絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第五十六話 The die is cast.
その頃、ヴァリス城。
ヴァリエイブル帝国第四十七代国王、ラグストリアル・リグレーは玉座でため息をついた。
そして、そのそばにはシルクハットを被り、長い黒のコートを着た黒ずくめの男が立っていた。怪しい格好ではあるが、彼はこの国の大臣――ラフター・エンデバイロンである。ラフターは小さく微笑むと、再び会話を再開させる。
今まで、ラフターが話していたのは戦果だった。正確には、今回の『ティパモール紛争』の報告書を読み上げていたのだった。ちなみに、報告書を書き上げたのは九割がマーズで、残りの一割が崇人である。軍人でもない崇人が報告書を書き上げることとなったのは、セレス・コロシアムでの『赤い翼』殲滅の立役者だから――マーズがそう主張したためである(崇人はマーズに凡てを押し付けて逃げようとしていた)。
「……さて」
その重々しい空気を、なんとか押しのけようとラグストリアルは呟く。
「私の考えをひとつ、語ってもいいだろうか」
「国王の意見を阻害することなど、私には出来ません」
そう言って、ラフターは帽子の鍔を持つ。
「ならば、話そう。実はな……私は、新たな『騎士団』を作ろうと思っている」
その言葉の意味を、嫌でもラフターは知っている。
騎士団の設立。それは、ヴァリス王国――ひいてはヴァリエイブル王国に幾つか存在する騎士団に、新たに肩を並べるものを創りだすということになる。
現在、ヴァリス王国に騎士団が三つ、エイテリオ王国に一つ、そしてエイブル王国にも一つという形だ。そして、ヴァリス王国にもう一つ騎士団が作られるとするならば、ヴァリス王国の一強状態が更に大きくなるのは自明だ。
だが、それをエイテリオとエイブルが逆らえる訳でもない。現にヴァリエイブル帝国の主権国がヴァリス王国である理由は、ヴァリエイブル帝国が成立した当時ヴァリス王国が一番権力が強かったことに由来する。
「……騎士団、ですか。流石に四つ目は、ほかの国が黙っていられないのでは」
「だからとはいえ、もう≪インフィニティ≫を隠すことなどできない。ならば、敢えてここで世界に発表するのだ。我が国は『最強のリリーファー』を所持している。そのための騎士団だ」
「争いは避けられませんよ」
「とうに争いなど起こっている。いつもいつも争いは起こっている。いつもいつもだ。ならば、その展開にカンフルを与えてもいいと思うのだよ」
「それが最強のリリーファーを、世界的に発表することですか……。どうなるかは、私にも解りませんよ」
「そんなことは誰にだって解らんよ。だが、タイミングは今だと思っているよ」
ラグストリアルは、そう言うと手元にあるノートを取り出す。
ノートを開くと、そこには薄い冊子が挟まっていた。そこには、こう書かれていた。
『ハリー騎士団設立についての設定書』と。
「ハリー……ヒイラギですか? どうして、そうなのかはお聞かせ願いますか」
「ヒイラギの葉っぱは刺があるだろう? だから、簡単に触ったら触った人間が傷つくというわけだよ。あと、花言葉には『先見』という意味もあってだな」
「なるほどなるほど……」
ラフターはそう言って微笑む。
ラグストリアルもそれを見て、笑っていた。
しかし、ヒイラギの花言葉にはこんな花言葉がある。
『用心』。
この花言葉を、彼らが知っているかどうかは――今は解らない。
◇◇◇
ヴァリス城でそんなやり取りがあったことを知る由もなく、崇人たちはヴァリス城へと招かれていた。
理由は単純明快。この度の事を称えて、『起動従士』に正式に就任することとなったからだ。
この国には起動従士もリリーファーも足りない。戦争で作っては消え、作っては消えの繰り返しだからだ。
だから寧ろ起動従士は多いほうがいい。だからこそ、今回四人の人間が一挙に起動従士となったのだ。
「何だか実感沸かないなあ……」
「エスティ、ぎこちなく歩いちゃダメだよ。適度に緊張するくらいがちょうどいいんだ」
「どうでもいいけど、タカト……だっけ? あんた、気楽すぎでしょう。どれほどこういう場を乗り切ってきたのよ」
「……ついに、起動従士になれる……!」
エスティ、崇人、コルネリア、ヴィエンスはそれぞれ、思いで胸がいっぱいだった。
起動従士になるということは、国を守る役目に就くということだ。それがどれほどの役目か、彼らは理解しようとしても理解しきれない。
だが、彼らはそれぞれ高い志を持っていた。
城内にある大広間には、既に国王、マーズ、それに軍隊の人々が待機していた。それを見ると、彼らは改めて襟を正す。
彼らは所定の位置に立つと、国王が椅子から立ち上がる。それを見て、全員が頭を垂れる。
国王は彼らの目の前に立つと、ゆっくりと紙を取り出し、読み上げた。
「それでは、これより彼らを起動従士として任命することとする。
タカト・オーノ。
エスティ・パロング。
コルネリア・バルホント。
ヴィエンス・ゲーニック。
この四名を、起動従士として任命し、リリーファーを与えるものとする」
それを聞いて、彼らはもう一度深々と頭を垂れた。
こうして、彼らは晴れて起動従士となったのだ。
「……さて、彼らに与えるリリーファーだが、既にこの中の一人、リリーファーを得ている者がいる」
それを聞いて、大広間がざわついた。当然だ。国属にならなければそんなものがもらえるわけがないからだ。
「タカト・オーノ。彼は唯一、最強のリリーファー≪インフィニティ≫を操縦できる起動従士だ」
そう言って、国王は崇人の肩をポンと叩く。それを聞いてさらに大広間がざわつく。起動従士の任命式はたくさんのマスメディアも現れるので、彼らは崇人の写真を撮っている。
それを見越していたかのように――国王は微笑む。
「そして、ここに新たな騎士団を作ることを宣言する。その名も、『ハリー騎士団』だ。騎士団長はタカト・オーノ。副団長はマーズ・リッペンバーに頼んでいる」
さらに大広間はざわつく。その発言は彼らも初耳だったため、崇人も呆気にとられてしまった。
「それでは、ここに任命式を終える。……騎士団に入ることとなった四人の起動従士は私に付いてくるように。マーズ起動従士、君もだ」
その言葉を聞いて、彼らは国王の後をゆっくりと歩いて行った。
国王の間につくと、マーズが大きくため息をついた。
「国王。あれほどのこと、どうして先に私に言っておかなかったんですか」
「サプライズがあったほうがいいかなあと」
「度を越してます!! 今日の夕刊には、いや、既に号外が出ている可能性すらありますよ!? どうして、騎士団なんか……」
「いやいや、一先ず、ハリー騎士団騎士団長となったわけだ。タカト・オーノ。大出世だな? 一応、学生と兼務で構わないから、そのつもりで」
そして、彼らは解散することとなった。
◇◇◇
誰もいなくなり、ラフターとラグストリアルだけが残った。
「いや、サプライズというのは本当に面白いものだ。またやろう」
「国王、支持率が下がりますが」
「何を言う。現にうなぎのぼりだ」
「なぜそうなったのか、私にも解りかねますが」
そんなものはいい、とラグストリアルは豪快に笑う。
「ともかく、これからが山場だ。何が起こるか解らん。騎士団に凡てがかかっているからな」
「ハリー騎士団……どこまでしてくれるでしょうか?」
「解らんよ。まあ、彼らも学生だ。殆ど身分も変わらん。案外ああいうのが上手くいくやもしれんぞ?」
ラグストリアルの笑いのあとに続いて、ラフターも笑った。
(まあ、其の辺はまだ始まったばかりだ。一先ずは……あの少年が何処までやってくれるかだ。出来ることなら、私の治世のうちにこの世界を変えて欲しいものだ。そう、恐ろしい程に……)
ラグストリアルの考えていた野望は、ラフターが知る由も、ない。
ヴァリエイブル帝国第四十七代国王、ラグストリアル・リグレーは玉座でため息をついた。
そして、そのそばにはシルクハットを被り、長い黒のコートを着た黒ずくめの男が立っていた。怪しい格好ではあるが、彼はこの国の大臣――ラフター・エンデバイロンである。ラフターは小さく微笑むと、再び会話を再開させる。
今まで、ラフターが話していたのは戦果だった。正確には、今回の『ティパモール紛争』の報告書を読み上げていたのだった。ちなみに、報告書を書き上げたのは九割がマーズで、残りの一割が崇人である。軍人でもない崇人が報告書を書き上げることとなったのは、セレス・コロシアムでの『赤い翼』殲滅の立役者だから――マーズがそう主張したためである(崇人はマーズに凡てを押し付けて逃げようとしていた)。
「……さて」
その重々しい空気を、なんとか押しのけようとラグストリアルは呟く。
「私の考えをひとつ、語ってもいいだろうか」
「国王の意見を阻害することなど、私には出来ません」
そう言って、ラフターは帽子の鍔を持つ。
「ならば、話そう。実はな……私は、新たな『騎士団』を作ろうと思っている」
その言葉の意味を、嫌でもラフターは知っている。
騎士団の設立。それは、ヴァリス王国――ひいてはヴァリエイブル王国に幾つか存在する騎士団に、新たに肩を並べるものを創りだすということになる。
現在、ヴァリス王国に騎士団が三つ、エイテリオ王国に一つ、そしてエイブル王国にも一つという形だ。そして、ヴァリス王国にもう一つ騎士団が作られるとするならば、ヴァリス王国の一強状態が更に大きくなるのは自明だ。
だが、それをエイテリオとエイブルが逆らえる訳でもない。現にヴァリエイブル帝国の主権国がヴァリス王国である理由は、ヴァリエイブル帝国が成立した当時ヴァリス王国が一番権力が強かったことに由来する。
「……騎士団、ですか。流石に四つ目は、ほかの国が黙っていられないのでは」
「だからとはいえ、もう≪インフィニティ≫を隠すことなどできない。ならば、敢えてここで世界に発表するのだ。我が国は『最強のリリーファー』を所持している。そのための騎士団だ」
「争いは避けられませんよ」
「とうに争いなど起こっている。いつもいつも争いは起こっている。いつもいつもだ。ならば、その展開にカンフルを与えてもいいと思うのだよ」
「それが最強のリリーファーを、世界的に発表することですか……。どうなるかは、私にも解りませんよ」
「そんなことは誰にだって解らんよ。だが、タイミングは今だと思っているよ」
ラグストリアルは、そう言うと手元にあるノートを取り出す。
ノートを開くと、そこには薄い冊子が挟まっていた。そこには、こう書かれていた。
『ハリー騎士団設立についての設定書』と。
「ハリー……ヒイラギですか? どうして、そうなのかはお聞かせ願いますか」
「ヒイラギの葉っぱは刺があるだろう? だから、簡単に触ったら触った人間が傷つくというわけだよ。あと、花言葉には『先見』という意味もあってだな」
「なるほどなるほど……」
ラフターはそう言って微笑む。
ラグストリアルもそれを見て、笑っていた。
しかし、ヒイラギの花言葉にはこんな花言葉がある。
『用心』。
この花言葉を、彼らが知っているかどうかは――今は解らない。
◇◇◇
ヴァリス城でそんなやり取りがあったことを知る由もなく、崇人たちはヴァリス城へと招かれていた。
理由は単純明快。この度の事を称えて、『起動従士』に正式に就任することとなったからだ。
この国には起動従士もリリーファーも足りない。戦争で作っては消え、作っては消えの繰り返しだからだ。
だから寧ろ起動従士は多いほうがいい。だからこそ、今回四人の人間が一挙に起動従士となったのだ。
「何だか実感沸かないなあ……」
「エスティ、ぎこちなく歩いちゃダメだよ。適度に緊張するくらいがちょうどいいんだ」
「どうでもいいけど、タカト……だっけ? あんた、気楽すぎでしょう。どれほどこういう場を乗り切ってきたのよ」
「……ついに、起動従士になれる……!」
エスティ、崇人、コルネリア、ヴィエンスはそれぞれ、思いで胸がいっぱいだった。
起動従士になるということは、国を守る役目に就くということだ。それがどれほどの役目か、彼らは理解しようとしても理解しきれない。
だが、彼らはそれぞれ高い志を持っていた。
城内にある大広間には、既に国王、マーズ、それに軍隊の人々が待機していた。それを見ると、彼らは改めて襟を正す。
彼らは所定の位置に立つと、国王が椅子から立ち上がる。それを見て、全員が頭を垂れる。
国王は彼らの目の前に立つと、ゆっくりと紙を取り出し、読み上げた。
「それでは、これより彼らを起動従士として任命することとする。
タカト・オーノ。
エスティ・パロング。
コルネリア・バルホント。
ヴィエンス・ゲーニック。
この四名を、起動従士として任命し、リリーファーを与えるものとする」
それを聞いて、彼らはもう一度深々と頭を垂れた。
こうして、彼らは晴れて起動従士となったのだ。
「……さて、彼らに与えるリリーファーだが、既にこの中の一人、リリーファーを得ている者がいる」
それを聞いて、大広間がざわついた。当然だ。国属にならなければそんなものがもらえるわけがないからだ。
「タカト・オーノ。彼は唯一、最強のリリーファー≪インフィニティ≫を操縦できる起動従士だ」
そう言って、国王は崇人の肩をポンと叩く。それを聞いてさらに大広間がざわつく。起動従士の任命式はたくさんのマスメディアも現れるので、彼らは崇人の写真を撮っている。
それを見越していたかのように――国王は微笑む。
「そして、ここに新たな騎士団を作ることを宣言する。その名も、『ハリー騎士団』だ。騎士団長はタカト・オーノ。副団長はマーズ・リッペンバーに頼んでいる」
さらに大広間はざわつく。その発言は彼らも初耳だったため、崇人も呆気にとられてしまった。
「それでは、ここに任命式を終える。……騎士団に入ることとなった四人の起動従士は私に付いてくるように。マーズ起動従士、君もだ」
その言葉を聞いて、彼らは国王の後をゆっくりと歩いて行った。
国王の間につくと、マーズが大きくため息をついた。
「国王。あれほどのこと、どうして先に私に言っておかなかったんですか」
「サプライズがあったほうがいいかなあと」
「度を越してます!! 今日の夕刊には、いや、既に号外が出ている可能性すらありますよ!? どうして、騎士団なんか……」
「いやいや、一先ず、ハリー騎士団騎士団長となったわけだ。タカト・オーノ。大出世だな? 一応、学生と兼務で構わないから、そのつもりで」
そして、彼らは解散することとなった。
◇◇◇
誰もいなくなり、ラフターとラグストリアルだけが残った。
「いや、サプライズというのは本当に面白いものだ。またやろう」
「国王、支持率が下がりますが」
「何を言う。現にうなぎのぼりだ」
「なぜそうなったのか、私にも解りかねますが」
そんなものはいい、とラグストリアルは豪快に笑う。
「ともかく、これからが山場だ。何が起こるか解らん。騎士団に凡てがかかっているからな」
「ハリー騎士団……どこまでしてくれるでしょうか?」
「解らんよ。まあ、彼らも学生だ。殆ど身分も変わらん。案外ああいうのが上手くいくやもしれんぞ?」
ラグストリアルの笑いのあとに続いて、ラフターも笑った。
(まあ、其の辺はまだ始まったばかりだ。一先ずは……あの少年が何処までやってくれるかだ。出来ることなら、私の治世のうちにこの世界を変えて欲しいものだ。そう、恐ろしい程に……)
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