絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百二十八話 水中戦(中編)
ガネーシャ。
第五世代スリムモデルとして誕生したそのリリーファーは、とても素早い行動を取る。
軽量化かつ強化を目指して開発されたそれは、通常リリーファーの二倍の速さで行動する。
そのためではあるが、被害を被ったのが『装備』である。同世代のリリーファーがコイルガンやレールガン、エネルギー反射装甲など強い装備をしていく中でガネーシャは『リリーファーを軽量化する』というスリムモデルにされたために装備が少々情けないものとなっている。装備だけ見れば水準はマーズ・リッペンバーの乗る『アレス』、第三世代程だろうか。
装備が情けないものではあるが、素早さはどの世代よりも非常に高い。
そのため開発されたスリムモデルであったが、今現在は予算の都合が立たず、彼女が乗っているガネーシャしかそのモデルは存在しない。
即ちガネーシャは現在唯一存在しているスリムモデルであり、ガネーシャの活躍に応じてスリムモデルが今後も量産されるか否かが決定する――非常に重要な役目を持っているリリーファーだということだ。
「畜生……!」
今彼女はこのスリムモデルリリーファー、ガネーシャに乗っていることを後悔している。
装備がないのだから。敵に対しての攻撃手段が存在しないのだから。
ヴァルベリーの心は今、大きく揺らいでいた。
『……なんだ、大きく見栄を張った割にはこの程度か』
自動的に通信が接続され、相手の声がコックピット内部に響き渡る。
ヴァルベリーは通信を遮断しようと試みるも、相手にその系統が乗っ取られているのか、うまく反応しない。
「くそっ! ……くそっ、くそっ、くそっ!!」
何度も何度も何度も。
ヴァルベリーはそれを試みた。
ヴァルベリーはそこから逃れたかった。
だが、それを嘲笑うかのように、相手の通信は続く。
『あれほど見栄を張ってこの程度……ヴァリエイブルの力もたかが知れているというものだ』
はあ、とため息をついて。
『さあ、今度はこっちの番だ』
水平に構えていた剣を、今度はゆっくりと垂直に戻していく。
その気迫はまるで鬼のようだった。
聖なるもののような、光輝く剣を構えたリリーファーは、まるで斬ることに何の躊躇もしない鬼そのものにも思えた。
「ああ……」
ヴァルベリーはそれに恐怖を覚えた。
そして、自分の行き過ぎた行動を悔いた。
『最後にあなたの名前を聞かせてもらいましょうか』
その声に、彼女は。
「ヴァルベリー……ロックンアリアー」
素直に名前を答えた。
その暖かみがある声には、誰にも逆らうことが出来なかっただろう。
それを聞いて、相手はクスリと微笑んだようにも聞こえた。
『そう……。ヴァルベリーさん、それでは……さようなら』
そして剣が、ガネーシャに振り下ろされた――。
◇◇◇
――はずだった。
ヴァルベリーは意を決して、コックピット内部で目を瞑ってそれを待っていた。まるで審判の時を待つ、死刑囚のように。
しかし、いつまで経っても斬撃はやってこなかったのだ。
「……?」
気になって、恐る恐る目を開ける。
すると、そこには。
ガネーシャとそのリリーファーの間に、もう一機リリーファーがたっていたのだ。
それは、赤いカラーリングのリリーファーだった。
それは、ヴァルベリーにはとても見覚えのあるリリーファーだった。
「アレス……」
気がつけば彼女は無意識にその名前を呟いていた。
「もう少し遅かったらどんなことになっていたか……ヒヤヒヤしたわ。もうこんな経験を好んでしようなんて思わないわね」
マーズはアレスのコックピットで一人呟いた。
対して、相手のリリーファー――その名前を『聖騎士』という――のコックピットに居る少女は怒りを露にしていた。
アレスが現れた。
女神、マーズ・リッペンバーが現れた。
それは彼女にとってピンチでもありチャンスでもあった。
「マーズ・リッペンバー……」
マーズ・リッペンバー。
長い間対リリーファー戦で負けたことがない彼女のことを、いつしか誰かが『女神』と呼んだ。
そして彼女を倒すことを、いつしか『神下ろし』と呼び、多くのリリーファーが彼女に挑み、そして散っていった。
彼女は震えていた。武者震いのようにも思えるが、これはただ興奮しているだけにも見えた。
「女神を倒せば……私は神下ろし……」
彼女は笑みを浮かべていた。笑っていたのだ。
ヴァリエイブルと戦争を行っていく上で、確実にマーズと戦う場面は出てくるわけだが、まさかこんなにも早くマーズと対面するとも思っていなかったからだ。
「ついている……私はついている……!」
彼女は笑いが止まらなかった。女神マーズ・リッペンバーをこの手で倒すことが出来る機会を与えられたからだ。
とはいえ、マーズは強い。それはこの水中戦闘においても適用されることだろう。
だからこそ彼女も、彼女に圧倒的に有利な水中での戦闘としても、油断は禁物である。「さぁ、やってやろうじゃあないか」
彼女の、一世一代の大博打。
彼女はそれに勝ち、『女神』の伝説を完膚なきまでに破壊する。そして彼女は新たに女神と呼ばれるようになるのだ。
さあ、戦え。
己の強い思いを、その戦いに見せつけるのだ。
◇◇◇
その頃。
マーズは作戦を幾つかたてていた。
仮にその一つが駄目だったとしても、幾つか作戦があれば直ぐにそれをスライドさせる。そういう目的もあるから常に作戦は必要以上に考えておかねばならないのだった。
そして、彼女が考えている最優先の作戦は――。
「ヴァルベリー」
マーズが通信をオンにして、ガネーシャへ通信を送る。
『マーズ……! 助けに来てくれたのは嬉しいが、駄目だ。ガネーシャの通信は何故か知らないが乗っ取られている。今ここで話していることは凡て丸聞こえだ』
ヴァルベリーが強い口調で通信をしないようにマーズに言った。
だが、マーズは。
(それならば都合がいい)
そう考えて、ニヤリと微笑んだ。
「……大丈夫だ、ヴァルベリー。相手も常に話を聞いているのかは解らないだろう? そんなことより作戦会議だ。さっさと始めるぞ」
そう言ってマーズは一方的に作戦会議を始めた。
「何を考えているのよマーズ……!」
ヴァルベリーはそう言いながら舌打ちする。だが、だからといってこの作戦会議を終わらせることは出来ない――そう思ったヴァルベリーは仕方なく作戦会議に参加した。
「私は今カスタマイズして来てね、とても長いワイヤーを持っている。このワイヤーを使って……あのリリーファーの動きを止めようと考えている」
開口一番、マーズはそう言った。
『ワイヤーで? どういうことだ?』
そう言ってヴァルベリーは視線をアレスに移す。
確かにアレスの背中には何かが載せられていた。土煙が舞っているからかどうかは解らないが、とても見えづらく、それを発見するのに少々の時間を要した。
「それは探索しても見つからない、特別な素材で作ったものだからな。見えづらくなっているのも仕方がない」
そう言いながらマーズは頻りに何かを確認していた。
それは敵のリリーファーの位置である。マーズはエネルギーを作る際にどうしても体内が発熱してしまう、というのもあり体外へその熱い空気を放出しなくてはならない。土煙はその空気によって、立てられたものだった。
普通は体外に放出することなくその空気を体内に循環させ、再びエネルギーとして使用する。だからその行為は少々珍しいものだった。
だが、それは敵にとってはただ『目くらまし』に過ぎないものだ――と軽く見ているだけに過ぎなかった。
第五世代スリムモデルとして誕生したそのリリーファーは、とても素早い行動を取る。
軽量化かつ強化を目指して開発されたそれは、通常リリーファーの二倍の速さで行動する。
そのためではあるが、被害を被ったのが『装備』である。同世代のリリーファーがコイルガンやレールガン、エネルギー反射装甲など強い装備をしていく中でガネーシャは『リリーファーを軽量化する』というスリムモデルにされたために装備が少々情けないものとなっている。装備だけ見れば水準はマーズ・リッペンバーの乗る『アレス』、第三世代程だろうか。
装備が情けないものではあるが、素早さはどの世代よりも非常に高い。
そのため開発されたスリムモデルであったが、今現在は予算の都合が立たず、彼女が乗っているガネーシャしかそのモデルは存在しない。
即ちガネーシャは現在唯一存在しているスリムモデルであり、ガネーシャの活躍に応じてスリムモデルが今後も量産されるか否かが決定する――非常に重要な役目を持っているリリーファーだということだ。
「畜生……!」
今彼女はこのスリムモデルリリーファー、ガネーシャに乗っていることを後悔している。
装備がないのだから。敵に対しての攻撃手段が存在しないのだから。
ヴァルベリーの心は今、大きく揺らいでいた。
『……なんだ、大きく見栄を張った割にはこの程度か』
自動的に通信が接続され、相手の声がコックピット内部に響き渡る。
ヴァルベリーは通信を遮断しようと試みるも、相手にその系統が乗っ取られているのか、うまく反応しない。
「くそっ! ……くそっ、くそっ、くそっ!!」
何度も何度も何度も。
ヴァルベリーはそれを試みた。
ヴァルベリーはそこから逃れたかった。
だが、それを嘲笑うかのように、相手の通信は続く。
『あれほど見栄を張ってこの程度……ヴァリエイブルの力もたかが知れているというものだ』
はあ、とため息をついて。
『さあ、今度はこっちの番だ』
水平に構えていた剣を、今度はゆっくりと垂直に戻していく。
その気迫はまるで鬼のようだった。
聖なるもののような、光輝く剣を構えたリリーファーは、まるで斬ることに何の躊躇もしない鬼そのものにも思えた。
「ああ……」
ヴァルベリーはそれに恐怖を覚えた。
そして、自分の行き過ぎた行動を悔いた。
『最後にあなたの名前を聞かせてもらいましょうか』
その声に、彼女は。
「ヴァルベリー……ロックンアリアー」
素直に名前を答えた。
その暖かみがある声には、誰にも逆らうことが出来なかっただろう。
それを聞いて、相手はクスリと微笑んだようにも聞こえた。
『そう……。ヴァルベリーさん、それでは……さようなら』
そして剣が、ガネーシャに振り下ろされた――。
◇◇◇
――はずだった。
ヴァルベリーは意を決して、コックピット内部で目を瞑ってそれを待っていた。まるで審判の時を待つ、死刑囚のように。
しかし、いつまで経っても斬撃はやってこなかったのだ。
「……?」
気になって、恐る恐る目を開ける。
すると、そこには。
ガネーシャとそのリリーファーの間に、もう一機リリーファーがたっていたのだ。
それは、赤いカラーリングのリリーファーだった。
それは、ヴァルベリーにはとても見覚えのあるリリーファーだった。
「アレス……」
気がつけば彼女は無意識にその名前を呟いていた。
「もう少し遅かったらどんなことになっていたか……ヒヤヒヤしたわ。もうこんな経験を好んでしようなんて思わないわね」
マーズはアレスのコックピットで一人呟いた。
対して、相手のリリーファー――その名前を『聖騎士』という――のコックピットに居る少女は怒りを露にしていた。
アレスが現れた。
女神、マーズ・リッペンバーが現れた。
それは彼女にとってピンチでもありチャンスでもあった。
「マーズ・リッペンバー……」
マーズ・リッペンバー。
長い間対リリーファー戦で負けたことがない彼女のことを、いつしか誰かが『女神』と呼んだ。
そして彼女を倒すことを、いつしか『神下ろし』と呼び、多くのリリーファーが彼女に挑み、そして散っていった。
彼女は震えていた。武者震いのようにも思えるが、これはただ興奮しているだけにも見えた。
「女神を倒せば……私は神下ろし……」
彼女は笑みを浮かべていた。笑っていたのだ。
ヴァリエイブルと戦争を行っていく上で、確実にマーズと戦う場面は出てくるわけだが、まさかこんなにも早くマーズと対面するとも思っていなかったからだ。
「ついている……私はついている……!」
彼女は笑いが止まらなかった。女神マーズ・リッペンバーをこの手で倒すことが出来る機会を与えられたからだ。
とはいえ、マーズは強い。それはこの水中戦闘においても適用されることだろう。
だからこそ彼女も、彼女に圧倒的に有利な水中での戦闘としても、油断は禁物である。「さぁ、やってやろうじゃあないか」
彼女の、一世一代の大博打。
彼女はそれに勝ち、『女神』の伝説を完膚なきまでに破壊する。そして彼女は新たに女神と呼ばれるようになるのだ。
さあ、戦え。
己の強い思いを、その戦いに見せつけるのだ。
◇◇◇
その頃。
マーズは作戦を幾つかたてていた。
仮にその一つが駄目だったとしても、幾つか作戦があれば直ぐにそれをスライドさせる。そういう目的もあるから常に作戦は必要以上に考えておかねばならないのだった。
そして、彼女が考えている最優先の作戦は――。
「ヴァルベリー」
マーズが通信をオンにして、ガネーシャへ通信を送る。
『マーズ……! 助けに来てくれたのは嬉しいが、駄目だ。ガネーシャの通信は何故か知らないが乗っ取られている。今ここで話していることは凡て丸聞こえだ』
ヴァルベリーが強い口調で通信をしないようにマーズに言った。
だが、マーズは。
(それならば都合がいい)
そう考えて、ニヤリと微笑んだ。
「……大丈夫だ、ヴァルベリー。相手も常に話を聞いているのかは解らないだろう? そんなことより作戦会議だ。さっさと始めるぞ」
そう言ってマーズは一方的に作戦会議を始めた。
「何を考えているのよマーズ……!」
ヴァルベリーはそう言いながら舌打ちする。だが、だからといってこの作戦会議を終わらせることは出来ない――そう思ったヴァルベリーは仕方なく作戦会議に参加した。
「私は今カスタマイズして来てね、とても長いワイヤーを持っている。このワイヤーを使って……あのリリーファーの動きを止めようと考えている」
開口一番、マーズはそう言った。
『ワイヤーで? どういうことだ?』
そう言ってヴァルベリーは視線をアレスに移す。
確かにアレスの背中には何かが載せられていた。土煙が舞っているからかどうかは解らないが、とても見えづらく、それを発見するのに少々の時間を要した。
「それは探索しても見つからない、特別な素材で作ったものだからな。見えづらくなっているのも仕方がない」
そう言いながらマーズは頻りに何かを確認していた。
それは敵のリリーファーの位置である。マーズはエネルギーを作る際にどうしても体内が発熱してしまう、というのもあり体外へその熱い空気を放出しなくてはならない。土煙はその空気によって、立てられたものだった。
普通は体外に放出することなくその空気を体内に循環させ、再びエネルギーとして使用する。だからその行為は少々珍しいものだった。
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