絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百三十一話 侵入者
「……質問その一、ヘヴンズ・ゲートとはなに?」
まずマーズはその核心に迫った。
ヘヴンズ・ゲートは、彼女たちの知りえない情報の一つだ。それを知らなければ今回の戦争でもしかしたら不利益を被るかもしれない。正直なところ、それはひどい話であるし、だったらそういう芽は早々に潰しておく必要がある。
「ヘヴンズ・ゲートは」
ぽつり、とレティーナが口を開く。
それをじっと見つめるマーズとヴァルベリー。
彼女たちはレティーナからできる限り敵の情報を手に入れなくてはならない。例えレティーナに頭を下げることになろうとも、だ。
「ヘヴンズ・ゲートはカミサマが降りてくる門だ。カミサマの世界と我々が住む世界を繋ぐもの……それがヘヴンズ・ゲートよ」
「カミサマ、か。カミとはなんだ?」
「全知全能のカミサマよ。私たちはその名前を、恐れ多いから別の名前で、こう読んでいる。『ドグ』様と」
「ドグ……」
その名前を聞いた瞬間、なぜか身震いしてしまった。どうしてかは解らない。ただ、恐ろしかったのだろうか? それすらも解らない。ただ、身震いした。
それを見てレティーナは笑う。
「あなたもその名前を聞いて震えてしまったのね。当然よ、ドグ様は最強なのだから」
そう言ったレティーナに、マーズは何も言わず電気ショックを与える。
「無駄話をしている立場かしら」
マーズはただ冷たい口調で言った。
「さあ、話を続けなさい」
マーズの言葉を聞いて、レティーナは唾を吐く。
「それは反抗の意志と考えていいな?」
「なによ、唾を吐いただけ。それで? 私は何を話せばいいわけ?」
「ヘヴンズ・ゲートについて知っていることを言うんだ。それ以上に何か知っていることはあるか」
「知らないわ……。言っておくと私はあくまでも法王庁の中の下も下。ただの下っぱ的存在よ。そんな人間に重要なことを教えるかしら? 少なくとも私が知っているのはそれだけ。あとは……そうね、枢機卿レベルなら知っているんじゃない? あなたたちがそこまで辿り着ければ、の話だけどね!」
「……解った、もういい。質問その一は以上だ」
マーズは半ば諦めたように言った。
「もう一つ、質問させて欲しいのだけど」
しかしながらヴァルベリーは違った。どうやら彼女は彼女で別の質問を用意していたらしい。
「どうぞ?」
レティーナは、小さく頷き了承する。
「法王庁とは、いったいどのような構成で成り立っているのかしら」
ヴァルベリーが言った質問を聞いて、レティーナの表情が強張った。
そしてその表情の僅かな変化を、彼女たちは見逃さなかった。
「……法王庁は頂点に全知全能であるカミサマ、ドグ様の代行者である法王猊下がいらっしゃり、その配下には枢機卿が三名居られる。枢機卿はそれぞれがそれぞれを監視する立場にあり、枢機卿が暴走するのを防ぐ……。残念ながら、私にはこれしか解らないがね」
それが解っただけでも充分だった。三名の枢機卿の存在を確認出来たのは、敵の内情を把握するためには重要なめのだ。無論レティーナが真実をいっているかどうか、それについても確かめなくてはならない。
「……ふむ。これほどまでの情報が集まれば大方何とかなるだろう。それにしても初めは反抗的な態度を取っていたのに随分と素直になったものだ」
「だがね、あんたたち気をつけた方が身のためだよ」
しかしレティーナがそう言ったのを聞いて、マーズたちの表情が強張ったものとなった。
「どういうことだ?」
「どうしたもこうしたもない。我々はまだ策を残しているということだ。それこそ、見たら愕然とするがね!」
「戯言か」
マーズは言葉を吐き捨てる。
レティーナはその言葉を聞いて、笑い始めた。長く長く長く続いたそれは、レティーナの精神が壊れたかと見紛うほどだった。
「戯言だと思うなら、戯言だと思うなら、待っているがいい! 必ずやヴァリエイブルに一矢報いるために、神に反逆する愚か者のために、動いてくれるはずだ……『聖騎士0000号』がね!」
「ナンバー……ゼロ?」
マーズが訊ねても、レティーナは笑うだけで何も答えない。
「これ以上は無駄だ、マーズ」
ヴァルベリーのその言葉に従い、マーズたちは牢屋を後にした。
◇◇◇
アフロディーテ、第一倉庫。
「……よし」
ひとりの青年が物陰に隠れて立っていた。凛々しい出てだちの彼は、女性のようなしなやかな身体であった。金色の髪はこの仄暗い空間でもしっかりと存在感を放っている。
イグアス・リグレー。
それが彼の名前だった。
ヴァリエイブル連邦王国第一王子にして最有力の王位継承者。そして彼も起動従士として王家専用機『ロイヤルブラスト』を操縦することが出来る人間だった。
彼は王子という位ながら、昔から戦争で戦う起動従士に憧憬を抱いていた。
起動従士というのはリリーファーを動かし、その戦場を動かしていく存在だ。だからこそ彼は起動従士を好み、起動従士になろうとした。
だが起動従士には誰もがなれるわけではない。起動従士には『マッチング』が存在するのだ。そのマッチングが上手く合致しなければ意味がない。しかし彼はそのマッチングに成功した。起動従士であることが、認められたのだ。
彼はそれを聞いて至極喜んだ。そしてそれを聞いた父ラグストリアルは嬉しくもなりながら、悲しみを覚えた。
起動従士であることが認められたということは、戦争に出る機会が必ずやってくるということになる。もし彼に何かあった場合ヴァリエイブル連邦王国に王位継承者がゼロ名ということになってしまう。
そうなってしまった場合のパターンというものを、ラグストリアルは考えているつもりだろうが、それでも彼をみすみす戦場へ送ることはしない。その状況にイグアスは怒りを募らせていた。
「どうして自分が出撃することが出来ないのか」
理由は解っている。自分が王族だからだ。
だからって、戦場に出向けないのはいかがなものか?
自分が戦場に出向けない、そういうのはどういうことなのか。
「……だから僕はここまで来た」
王である父から逃げた行為にほかならなかったが、彼にはそれ以外の手段が無かった。恐らく今頃は城のなかはてんわやんわになっているかもしれないが、この際致し方ない。
リリーファーに乗れればいい。ロイヤルブラストに乗れればいい。ロイヤルブラストは既にアフロディーテの乗組員に頼んで秘密裏に乗せてもらったから、既にここには存在している。ただしほかの起動従士にはバレないように別の保管庫に置かれている。
彼はそう思うと、再びチャンスを狙うために荷物の影に身を潜めた。
◇◇◇
「ナンバーゼロ……そこまで言うならばさしずめ我々を死の世界に誘うための『死神』みたいな存在なのだろうね」
船長室。報告を受けたラウフラッドはそう言って煙管を加えた。
「正直なところ。そんなことを言っている場合ではないと思いますが」
マーズが言うと、ラウフラッドは口から煙を吐いた。
「……マーズ・リッペンバーさん、あなたは少々冗談を理解したほうがいいのではないかな? 冗談を理解することで、世界は少しだけいい感じに進んでいくといいますよ」
「そうですね。まあ、それはそれとして、この報告を聞いてどう考えます?」
マーズとヴァルベリーからの報告を聴き終え、ラウフラッドは考えていた。だが直ぐに話がまとまるわけでもない。
対してマーズとヴァルベリーは二人共ほぼ同じ考えを抱いていた。
そんな甘い考えでいいのだろうか、ということについてだ。そんな考えでいれば、何か想定外のことが起きた時に回避出来ないし何も解決出来ない。ならば早めに問題を想定しておかなくてはならない。
にもかかわらずこのアフロディーテの船長はいったい何を考えているのだろうか……そう考えると頭を抱えたくなった。
だが、マーズはそんなことをせず、この会話が終わったら一先ず国王であるラグストリアルに連絡せねばならない――そう思った。
まずマーズはその核心に迫った。
ヘヴンズ・ゲートは、彼女たちの知りえない情報の一つだ。それを知らなければ今回の戦争でもしかしたら不利益を被るかもしれない。正直なところ、それはひどい話であるし、だったらそういう芽は早々に潰しておく必要がある。
「ヘヴンズ・ゲートは」
ぽつり、とレティーナが口を開く。
それをじっと見つめるマーズとヴァルベリー。
彼女たちはレティーナからできる限り敵の情報を手に入れなくてはならない。例えレティーナに頭を下げることになろうとも、だ。
「ヘヴンズ・ゲートはカミサマが降りてくる門だ。カミサマの世界と我々が住む世界を繋ぐもの……それがヘヴンズ・ゲートよ」
「カミサマ、か。カミとはなんだ?」
「全知全能のカミサマよ。私たちはその名前を、恐れ多いから別の名前で、こう読んでいる。『ドグ』様と」
「ドグ……」
その名前を聞いた瞬間、なぜか身震いしてしまった。どうしてかは解らない。ただ、恐ろしかったのだろうか? それすらも解らない。ただ、身震いした。
それを見てレティーナは笑う。
「あなたもその名前を聞いて震えてしまったのね。当然よ、ドグ様は最強なのだから」
そう言ったレティーナに、マーズは何も言わず電気ショックを与える。
「無駄話をしている立場かしら」
マーズはただ冷たい口調で言った。
「さあ、話を続けなさい」
マーズの言葉を聞いて、レティーナは唾を吐く。
「それは反抗の意志と考えていいな?」
「なによ、唾を吐いただけ。それで? 私は何を話せばいいわけ?」
「ヘヴンズ・ゲートについて知っていることを言うんだ。それ以上に何か知っていることはあるか」
「知らないわ……。言っておくと私はあくまでも法王庁の中の下も下。ただの下っぱ的存在よ。そんな人間に重要なことを教えるかしら? 少なくとも私が知っているのはそれだけ。あとは……そうね、枢機卿レベルなら知っているんじゃない? あなたたちがそこまで辿り着ければ、の話だけどね!」
「……解った、もういい。質問その一は以上だ」
マーズは半ば諦めたように言った。
「もう一つ、質問させて欲しいのだけど」
しかしながらヴァルベリーは違った。どうやら彼女は彼女で別の質問を用意していたらしい。
「どうぞ?」
レティーナは、小さく頷き了承する。
「法王庁とは、いったいどのような構成で成り立っているのかしら」
ヴァルベリーが言った質問を聞いて、レティーナの表情が強張った。
そしてその表情の僅かな変化を、彼女たちは見逃さなかった。
「……法王庁は頂点に全知全能であるカミサマ、ドグ様の代行者である法王猊下がいらっしゃり、その配下には枢機卿が三名居られる。枢機卿はそれぞれがそれぞれを監視する立場にあり、枢機卿が暴走するのを防ぐ……。残念ながら、私にはこれしか解らないがね」
それが解っただけでも充分だった。三名の枢機卿の存在を確認出来たのは、敵の内情を把握するためには重要なめのだ。無論レティーナが真実をいっているかどうか、それについても確かめなくてはならない。
「……ふむ。これほどまでの情報が集まれば大方何とかなるだろう。それにしても初めは反抗的な態度を取っていたのに随分と素直になったものだ」
「だがね、あんたたち気をつけた方が身のためだよ」
しかしレティーナがそう言ったのを聞いて、マーズたちの表情が強張ったものとなった。
「どういうことだ?」
「どうしたもこうしたもない。我々はまだ策を残しているということだ。それこそ、見たら愕然とするがね!」
「戯言か」
マーズは言葉を吐き捨てる。
レティーナはその言葉を聞いて、笑い始めた。長く長く長く続いたそれは、レティーナの精神が壊れたかと見紛うほどだった。
「戯言だと思うなら、戯言だと思うなら、待っているがいい! 必ずやヴァリエイブルに一矢報いるために、神に反逆する愚か者のために、動いてくれるはずだ……『聖騎士0000号』がね!」
「ナンバー……ゼロ?」
マーズが訊ねても、レティーナは笑うだけで何も答えない。
「これ以上は無駄だ、マーズ」
ヴァルベリーのその言葉に従い、マーズたちは牢屋を後にした。
◇◇◇
アフロディーテ、第一倉庫。
「……よし」
ひとりの青年が物陰に隠れて立っていた。凛々しい出てだちの彼は、女性のようなしなやかな身体であった。金色の髪はこの仄暗い空間でもしっかりと存在感を放っている。
イグアス・リグレー。
それが彼の名前だった。
ヴァリエイブル連邦王国第一王子にして最有力の王位継承者。そして彼も起動従士として王家専用機『ロイヤルブラスト』を操縦することが出来る人間だった。
彼は王子という位ながら、昔から戦争で戦う起動従士に憧憬を抱いていた。
起動従士というのはリリーファーを動かし、その戦場を動かしていく存在だ。だからこそ彼は起動従士を好み、起動従士になろうとした。
だが起動従士には誰もがなれるわけではない。起動従士には『マッチング』が存在するのだ。そのマッチングが上手く合致しなければ意味がない。しかし彼はそのマッチングに成功した。起動従士であることが、認められたのだ。
彼はそれを聞いて至極喜んだ。そしてそれを聞いた父ラグストリアルは嬉しくもなりながら、悲しみを覚えた。
起動従士であることが認められたということは、戦争に出る機会が必ずやってくるということになる。もし彼に何かあった場合ヴァリエイブル連邦王国に王位継承者がゼロ名ということになってしまう。
そうなってしまった場合のパターンというものを、ラグストリアルは考えているつもりだろうが、それでも彼をみすみす戦場へ送ることはしない。その状況にイグアスは怒りを募らせていた。
「どうして自分が出撃することが出来ないのか」
理由は解っている。自分が王族だからだ。
だからって、戦場に出向けないのはいかがなものか?
自分が戦場に出向けない、そういうのはどういうことなのか。
「……だから僕はここまで来た」
王である父から逃げた行為にほかならなかったが、彼にはそれ以外の手段が無かった。恐らく今頃は城のなかはてんわやんわになっているかもしれないが、この際致し方ない。
リリーファーに乗れればいい。ロイヤルブラストに乗れればいい。ロイヤルブラストは既にアフロディーテの乗組員に頼んで秘密裏に乗せてもらったから、既にここには存在している。ただしほかの起動従士にはバレないように別の保管庫に置かれている。
彼はそう思うと、再びチャンスを狙うために荷物の影に身を潜めた。
◇◇◇
「ナンバーゼロ……そこまで言うならばさしずめ我々を死の世界に誘うための『死神』みたいな存在なのだろうね」
船長室。報告を受けたラウフラッドはそう言って煙管を加えた。
「正直なところ。そんなことを言っている場合ではないと思いますが」
マーズが言うと、ラウフラッドは口から煙を吐いた。
「……マーズ・リッペンバーさん、あなたは少々冗談を理解したほうがいいのではないかな? 冗談を理解することで、世界は少しだけいい感じに進んでいくといいますよ」
「そうですね。まあ、それはそれとして、この報告を聞いてどう考えます?」
マーズとヴァルベリーからの報告を聴き終え、ラウフラッドは考えていた。だが直ぐに話がまとまるわけでもない。
対してマーズとヴァルベリーは二人共ほぼ同じ考えを抱いていた。
そんな甘い考えでいいのだろうか、ということについてだ。そんな考えでいれば、何か想定外のことが起きた時に回避出来ないし何も解決出来ない。ならば早めに問題を想定しておかなくてはならない。
にもかかわらずこのアフロディーテの船長はいったい何を考えているのだろうか……そう考えると頭を抱えたくなった。
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