絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第六十五話 双子
崇人が呼び出してから、その二人が崇人の目の前に来るまではそう時間はかからなかった。
それは子供だった。そしてこれを双子と言わずになんというか――コピーしたような感じだった。七三を少しボサボサにしたような髪型に、茶髪に、黒いウェットスーツ(尤も、これは新たなる夜明け全員が着用している標準装備であるが)、知らない人間を前にして恥ずかしいのか目をそらす仕草など、殆どが一緒だった。
「……あまりにも似すぎて見分けが付きませんよね……」
「そうだ。見分けがつかない」
ヴァルトは崇人の言葉を聞いて、シニカルに微笑む。
「だからこそ使える人材というわけだ。……ちなみに二人の名前は、」
「エルフィーです」
右手を挙げて、左の子が言う。
「マグラスです。エルフィーとの違いはエルフィーはリボンを付けていますが、僕は付けていません。さらに言うなら僕は男で、彼女は女です」
右の子――マグラスが右手を挙げて言う。
そう言われてみれば、エルフィーはマグラスに比べれば若干痩せている(よく見ないと、もっと言うなら二人が並んで立って見比べないと解らないくらいの誤差だ)し、顔の形もマグラスの方が若干硬ばっている。そして、エルフィーの髪を見ると申し訳無さ程度に淡いピンクのリボンを付けていた。それが違いになるのだろうが、それを知っていないと解らないくらい些細な違いだった。
「……それじゃ、この二人をそのリリーファーの起動従士とするのはどうだろう?」
「いやいやいやいや、それってどうなのよ。いくらリリーファーに乗れるといっても自称じゃない。しかも二人乗りよ? 無理に決まっているじゃないの」
「無理というから無理なんだよ。何でもかんでも先ずは挑戦だ。そうでなきゃ始まんない。ところでルミナス、この名前は?」
「アシュヴィン。とてもかっこいい名前だろう? このリリーファーの壁に刻まれていたよ」
そう言ってルミナスは彼女の後ろにある躯体を指差す。
そこには群青色の躯体があった。足には『Asuvin』と刻まれていた。
よく見ればそれは普通のリリーファーと比べれば異常といえるものだった。
腕が四本あった。人間の仕組みとは異なる、異形。
崇人はそれを見て直ぐに浮かんだのは、阿修羅だ。
阿修羅は古代ペルシアの聖典『アヴェスター』に出る最高神アフラマズダであると言われている、カミサマのことだ。実際には三面六臂であるのだが、彼はそこまで詳しいことは理解していない。
ともかく、彼はそれを見て、
「まるで阿修羅だ……」
気がつかないうちに彼の口からそれが出てしまっていたが、それは誰にも聞こえることはなかった。
「しかし……これはどう操縦すりゃいいわけなんだ? 流石に難しいだろう。二人で操縦にもなれば」
「そいつは操縦席を見てもらえれば解るんだけれど。あまりにも滑稽で難解なものよ」
ルミナスはそう言って、崇人と双子を呼んだ。
それに従って、三人はルミナスについていくこととした。
◇◇◇
マグラス、エルフィー、崇人の順で彼らはコックピットに入った。
コックピットはインフィニティやペスパに比べるととてもコンパクトなものだった。
そして特徴的なのは、目の前にある大きなキーボードにウィンドウ。パソコンがコックピットに設置されていた。
「パソコンが……どうしてここにあるんだ?」
「恐らくは複雑な命令をリリーファーに向けるとき、結局その分の選択肢を与えたりリリーファーコントローラーを用いたりするんだろうけれど、それじゃ体感的な命令が与えられないらしいんだよ。そして、これならば体感的な命令が与えられる。無限の組み合わせが可能となるわけだ」
ルミナスはそう言って、画面を指差す。
「出した命令はこちらに出力される。そして、そのまま出るわけだ。なお、ここにあるボタンを押さないと『入力完了』にはならないし、出力もされないから気をつけてね」
「二人で同時に命令を送るのか?」
崇人の問に、ルミナスは首を振る。
「そういうわけではないね。例えば、こちらは『ファーストコックピット』と呼ばれていて、もう一つあるのが『セカンドコックピット』なんだけれど、ファーストから半分命令を送って、セカンドでもう半分送ることで命令が成立したり、その逆もあるし、ファーストとセカンドが命令を送るのが何回か繰り返されるのもある。理由としては、簡単。命令が複雑になると、その分打ち込むコマンドの量も増える。一人で打つにはあまりにも多いほどに、ね。だからこそ、これを適用したんじゃないかな。しかし……もしかしたらもうラトロはこの改良版を出している可能性もあるね。なぜなら、こんなふうに気が通った二人を教育していくのはそう簡単なことじゃないから」
「なるほど」
ルミナスの言葉に、崇人は小さく頷く。
そして、視線は自然と輝いた視線をコックピットに送る二人へと向けられる。
「やってみるか?」
それは、あくまでも優しい口調で。
それは、あくまでも期待半分で。
二人は、そんな崇人の思惑を知ってか知らずか大きく頷いた。
ファーストコックピットにエルフィー、セカンドコックピットにマグラスが座り、ついに『アシュヴィン』の駆動が開始される。起動従士はいても、息の合った起動従士が二人とは今まで居なかったために、これが初めての駆動となる。一応、何が起きてもいいように救護班や整備リーダーがそばにいた。
ファーストコックピット内部、エルフィー。
『エルフィー、大丈夫?』
「ええ、大丈夫よ」
マグラスの声が聞こえて、彼女は大きく頷く。
『それじゃ、そっちでコードを入力して』
「りょーかいっと」
短く返答して、エルフィーはルミナスから言われたとおりにキーボードに打ち込んでいく。打ち込んだあとは、直ぐにエンターキーをおした。
するとキーボードが淡い緑に光り、画面に『SECOND KEYBOARD INPUT NOW』との表示が出る。この表示のあいだはセカンドコックピットにてコードが入力されていることを意味している。
淡い光が消えたのは、それから直ぐのことだった。直ぐに二人は入力完了ボタンを押す。
すると、アシュヴィンがゆっくりと駆動した。初めての駆動は、何事もなく成功したのである――。
とはいえ、まだまだ課題もたくさんあった。
アシュヴィンの効率の悪さである。
アシュヴィンは二人が揃って完了ボタンを押さないとコードが出力されない。非常に手間のかかるリリーファーであったのだ。
だからとはいえ、これを使わない手はない。
すぐさま、ハリー騎士団はこれの改良に取り掛かった。
とはいえ、そんなことが簡単にできるのかといえばそうでもない。
なぜなら、これ自体が現時点でカーネル以外に出回っていない、割と最新型のリリーファーだからだ。
だから先ずは、アシュヴィンは抜きとして、起動従士だけでカーネルに偵察へ向かうこととした。
「そうだけれど、どうやってカーネルに潜入するんだ? 入るにも門は封鎖されている……実質鎖国状態にあるんだろ?」
崇人が訊ねると、マーズは棚の上に置かれていた紙を取った。
「そんなこと、考えていないわけがないでしょう。ちゃんと抜け穴くらい考えているよ」
マーズが取った紙は地図のようだった。
地図はサウスカーネル・ステーション近辺のもので、よく見ると北方に赤いバッテンがついていた。
「ここには地下道がある。古くは地下鉄を走らせてたんだけれど……今は使われていない。そして封鎖もされていないそうよ。場所はカーネル内部に走っている地下鉄のどっかにつながっているらしいし……これを使う手はないってわけ」
それって罠じゃないのだろうか――崇人はそんなことを考えたが、既にマーズがそう決めていたのならば彼女を信じる他ないと考え、崇人は頷き、ハリー騎士団と新たなる夜明けはそこを通ってカーネルへ潜入することとした。
それは子供だった。そしてこれを双子と言わずになんというか――コピーしたような感じだった。七三を少しボサボサにしたような髪型に、茶髪に、黒いウェットスーツ(尤も、これは新たなる夜明け全員が着用している標準装備であるが)、知らない人間を前にして恥ずかしいのか目をそらす仕草など、殆どが一緒だった。
「……あまりにも似すぎて見分けが付きませんよね……」
「そうだ。見分けがつかない」
ヴァルトは崇人の言葉を聞いて、シニカルに微笑む。
「だからこそ使える人材というわけだ。……ちなみに二人の名前は、」
「エルフィーです」
右手を挙げて、左の子が言う。
「マグラスです。エルフィーとの違いはエルフィーはリボンを付けていますが、僕は付けていません。さらに言うなら僕は男で、彼女は女です」
右の子――マグラスが右手を挙げて言う。
そう言われてみれば、エルフィーはマグラスに比べれば若干痩せている(よく見ないと、もっと言うなら二人が並んで立って見比べないと解らないくらいの誤差だ)し、顔の形もマグラスの方が若干硬ばっている。そして、エルフィーの髪を見ると申し訳無さ程度に淡いピンクのリボンを付けていた。それが違いになるのだろうが、それを知っていないと解らないくらい些細な違いだった。
「……それじゃ、この二人をそのリリーファーの起動従士とするのはどうだろう?」
「いやいやいやいや、それってどうなのよ。いくらリリーファーに乗れるといっても自称じゃない。しかも二人乗りよ? 無理に決まっているじゃないの」
「無理というから無理なんだよ。何でもかんでも先ずは挑戦だ。そうでなきゃ始まんない。ところでルミナス、この名前は?」
「アシュヴィン。とてもかっこいい名前だろう? このリリーファーの壁に刻まれていたよ」
そう言ってルミナスは彼女の後ろにある躯体を指差す。
そこには群青色の躯体があった。足には『Asuvin』と刻まれていた。
よく見ればそれは普通のリリーファーと比べれば異常といえるものだった。
腕が四本あった。人間の仕組みとは異なる、異形。
崇人はそれを見て直ぐに浮かんだのは、阿修羅だ。
阿修羅は古代ペルシアの聖典『アヴェスター』に出る最高神アフラマズダであると言われている、カミサマのことだ。実際には三面六臂であるのだが、彼はそこまで詳しいことは理解していない。
ともかく、彼はそれを見て、
「まるで阿修羅だ……」
気がつかないうちに彼の口からそれが出てしまっていたが、それは誰にも聞こえることはなかった。
「しかし……これはどう操縦すりゃいいわけなんだ? 流石に難しいだろう。二人で操縦にもなれば」
「そいつは操縦席を見てもらえれば解るんだけれど。あまりにも滑稽で難解なものよ」
ルミナスはそう言って、崇人と双子を呼んだ。
それに従って、三人はルミナスについていくこととした。
◇◇◇
マグラス、エルフィー、崇人の順で彼らはコックピットに入った。
コックピットはインフィニティやペスパに比べるととてもコンパクトなものだった。
そして特徴的なのは、目の前にある大きなキーボードにウィンドウ。パソコンがコックピットに設置されていた。
「パソコンが……どうしてここにあるんだ?」
「恐らくは複雑な命令をリリーファーに向けるとき、結局その分の選択肢を与えたりリリーファーコントローラーを用いたりするんだろうけれど、それじゃ体感的な命令が与えられないらしいんだよ。そして、これならば体感的な命令が与えられる。無限の組み合わせが可能となるわけだ」
ルミナスはそう言って、画面を指差す。
「出した命令はこちらに出力される。そして、そのまま出るわけだ。なお、ここにあるボタンを押さないと『入力完了』にはならないし、出力もされないから気をつけてね」
「二人で同時に命令を送るのか?」
崇人の問に、ルミナスは首を振る。
「そういうわけではないね。例えば、こちらは『ファーストコックピット』と呼ばれていて、もう一つあるのが『セカンドコックピット』なんだけれど、ファーストから半分命令を送って、セカンドでもう半分送ることで命令が成立したり、その逆もあるし、ファーストとセカンドが命令を送るのが何回か繰り返されるのもある。理由としては、簡単。命令が複雑になると、その分打ち込むコマンドの量も増える。一人で打つにはあまりにも多いほどに、ね。だからこそ、これを適用したんじゃないかな。しかし……もしかしたらもうラトロはこの改良版を出している可能性もあるね。なぜなら、こんなふうに気が通った二人を教育していくのはそう簡単なことじゃないから」
「なるほど」
ルミナスの言葉に、崇人は小さく頷く。
そして、視線は自然と輝いた視線をコックピットに送る二人へと向けられる。
「やってみるか?」
それは、あくまでも優しい口調で。
それは、あくまでも期待半分で。
二人は、そんな崇人の思惑を知ってか知らずか大きく頷いた。
ファーストコックピットにエルフィー、セカンドコックピットにマグラスが座り、ついに『アシュヴィン』の駆動が開始される。起動従士はいても、息の合った起動従士が二人とは今まで居なかったために、これが初めての駆動となる。一応、何が起きてもいいように救護班や整備リーダーがそばにいた。
ファーストコックピット内部、エルフィー。
『エルフィー、大丈夫?』
「ええ、大丈夫よ」
マグラスの声が聞こえて、彼女は大きく頷く。
『それじゃ、そっちでコードを入力して』
「りょーかいっと」
短く返答して、エルフィーはルミナスから言われたとおりにキーボードに打ち込んでいく。打ち込んだあとは、直ぐにエンターキーをおした。
するとキーボードが淡い緑に光り、画面に『SECOND KEYBOARD INPUT NOW』との表示が出る。この表示のあいだはセカンドコックピットにてコードが入力されていることを意味している。
淡い光が消えたのは、それから直ぐのことだった。直ぐに二人は入力完了ボタンを押す。
すると、アシュヴィンがゆっくりと駆動した。初めての駆動は、何事もなく成功したのである――。
とはいえ、まだまだ課題もたくさんあった。
アシュヴィンの効率の悪さである。
アシュヴィンは二人が揃って完了ボタンを押さないとコードが出力されない。非常に手間のかかるリリーファーであったのだ。
だからとはいえ、これを使わない手はない。
すぐさま、ハリー騎士団はこれの改良に取り掛かった。
とはいえ、そんなことが簡単にできるのかといえばそうでもない。
なぜなら、これ自体が現時点でカーネル以外に出回っていない、割と最新型のリリーファーだからだ。
だから先ずは、アシュヴィンは抜きとして、起動従士だけでカーネルに偵察へ向かうこととした。
「そうだけれど、どうやってカーネルに潜入するんだ? 入るにも門は封鎖されている……実質鎖国状態にあるんだろ?」
崇人が訊ねると、マーズは棚の上に置かれていた紙を取った。
「そんなこと、考えていないわけがないでしょう。ちゃんと抜け穴くらい考えているよ」
マーズが取った紙は地図のようだった。
地図はサウスカーネル・ステーション近辺のもので、よく見ると北方に赤いバッテンがついていた。
「ここには地下道がある。古くは地下鉄を走らせてたんだけれど……今は使われていない。そして封鎖もされていないそうよ。場所はカーネル内部に走っている地下鉄のどっかにつながっているらしいし……これを使う手はないってわけ」
それって罠じゃないのだろうか――崇人はそんなことを考えたが、既にマーズがそう決めていたのならば彼女を信じる他ないと考え、崇人は頷き、ハリー騎士団と新たなる夜明けはそこを通ってカーネルへ潜入することとした。
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