絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百五話 こころ
それを撃ったのは、間違いなくペルセポネであった。
ペルセポネの起動従士、テルミー・ヴァイデアックスは漸く自分が置かれている立場を理解した。
「いったい……これはどういうことなの……!」
テルミーは今まで自分の状況について激しく苛まれていた。
しかしながら、それをしていたせいで、彼女は眠れる獅子を起こしてしまった、そういうことだった。
「あの躯体……インフィニティか? しかし今までと比べればフォルムが違ったものとなっている気がするが……」
彼女ははじめて意識して、インフィニティ・シュルトの姿を見た。
それは宛ら、『鬼神』のようにも思えた。
鬼のような存在。インフィニティ・シュルトをはじめて見た彼女は、そのように思ったことだろう。
「あんな存在が……あんな恐ろしいリリーファーが、いてたまるか! あってたまるか!」
テルミーは叫んだが、それがインフィニティ・シュルトに乗り込む崇人に聞こえるはずもない。
テルミーは震えていた。あんな存在と――これから戦うのだと思うと。
インフィニティ・シュルトに撃ったはずのレーザーはアレスに命中してしまった。彼女にとってこれは誤算だった。
インフィニティ・シュルトの目があちら側に向いているうちに最高出力のレーザーをぶっ放し、インフィニティ・シュルトに幾らかのダメージを与えようと思っていた。
しかし、こうとなれば凡て水の泡だった。もう逃げるほか、手段はない。
リリーファー同士の戦闘においても敵前逃亡というのは、あまりにもみすぼらしい。
「だからといって……あれから逃げなかったら私の身が持たない。ったくアレスめ、余計なことをしやがって……!」
彼女はそう言って舌打ちするが、そうしたからといって、事態が変わるわけでもない。寧ろ、早く決断しなければペルセポネは粉々に砕け散るかもしれない。
ならば、だとするならば。
やるしかない、やらざるを得ない。
何としてでも、インフィニティ・シュルトを行動不能にまで陥らせなくてはならない。
ならば、一人では無理だ。
ならば、誰かに協力を仰ぐか? そう思い彼女は辺りを見渡すも、味方の軍は既に全滅していた。
味方など、たった一人も居るわけが無かった。
「結局、一人でやるしかない……そういうことか」
テルミーは考えを自己完結させ、そして、改めてインフィニティ・シュルトが居るはずの正面を見た。
――が、そこにインフィニティ・シュルトとアレスの姿は無かった。
瞬間、ペルセポネが横からの衝撃をモロにくらった。
「くっ……!!」
コックピットは、リリーファーの躯体に伝わる衝撃をなるべくそこに伝わらせないような構造になっている。
しかしながら、それによる衝撃の緩和があったにしろ、コックピットは激しい振動に襲われた。
振り返ると、そこに――居た。
インフィニティ・シュルト。
インフィニティから進化した、第二形態。
シリーズ、帽子屋が企むインフィニティ計画の第二形態でもある。
それが、ペルセポネの目の前にまで迫っていた。
――怖い。
テルミーは気が付けば、そんな一言を呟いていた。
起動従士は、特にテルミーは、様々な戦場をくぐり抜けた存在だ。
そんな彼女が、「怖い」と呟いた?
無意識だったにしろ、そんな言葉を呟いた?
「いや……そんなことは有り得ない!」
インフィニティ・シュルトは何度も何度も何度も何度もその拳をペルセポネの躯体に叩きつける。
そんなもので壊れるはずがない――テルミーはそう思っていた。
しかしながら。
ミシミシと音を立てるペルセポネの躯体は、徐々に限界を迎えつつあった。
彼女はそれに気付くこともなかった。慢心していたとも云える。
そして。
ペルセポネの躯体が、音を立てて砕けた。
躯体の一部が破壊され、外からコックピットが丸見えになる。しかしながら、コックピットは躯体よりもさらに頑丈に制作されている。
だから、そう簡単に壊せるはずがないのだ。
「躯体が壊れたからといって……なめるんじゃあないわよ!!」
そして、ペルセポネは体の向きをインフィニティ・シュルトに合わせ、リリーファーコントローラーを強く握る。
「インフィニティを……吹っ飛ばしてやる」
ペルセポネから、収納していたレーザーを撃つための銃口を出す。そして、リリーファーコントローラーを前へと突き出す。
「これで、チェックメイトだ」
だが、それよりも早く。
インフィニティ・シュルトの拳が、ペルセポネのコックピットを破壊した。両手で、最高出力で、勢いよく。コックピットを完膚無きまでに破壊した。
その力はコックピットを破壊しただけに留まらず、ペルセポネの躯体を真っ二つにした。そして、インフィニティ・シュルトの拳が地面まで振り下ろされると同時に、真っ二つになったペルセポネが地面に倒れた。
◇◇◇
それを見ていたアレス、アクアブルーニュンパイ、グリーングリーンニュンパイ、アシュヴィンはただただ愕然としていた。
インフィニティ・シュルトが、拳だけでリリーファーを破壊した、その惨劇を目の当たりにして、震えが止まらなかった。
武器も使わずに、拳だけでリリーファーを破壊したインフィニティ・シュルトを止めることが出来るのだろうか。
「……行くわよ、みんな」
マーズの言葉を聞いて、誰も通信を返すことはなかった。
(当たり前ね……。ペルセポネはペイパス王国最強のリリーファー。それが拳だけで真っ二つにされた。それを目の前で見てしまえば……戦意が喪失しない方がおかしい)
だが、彼女はまだ諦めてはいなかった。
彼は、崇人は、元の世界に戻りたいと言っていた。
なのに、このような場所で燻っていてはいけない――マーズはそう思ったのだ。
「タカト――ッ!!」
そして、アレスは単身背を向けているインフィニティ・シュルトへと走り出した。
◇◇◇
インフィニティ・シュルト内部。
崇人はぶつぶつと呟いていた。
それは傍から見れば恐ろしい人間にも見える。気が触れた人間が行っている行為であるという風に見ることが出来る。
「エスティ、許してくれ、エスティ……僕は悪くない……僕は悪くないんだ……」
未だ、崇人の脳内ではエスティがずっと呪いの言葉を唱えていた。
そんなもの、デタラメであるというのに。
彼の目にはエスティが死んだ時の、あの表情が未だに焼きついている。
彼女を救うことは出来なかったのか。
どうしてあの場面で自分は立ち止まってしまったのか。
『ねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうして――』
「うるさいうるさい!! 頼むから……頼むから、声をかけないでくれ!」
エスティの声が彼の脳内にこだまする。
――どうしてあなたは生きているの?
エスティは、エスティは、エスティは。
どうして、どうして、どうして、死んでしまった。
どうして目の前で死んでしまった。
どうしてどうしてどうして――!
崇人は今、硬い殻に篭っていた。
閉じこもって、一人だけの世界に明け暮れていた。
だからインフィニティ・シュルトは、彼の支配下には置かれていない。
インフィニティ・シュルトは崇人の憎悪によって支配される――そんな罪深い形態であった。
ペルセポネの起動従士、テルミー・ヴァイデアックスは漸く自分が置かれている立場を理解した。
「いったい……これはどういうことなの……!」
テルミーは今まで自分の状況について激しく苛まれていた。
しかしながら、それをしていたせいで、彼女は眠れる獅子を起こしてしまった、そういうことだった。
「あの躯体……インフィニティか? しかし今までと比べればフォルムが違ったものとなっている気がするが……」
彼女ははじめて意識して、インフィニティ・シュルトの姿を見た。
それは宛ら、『鬼神』のようにも思えた。
鬼のような存在。インフィニティ・シュルトをはじめて見た彼女は、そのように思ったことだろう。
「あんな存在が……あんな恐ろしいリリーファーが、いてたまるか! あってたまるか!」
テルミーは叫んだが、それがインフィニティ・シュルトに乗り込む崇人に聞こえるはずもない。
テルミーは震えていた。あんな存在と――これから戦うのだと思うと。
インフィニティ・シュルトに撃ったはずのレーザーはアレスに命中してしまった。彼女にとってこれは誤算だった。
インフィニティ・シュルトの目があちら側に向いているうちに最高出力のレーザーをぶっ放し、インフィニティ・シュルトに幾らかのダメージを与えようと思っていた。
しかし、こうとなれば凡て水の泡だった。もう逃げるほか、手段はない。
リリーファー同士の戦闘においても敵前逃亡というのは、あまりにもみすぼらしい。
「だからといって……あれから逃げなかったら私の身が持たない。ったくアレスめ、余計なことをしやがって……!」
彼女はそう言って舌打ちするが、そうしたからといって、事態が変わるわけでもない。寧ろ、早く決断しなければペルセポネは粉々に砕け散るかもしれない。
ならば、だとするならば。
やるしかない、やらざるを得ない。
何としてでも、インフィニティ・シュルトを行動不能にまで陥らせなくてはならない。
ならば、一人では無理だ。
ならば、誰かに協力を仰ぐか? そう思い彼女は辺りを見渡すも、味方の軍は既に全滅していた。
味方など、たった一人も居るわけが無かった。
「結局、一人でやるしかない……そういうことか」
テルミーは考えを自己完結させ、そして、改めてインフィニティ・シュルトが居るはずの正面を見た。
――が、そこにインフィニティ・シュルトとアレスの姿は無かった。
瞬間、ペルセポネが横からの衝撃をモロにくらった。
「くっ……!!」
コックピットは、リリーファーの躯体に伝わる衝撃をなるべくそこに伝わらせないような構造になっている。
しかしながら、それによる衝撃の緩和があったにしろ、コックピットは激しい振動に襲われた。
振り返ると、そこに――居た。
インフィニティ・シュルト。
インフィニティから進化した、第二形態。
シリーズ、帽子屋が企むインフィニティ計画の第二形態でもある。
それが、ペルセポネの目の前にまで迫っていた。
――怖い。
テルミーは気が付けば、そんな一言を呟いていた。
起動従士は、特にテルミーは、様々な戦場をくぐり抜けた存在だ。
そんな彼女が、「怖い」と呟いた?
無意識だったにしろ、そんな言葉を呟いた?
「いや……そんなことは有り得ない!」
インフィニティ・シュルトは何度も何度も何度も何度もその拳をペルセポネの躯体に叩きつける。
そんなもので壊れるはずがない――テルミーはそう思っていた。
しかしながら。
ミシミシと音を立てるペルセポネの躯体は、徐々に限界を迎えつつあった。
彼女はそれに気付くこともなかった。慢心していたとも云える。
そして。
ペルセポネの躯体が、音を立てて砕けた。
躯体の一部が破壊され、外からコックピットが丸見えになる。しかしながら、コックピットは躯体よりもさらに頑丈に制作されている。
だから、そう簡単に壊せるはずがないのだ。
「躯体が壊れたからといって……なめるんじゃあないわよ!!」
そして、ペルセポネは体の向きをインフィニティ・シュルトに合わせ、リリーファーコントローラーを強く握る。
「インフィニティを……吹っ飛ばしてやる」
ペルセポネから、収納していたレーザーを撃つための銃口を出す。そして、リリーファーコントローラーを前へと突き出す。
「これで、チェックメイトだ」
だが、それよりも早く。
インフィニティ・シュルトの拳が、ペルセポネのコックピットを破壊した。両手で、最高出力で、勢いよく。コックピットを完膚無きまでに破壊した。
その力はコックピットを破壊しただけに留まらず、ペルセポネの躯体を真っ二つにした。そして、インフィニティ・シュルトの拳が地面まで振り下ろされると同時に、真っ二つになったペルセポネが地面に倒れた。
◇◇◇
それを見ていたアレス、アクアブルーニュンパイ、グリーングリーンニュンパイ、アシュヴィンはただただ愕然としていた。
インフィニティ・シュルトが、拳だけでリリーファーを破壊した、その惨劇を目の当たりにして、震えが止まらなかった。
武器も使わずに、拳だけでリリーファーを破壊したインフィニティ・シュルトを止めることが出来るのだろうか。
「……行くわよ、みんな」
マーズの言葉を聞いて、誰も通信を返すことはなかった。
(当たり前ね……。ペルセポネはペイパス王国最強のリリーファー。それが拳だけで真っ二つにされた。それを目の前で見てしまえば……戦意が喪失しない方がおかしい)
だが、彼女はまだ諦めてはいなかった。
彼は、崇人は、元の世界に戻りたいと言っていた。
なのに、このような場所で燻っていてはいけない――マーズはそう思ったのだ。
「タカト――ッ!!」
そして、アレスは単身背を向けているインフィニティ・シュルトへと走り出した。
◇◇◇
インフィニティ・シュルト内部。
崇人はぶつぶつと呟いていた。
それは傍から見れば恐ろしい人間にも見える。気が触れた人間が行っている行為であるという風に見ることが出来る。
「エスティ、許してくれ、エスティ……僕は悪くない……僕は悪くないんだ……」
未だ、崇人の脳内ではエスティがずっと呪いの言葉を唱えていた。
そんなもの、デタラメであるというのに。
彼の目にはエスティが死んだ時の、あの表情が未だに焼きついている。
彼女を救うことは出来なかったのか。
どうしてあの場面で自分は立ち止まってしまったのか。
『ねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうしてねえどうして――』
「うるさいうるさい!! 頼むから……頼むから、声をかけないでくれ!」
エスティの声が彼の脳内にこだまする。
――どうしてあなたは生きているの?
エスティは、エスティは、エスティは。
どうして、どうして、どうして、死んでしまった。
どうして目の前で死んでしまった。
どうしてどうしてどうして――!
崇人は今、硬い殻に篭っていた。
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