絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第五十五話 協力、決着、夢現
ベスパ内部では、一人の青年が溜息をついていた。漸く、気持ちが落ち着いたのだろう。
「しかし……」
青年――ヴィエンスが小さく呟く。
「こうも簡単に上手くいくとはな……」
ヴィエンスはそう言うと、強くコントローラーを握った。
エスティと崇人が赤い翼に拿捕されていたその頃。
ヴィエンスは通路を走っていた。
長い長い、通路を走っていた。
向かう先は、勿論誰にだって理解できる。リリーファーの倉庫だ。
リリーファーの倉庫は地下にある。しかし地下へと降りる階段は無数に存在している。その階段ひとつひとつが個別な場所に繋がっていて、そのうち『正解』にたどり着くのはただひとつのみだ。
ひとつの正解にたどり着くのは、場所さえ覚えていればいいのだが、それでもそこまでたどり着くのが大変である。
だから、今現にヴィエンスは苦労しているのだが。
「お困りのようだね」
ヴィエンスはその声を聞いて、振り返る。
そこに居たのは、整備リーダー――ルミナスだった。
「あんたは……」
「事態を話している暇、今はあるのかい? それより、あんたリリーファーは動かせるのか?」
「ああ。動かせるから、今そこへと走っているんだよ」
「だったら、『ベスパ』を待機させている。さっさとあんたも乗れ」
そう言うと、ルミナスは手元に持っているボタンを押す。
すると壁が競り上がり、そこから階段が姿を現した。
「この先に行けば、ベスパへ繋がっている。緊急用の連絡通路だ」
「リリーファーが動かせるのか!?」
ヴィエンスの叫びに、なおもルミナスは冷静に返す。
「私を誰だと思っている? 私はこの大会のリリーファーを整備するリーダーだぞ。そんなことが出来ずにリーダーが務まるわけがないだろう」
それを聞いて、ヴィエンスは大きく息を吐いた。
そして、ヴィエンスは通路を通っていく。
「恩に着る」
「それくらい、当たり前だ」
ルミナスがそう言ったと同時に、ヴィエンスが通った通路の壁が競り下がっていき、元の状態に戻った。
そして、現在。
ヴィエンスはベスパに乗り込み、会場へ足を踏み入れていた。
通信が入ったのは、ちょうどその時だった。
「……タカトからか」
そう言うと、スイッチを押して通信を受け取るパターンへと変更する。直ぐに、相手の音声は聞こえてくる。
『ヴィエンスか』
「じゃなかったらどうする?」
『お前で安心したよ。ひとつお前に言っておきたいことがあってね。要するに作戦会議ってやつだ』
「そいつはどーも」
ヴィエンスはここで、崇人がインフィニティに載っていることを思い出した。
「……やはりお前は≪インフィニティ≫の起動従士だったんだな」
『……済まない。ずっと隠しておくつもりはなかった』
「なぜ隠したんだ?」
どうしてか、ヴィエンスはそれを追求したくなった。
今でなければ、二度と聞けないような気がしたからだ。
対して、崇人は小さくため息をついて、話を続ける。
『隠すつもりはなかった。あの時はまだこの世界に来たばかりでね……』
「なんだと? お前……一体それはどういうことなんだ?」
崇人は口をすべらせた、と目をそらす。そして、それ以上は何も言わなかった。
「……それ以上は言いたくない、ってか。解った。一先ず、作戦ってやつを聞こうじゃないか」
『作戦というほどのものでもないんだがな。ある程度協調性を持とう。ただ、それだけを言おうとしてね』
崇人が持ちかけた作戦とは、ただの協力要請だった。ヴィエンスはもう少し仰々しい作戦でもあるのかと期待したのだが、これでは拍子抜けである。
「……一先ず、協力すればいいんだな? 解った、それで対応しよう。さっさとこの虫けらを倒してしまおうじゃないか」
『そういう過信が油断を招いて、結果として痛いしっぺ返しを喰らうんだが……まあいい。一先ず、それで頼む』
そして、通信は切れた。
変わって、インフィニティ。
崇人が再び、動けとインフィニティに念じる。それをフロネシスが受信し、ゆっくりと動き出す。
まさに鬼神のような、雄々しい姿。
インフィニティの中で、崇人は最早勝利を確信していた。先程彼は、過信は油断を招くといったが、それは彼自身に対するブーメランな発言だった。
「……まあ、あっという間に片付けてしまおうか!!」
そう言って、インフィニティは駆動を再開する。
◇◇◇
それからは、恐ろしい程早かった。
『赤い翼』リーダーをインフィニティの足で踏み潰し、残る残党どもを一掃した。その姿は、人々にリリーファーの偉大さとともに、危険性をも刻ませた。それを崇人たちが知るのは、まだまだ先のことである。
インフィニティから降り立ち、群衆の方を見る。既に電磁バリアは解除されており、人々は安全をそれぞれ確認している。
「タカト、お疲れ様」
そんな中、ひどく落ち着いた様子でエスティが近付いてきた。
「エスティも大丈夫だった?」
「ええ。それにしても、恐ろしい程あっという間だったわね」
「ああ。気持ち悪いくらいにね」
崇人はそう言って、インフィニティの下敷きとなったリーダーの死体を見る。最早それは人の形を為してはいなかった。
「あそこまで人ってペシャンコになれるのね」
「おっそろしいこと言うな」
冗談半分で崇人は微笑むと、エスティは崇人の方へ向き直る。
「なんだか、変な大会になっちゃったね」
「ああ……そうだな。にしても……なんだか疲れた」
崇人はそう言うと、コロシアムの床へ横になる。
そして、あっという間に鼾をかきはじめた。
「ここで寝ると風邪ひくよー?」
エスティの忠告をよそに、崇人は夢の世界へと旅立っていった。
夢の世界で、崇人は目を覚ました。
「う、うーん……ここは?」
そこは見覚えのある光景だった。とあるオフィスルームに、パソコンが置かれた机。見覚えのある光景――ここは、彼が通っていた会社だった。そして、姿も今は三十五歳の姿そのものだった。
その光景は最早彼には懐かしささえ思い浮かぶものである。
――帰りたいな。
一瞬、崇人はそんなことを考えてしまった。
ここは、崇人が帰りたかった世界、そのものだ。
その世界で『帰りたい』と思った? それはつまり、大型ロボットを戦争に用いる世界――クローツへの帰還ということだ。
自分は、企業戦士よりも起動従士を望んでいる……?
崇人は、そんなことを夢の中で考えているのだった。
◇◇◇
「まー、派手にやったねえ」
マーズ、アーデルハイト率いるヴァリエイブル軍が到着したのはそれから数分たったあとのことだった。彼らは完全に戦闘態勢で来ていたのだが、凡て決着がついていると知ると、落ち込んでしまった。よっぽど戦いたかったのだろう。
「で、立役者は寝ているわけだ」
エスティはマーズの嘲笑混じりの発言を聞いて、思わず笑顔がこぼれる。
「まあいいや。私たちはとりあえずこれの後片付けやっちゃうから、エスティ……だっけ? あなたはその男をどっかベッドにでも運んどいてよ。おーい、誰かこの子に手を貸してあげて!」
そう言うと、軍人が二人ほど現れて――どれも軍人と呼ぶには筋肉が足りないようにも思えるが――エスティと崇人を抱え込んだ。
「えっ!? わ、私まで!? や、やだー!」
そんなことを言いながらコロシアムから退場していくエスティと崇人。それを見てマーズは高らかに笑うだけだった。
「そう笑っていられるのかしら?」
そんなマーズに話しかけたのはアーデルハイトだった。
「どうした、アーデルハイト」
「あなただって解っているはずよ。タカトの危険性を」
「……ああ。最強のリリーファーを唯一操縦出来て、気がつけばたくさんの仲間が出来ている。ヴァリエイブル以外の国から見れば、これ以上の脅威はないな」
マーズが言うと、アーデルハイトは微笑む。
「まあ、当然何か考えているんでしょうけどね。あの、国王のことだから」
そう言うと、アーデルハイトはその場から立ち去っていった。マーズはその言葉の本当の意味に、まだ気づいていなかった。
「しかし……」
青年――ヴィエンスが小さく呟く。
「こうも簡単に上手くいくとはな……」
ヴィエンスはそう言うと、強くコントローラーを握った。
エスティと崇人が赤い翼に拿捕されていたその頃。
ヴィエンスは通路を走っていた。
長い長い、通路を走っていた。
向かう先は、勿論誰にだって理解できる。リリーファーの倉庫だ。
リリーファーの倉庫は地下にある。しかし地下へと降りる階段は無数に存在している。その階段ひとつひとつが個別な場所に繋がっていて、そのうち『正解』にたどり着くのはただひとつのみだ。
ひとつの正解にたどり着くのは、場所さえ覚えていればいいのだが、それでもそこまでたどり着くのが大変である。
だから、今現にヴィエンスは苦労しているのだが。
「お困りのようだね」
ヴィエンスはその声を聞いて、振り返る。
そこに居たのは、整備リーダー――ルミナスだった。
「あんたは……」
「事態を話している暇、今はあるのかい? それより、あんたリリーファーは動かせるのか?」
「ああ。動かせるから、今そこへと走っているんだよ」
「だったら、『ベスパ』を待機させている。さっさとあんたも乗れ」
そう言うと、ルミナスは手元に持っているボタンを押す。
すると壁が競り上がり、そこから階段が姿を現した。
「この先に行けば、ベスパへ繋がっている。緊急用の連絡通路だ」
「リリーファーが動かせるのか!?」
ヴィエンスの叫びに、なおもルミナスは冷静に返す。
「私を誰だと思っている? 私はこの大会のリリーファーを整備するリーダーだぞ。そんなことが出来ずにリーダーが務まるわけがないだろう」
それを聞いて、ヴィエンスは大きく息を吐いた。
そして、ヴィエンスは通路を通っていく。
「恩に着る」
「それくらい、当たり前だ」
ルミナスがそう言ったと同時に、ヴィエンスが通った通路の壁が競り下がっていき、元の状態に戻った。
そして、現在。
ヴィエンスはベスパに乗り込み、会場へ足を踏み入れていた。
通信が入ったのは、ちょうどその時だった。
「……タカトからか」
そう言うと、スイッチを押して通信を受け取るパターンへと変更する。直ぐに、相手の音声は聞こえてくる。
『ヴィエンスか』
「じゃなかったらどうする?」
『お前で安心したよ。ひとつお前に言っておきたいことがあってね。要するに作戦会議ってやつだ』
「そいつはどーも」
ヴィエンスはここで、崇人がインフィニティに載っていることを思い出した。
「……やはりお前は≪インフィニティ≫の起動従士だったんだな」
『……済まない。ずっと隠しておくつもりはなかった』
「なぜ隠したんだ?」
どうしてか、ヴィエンスはそれを追求したくなった。
今でなければ、二度と聞けないような気がしたからだ。
対して、崇人は小さくため息をついて、話を続ける。
『隠すつもりはなかった。あの時はまだこの世界に来たばかりでね……』
「なんだと? お前……一体それはどういうことなんだ?」
崇人は口をすべらせた、と目をそらす。そして、それ以上は何も言わなかった。
「……それ以上は言いたくない、ってか。解った。一先ず、作戦ってやつを聞こうじゃないか」
『作戦というほどのものでもないんだがな。ある程度協調性を持とう。ただ、それだけを言おうとしてね』
崇人が持ちかけた作戦とは、ただの協力要請だった。ヴィエンスはもう少し仰々しい作戦でもあるのかと期待したのだが、これでは拍子抜けである。
「……一先ず、協力すればいいんだな? 解った、それで対応しよう。さっさとこの虫けらを倒してしまおうじゃないか」
『そういう過信が油断を招いて、結果として痛いしっぺ返しを喰らうんだが……まあいい。一先ず、それで頼む』
そして、通信は切れた。
変わって、インフィニティ。
崇人が再び、動けとインフィニティに念じる。それをフロネシスが受信し、ゆっくりと動き出す。
まさに鬼神のような、雄々しい姿。
インフィニティの中で、崇人は最早勝利を確信していた。先程彼は、過信は油断を招くといったが、それは彼自身に対するブーメランな発言だった。
「……まあ、あっという間に片付けてしまおうか!!」
そう言って、インフィニティは駆動を再開する。
◇◇◇
それからは、恐ろしい程早かった。
『赤い翼』リーダーをインフィニティの足で踏み潰し、残る残党どもを一掃した。その姿は、人々にリリーファーの偉大さとともに、危険性をも刻ませた。それを崇人たちが知るのは、まだまだ先のことである。
インフィニティから降り立ち、群衆の方を見る。既に電磁バリアは解除されており、人々は安全をそれぞれ確認している。
「タカト、お疲れ様」
そんな中、ひどく落ち着いた様子でエスティが近付いてきた。
「エスティも大丈夫だった?」
「ええ。それにしても、恐ろしい程あっという間だったわね」
「ああ。気持ち悪いくらいにね」
崇人はそう言って、インフィニティの下敷きとなったリーダーの死体を見る。最早それは人の形を為してはいなかった。
「あそこまで人ってペシャンコになれるのね」
「おっそろしいこと言うな」
冗談半分で崇人は微笑むと、エスティは崇人の方へ向き直る。
「なんだか、変な大会になっちゃったね」
「ああ……そうだな。にしても……なんだか疲れた」
崇人はそう言うと、コロシアムの床へ横になる。
そして、あっという間に鼾をかきはじめた。
「ここで寝ると風邪ひくよー?」
エスティの忠告をよそに、崇人は夢の世界へと旅立っていった。
夢の世界で、崇人は目を覚ました。
「う、うーん……ここは?」
そこは見覚えのある光景だった。とあるオフィスルームに、パソコンが置かれた机。見覚えのある光景――ここは、彼が通っていた会社だった。そして、姿も今は三十五歳の姿そのものだった。
その光景は最早彼には懐かしささえ思い浮かぶものである。
――帰りたいな。
一瞬、崇人はそんなことを考えてしまった。
ここは、崇人が帰りたかった世界、そのものだ。
その世界で『帰りたい』と思った? それはつまり、大型ロボットを戦争に用いる世界――クローツへの帰還ということだ。
自分は、企業戦士よりも起動従士を望んでいる……?
崇人は、そんなことを夢の中で考えているのだった。
◇◇◇
「まー、派手にやったねえ」
マーズ、アーデルハイト率いるヴァリエイブル軍が到着したのはそれから数分たったあとのことだった。彼らは完全に戦闘態勢で来ていたのだが、凡て決着がついていると知ると、落ち込んでしまった。よっぽど戦いたかったのだろう。
「で、立役者は寝ているわけだ」
エスティはマーズの嘲笑混じりの発言を聞いて、思わず笑顔がこぼれる。
「まあいいや。私たちはとりあえずこれの後片付けやっちゃうから、エスティ……だっけ? あなたはその男をどっかベッドにでも運んどいてよ。おーい、誰かこの子に手を貸してあげて!」
そう言うと、軍人が二人ほど現れて――どれも軍人と呼ぶには筋肉が足りないようにも思えるが――エスティと崇人を抱え込んだ。
「えっ!? わ、私まで!? や、やだー!」
そんなことを言いながらコロシアムから退場していくエスティと崇人。それを見てマーズは高らかに笑うだけだった。
「そう笑っていられるのかしら?」
そんなマーズに話しかけたのはアーデルハイトだった。
「どうした、アーデルハイト」
「あなただって解っているはずよ。タカトの危険性を」
「……ああ。最強のリリーファーを唯一操縦出来て、気がつけばたくさんの仲間が出来ている。ヴァリエイブル以外の国から見れば、これ以上の脅威はないな」
マーズが言うと、アーデルハイトは微笑む。
「まあ、当然何か考えているんでしょうけどね。あの、国王のことだから」
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