゃあそうだ、だって国のトップである国王陛下が……その思考を持っているんだからな」
「ペイパスが独立……だと?! レインディア、レインディアはどこだ!!」
ラグストリアルは激昂し、レインディアを呼びつけた。
「レインディア、ここに」
「どういうことだっ!! ペイパスにはカスパール騎士団を派遣していたはず。それがどうしてああいう事態に発展するんだ!!」
「報告によりますとカスパール騎士団のリーダー、リザ・ベリーダは元々ペイパス王国の諸侯の出身だったそうです。そして、ベリーダ家は大臣を務めたこともある由緒正しい家で、ペイパスの元国王も懇意にしていたそうです」
「どうしてそれをさっさと言わん!! ああ、我が国はボロボロだぞ……。バルタザールも奪われ! カスパールも奪われた!」
「ですが私たちには最強のリリーファーがいます」
「たった一機しかいないではないか! 一機で何が出来る!? 例え『最強』だと謳われようとも! 一機では意味がないのだ!」
「しかし、陛下。最強というものは二機以上いてはおかしいとは思いませんか。一機だからこそ、そのリリーファーは『最強』であるといえるのではないでしょうか」
「屁理屈を言っている場合ではない! ともかく、何とかせねば……」
「お呼びでしょうか。陛下」
そこに現れたのは、黒いシルクハットをつけた一人の男――ラフターだった。
「ラフター! よくここまで戻って来れたな」
「国の一大事に戻ってこないわけには参りません」
ラフターの言葉にラグストリアルは何度も頷く。
「カスパール騎士団にもこれくらいの尊敬があってほしかったものだが……致し方あるまい」
「カスパール騎士団が、裏切ったというのですか?」
「そうだ。カスパール騎士団のリーダー、リザ・ベリーダはペイパスの元国王と懇意にしていたらしい。今回のクーデターを考えついたのもおそらくリザ・ベリーダかもしれん。いや、それで間違いないだろう。ともかく、ペイパスにも人手を割かねばなるまい。今居るバックアップの人数と、リリーファーの数を早急に算出してこい、レインディア」
「御意に」
「私は?」
「今回の作戦を立て直す必要がある。だからお主は残っておれ」
その言葉を聞いてラフターは恭しく微笑み、頭を下げた。
「かしこまりました」
王の間がラフターとラグストリアルの二人きりとなった。
ラグストリアルはラフターを近くに寄せる。
「一先ず、戦況を理解しているな?」
「ええ。ですが、私は独立を宣言した、というところまでしか聞いておりませんので……」
「それだけ解ればいい。問題はどうやってペイパスを再び我がヴァリエイブルのものにするか、だ。生憎まだ兵士は相当数ペイパスに残っている。リリーファーも然りだ。報告によればペイパス王国国内にはバックアップが三名いると聞いている。彼らと、基地に配備されているリリーファーを用いて今度こそペイパスの血筋を根絶やしにする」
それを聞いてラフターの眉がぴくりと動いたが、ラグストリアルはさして気にしなかった。
ラフターは感情を抑えて、質問する。
「敵の本拠地の目星は付いておられるのですか?」
「中央監理局という場所があるらしい。軍隊の管制塔のような役割を持っている場所のようだな、制御をここで行っている場所だ。ラジオの電波からそこだと推測出来る。まったく、若い小娘がとんでもないことを為出かしたよ」
ラフターは笑顔を崩さず、ラグストリアルの首にナイフを当てた。
「そこまでよ」
――レインディアの声が背後から聞こえたのは、その時だった。彼女は杖を構えて、ラフターの首元に近づけていた。
「レインディア、どうなさったのですか? あなた、バックアップの確認に向かったのでは?」
ナイフを仕舞って、冷静に対処するラフター。
それに対してレインディアはその体勢を崩さない。
「最初から嫌な気配はしていましたよ、陛下。そして今、確信に変わりました」
「……そうだな」
ラグストリアルは静かに頷く。
「なにをおっしゃっているのですか。私はただ、ヴァリエイブルのために働いているではありませんか」
「国王陛下の首にナイフを当てることの、どこが国のために働いている……と言えるんだ?」
レインディアは杖の先端をラフターの首元に当てる。
「さあ、言ってみてくださいよ。どうすれば、国王陛下の首元にナイフを当てることが、そういうふうに解釈できるのか。私解らないんですよねえ。政治とかからっきしで。教えていただけるとありがたいんですけど」
ラフターはレインディアの顔を見ることはできていないが、レインディアの表情が笑っていないことくらい理解できていた。
ラフターはここで漸く失敗した――と思った。そしてレインディアという存在について、過小評価しすぎていた。
「……まさか、レインディア。君に気づかれるとは思いもしなかったよ」
「私だって、最初は大臣がそんなことをなさっているとは思いませんでしたよ」
ラフターは息を吐いた。
「いつ気づいた?」
「確信に変わったのは今ですね。疑問を感じたのはさっき帰ってきた時です。あなたは急いで戻ってきたというのに息が上がっていないし、汗もかいてはいなかった。まるでこの出来事を予測していたかのように」
「……まいったな。そこまで見られていたとは、ね」
「メイドをなめてもらっては困りますよ、大臣……いや、ラフター。メイドはご主人様の細かい仕草を見て何が必要なのか、何をすべきなのかをチェックするのもお仕事の一つです。それで培われた観察眼はそう簡単に見破れやしません」
「……そのようだな」
ラフターはため息をつく。
「さあ、そのナイフを放しなさい。地面に置きなさい。そしてそれを、私の方に蹴るのです」
そう言われて、ラフターはナイフを離した――。
――のではなく、それを即座に持ち替えて、再びラグストリアルの首元に添えた。
「私がそんな簡単に諦める人間だと思っていたのか、レインディア。だとしたら私は失望したなあ。そんな人間をヴァリエイブルの王家直属のメイドにしたなんて」
「やめなさい!」
「……レインディア、お前人を殺したことはあるか?」
ラフターの口調は先程の丁寧な口調とは違って、若干乱暴な口調に変わっていた。恐らく、これが本来のラフター・エンデバイロンの口調なのだろう。
レインディアはその質問を聞いて、少なからず動揺した。
そしてそれは顔に出ていた。
「……やはり、な。お前は人を殺したことがない。そして人を殺すこともできないよ。甘い、優しいんだ。そんな人間に私の、ペイパスの希望を止めてもらっては困る」
「だが、私は……」
「殺せる、というのか?」
「――ッ」
言葉を打ち切るレインディア。
唇を噛んで、上目遣いでラフターの方を見た。
ラフターは高らかに笑った。まるでレインディアが今どんな感情を表に出しているのかが、解っているかのように。
「ハハハ。恥ずかしくないのか、レインディア? 敵の前でそんな表情を見せていて、だ」
「何を……私はいつものままだ……!」
「本当か? 神に誓って、そうだと言えるか?」
「……ああ!」
「だったら、私を殺せるのか? 殺すことで解決するのか? それじゃあ、そのやり方はヴァリエイブルと一緒だ。自分と同じ意見の人間を、グループを殺して無理やり自分のものにする。そういうやり方がお好みというわけだ」
「違う!!」
「違わないだろう。現に私はヴァリエイブルに長年勤めてきて、そんな人間を数え切れないくらいたくさん見てきた。諸侯も兵士も起動従士も、みんなそうだ。そりゃあそうだ、だって国のトップである国王陛下が……その思考を持っているんだからな」
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