絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百二十七話 水中戦(前編)
ヴァルベリー・ロックンアリアーの乗り込んだリリーファー『ガネーシャ』が潜水艦アフロディーテから出動する。
潜水艦の乗員全員が反対したにもかかわらず、彼女は出動した。
その理由こそ、今ガネーシャの目の前に対面しているリリーファーである。水中換装を行い、今まで他国は知ることのなかった、水中戦闘に特化したリリーファーが目の前に鎮座している。
「……なによ、あのリリーファーは……!」
そう嘆いても、その正体が解るわけでもない。
水中戦闘に特化したリリーファーの開発は、ラトロも行っていた。
しかしあのラトロですら、どのようにリリーファー本体に水が染み入らないようにするかを考えるのが非常に大変で、結果としてラトロですらそれを開発するのを諦めてしまった。
理由は簡単――お金がかかりすぎるのだ。お金をかけすぎたとしても、うまく防水加工が出来ていないのならばそれは無駄ということになる。
だがラトロはそれをほぼ全世界に販売している。また、ラトロの技術は世界一と様々な国が提言しているために、どの国でも水中戦闘に特化したリリーファーは開発されず、また、リリーファー間の水中戦闘は御法度とまで言われる程になった。
だが。
今、ガネーシャの前に君臨しているリリーファーは、水中をいとも簡単に進むことのできるリリーファーだった。
よく考えれば解る話だ。今から向かうヘヴンズ・ゲート自治区は法王庁自治領の一つであるとはいえ、一年前までは世界的に誰も知らなかった『新天地』である。クローツでは開発されていない技術があってもおかしくはない。
「しかし……新天地の技術は水準がおかしいな……!」
ヴァルベリーがそんなことを呟いていると、
『パイロット応答せよ』
ヴァルベリーの乗るガネーシャのコックピットに、そんな声が響いた。
声は女性らしく高いわけでも男性らしく低いわけでもない。どちらかといえば少し高く聞こえる、中性だ。
「……こちら『ガネーシャ』の起動従士。貴様らは何がしたいんだ?」
『そちらの立場を良く理解して物事を口に出して欲しいね……。そちらは水中で長く続かない、普通のリリーファーだ。それに対してこちらは水中戦闘が可能な装備となっている。少しぐらい考えれば解る話だ』
「どうだか」
しかし。
その脅迫にも似た言葉に、ヴァルベリーはも明確に拒否の意志を示した。
『……リリーファーは本来ならば「海」なんて場所では戦ってはいけない。だがこのリリーファーは違う。外の世界の人間が見たことの無いそれを作り上げようとして……漸く完成した第一号機だ。どう? これを聞いてもまだ立ち向かおうなんて思える?』
「……べらべらと煩いな。長話を延々と続けて、そんなことでお山の大将気取りか。へどが出るね」
しかしヴァルベリーはそんな前口上を聞いてもなお、萎縮することなどなかった。
それどころか相手のパイロットを煽り始めたのだ。
これはヴァルベリーにとって、一つの賭けでもあった。
これで相手が巧くこちらの口車にさえ乗ってしまえば、申し分ない。あとは何をしなくても勝手に自滅していくからだ。
だから彼女はそう言った。
『……何を生き急ぐ。どう足掻いてもあなたは私に勝つことなど出来ないというのに』
「それはどうかしらね?」
ヴァルベリーの話は続く。
「第一私たちが受けた攻撃は一発のコイルガン。あのコイルガンは別にリリーファーじゃなくて戦艦に近いものですら搭載している基本装備。それをただ、水中に居た『アフロディーテ』が被弾して、リリーファーの攻撃ではないか……そう錯覚しただけに過ぎない。だって私は見ていないのだから、リリーファーがコイルガンを撃ったという……その瞬間を」
そう。
ヴァルベリーの言っていることに、何の間違いもなかった。
ヴァルベリーは相手のリリーファーが攻撃をした瞬間を一度も見ていない。
だから、そこにリリーファーが居たのは単なるブラフではないか? ヴァルベリーはそんなことを考えていたのだ。
勿論そのリリーファーがコイルガンを撃ったという可能性も残っている。だがそれを言うことで巧くいけば兵器を観ることが出来る。
『……なるほど。あなたはあくまでもここを通るつもりである、と』
「元々攻撃をしてきたのはそちらの方だからな。我々にはその攻撃に対してやり返す権利というものが存在する。……道理にかなった考えだよ」
『道理、ね。戦争に道理なんてものが存在するのだとしたら、そんなものは糞食らえだ。まったくそんなものが役立つ機会など、戦争には存在しない。無意味だ』
「戦争は大義名分を背負って両者が戦うものだ。ただ殺戮のために戦争を仕掛けるのは、それはもはや虐殺に近い」
『……なるほど』
その声から少し遅れてレバーを引いたような小さな音がした。
そしてそれから直ぐに、そのリリーファーの身体が輝き始める。その光は徐々にある一点に集中していく。
その一点は――背中だ。リリーファーは背中に何かを抱えているようだった。
「あれは……剣?」
ヴァルベリーはその光景を見て、マーズから聞いたことを思い出した。
ラトロが開発した最新型リリーファーはその腰に刀を携えていた。もしかしたらそれに近い系統なのかもしれなかった。
そんなことを考えている間にも、リリーファーはその剣を両の手で構えた。そしてその手を地面(この場合は海底だが)と平行に構え直した。
「それがそのリリーファーの装備ってわけね……いかした装備だこと」
皮肉混じりにヴァルベリーは言った。
ヴァルベリーはそんなことを言っていたが、かといってたいして余裕があるわけでもなかった。
相手の攻撃の種類が、解らなかったからだ。
剣は光り輝いていて、水中でもその輝きが見て取れる。
相手は水中戦闘ができるリリーファーだ。しかし、ガネーシャは水中戦闘が出来ないリリーファーで、もってあと十分ほどしか安全でいられる保証はない。水圧が問題になるほどの深度ではないが、リリーファーの重量を考えるとそう長い時間をかけられない。
「……こうなったら」
通信を一方的に切り、ヴァルベリーは呟く。
ガネーシャと相手のリリーファーが戦っている海底から約一キロレヌルの距離に小さな島がある。
その島は無人島であり、少し面積が小さいがそれ以外は申し分ない。
だからヴァルベリーはあと十分でどうにかその場所へ行かせることが出来ないだろうか――そう考えていた。
だが、相手は待ってはくれない。
だからヴァルベリーはリリーファーコントローラーを強く握り――念じた。
刹那、ガネーシャから出てきたのは――巨大な砲口だった。
そしてその砲口からエネルギー砲を射出するために、エネルギーの充電を開始する。
充電を完了したと同時に砲口からエネルギーを発射した。
その時間――僅か数秒。
ヴァルベリーはそれを撃ち放って、勝利を確信していた。
なぜならその攻撃は、リリーファーに命中していたからだ。
ヴァルベリーはコックピットの中で笑みを浮かべていた。笑っていた。
勝った。彼女はそう確信していたからだ。
土煙が消えたら、その中には破壊されたリリーファーの姿が存在している。
そんなことを考えていたのも、彼女が水中戦闘ができるリリーファーと対峙していて、自分が圧倒的不利な状況にあったことの裏返しだったのかもしれない。
だが。
土煙が晴れたその先には――無傷のリリーファーが立っていた。
そのリリーファーは剣でその攻撃を跳ね返したのか、或いは普通の攻撃じゃ傷がつかない強化装甲なのかは解らないが、傷一つついていなかった。
「なぜだ!!」
ヴァルベリーは言って、コックピットを叩いた。
あれはガネーシャの最高出力のはずだった。
あれはガネーシャが誇る最強装備のはずだった。
あれはガネーシャそのものだった。
即ちその言葉が意味しているものは。
――敗北の二文字だった。
潜水艦の乗員全員が反対したにもかかわらず、彼女は出動した。
その理由こそ、今ガネーシャの目の前に対面しているリリーファーである。水中換装を行い、今まで他国は知ることのなかった、水中戦闘に特化したリリーファーが目の前に鎮座している。
「……なによ、あのリリーファーは……!」
そう嘆いても、その正体が解るわけでもない。
水中戦闘に特化したリリーファーの開発は、ラトロも行っていた。
しかしあのラトロですら、どのようにリリーファー本体に水が染み入らないようにするかを考えるのが非常に大変で、結果としてラトロですらそれを開発するのを諦めてしまった。
理由は簡単――お金がかかりすぎるのだ。お金をかけすぎたとしても、うまく防水加工が出来ていないのならばそれは無駄ということになる。
だがラトロはそれをほぼ全世界に販売している。また、ラトロの技術は世界一と様々な国が提言しているために、どの国でも水中戦闘に特化したリリーファーは開発されず、また、リリーファー間の水中戦闘は御法度とまで言われる程になった。
だが。
今、ガネーシャの前に君臨しているリリーファーは、水中をいとも簡単に進むことのできるリリーファーだった。
よく考えれば解る話だ。今から向かうヘヴンズ・ゲート自治区は法王庁自治領の一つであるとはいえ、一年前までは世界的に誰も知らなかった『新天地』である。クローツでは開発されていない技術があってもおかしくはない。
「しかし……新天地の技術は水準がおかしいな……!」
ヴァルベリーがそんなことを呟いていると、
『パイロット応答せよ』
ヴァルベリーの乗るガネーシャのコックピットに、そんな声が響いた。
声は女性らしく高いわけでも男性らしく低いわけでもない。どちらかといえば少し高く聞こえる、中性だ。
「……こちら『ガネーシャ』の起動従士。貴様らは何がしたいんだ?」
『そちらの立場を良く理解して物事を口に出して欲しいね……。そちらは水中で長く続かない、普通のリリーファーだ。それに対してこちらは水中戦闘が可能な装備となっている。少しぐらい考えれば解る話だ』
「どうだか」
しかし。
その脅迫にも似た言葉に、ヴァルベリーはも明確に拒否の意志を示した。
『……リリーファーは本来ならば「海」なんて場所では戦ってはいけない。だがこのリリーファーは違う。外の世界の人間が見たことの無いそれを作り上げようとして……漸く完成した第一号機だ。どう? これを聞いてもまだ立ち向かおうなんて思える?』
「……べらべらと煩いな。長話を延々と続けて、そんなことでお山の大将気取りか。へどが出るね」
しかしヴァルベリーはそんな前口上を聞いてもなお、萎縮することなどなかった。
それどころか相手のパイロットを煽り始めたのだ。
これはヴァルベリーにとって、一つの賭けでもあった。
これで相手が巧くこちらの口車にさえ乗ってしまえば、申し分ない。あとは何をしなくても勝手に自滅していくからだ。
だから彼女はそう言った。
『……何を生き急ぐ。どう足掻いてもあなたは私に勝つことなど出来ないというのに』
「それはどうかしらね?」
ヴァルベリーの話は続く。
「第一私たちが受けた攻撃は一発のコイルガン。あのコイルガンは別にリリーファーじゃなくて戦艦に近いものですら搭載している基本装備。それをただ、水中に居た『アフロディーテ』が被弾して、リリーファーの攻撃ではないか……そう錯覚しただけに過ぎない。だって私は見ていないのだから、リリーファーがコイルガンを撃ったという……その瞬間を」
そう。
ヴァルベリーの言っていることに、何の間違いもなかった。
ヴァルベリーは相手のリリーファーが攻撃をした瞬間を一度も見ていない。
だから、そこにリリーファーが居たのは単なるブラフではないか? ヴァルベリーはそんなことを考えていたのだ。
勿論そのリリーファーがコイルガンを撃ったという可能性も残っている。だがそれを言うことで巧くいけば兵器を観ることが出来る。
『……なるほど。あなたはあくまでもここを通るつもりである、と』
「元々攻撃をしてきたのはそちらの方だからな。我々にはその攻撃に対してやり返す権利というものが存在する。……道理にかなった考えだよ」
『道理、ね。戦争に道理なんてものが存在するのだとしたら、そんなものは糞食らえだ。まったくそんなものが役立つ機会など、戦争には存在しない。無意味だ』
「戦争は大義名分を背負って両者が戦うものだ。ただ殺戮のために戦争を仕掛けるのは、それはもはや虐殺に近い」
『……なるほど』
その声から少し遅れてレバーを引いたような小さな音がした。
そしてそれから直ぐに、そのリリーファーの身体が輝き始める。その光は徐々にある一点に集中していく。
その一点は――背中だ。リリーファーは背中に何かを抱えているようだった。
「あれは……剣?」
ヴァルベリーはその光景を見て、マーズから聞いたことを思い出した。
ラトロが開発した最新型リリーファーはその腰に刀を携えていた。もしかしたらそれに近い系統なのかもしれなかった。
そんなことを考えている間にも、リリーファーはその剣を両の手で構えた。そしてその手を地面(この場合は海底だが)と平行に構え直した。
「それがそのリリーファーの装備ってわけね……いかした装備だこと」
皮肉混じりにヴァルベリーは言った。
ヴァルベリーはそんなことを言っていたが、かといってたいして余裕があるわけでもなかった。
相手の攻撃の種類が、解らなかったからだ。
剣は光り輝いていて、水中でもその輝きが見て取れる。
相手は水中戦闘ができるリリーファーだ。しかし、ガネーシャは水中戦闘が出来ないリリーファーで、もってあと十分ほどしか安全でいられる保証はない。水圧が問題になるほどの深度ではないが、リリーファーの重量を考えるとそう長い時間をかけられない。
「……こうなったら」
通信を一方的に切り、ヴァルベリーは呟く。
ガネーシャと相手のリリーファーが戦っている海底から約一キロレヌルの距離に小さな島がある。
その島は無人島であり、少し面積が小さいがそれ以外は申し分ない。
だからヴァルベリーはあと十分でどうにかその場所へ行かせることが出来ないだろうか――そう考えていた。
だが、相手は待ってはくれない。
だからヴァルベリーはリリーファーコントローラーを強く握り――念じた。
刹那、ガネーシャから出てきたのは――巨大な砲口だった。
そしてその砲口からエネルギー砲を射出するために、エネルギーの充電を開始する。
充電を完了したと同時に砲口からエネルギーを発射した。
その時間――僅か数秒。
ヴァルベリーはそれを撃ち放って、勝利を確信していた。
なぜならその攻撃は、リリーファーに命中していたからだ。
ヴァルベリーはコックピットの中で笑みを浮かべていた。笑っていた。
勝った。彼女はそう確信していたからだ。
土煙が消えたら、その中には破壊されたリリーファーの姿が存在している。
そんなことを考えていたのも、彼女が水中戦闘ができるリリーファーと対峙していて、自分が圧倒的不利な状況にあったことの裏返しだったのかもしれない。
だが。
土煙が晴れたその先には――無傷のリリーファーが立っていた。
そのリリーファーは剣でその攻撃を跳ね返したのか、或いは普通の攻撃じゃ傷がつかない強化装甲なのかは解らないが、傷一つついていなかった。
「なぜだ!!」
ヴァルベリーは言って、コックピットを叩いた。
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