絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百三十四話 ブリーフィング(前編)
「確かにそれもそうかもね。私にどうこう言ったって何かが解決するわけでもない。寧ろ毎年一般兵士に対する待遇が酷くなっていることもまた事実。……兵士に何年かなっていたから、私にもその辛さってものはよく解る」
「フレイヤさんも、かつては一般兵士だったんですか?」
リーフィの言葉に、フレイヤは頷く。
フレイヤ・アンダーバードはかつてティパモール近郊の治安を守る一般兵士に属していた。しかし、ある戦いが起きてそこで彼女はリリーファーを操縦するのができたことが判明し、そのまま彼女は起動従士となった。
彼女は確かに努力家だが、起動従士になった経緯はある意味『大会』で目をつけられたマーズ・リッペンバー以上に稀有なことである。
稀有なことではあるが、彼女自身それを稀有だとは思っていない。寧ろ自分が努力したからこそ成し遂げられた、その結晶であると考えている。
結晶がどういう結果を今後招いていくのかは彼女も解らないことではあるが、いい結果に転ぶか悪い結果に転ぶか、それを担っているのはほかでもない彼女であることを、彼女自身自負している。
「……起動従士は憧れだった」
フレイヤは唐突にそう話し始めた。
きっと彼女はずっとそれを話したかったのかもしれない。
彼女はそれを誰かに話したくて、仕方なかったのかもしれない。
「起動従士は私にとっての憧れだった。憧憬だった。だから私は目の前に空のリリーファーがあった……其の時、私はこうも思えた。努力をずっと続けてきたから、カミサマは私を見捨てなかったんだ……とね。けれど、現実は違った。起動従士になって、その先に得られたものはなんだったか。答えは簡単だ。リリーファーと人間の体格比はあまりにも明らかだ。これは即ち、リリーファーは簡単に人を殺すことができる。そういうことだ。私の憧れである起動従士は、人をあっという間に殺し立てる殺戮マシーンだったんだよ」
息を吐くようにフレイヤは話す。それをずっとリーフィは聞き手に回って、話を聞いていた。
フレイヤは息を吸って、再び話を続ける。
「殺戮マシーンに乗っている人間も殺戮をしているに等しい。即ち起動従士は大量殺人鬼で、リリーファーはその凶器だったんだ。可笑しい話だろう? 憧れとしていた職業にいざなってみたら、それとはまったく違うイメージだったことに、現実に気がついて驚愕するんだ。悲しくなるんだ。やめたくなるんだ。どうあがいてもこれは変えることが出来ないし、変わることも出来ないだろう。……現実とは非情なものだよ」
「でも、あなたはまだリリーファーに乗っている。あなたは起動従士としてその役を果たしているではないですか」
「そうだね。でもそれは単なることだ。仕事と感情は割り切らなくてはいけないことなのかもしれないが、罪のない人々をコイルガンやらレールガンやらで殺戮していくのを何度も行っていくうちに、自分という存在はなんて罰当たりなのだろう。なんてことをしているのだろう……なんて思うこともしばしばある」
「でも、あなたは起動従士を……」
「時折、この腕を消し飛ばしたくなる」
そう言って、フレイヤは自らの右腕を見つめた。
「この腕でリリーファーコントローラを使っているということは、私は右腕で人を殺しているに等しい。それは即ちこの腕さえ無くなってしまえばリリーファーを操縦することが出来なくなる……とね」
「それはいけないですよ、フレイヤさん」
リーフィの声に、フレイヤはそちらを向いた。
「あなたは現にこの国を守ろうとしているではないですか。確かに今回の戦争は少々やりすぎなところもあるかもしれないですが……それでもあなたはこの基地で、ヴァリエイブル連邦王国の人間三百万人を守ろうとしているではないですか。その腕がなくては、あなたはリリーファーを操縦することなど、出来ませんよ」
「……そう思ってくれる人が一人でも居るだけで、私はほんとうに救いになる」
フレイヤはそう頷いて、微笑む。
それを見て、リーフィも小さく笑みを浮かべた。
「……あ、そうだ。フレイヤさん、これからブリーフィングを行うとのことで急いで第一会議室へ向かってください。お願いしますね」
リーフィは思い出したかのようにそう言って、その場を後にする。
一人残されたフレイヤは「やれやれ」とだけ言って、その場を後にした。
◇◇◇
第一会議室ではフレイヤ・アンダーバード率いるバルタザール騎士団の面々とガルタス基地の主要なメンバーが一同に決していた。
「それではこれからブリーフィングを執り行いたいと思います」
議長を務めるのはガルタス基地の代表を務めるフランシスカ・バビーチェだ。フランシスカは二十五歳の若さでガルタス基地の代表を務めており、その力はラグストリアルですら認めている程だ。
ブリーフィングに伴い参加している人間全員には資料が行き渡っている。その内訳をざっと説明すると、法王庁自治領の詳細な地図と、『アフロディーテ』との交戦時に手に入れた『聖騎士』の簡易解析データと、今回の作戦についての三種類にまとめられる。一つ目についてはフレイヤは既にざっと目を通していたために問題ないが、問題は二つ目以降のことだった。
「……ブリーフィングを行う前に訊ねたいのだけれど、これ、どういうこと?」
フレイヤが訊ねたのはもちろんアフロディーテ交戦時に入手した聖騎士の簡易解析データについてだった。
「私も詳しくは知らないのですが、アフロディーテが水中潜行中に相手のリリーファー『聖騎士』に攻撃を受けたということなのです。生憎当時乗り合わせていた二体のリリーファーによって撃退し、それをアフロディーテ内部に持ち帰ることが出来ましたので、簡易的に解析を行い、そのデータを送信していただいた次第です」
「データを送信……それは即ち、まだアフロディーテに聖騎士の躯体そのものが残っている、ということか? だったらなぜそれを本国へ……いや、いい。これ以上はブリーフィングの侵害になってしまう。ここまででいい」
「ご協力感謝します」
フランシスカは頭を下げる。
「さて、今回のブリーフィングについてですが、大きく分けて二つのことをお話します。先ず三ページをご覧ください。先程もお話しましたが、此度我が国最大の積載量を誇る潜水艦『アフロディーテ』に敵方のリリーファー『聖騎士』が攻撃を仕掛けてきました。生憎、潜水艦にはハリー騎士団とメルキオール騎士団が居たためにそれを撃退し、潜水艦内部に聖騎士を搬入、そしてそれを解析した……というのがそのデータということになります」
「ふむ。このデータから何が言えるのか、はっきり説明していただけますか」
それに答えたのはガルタス基地に所属するリリーファー整備士レビテド・グラールだった。レビテドは小柄な男で灰色の帽子を被っていた。
レビテドの方を向いて、彼女はそれに答える。
「このデータから云えることは、法王庁は我々が思っている以上に高い技術を持っているということです。報告書にも書いてありますが、この『聖騎士0421号』とやらは水中戦を繰り広げたと聞きます。また解析の結果、水圧に耐えられるように特殊な装甲で構成されていることも判明しました」
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