絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百三十五話 ブリーフィング(後編)
「……特殊な装甲、ね。それを破る手段というのは現時点では見つかってないのよね?」
フレイヤが訊ねる。
「ええ。恐らくはアレスやガネーシャといった現在ヴァリエイブル連邦王国にある躯体よりも固いものであるかと」
「ガネーシャよりも固いとなると……大分辛い話になってくるわね」
フレイヤは呟く。ガネーシャやアレスは現在ヴァリエイブル連邦王国に現存しているこの国で一番強いリリーファーはインフィニティだが、それに次いで強いのがその二機なのである。
その二機よりも強いリリーファーが、製造番号とも思えるナンバリングからして何百機も存在するということが、どれほど恐ろしいものであるか。彼女たちは今、この場で嫌というほど理解した。
「……となると真っ正面から向かって倒すなどといったことはほぼ不可能に近そうであるね」
フレイヤ・アンダーバードは即座に作戦を切り替える発言をした。
それに対して、フランシスカは大きく頷く。
ところで、バルタザール騎士団のほかのメンバーは何をしているのか――とふとフレイヤがそちらの方を見ていると、彼らは熱心に資料から片時も目を離していなかった。資料を熟読し、作戦に備えているためだ。
「……さて、それじゃ対策は何かないのか? このブリーフィングのリーダーを務めるというのであれば、何かひとつくらい考えついてはいるのだろう?」
「それはもちろん。装甲が固いとはいえ、攻撃に関してはまだこちらのほうが勝っています。六ページにある、『聖騎士0421号の攻撃武器解析データ』という項目をご覧ください」
フランシスカに言われた通りに、彼女たちは六ページへと移動する。
「六ページに書かれている内容を見ていただければ、はっきりとすることなのですが、聖騎士の攻撃武器はあまりにも乏しいものばかりです。私たちから見れば、学校教育用にある模擬リリーファーと等しい性能であるとも言えます」
聖騎士0421号が装備していた兵器はコイルガン、熱放射式エネルギー砲といったスタンダードのリリーファーが装備しているようなものばかりだった。
「こんなものしか装備されていないというのか……?」
「少なくとも聖騎士0421号はその装備しかありません」
それを聞いてフレイヤは愕然とした。今まで戦おうとしていた国のリリーファーの装備が解らなかっただけでも頭が痛いことであるというのに、その装備が防御特化だということを知ったからだ。
そんなこと、信じられるわけがない。
簡易的な解析だから間違っている可能性があるとはいえ、それはすっ飛び過ぎな話である。
フレイヤがそんなことを考えた――ちょうどその時だった。
ズズン、と地響きが鳴った。それと同時に地面が、少しだけ揺れた。
「……なんだ?!」
フレイヤは立ち上がり、扉を開けようとする。
それと同時に誰かが入ってきた。
「どうした、外でなにか起きたのか」
フランシスカは冷静に訊ねる。
それに兵士は頷く。
「はい! 法王庁自治領のものとみられるリリーファーが三十機出現しました! 現在交戦中です!」
三十機、という単語を聞いて彼女たちは愕然した。ここにあるリリーファーの数の約三倍にもなるリリーファーがここに向かってきている――という事実を聞けば、誰もが衝撃を隠しきれないだろう。
「それは……本当なのですか!!」
フランシスカは再度訊ねる。嘘であってほしいからだ。そんなことは嘘でなくてはならないからだ。
だが、無情にも兵士はその質問にゆっくりと頷いた。
それを見て、フランシスカは駆け出して第一会議室を後にする。それを追うようにバルタザール騎士団の面々もフランシスカを第一会議室を出て行った。
◇◇◇
屋上。
そこは先ほどのような雰囲気ではなく、緊張感に包まれていた。砲台は凡て稼働しているし、せわしなく兵士は動いている。
しかしそれでもリリーファーに適うわけはない。せいぜいリリーファーの足を止めるくらいだ。それくらいしか出来ないが、それが精一杯である。
「状況を報告しろ!」
フランシスカが屋上にあがり、開口一番そう言った。
「状況は非常に悪いです。最悪と言っていいです! 砲台だけじゃ構いきれません! まさに好き放題やられているカタチになっています!!」
兵士の一人がそう呟いて、舌打ちした。
「……そういうことです。フレイヤさん。バルタザール騎士団の皆さん。急いでリリーファーの出動を要請します」
「とうとう出番が回ってきた、というわけだな」
それをきいて、最初に反応したのは金髪男、グラン・フェイデールだった。
グランはそれを言って、頭を掻いた。
グラン・フェイデールは長身の男だった。フレイヤが百六十センチくらいであるのに対し、グラン・フェイデールは百九十センチ近い身長である。ここまで言えば、いかにグランが長身であるのか解るだろう。
「……グラン、血が沸き起こる気持ちになっていることは解る。でもな、そういうことはセーブしていかねばならない。そうでないと冷静な判断を怠ることもあるからだ。解るか?」
「それはそうだ。……だが、この戦争で興奮しない方がおかしい。きっとこの戦いは歴史に名を残す戦いになるだろうよ。そうだとなれば興奮しないでやってられるかということだ」
「……ふむ、そういうものか」
「ああ、そういうことだ」
グランとフレイヤはバルタザール騎士団の団長に彼女が就任する前からの友人であった。フレイヤが『ある事件』でリリーファーに乗れるようになって、そのあと様々なことを教えてくれたのが当時同じ基地で起動従士として在籍していたグラン・フェイデールだったのだ。
「さて……それでは向かうとするか」
戦う時が来た。
自らの持つ力を、相手に見せるその時がやってきた。
リリーファーとリリーファーで戦う、スマートな戦争、その真髄が始まる――。
◇◇◇
ところ変わって。
潜水艦アフロディーテはレパルギュア港へと到着していた。
レパルギュアはヘヴンズ・ゲート自治区の中でも大きな港町である。酒場はいつも栄えていて人の出入りが絶えない。深夜まで明かりが灯っている、そんな町だった。
その町を海の方から眺めているのが、ヴァリエイブル連邦王国所属の潜水艦アフロディーテだった。
「……まったく、戦争が始まっているというのに呑気に酒を飲んでいる人が多いってわけね」
マーズは甲板で独りごちる。
統計をとったわけではないが、戦争中はいつもより酒場の売り上げが上がるのだという。そもそも酒は嗜好品の一種であり、国民によく愛されている。そしてそれを飲む時は様々なパターンがある。
あるときは友と語らうときに飲み、あるときは悪いことを忘れたいために飲み、あるときは特に理由もなく飲む。人々を楽しませる飲み物、それが酒である。しかし、酒というものは人をその字のごとく変えてしまう。いつも寡黙な人間が酒を飲むことで話が進んだり、いつも怒りっぽい人が泣き上戸になったりと、そのパターンは計り知れない。
「酒は人を変えてしまう、魔法のようにね」
そう言って、マーズの隣に立ったのは船長のラウフラッドだった。ラウフラッドは片手に何かを持っていた。それが酒瓶であることに気付くまで、そう時間はかからなかった。
「こんなところで?」
「ネオンを肴に飲むというのはいいものだぞ。ほら、君もどうだ」
そう言ってラウフラッドはコップをマーズに手渡す。
マーズははじめそれを拒否しよう――そう考えていた。
マーズは酒をあまり好まない。別に『酒の味が嫌い』という子供じみた理由などではないのだが、単純に酒を飲みたがらないだけなのだ。
「酒が苦手だったかね? ならば済まないことをしたが……」
そう言って、ラウフラッドはマーズの目の前からコップをどかそうとしたが、
「いえ、大丈夫です。いただきます」
マーズはたまにはいいだろうと思い、そのコップを受け取った。
フレイヤが訊ねる。
「ええ。恐らくはアレスやガネーシャといった現在ヴァリエイブル連邦王国にある躯体よりも固いものであるかと」
「ガネーシャよりも固いとなると……大分辛い話になってくるわね」
フレイヤは呟く。ガネーシャやアレスは現在ヴァリエイブル連邦王国に現存しているこの国で一番強いリリーファーはインフィニティだが、それに次いで強いのがその二機なのである。
その二機よりも強いリリーファーが、製造番号とも思えるナンバリングからして何百機も存在するということが、どれほど恐ろしいものであるか。彼女たちは今、この場で嫌というほど理解した。
「……となると真っ正面から向かって倒すなどといったことはほぼ不可能に近そうであるね」
フレイヤ・アンダーバードは即座に作戦を切り替える発言をした。
それに対して、フランシスカは大きく頷く。
ところで、バルタザール騎士団のほかのメンバーは何をしているのか――とふとフレイヤがそちらの方を見ていると、彼らは熱心に資料から片時も目を離していなかった。資料を熟読し、作戦に備えているためだ。
「……さて、それじゃ対策は何かないのか? このブリーフィングのリーダーを務めるというのであれば、何かひとつくらい考えついてはいるのだろう?」
「それはもちろん。装甲が固いとはいえ、攻撃に関してはまだこちらのほうが勝っています。六ページにある、『聖騎士0421号の攻撃武器解析データ』という項目をご覧ください」
フランシスカに言われた通りに、彼女たちは六ページへと移動する。
「六ページに書かれている内容を見ていただければ、はっきりとすることなのですが、聖騎士の攻撃武器はあまりにも乏しいものばかりです。私たちから見れば、学校教育用にある模擬リリーファーと等しい性能であるとも言えます」
聖騎士0421号が装備していた兵器はコイルガン、熱放射式エネルギー砲といったスタンダードのリリーファーが装備しているようなものばかりだった。
「こんなものしか装備されていないというのか……?」
「少なくとも聖騎士0421号はその装備しかありません」
それを聞いてフレイヤは愕然とした。今まで戦おうとしていた国のリリーファーの装備が解らなかっただけでも頭が痛いことであるというのに、その装備が防御特化だということを知ったからだ。
そんなこと、信じられるわけがない。
簡易的な解析だから間違っている可能性があるとはいえ、それはすっ飛び過ぎな話である。
フレイヤがそんなことを考えた――ちょうどその時だった。
ズズン、と地響きが鳴った。それと同時に地面が、少しだけ揺れた。
「……なんだ?!」
フレイヤは立ち上がり、扉を開けようとする。
それと同時に誰かが入ってきた。
「どうした、外でなにか起きたのか」
フランシスカは冷静に訊ねる。
それに兵士は頷く。
「はい! 法王庁自治領のものとみられるリリーファーが三十機出現しました! 現在交戦中です!」
三十機、という単語を聞いて彼女たちは愕然した。ここにあるリリーファーの数の約三倍にもなるリリーファーがここに向かってきている――という事実を聞けば、誰もが衝撃を隠しきれないだろう。
「それは……本当なのですか!!」
フランシスカは再度訊ねる。嘘であってほしいからだ。そんなことは嘘でなくてはならないからだ。
だが、無情にも兵士はその質問にゆっくりと頷いた。
それを見て、フランシスカは駆け出して第一会議室を後にする。それを追うようにバルタザール騎士団の面々もフランシスカを第一会議室を出て行った。
◇◇◇
屋上。
そこは先ほどのような雰囲気ではなく、緊張感に包まれていた。砲台は凡て稼働しているし、せわしなく兵士は動いている。
しかしそれでもリリーファーに適うわけはない。せいぜいリリーファーの足を止めるくらいだ。それくらいしか出来ないが、それが精一杯である。
「状況を報告しろ!」
フランシスカが屋上にあがり、開口一番そう言った。
「状況は非常に悪いです。最悪と言っていいです! 砲台だけじゃ構いきれません! まさに好き放題やられているカタチになっています!!」
兵士の一人がそう呟いて、舌打ちした。
「……そういうことです。フレイヤさん。バルタザール騎士団の皆さん。急いでリリーファーの出動を要請します」
「とうとう出番が回ってきた、というわけだな」
それをきいて、最初に反応したのは金髪男、グラン・フェイデールだった。
グランはそれを言って、頭を掻いた。
グラン・フェイデールは長身の男だった。フレイヤが百六十センチくらいであるのに対し、グラン・フェイデールは百九十センチ近い身長である。ここまで言えば、いかにグランが長身であるのか解るだろう。
「……グラン、血が沸き起こる気持ちになっていることは解る。でもな、そういうことはセーブしていかねばならない。そうでないと冷静な判断を怠ることもあるからだ。解るか?」
「それはそうだ。……だが、この戦争で興奮しない方がおかしい。きっとこの戦いは歴史に名を残す戦いになるだろうよ。そうだとなれば興奮しないでやってられるかということだ」
「……ふむ、そういうものか」
「ああ、そういうことだ」
グランとフレイヤはバルタザール騎士団の団長に彼女が就任する前からの友人であった。フレイヤが『ある事件』でリリーファーに乗れるようになって、そのあと様々なことを教えてくれたのが当時同じ基地で起動従士として在籍していたグラン・フェイデールだったのだ。
「さて……それでは向かうとするか」
戦う時が来た。
自らの持つ力を、相手に見せるその時がやってきた。
リリーファーとリリーファーで戦う、スマートな戦争、その真髄が始まる――。
◇◇◇
ところ変わって。
潜水艦アフロディーテはレパルギュア港へと到着していた。
レパルギュアはヘヴンズ・ゲート自治区の中でも大きな港町である。酒場はいつも栄えていて人の出入りが絶えない。深夜まで明かりが灯っている、そんな町だった。
その町を海の方から眺めているのが、ヴァリエイブル連邦王国所属の潜水艦アフロディーテだった。
「……まったく、戦争が始まっているというのに呑気に酒を飲んでいる人が多いってわけね」
マーズは甲板で独りごちる。
統計をとったわけではないが、戦争中はいつもより酒場の売り上げが上がるのだという。そもそも酒は嗜好品の一種であり、国民によく愛されている。そしてそれを飲む時は様々なパターンがある。
あるときは友と語らうときに飲み、あるときは悪いことを忘れたいために飲み、あるときは特に理由もなく飲む。人々を楽しませる飲み物、それが酒である。しかし、酒というものは人をその字のごとく変えてしまう。いつも寡黙な人間が酒を飲むことで話が進んだり、いつも怒りっぽい人が泣き上戸になったりと、そのパターンは計り知れない。
「酒は人を変えてしまう、魔法のようにね」
そう言って、マーズの隣に立ったのは船長のラウフラッドだった。ラウフラッドは片手に何かを持っていた。それが酒瓶であることに気付くまで、そう時間はかからなかった。
「こんなところで?」
「ネオンを肴に飲むというのはいいものだぞ。ほら、君もどうだ」
そう言ってラウフラッドはコップをマーズに手渡す。
マーズははじめそれを拒否しよう――そう考えていた。
マーズは酒をあまり好まない。別に『酒の味が嫌い』という子供じみた理由などではないのだが、単純に酒を飲みたがらないだけなのだ。
「酒が苦手だったかね? ならば済まないことをしたが……」
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