絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第八十四話 第五世代(前編)
崇人とエスティは下水道を進んでいた。
カーネルには下水道が網目のようになっており、即ちそれを通ることで様々な場所に行くことができる。
裏を返せば、下水道さえ通れればどこへでも行けるということだ。
「この下水道を通ればいいとか言われたけれど……本当に辿り着くのか?」
崇人は訊ねるが、到底答えなど求めてはいない。
何故ならエスティにも解らないことなのだから。少なくとも、この問いは、今ここにいる二人に答えられるものではない。
彼らの目的は、第五世代のリリーファーについて情報を掴むこと、それ以外にほかならない。それ以外に関してはマーズたちが行うのだという。それを聞いて崇人は安心したが、それでも一抹の不安が残っていた。
マーズはカーネルについてよく知っていない。それも言えば崇人なんてこの世界についてまったく知らないというのに、何を烏滸がましいことを言っているのかということになる。
カーネルの実力は未知数だ。何も戦力を一極集中させているとは思えない。リリーファーの研究のみに力を注いでいるわけではなく、他の研究も行っているのもまた事実だろう。それはヴァリエイブルだって変わらない。
ヴァリエイブルもカーネルも、何も一極集中に拘っているわけではないし拘っていないのが事実だ。
「一先ず、この下水道を抜ければ着く、とはこの地図に書いてあるけれど……」
エスティは手に持っている地図を見てそう言った。
「それじゃあ」
そう言って、崇人は上を指差す。
そこには、マンホールがあった。そこからは光が漏れていた。
「ここから外に出ればなんとかなるかな」
外に出ると、そこは廊下だった。窓からは光が漏れていて、まだそこまで時間が経っていないことが見て取れる。
廊下を見て、人の気配が居ないことを理解して、彼らは漸くマンホールから外に出る。
そこは学校の廊下だったらしいが、音が一切ない空間は心理的に圧迫感を感じさせる。
「……ここは、学校か」
一先ず、崇人は事実を確認する。
「それじゃあ、第五世代の情報は見つからないんじゃあない?」
「そうだと思うか? 結局解らないわけではないぞ。……そうだ、図書館でも行けばそれに近い情報が手に入るかもしれない。第五世代のリリーファーは門外不出だったが、ここは門の中だ。門の中なら自由かもしれない」
そんなことを言ったが、それが正しいとは思っていない。寧ろ間違っているようにも見えるが、少しずつ慎重に考えると、そんなことは有り得ないという一つの結論に辿り着いた。
何故ならここはカーネルの中でラトロの次にリリーファーのある場所だからだ。起動従士は何も操縦の仕方だけ学ぶ訳ではなく、リリーファーそのものについて学ぶ必要もある。
動かす物を学ばなければ、それを動かすことなど到底出来はしない。
だからここにはリリーファーに関する書物がたくさんあるはずなのだ。
崇人はそんな思いを抱きながらエスティと共に図書室を探した。
◇◇◇
図書室は思ったよりも簡単に見つかった。彼らが侵入した廊下の、その突き当たりにあったのである。
「こんな近くにあるとはな……」
図書室の扉は開け放たれていて、少なくとも外から見た限りでは中に誰も居ないようだった。
中に入ると、一層圧迫感が増した。
大量にある本棚と、それいっぱいに詰め込まれている書物が原因のようだった。
「ここから探すのは至難の技だな……」
崇人は呟いて、右手の方を指差した。
「俺はこれから向こう側を見て回る。だからエスティは逆側を見てくれないか」
「解った。それじゃあ」
そう言ってエスティは小さく手を振って彼らは別れた。
とはいえ元から大量に、それこそ堆く積み上げられた書物を一目通すだけで日が暮れそうだが、だからといって崇人は正直に凡ての書物を見るつもりもなかった。
ある程度、方針を立てていたためである。これについては日本に居た企業戦士時代に培った業だ。
先ずジャンルを『工学』に定める。次いで端書きに何世代のものか書かれているかを見て、その内容を確認する。
それにより、大体七割近い書物が除外出来る。とはいえ、まだ三割存在するのだが。
ともかく大多数の書物が除外出来たのは事実だ。これにより再びカテゴライズし、最終的に七つの小分類に分割することが出来た。残りはこの小分類をしらみ潰しに見ていくだけである。
崇人としては早く見つけたかったが、この大量にある書物の前にただただ圧倒されるのみで、それを抑え込むだけで精一杯だった。
「……やっぱり探すほかないんだよなあ」
崇人はそう言って一冊目の書物を取り出す。赤茶けたハードカバーの書物だった。書物の表紙を開けると、ところどころ穴が空いていて見えなかった。
辛うじて見た中身が紅茶のレシピであることが判明し、崇人は思い切り書物を床に叩きつけた。
「なんでこんなものがあるんだよっ!」
そうして、再び別の書物を取り出す。
タイトルにはこう書かれていた。
――『第五世代リリーファー「ムラサメ」とは』
「これだ」
小さく呟くと、彼はその書物を食い入るように見始めた。
第五世代リリーファー、ムラサメとはラトロが製造した最新型リリーファーである。半年前に製造を終了したニュンパイなどもはや敵ではない。
ラトロは自らをライバルとしてリリーファーの製造に応る。その為ではあるが、結果として性能が向上するのだ。
しかしそれは単なるバージョンアップではない。姿形が変わってしまうほどにその性能を上げる。ゆえに、どれもオンリーワンな躯体となっていた。
そんな中、作り上げた量産型リリーファー『ニュンパイ』はラトロが考える計画の第一歩として造られた、新たなリリーファーであった。
このリリーファーは様々な問題点が発覚したために市場への販売を開始し、以後世界で使われるようになった。
そして、それから。
改良に改良を重ね。
新たなリリーファーをつくりあげた。
それこそが『ムラサメ』だった。
ムラサメのコントロールは今までのリリーファーコントローラーとは異なる。何故ならば、その操縦の複雑さゆえに体感的に操縦することもままならないためである。
そのため、カーネルとして『教育』した起動従士をムラサメ専属の起動従士とする。
それこそが、魔法剣士団だ。
魔法剣士団は名前のとおり魔法も使うことが出来るのだが、そのメインの目的はムラサメを従えた『リリーファー兵団』である。かつての古文書に書かれていた機神という言い方を使うならば、『機神兵団』と名乗ってもいいのかもしれない。
では、どうやって操縦するのか?
ムラサメにはキーボードが設置されている。これでコードを入力するように制御するのである。それにより複雑化した命令も耐えることが出来る。
ムラサメには幾つかの機能がある。一つ目として『人工降雨』を挙げる。人工降雨はドライアイスを核とした弾丸を空に撃つことで人工的に雨雲を生成する機能である。それだけでは特に意味もないように思えるが、その雨は強力な酸性雨であり、ムラサメには無害だが他のリリーファーの躯体を融かしてしまうほどの強酸性である。
そこまでを見て、崇人は絶句した。
このようなリリーファーが、量産されている事実を知ったから。
一体ならともかく大量にいる。
そんな存在に、本当に勝つことは出来るのだろうか。
気付けば崇人の足は震えていた。
怖い。
そんな感情を抱いていた。
カーネルには下水道が網目のようになっており、即ちそれを通ることで様々な場所に行くことができる。
裏を返せば、下水道さえ通れればどこへでも行けるということだ。
「この下水道を通ればいいとか言われたけれど……本当に辿り着くのか?」
崇人は訊ねるが、到底答えなど求めてはいない。
何故ならエスティにも解らないことなのだから。少なくとも、この問いは、今ここにいる二人に答えられるものではない。
彼らの目的は、第五世代のリリーファーについて情報を掴むこと、それ以外にほかならない。それ以外に関してはマーズたちが行うのだという。それを聞いて崇人は安心したが、それでも一抹の不安が残っていた。
マーズはカーネルについてよく知っていない。それも言えば崇人なんてこの世界についてまったく知らないというのに、何を烏滸がましいことを言っているのかということになる。
カーネルの実力は未知数だ。何も戦力を一極集中させているとは思えない。リリーファーの研究のみに力を注いでいるわけではなく、他の研究も行っているのもまた事実だろう。それはヴァリエイブルだって変わらない。
ヴァリエイブルもカーネルも、何も一極集中に拘っているわけではないし拘っていないのが事実だ。
「一先ず、この下水道を抜ければ着く、とはこの地図に書いてあるけれど……」
エスティは手に持っている地図を見てそう言った。
「それじゃあ」
そう言って、崇人は上を指差す。
そこには、マンホールがあった。そこからは光が漏れていた。
「ここから外に出ればなんとかなるかな」
外に出ると、そこは廊下だった。窓からは光が漏れていて、まだそこまで時間が経っていないことが見て取れる。
廊下を見て、人の気配が居ないことを理解して、彼らは漸くマンホールから外に出る。
そこは学校の廊下だったらしいが、音が一切ない空間は心理的に圧迫感を感じさせる。
「……ここは、学校か」
一先ず、崇人は事実を確認する。
「それじゃあ、第五世代の情報は見つからないんじゃあない?」
「そうだと思うか? 結局解らないわけではないぞ。……そうだ、図書館でも行けばそれに近い情報が手に入るかもしれない。第五世代のリリーファーは門外不出だったが、ここは門の中だ。門の中なら自由かもしれない」
そんなことを言ったが、それが正しいとは思っていない。寧ろ間違っているようにも見えるが、少しずつ慎重に考えると、そんなことは有り得ないという一つの結論に辿り着いた。
何故ならここはカーネルの中でラトロの次にリリーファーのある場所だからだ。起動従士は何も操縦の仕方だけ学ぶ訳ではなく、リリーファーそのものについて学ぶ必要もある。
動かす物を学ばなければ、それを動かすことなど到底出来はしない。
だからここにはリリーファーに関する書物がたくさんあるはずなのだ。
崇人はそんな思いを抱きながらエスティと共に図書室を探した。
◇◇◇
図書室は思ったよりも簡単に見つかった。彼らが侵入した廊下の、その突き当たりにあったのである。
「こんな近くにあるとはな……」
図書室の扉は開け放たれていて、少なくとも外から見た限りでは中に誰も居ないようだった。
中に入ると、一層圧迫感が増した。
大量にある本棚と、それいっぱいに詰め込まれている書物が原因のようだった。
「ここから探すのは至難の技だな……」
崇人は呟いて、右手の方を指差した。
「俺はこれから向こう側を見て回る。だからエスティは逆側を見てくれないか」
「解った。それじゃあ」
そう言ってエスティは小さく手を振って彼らは別れた。
とはいえ元から大量に、それこそ堆く積み上げられた書物を一目通すだけで日が暮れそうだが、だからといって崇人は正直に凡ての書物を見るつもりもなかった。
ある程度、方針を立てていたためである。これについては日本に居た企業戦士時代に培った業だ。
先ずジャンルを『工学』に定める。次いで端書きに何世代のものか書かれているかを見て、その内容を確認する。
それにより、大体七割近い書物が除外出来る。とはいえ、まだ三割存在するのだが。
ともかく大多数の書物が除外出来たのは事実だ。これにより再びカテゴライズし、最終的に七つの小分類に分割することが出来た。残りはこの小分類をしらみ潰しに見ていくだけである。
崇人としては早く見つけたかったが、この大量にある書物の前にただただ圧倒されるのみで、それを抑え込むだけで精一杯だった。
「……やっぱり探すほかないんだよなあ」
崇人はそう言って一冊目の書物を取り出す。赤茶けたハードカバーの書物だった。書物の表紙を開けると、ところどころ穴が空いていて見えなかった。
辛うじて見た中身が紅茶のレシピであることが判明し、崇人は思い切り書物を床に叩きつけた。
「なんでこんなものがあるんだよっ!」
そうして、再び別の書物を取り出す。
タイトルにはこう書かれていた。
――『第五世代リリーファー「ムラサメ」とは』
「これだ」
小さく呟くと、彼はその書物を食い入るように見始めた。
第五世代リリーファー、ムラサメとはラトロが製造した最新型リリーファーである。半年前に製造を終了したニュンパイなどもはや敵ではない。
ラトロは自らをライバルとしてリリーファーの製造に応る。その為ではあるが、結果として性能が向上するのだ。
しかしそれは単なるバージョンアップではない。姿形が変わってしまうほどにその性能を上げる。ゆえに、どれもオンリーワンな躯体となっていた。
そんな中、作り上げた量産型リリーファー『ニュンパイ』はラトロが考える計画の第一歩として造られた、新たなリリーファーであった。
このリリーファーは様々な問題点が発覚したために市場への販売を開始し、以後世界で使われるようになった。
そして、それから。
改良に改良を重ね。
新たなリリーファーをつくりあげた。
それこそが『ムラサメ』だった。
ムラサメのコントロールは今までのリリーファーコントローラーとは異なる。何故ならば、その操縦の複雑さゆえに体感的に操縦することもままならないためである。
そのため、カーネルとして『教育』した起動従士をムラサメ専属の起動従士とする。
それこそが、魔法剣士団だ。
魔法剣士団は名前のとおり魔法も使うことが出来るのだが、そのメインの目的はムラサメを従えた『リリーファー兵団』である。かつての古文書に書かれていた機神という言い方を使うならば、『機神兵団』と名乗ってもいいのかもしれない。
では、どうやって操縦するのか?
ムラサメにはキーボードが設置されている。これでコードを入力するように制御するのである。それにより複雑化した命令も耐えることが出来る。
ムラサメには幾つかの機能がある。一つ目として『人工降雨』を挙げる。人工降雨はドライアイスを核とした弾丸を空に撃つことで人工的に雨雲を生成する機能である。それだけでは特に意味もないように思えるが、その雨は強力な酸性雨であり、ムラサメには無害だが他のリリーファーの躯体を融かしてしまうほどの強酸性である。
そこまでを見て、崇人は絶句した。
このようなリリーファーが、量産されている事実を知ったから。
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