絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百四話 インフィニティ・シュルト
「あなた……ほんとうに最低ね」
バンダースナッチはそう言ったが、しかし帽子屋はそれについてただ笑うだけだった。まるで、自分が考えたことに失敗などない――そう言いたげだった。
「最低だとか最高だとか、決めるのは人それぞれが持つ基準によるものだ。だってそうだろう? 君が『最低』だと思ったから僕を最低と罵った。別に構わないよ、そんなことは……。何れ、そんなことなんて考えなくていい、そんな時代が来るのだから」
「そんな……時代? あなたはいったい、何を計画しているというの?」
バンダースナッチがさらに訊ねようとしたが、帽子屋は唇に指を当てて、小さく微笑んだ。
「あとは、また別の機会だ。今はこれまでしか教えられないが、何れ全員に『インフィニティ計画』の全容を伝える時が来るだろう。その時が来るのは……そう遠くないだろうね」
そう言って。
何かを確信したように、帽子屋は口を綻ばせた。
◇◇◇
血が噴いた。
頑丈と思えたインフィニティの躯体だが、しかしそれを操縦する起動従士の身体は頑丈とはいえない。
インフィニティの欠点の一つでもあるが、しかしそれは立派な特徴とも呼べる。
インフィニティは、全力を出せない。
インフィニティは高い戦闘能力を誇っているのは最高の性能があるゆえの話である。
しかし、その最高の性能をフル活用しようと思うと、それに起動従士の身体が耐えきれないのだ。
起動従士の身体が弱いから、インフィニティは全力を出せない――話だけを聞けば、滑稽な話である。
しかしながら、それが滑稽であると思いたくないのが、一人残された魔法剣士団のリーダー、エレンだった。
彼女は今、震えていた。その姿は、あまりにも惨めだ。無惨だ。だが、それを咎める者など、今は居ない。
「……なんだ、なんだ、なんだというのだ、あれは!」
エレンは震える身体を抑えながら、それを見る。
そこには、インフィニティが居た。
しかし、その姿は大きく変わっていた。
巨大だった銀の躯体はどこかスマートになって、カラーリングも青になっていた。また、ボディラインも人間らしいものとなっていた。
腰を曲げ、犬歯を見せ唸り声を上げるそれは、まるで獣そのものだった。
グルル……と唸るインフィニティを見て、エレンは恐怖よりも疑問が浮かんだ。
――あれは本当にリリーファーなのか?
リリーファーはロボットである、というのが科学者たちの見解、そして起動従士たちが知っている常識である。
しかしながら、あのインフィニティの姿を見れば、それが明らかに違うことが解る。
ならば、インフィニティはリリーファーではない、ほかの存在なのだろうか? そうだとしたら、あれはいったいなんだというのか?
リリーファーでないのならば――何か別の定義があるはずだ。
インフィニティは――リリーファーなのか?
エレンはそんな考えを巡らせたままで、その場から動くことはなかった。動揺こそしていたが、先ずは相手の力を見定める必要があるからだ。
しかしながら。
彼女は油断していた。
そしてその状況を嘗めていた。
インフィニティという存在は、常に人間の考えを上回る、恐ろしいリリーファーであるということを。
◇◇◇
「インフィニティ・シュルト。それがあれの名前だ」
帽子屋がそう言うと、ハンプティ・ダンプティは首を傾げる。
「シュルト……どこかの言葉で『罪』だったかな」
「そうだ。責任とも、罪とも言う。このフォルムにはとても似合った名前だと思うよ」
「シュルト、ねえ。……これがあなたの考えていた計画の一つ?」
「一つではあるね。完全体ではない。だが、だいぶ進んだのも事実だ」
帽子屋はそう言って言葉を濁した。
「……君はまだ何かを隠しているようだね、帽子屋」
「ん、そうかな?」
ハンプティ・ダンプティからの言葉をさらりと流した帽子屋は、モニターを指差す。
「さあ……クライマックスだよ。このカーネルの話も、ね」
そして彼らは再び、モニターに集中した。
◇◇◇
その頃。
インフィニティ・シュルトはもはや誰も味方とは認識していなかった。とはいえ、誰も敵とも認識していなかった。
強いて言うならば、インフィニティ・シュルトに敵対する凡てが、インフィニティ・シュルトにとっての敵と云える。
インフィニティ・シュルトは理性を失った代わりに、体力や運動神経といった駆動力が倍増している。まさに『暴走』という一言が相応しい。
コックピット内部に居る崇人は、もはや操縦をしていなかった。
インフィニティにあるOS、フロネシスと崇人が一心同体となってしまい、フロネシスに崇人の意識が乗り移っているのが原因であるといえる。
フロネシスと崇人が一心同体となる――シンクロすることで、インフィニティは新たな形態へと変化する。
だが。
崇人がそれを意識して行ったのかと言われれば、それはだれにも解らないのであった。
そして、彼に向かう集団が居た。
彼が騎士団長を務める、ハリー騎士団。
そしてその先頭を走るのは、マーズが乗り込むリリーファー『アレス』だ。
アレスの中に居るマーズは、インフィニティ・シュルトを見て愕然としていた。
「何だよあれは! インフィニティにフォルムチェンジなどという機能があったのか!? いや、そもそもインフィニティ……あれはリリーファーなのか!!」
概ねエレンと同じような意見を述べるも、その足を止めることはない。
彼女たちは、暴走しているインフィニティを止めなくてはならないのだ。
彼女たちは、悲しみに暮れるタカトを止めなくてはならないのだ。慰めてあげなくてはならないのだ。
「総員、作戦は頭にはっきりと叩き込んだな!! 作戦の確認をする必要はもはやない!!」
マイクを通して、ハリー騎士団の面々にマーズの声が届く。
そして。
マーズはリリーファーコントローラーを強く握った。
その瞬間だった。
アレスからレーザーが放たれた。そのレーザーの出力はリリーファーの中でも高く、インフィニティ・シュルトの躯体を貫くことはないにしろ、そのレーザーで傷が付くことは、まず間違いなかった。
――はずだった。
――はずだったのに。
「嘘……どうして、傷一つついていないの……!」
そう。
インフィニティ・シュルトの躯体には傷一つついていなかった。
アレスの出せる、最高出力のレーザーであったにもかかわらず。
それは傷一つつかず、寧ろ、レーザーが撃たれたかもどうか解らないような、そんな感じだった。
そしてインフィニティ・シュルトは、アレスに向かって走ってくる。
敵対したから、インフィニティ・シュルトは『ターゲット』としてしまったのだ。
インフィニティ・シュルトは駆け出してくる。
アレスはそれを待ち構える。
十メートル、五メートル、三メートル、その差は徐々に縮まっていく。
そして、一メートルにまでその差が縮まったとき――アレスの腕がインフィニティ・シュルトの足を掴んだ。
「!!」
インフィニティ・シュルトは困惑し、それを離そうとするが、しかしそれよりもアレスの力のほうが強かった。
「インフィニティ、捕まえたり!」
其の時、彼女は完全に油断していた。
敵は、インフィニティ・シュルト以外にいることを、完全に忘れていた。
それは、彼女にとって、痛恨のミスだった。
『マーズさん、後ろ!!』
コルネリアからそう言われた時には、もう遅かった。
刹那、アレスの背中にレーザーが命中した。
バンダースナッチはそう言ったが、しかし帽子屋はそれについてただ笑うだけだった。まるで、自分が考えたことに失敗などない――そう言いたげだった。
「最低だとか最高だとか、決めるのは人それぞれが持つ基準によるものだ。だってそうだろう? 君が『最低』だと思ったから僕を最低と罵った。別に構わないよ、そんなことは……。何れ、そんなことなんて考えなくていい、そんな時代が来るのだから」
「そんな……時代? あなたはいったい、何を計画しているというの?」
バンダースナッチがさらに訊ねようとしたが、帽子屋は唇に指を当てて、小さく微笑んだ。
「あとは、また別の機会だ。今はこれまでしか教えられないが、何れ全員に『インフィニティ計画』の全容を伝える時が来るだろう。その時が来るのは……そう遠くないだろうね」
そう言って。
何かを確信したように、帽子屋は口を綻ばせた。
◇◇◇
血が噴いた。
頑丈と思えたインフィニティの躯体だが、しかしそれを操縦する起動従士の身体は頑丈とはいえない。
インフィニティの欠点の一つでもあるが、しかしそれは立派な特徴とも呼べる。
インフィニティは、全力を出せない。
インフィニティは高い戦闘能力を誇っているのは最高の性能があるゆえの話である。
しかし、その最高の性能をフル活用しようと思うと、それに起動従士の身体が耐えきれないのだ。
起動従士の身体が弱いから、インフィニティは全力を出せない――話だけを聞けば、滑稽な話である。
しかしながら、それが滑稽であると思いたくないのが、一人残された魔法剣士団のリーダー、エレンだった。
彼女は今、震えていた。その姿は、あまりにも惨めだ。無惨だ。だが、それを咎める者など、今は居ない。
「……なんだ、なんだ、なんだというのだ、あれは!」
エレンは震える身体を抑えながら、それを見る。
そこには、インフィニティが居た。
しかし、その姿は大きく変わっていた。
巨大だった銀の躯体はどこかスマートになって、カラーリングも青になっていた。また、ボディラインも人間らしいものとなっていた。
腰を曲げ、犬歯を見せ唸り声を上げるそれは、まるで獣そのものだった。
グルル……と唸るインフィニティを見て、エレンは恐怖よりも疑問が浮かんだ。
――あれは本当にリリーファーなのか?
リリーファーはロボットである、というのが科学者たちの見解、そして起動従士たちが知っている常識である。
しかしながら、あのインフィニティの姿を見れば、それが明らかに違うことが解る。
ならば、インフィニティはリリーファーではない、ほかの存在なのだろうか? そうだとしたら、あれはいったいなんだというのか?
リリーファーでないのならば――何か別の定義があるはずだ。
インフィニティは――リリーファーなのか?
エレンはそんな考えを巡らせたままで、その場から動くことはなかった。動揺こそしていたが、先ずは相手の力を見定める必要があるからだ。
しかしながら。
彼女は油断していた。
そしてその状況を嘗めていた。
インフィニティという存在は、常に人間の考えを上回る、恐ろしいリリーファーであるということを。
◇◇◇
「インフィニティ・シュルト。それがあれの名前だ」
帽子屋がそう言うと、ハンプティ・ダンプティは首を傾げる。
「シュルト……どこかの言葉で『罪』だったかな」
「そうだ。責任とも、罪とも言う。このフォルムにはとても似合った名前だと思うよ」
「シュルト、ねえ。……これがあなたの考えていた計画の一つ?」
「一つではあるね。完全体ではない。だが、だいぶ進んだのも事実だ」
帽子屋はそう言って言葉を濁した。
「……君はまだ何かを隠しているようだね、帽子屋」
「ん、そうかな?」
ハンプティ・ダンプティからの言葉をさらりと流した帽子屋は、モニターを指差す。
「さあ……クライマックスだよ。このカーネルの話も、ね」
そして彼らは再び、モニターに集中した。
◇◇◇
その頃。
インフィニティ・シュルトはもはや誰も味方とは認識していなかった。とはいえ、誰も敵とも認識していなかった。
強いて言うならば、インフィニティ・シュルトに敵対する凡てが、インフィニティ・シュルトにとっての敵と云える。
インフィニティ・シュルトは理性を失った代わりに、体力や運動神経といった駆動力が倍増している。まさに『暴走』という一言が相応しい。
コックピット内部に居る崇人は、もはや操縦をしていなかった。
インフィニティにあるOS、フロネシスと崇人が一心同体となってしまい、フロネシスに崇人の意識が乗り移っているのが原因であるといえる。
フロネシスと崇人が一心同体となる――シンクロすることで、インフィニティは新たな形態へと変化する。
だが。
崇人がそれを意識して行ったのかと言われれば、それはだれにも解らないのであった。
そして、彼に向かう集団が居た。
彼が騎士団長を務める、ハリー騎士団。
そしてその先頭を走るのは、マーズが乗り込むリリーファー『アレス』だ。
アレスの中に居るマーズは、インフィニティ・シュルトを見て愕然としていた。
「何だよあれは! インフィニティにフォルムチェンジなどという機能があったのか!? いや、そもそもインフィニティ……あれはリリーファーなのか!!」
概ねエレンと同じような意見を述べるも、その足を止めることはない。
彼女たちは、暴走しているインフィニティを止めなくてはならないのだ。
彼女たちは、悲しみに暮れるタカトを止めなくてはならないのだ。慰めてあげなくてはならないのだ。
「総員、作戦は頭にはっきりと叩き込んだな!! 作戦の確認をする必要はもはやない!!」
マイクを通して、ハリー騎士団の面々にマーズの声が届く。
そして。
マーズはリリーファーコントローラーを強く握った。
その瞬間だった。
アレスからレーザーが放たれた。そのレーザーの出力はリリーファーの中でも高く、インフィニティ・シュルトの躯体を貫くことはないにしろ、そのレーザーで傷が付くことは、まず間違いなかった。
――はずだった。
――はずだったのに。
「嘘……どうして、傷一つついていないの……!」
そう。
インフィニティ・シュルトの躯体には傷一つついていなかった。
アレスの出せる、最高出力のレーザーであったにもかかわらず。
それは傷一つつかず、寧ろ、レーザーが撃たれたかもどうか解らないような、そんな感じだった。
そしてインフィニティ・シュルトは、アレスに向かって走ってくる。
敵対したから、インフィニティ・シュルトは『ターゲット』としてしまったのだ。
インフィニティ・シュルトは駆け出してくる。
アレスはそれを待ち構える。
十メートル、五メートル、三メートル、その差は徐々に縮まっていく。
そして、一メートルにまでその差が縮まったとき――アレスの腕がインフィニティ・シュルトの足を掴んだ。
「!!」
インフィニティ・シュルトは困惑し、それを離そうとするが、しかしそれよりもアレスの力のほうが強かった。
「インフィニティ、捕まえたり!」
其の時、彼女は完全に油断していた。
敵は、インフィニティ・シュルト以外にいることを、完全に忘れていた。
それは、彼女にとって、痛恨のミスだった。
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