絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百五十四話 宣言(前編)
「それでは、話をさせていただきます。先程、本国国王陛下から連絡がありました。ガルタス基地にて法王庁自治領の所有するリリーファー三十機と戦闘を行ったバルタザール騎士団が僅か数分で殲滅、及び騎士団とリリーファーは法王庁が拿捕していった、とのことです」
「……それ、冗談のつもり?」
簡略化されたようにも思えるその発言は、マーズとヴァルベリーの二人を大いに驚かせた。
だが、セレナはそれを否定するように首を横に振る。
「いいえ。それは残念ながら真実です。哀しいことではありますが……」
「ならば、バルタザール騎士団はどうするというのだ。法王庁から解放させる、とでもいうのか?」
質問したのはヴァルベリーだった。
「そのようですね。現に国王陛下は『バックアップ』を使って、改めて法王庁に挑むとおっしゃっておりました」
「馬鹿な……! 鍛錬を積んだ正規の騎士団と、所詮二番手のバックアップだとその能力は段違いだというのに!」
「私も一応そういいました。しかし、国王陛下は既にそれを決定なされているようで……」
「陛下はいったい何を考えているというのだ……。まったく解らんぞ」
「そんなこと、私にだってわかるはずがない」
マーズとヴァルベリーはそれぞれ言葉を交わす。
「まあ、仕方ありません。とりあえず、本国からの通信は以上です。再び、業務にあたってください……とでも言えたら気分が楽なんですがね。もう二つ報告があります。此方はもっととんでもないものですよ」
「もっととんでもない?」
マーズはこれ以上に酷いことが起きたのか、と口を挟もうとしたが、ともかくセレナの話を聞かねば何も始まらないこともまた事実だ。
「……もしかしたら、もうラジオで聞いた話かもしれませんが、ペイパス王国が先程独立宣言をし、今回の戦争に参戦すると発表しました。参戦は、法王庁の味方として、です。そして、最後の一つ。これこそが一番重要でヴァリエイブルの国民ならば知らなくてはならない事実とも言えるでしょう」
「なんだ。もったいぶらずにさっさと言え」
ヴァルベリーは苛立っていた。それを隠す様子もなく、セレナを急かす。
「そんな急かさなくてもすぐにいいますよ。……国王陛下、ラグストリアル・リグレーが、何者かに暗殺されました」
その表情は、とても慎重な面持ちであった。
◇◇◇
話は少しだけ巻き戻る。そして場所もまったく別の場所だ。
ペイパス中央監理局と呼ばれているその場所は、ヴァリエイブルでいうところの国王の権力の一部を幾つもの部署で区切った、そんなものである。
しかしヴァリエイブルがペイパスを併合してから国事行為等のスリム化を図り、中央監理局を廃止した。代わりに何らかの新しい施設になるという計画も立ってはいるものの、結果として未だそれは出来ていない。
即ち現時点でここは只の廃墟と化していたのだった。
そんな中央監理局の内部にて、カスパール騎士団とイサドラは会議を行っていた。議題は専ら、王家専用機をどのようにして奪還するか――ということである。
ペイパス王国の所持する王家専用機『ロイヤルウェーバー』はヴァリエイブルに接収されてはいるものの、未だペイパスの軍事基地の一つに措かれている。
そしてその場所が、王城の傍にある場所であったということは一部の人間しか知らなかったことだった。
「かといって王家専用機を動かすことが出来るのは姫様だけなのもまた事実」
ラフターはそう言って、小さくため息をついた。
「それはその通りだが……とはいえどうする? 姫様をそこまで運ぶとしたって見つからない保証等ないぞ」
「それはハローがいる」
ラフターはハローの頭を撫でた。
想像していなかった答えにリザは目を丸くした。
「ハローが? どうして?」
「ハローは魔法を使えることは、知っているだろう? それを惜し気もなく使っていく。もはや彼の存在を隠す必要すら無くなったからな」
「隠す必要がない? そもそも魔法も使える起動従士がそう少ないわけないだろう」
「そういうわけではない。ハローはそんな、『魔法も使える起動従士』などといったカテゴライズには少々小さすぎるのだよ」
ラフターはそう言うが、他のメンバーはいったい彼が何を言っているのか解らなかった。
「……ハローには、それ以上の何かがある。そう言いたいのかしら」
「詮索してもらっちゃ困る。いいことだ、少なくとも私たちにとっては……な」
それだけを言って、ラフターはコートを羽織った。
「私は一度部屋に戻る。君たち騎士団は若干雲隠れしようとも問題ないが、大臣の私はそういうわけにいかないからな。報告書なども書いておかねばなるまい」
「……相変わらずきちんとしていますね、ラフターさんは」
ラフターの言葉にイサドラは小さく笑みを浮かべた。
リザはそのイサドラの顔を見て、小さく頷く。
「それでは、向かうとしよう。対象は王家専用機『ロイヤルウェーバー』、そして目的はその対象の奪還だ。……いいか、決して一人たりとも死んではならない。だが、私たちが守るべきものはただ一つ……姫様の命だ。たとえ私たちが全員死のうとも、姫様だけは守らねばならない。それが私たちの使命なのだからな」
その言葉にカスパール騎士団一同が大きく頷く。
そして彼らは、作戦を開始するために、中央監理局を後にした。
向かうは、王城の地下に眠る王家専用機『ロイヤルウェーバー』だ。
カスパール騎士団は中央監理局を飛び出して、夜の街を駆けていた。
ペイパス王国が正式にヴァリエイブルの配下となって、まだそう時間も経っていないが、しかし町の変わり様は明らかだった。
ペイパス統治時代と現在では街の喧騒がまったく異なるのだ。前者では人と人が触れ合う町で深夜まで喧騒が鳴り響いていたのだが、今は夜になれば早々に店を閉める人ばかりで、十時にもなればもう人通りも疎らである。
「それもこれもすべてヴァリエイブルが強引にペイパスを編入したからだ」
走りながら、リザは呟く。
「確かにそうだ。ヴァリエイブルが編入したせいで政治も社会もシステムが凡てあちら側になった。もともとこっちとヴァリエイブルでは国家予算も天と地の差があるし、それから経済システムなんて一番違う。向こうは主要産業なんてたくさんあるし、リリーファー開発を独占的にもっている。それに比べてこっちは漁業と農業の二本立てだ。お世辞にもヴァリエイブルと同じ水準で続けていけば、ペイパスの国民が野垂れ死にする」
「確かにそのとおりね」
カスパール騎士団団員のひとり、マルーは言った。
マルー・トローゼはカスパール騎士団で参謀を勤めている。とても頭のいい女性である。そしてリザの親友でもある彼女は、リザとともに活動することが多く、さらにリザからの信頼が厚い。
「……ペイパスはこのままだと終わってしまう。ヴァリエイブルの水準で世界が一つになったら、いつか世界は滅んでしまう。ペイパスだって、きっとそうよ」
イサドラは俯いた表情で、そう言った。そういうのは彼女にとっても口惜しいはずだった。
しかし仕方ないことだった。どうしようもないことだった。
科学技術というのは、どうしても金のある場所で生まれる。
即ち、お金のあるヴァリエイブルで科学技術が発達しやすく、ほかの国はそれを購入するほかないのだ。
結果として、今この世界はヴァリエイブルを中心にお金が回っている。
そして、ほかの国は残りの少ないお金を分け合いながら生きているのだ。このままではヴァリエイブルとほかの国の格差が広まる一方であった。
「……この戦争でどう世界が変わるのか解らない。だが、できることは今のうちに、暴れさせてもらうぞヴァリエイブル。ペイパスを併合したことについて後悔させてやる」
リザはそう言って、徽章を道に投げ捨てた。
それを見て、カスパール騎士団の面々も一斉に徽章を捨てる。
彼女たちは、もうヴァリエイブルに属する人間ではない。
ペイパスを独立させるために、ペイパスに属していた彼らは、ヴァリエイブルに潜入していた彼らは、漸く動き出す。
「……それ、冗談のつもり?」
簡略化されたようにも思えるその発言は、マーズとヴァルベリーの二人を大いに驚かせた。
だが、セレナはそれを否定するように首を横に振る。
「いいえ。それは残念ながら真実です。哀しいことではありますが……」
「ならば、バルタザール騎士団はどうするというのだ。法王庁から解放させる、とでもいうのか?」
質問したのはヴァルベリーだった。
「そのようですね。現に国王陛下は『バックアップ』を使って、改めて法王庁に挑むとおっしゃっておりました」
「馬鹿な……! 鍛錬を積んだ正規の騎士団と、所詮二番手のバックアップだとその能力は段違いだというのに!」
「私も一応そういいました。しかし、国王陛下は既にそれを決定なされているようで……」
「陛下はいったい何を考えているというのだ……。まったく解らんぞ」
「そんなこと、私にだってわかるはずがない」
マーズとヴァルベリーはそれぞれ言葉を交わす。
「まあ、仕方ありません。とりあえず、本国からの通信は以上です。再び、業務にあたってください……とでも言えたら気分が楽なんですがね。もう二つ報告があります。此方はもっととんでもないものですよ」
「もっととんでもない?」
マーズはこれ以上に酷いことが起きたのか、と口を挟もうとしたが、ともかくセレナの話を聞かねば何も始まらないこともまた事実だ。
「……もしかしたら、もうラジオで聞いた話かもしれませんが、ペイパス王国が先程独立宣言をし、今回の戦争に参戦すると発表しました。参戦は、法王庁の味方として、です。そして、最後の一つ。これこそが一番重要でヴァリエイブルの国民ならば知らなくてはならない事実とも言えるでしょう」
「なんだ。もったいぶらずにさっさと言え」
ヴァルベリーは苛立っていた。それを隠す様子もなく、セレナを急かす。
「そんな急かさなくてもすぐにいいますよ。……国王陛下、ラグストリアル・リグレーが、何者かに暗殺されました」
その表情は、とても慎重な面持ちであった。
◇◇◇
話は少しだけ巻き戻る。そして場所もまったく別の場所だ。
ペイパス中央監理局と呼ばれているその場所は、ヴァリエイブルでいうところの国王の権力の一部を幾つもの部署で区切った、そんなものである。
しかしヴァリエイブルがペイパスを併合してから国事行為等のスリム化を図り、中央監理局を廃止した。代わりに何らかの新しい施設になるという計画も立ってはいるものの、結果として未だそれは出来ていない。
即ち現時点でここは只の廃墟と化していたのだった。
そんな中央監理局の内部にて、カスパール騎士団とイサドラは会議を行っていた。議題は専ら、王家専用機をどのようにして奪還するか――ということである。
ペイパス王国の所持する王家専用機『ロイヤルウェーバー』はヴァリエイブルに接収されてはいるものの、未だペイパスの軍事基地の一つに措かれている。
そしてその場所が、王城の傍にある場所であったということは一部の人間しか知らなかったことだった。
「かといって王家専用機を動かすことが出来るのは姫様だけなのもまた事実」
ラフターはそう言って、小さくため息をついた。
「それはその通りだが……とはいえどうする? 姫様をそこまで運ぶとしたって見つからない保証等ないぞ」
「それはハローがいる」
ラフターはハローの頭を撫でた。
想像していなかった答えにリザは目を丸くした。
「ハローが? どうして?」
「ハローは魔法を使えることは、知っているだろう? それを惜し気もなく使っていく。もはや彼の存在を隠す必要すら無くなったからな」
「隠す必要がない? そもそも魔法も使える起動従士がそう少ないわけないだろう」
「そういうわけではない。ハローはそんな、『魔法も使える起動従士』などといったカテゴライズには少々小さすぎるのだよ」
ラフターはそう言うが、他のメンバーはいったい彼が何を言っているのか解らなかった。
「……ハローには、それ以上の何かがある。そう言いたいのかしら」
「詮索してもらっちゃ困る。いいことだ、少なくとも私たちにとっては……な」
それだけを言って、ラフターはコートを羽織った。
「私は一度部屋に戻る。君たち騎士団は若干雲隠れしようとも問題ないが、大臣の私はそういうわけにいかないからな。報告書なども書いておかねばなるまい」
「……相変わらずきちんとしていますね、ラフターさんは」
ラフターの言葉にイサドラは小さく笑みを浮かべた。
リザはそのイサドラの顔を見て、小さく頷く。
「それでは、向かうとしよう。対象は王家専用機『ロイヤルウェーバー』、そして目的はその対象の奪還だ。……いいか、決して一人たりとも死んではならない。だが、私たちが守るべきものはただ一つ……姫様の命だ。たとえ私たちが全員死のうとも、姫様だけは守らねばならない。それが私たちの使命なのだからな」
その言葉にカスパール騎士団一同が大きく頷く。
そして彼らは、作戦を開始するために、中央監理局を後にした。
向かうは、王城の地下に眠る王家専用機『ロイヤルウェーバー』だ。
カスパール騎士団は中央監理局を飛び出して、夜の街を駆けていた。
ペイパス王国が正式にヴァリエイブルの配下となって、まだそう時間も経っていないが、しかし町の変わり様は明らかだった。
ペイパス統治時代と現在では街の喧騒がまったく異なるのだ。前者では人と人が触れ合う町で深夜まで喧騒が鳴り響いていたのだが、今は夜になれば早々に店を閉める人ばかりで、十時にもなればもう人通りも疎らである。
「それもこれもすべてヴァリエイブルが強引にペイパスを編入したからだ」
走りながら、リザは呟く。
「確かにそうだ。ヴァリエイブルが編入したせいで政治も社会もシステムが凡てあちら側になった。もともとこっちとヴァリエイブルでは国家予算も天と地の差があるし、それから経済システムなんて一番違う。向こうは主要産業なんてたくさんあるし、リリーファー開発を独占的にもっている。それに比べてこっちは漁業と農業の二本立てだ。お世辞にもヴァリエイブルと同じ水準で続けていけば、ペイパスの国民が野垂れ死にする」
「確かにそのとおりね」
カスパール騎士団団員のひとり、マルーは言った。
マルー・トローゼはカスパール騎士団で参謀を勤めている。とても頭のいい女性である。そしてリザの親友でもある彼女は、リザとともに活動することが多く、さらにリザからの信頼が厚い。
「……ペイパスはこのままだと終わってしまう。ヴァリエイブルの水準で世界が一つになったら、いつか世界は滅んでしまう。ペイパスだって、きっとそうよ」
イサドラは俯いた表情で、そう言った。そういうのは彼女にとっても口惜しいはずだった。
しかし仕方ないことだった。どうしようもないことだった。
科学技術というのは、どうしても金のある場所で生まれる。
即ち、お金のあるヴァリエイブルで科学技術が発達しやすく、ほかの国はそれを購入するほかないのだ。
結果として、今この世界はヴァリエイブルを中心にお金が回っている。
そして、ほかの国は残りの少ないお金を分け合いながら生きているのだ。このままではヴァリエイブルとほかの国の格差が広まる一方であった。
「……この戦争でどう世界が変わるのか解らない。だが、できることは今のうちに、暴れさせてもらうぞヴァリエイブル。ペイパスを併合したことについて後悔させてやる」
リザはそう言って、徽章を道に投げ捨てた。
それを見て、カスパール騎士団の面々も一斉に徽章を捨てる。
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