絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百二十二話 併合(後編)
外に出ると歓声が鳴り響いていた。
それも大勢の歓声だ。ほとんどがこの併合を祝福する声にも思えた。
ラフターはゆっくりと歩くラグストリアルの、さらにその斜め後ろを歩く。これは背後から攻撃されたときの対策だ。
そしてラグストリアルは目の前にあった壇上に上がった。そこからは盛り上がる観衆の姿が見えた。彼らはラグストリアルの姿を見るとさらにヒートアップした。
「国王陛下、何か一言お願いします」
漸く壇上に上がったラフターはラグストリアルにそう言った。
それにラグストリアルは小さくうなずき、マイクに顔を近付けた。
「……おはよう、国民諸君。私はヴァリエイブル連合王国元首、ラグストリアル・リグレーだ……とこの挨拶をするのも、昨日までのことだ。なぜだろうか? ……理由は簡単、国の名前が変わったからだ。何故変わったのか? 本日、ひとつの国家をヴァリエイブルの一員とするからだ。それでは、その国家の名前は?」
ラグストリアルはそう言うと左手を掲げた。それを合図とするように一人の青年が姿を現した。姿こそ青年だったが、その服装と格好は堂々としていた。
彼は壇上に上る前に一礼し、さらに壇上にてラグストリアルに一礼した。青年の表情は笑いとも怒りともつかなかった。複雑な表情だった。
「ここに居られるのはペイパス王国元首レフィザー・アーモングレイド氏だ。彼は三十五歳の若さながら元首になり、今までペイパスを守ってきた存在だ……」
それを言うと群衆から拍手が上がった。中には涙を流すものもいる。
それを見てレフィザーはただ頭を下げるだけだった。
「……さて、今日をもってペイパス王国もヴァリエイブル連合王国の一員となった。そしてその為に新たな制度を導入すべきである。それは自由を伴う制度だ。だが自由過ぎると人は毒されてしまうから、適度な形になる。まだ探り探りにはなってしまうが……私は今ここで宣言する」
ラグストリアルは仕舞った左手を再び掲げた。
「今ここに、ヴァリエイブル連邦王国に国名を変えることを宣言する。とはいえ、国の体制がそこまで大きく変わるわけではない。だがこれは、ヴァリエイブル連邦王国が永世の平和を願って、体制を連邦制にすることとした。残念ながらこれは各地域の自由を完全に保証するわけではない。しかしながらこれによって大きく我が国は進歩する……そう考えている」
観衆のざわつきは、もうこの時点でほとんど無くなっていた。
「……本日をもって、ペイパス王国という名前は無くなってしまう。だが、それは私たちの中に残るし、ペイパスはまだヴァリエイブル連邦王国の中に入ったとしても存在することとなる。だから、決して悲しんではいけないのだ。我々は前に進むべきなのだから……」
そう、ラグストリアルがスピーチを締めくくった、ちょうどその時だった。
「なぁにが、『前に進むべき』だあ!!」
群衆の中から野太い声が響き渡った。
それを聞いて群衆の中もざわつき始めた。
「せ、静粛に!!」
ラフターがマイクを手に取り、その男に声をかける。
男はそれに答えず、何かを取り出して、それを投げた。
「陛下っ!!」
ラフターはラグストリアルの前にたち、両手を広げる。
刹那、彼の目の前には薄膜が展開された。いや……薄膜ではなく、シールドと呼ぶほうが正しいだろう。事実、ラフターはラグストリアルを守るために防御魔法を展開したのだ。
「何者! さっさと捕らえなさい!!」
そう激昂して、ラフターは振り返る。
「陛下、ご無事ですか」
「ああ、なんとかな。にしても、あれは……?」
「わかりません! ですが、陛下を攻撃しようとした、これは即ち国賊と言っても過言ではありませんっ!!」
ラフターはそう言いながら、ラグストリアルの肩を持って速やかに退場させた。
レフィザーもそれを見ながら、退場していった。
さて、ラグストリアルに何かを投げた男は逃げることなく、徐々に警備の人間に追い詰められていた。
「抵抗はやめろ。貴様はもう先程の時点で重罪であることが確定している。逃げても無駄だ」
警備の声を聞いても、男は臆することはなかった。それどころか笑っているのだ。
この状況にあっても、笑っていられるのだ。
「……何がおかしい」
「いやぁ。君たち国につかえる人間というのはひどく面白いものだなあ……とね? 思っているのだよ。君たちは意味を考えたことはないか? どうして自分がこの国に仕えているのか。自分の実力はもっとあるのではないか……と」
警備の人間も男の迫力に圧倒される。が、だからといって後退することはない。
男の話は続く。
「だが、そんなことを考える必要は直ぐになくなる。なぜなら開かれてしまったからだ。なぜなら放たれてしまったからだ。何が放たれたかって? それは簡単だ。それは……世界を統治し、凡てに目を見張っている全知全能の神だ」
「戯言はそこまでか」
その言葉を合図にして、警備の人間は一斉に銃を上げる。
「おやおや、そんな高級なもんで殺してくれんのか……嬉しいねぇ」
そう言って男はわざとぶると、ポケットから何かを取り出した。
「だけど、構わないよ。きちんと後始末はするさ」
それはボタンだった。
そのボタンは、正体こそ知らなかったが、嫌な予感がした。
そのボタンを奪おうと走るのと同時に――男はボタンを押した。
瞬間。閃光が男を中心にして発生した。
それからすぐ、爆発が起きた。
◇◇◇
次の日。
ラグストリアルの機嫌はとても悪かった。
「……まさかあの会場にテロ集団の一員が紛れ込んでいるとは……」
「でも『赤い翼』関連ではなさそうですね」
ラグストリアルとハリー騎士団副騎士団長マーズ・リッペンバー、さらにメルキオール騎士団騎士団長ヴァルベリー・ロックンアリアーは王の間にて対談を行っていた。
議題は専ら昨日のテロ行動についてである。
「……赤い翼ではない。それは確かだ。赤い翼は殲滅したし、唯一残っている関連の組織『新たなる夜明け』もハリー騎士団が監視しているはず。そうだろう?」
ラグストリアルの言葉にマーズは言葉もなく頷く。
「実はな……このようなものが発見されたのだよ」
そう言ってラグストリアルは何かをポケットから取り出した。
それはペンダントのようだった。ついているアクセサリーは小さな扉だった。それも両方についており、観音開きに開くようになっている。
「……それは?」
ヴァルベリーが訊ねる。
「法王庁に務める人間が持つという『パスコード』……ですって!?」
それに答えたのはマーズだった。
その言葉にラグストリアルは頷く。
「そうだ。これは法王庁の人間が持つモノ。つまりあのテロは……法王庁が行ったということだ」
「でも法王庁がそんなことを為出かすメリットなんてありませんよ? ただでさえ我が国にリリーファーの戦力が集まっているというのに、宣戦布告に近いことをするはずがないと思いますが……」
「それは私も思っていてな。……それで、ここにイニシャルが彫ってあるのだよ。『MC』とな。MC……そして法王庁。この二つが繋ぐ人物を、私はたった一人しか知らん」
「その人間の名前は……?」
気になったマーズが、ラグストリアルに訊ねる。
「メル・クローテ。神学者だよ。もともと我が国にも勉強に来ていたし、学術を教えていたのだが……やつがあることをしてな。それで国外追放かつ無期限の入国禁止処分を下した」
「何をしたと?」
ラグストリアルは頷く。
「地図の国外持ち出しだ」
地図。
衛星により全世界の地図情報が見ることが出来るようになった昨今では、『地図』というと紙の地図ではなく、データのことをいう。
それも外部では見ることのできない軍事基地や有事の際に用いるシェルター、さらには王城や王家の避難地など凡てが書かれているデータだ。もちろん軍事機密になっている。
しかしメル・クローテはどうにか軍とのコネクションをもってそれを手に入れた。しかし直ぐに気づかれ、データは没収、そして国外追放処分になったのだ。
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