絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第五十二話 呼応(前編)
その頃、リーダーは崇人とエスティを連れて、コロシアムへとたどり着いていた。崇人とエスティは縄で縛られていて、身動きがとれない形となっていた。
「……選手を二名、確保した。適当な場所に座らせておけ」
そう言って、リーダーは崇人たちを別の人間に引き渡す。その人間は、銃で脅して、崇人たちを座らせた。
「ここで、おとなしくしていろ」
そう言って、その人間は、再び周りを彷徨き始め、リーダーはゆっくりと遠くにあるテントの方へと向かった。
「やあ」
崇人がどうしようか考えていたその時、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこに居たのは、茶がかったショートヘアの少女だった。桜の花びらをそのまま貼り付けたような唇と、見ていると全て吸い込まれそうな眼は、見ている者を圧倒させる。そして、その発せられた声は静かで、重々しいもので、それは誰のことだったのか、崇人は一瞬で思い出した。
「……コルネリア、だったか?」
「そう。にしても、あなたたちも捕まってしまったのね。……まあ、既に私が捕まっているから、何も言えないのだけれど」
コルネリアはそう言って小さく微笑む。
コルネリアには何か秘策でもあるのだろうか、内に何かを秘めた、そんな笑顔だった。
「……まさか、何か考えているのか?」
「だとしたら、どうする?」
コルネリアの言葉を聞いて、何となくではあるが、崇人は確信した。
――恐らく、彼女の力を借りれば、ここにいる人間を仕留めることが出来るかもしれない。
崇人はそう考えて、小さく頷いて、訊ねた。
「だったら、教えてくれないかな」
「あなたも何か考えがあるようね」
コルネリアは崇人の提案にシニカルに微笑んで、頷いた。
◇◇◇
その頃、迷路をひた進んでいたケイス。
茨の迷路はとてつもなく、彼が予想していた以上に広いものだった。
彼の迷路攻略法が『とりあえず通路を潰していく』ということなので、時間と労力が、ある意味としては無駄にかかってしまうのだ。
「……まさか、ここまで時間のかかるものだったとはな」
ケイスは呟くと、ひとつ深呼吸をした。
それは、ケイスの付近に誰かがいることを、最初から解っていたようだった。
「――居るんだろ、白ウサギ」
その言葉と同時に、茨の奥から一人の少女が出てきた。
それこそが、白ウサギだった。
白ウサギは口元を緩め、小さく微笑むと、ゆっくりとケイスの方へと歩いてきた。
「……いつ気づいたのかなあ?」
「別にいつという問題じゃないが、気配がした。そして、この茨の迷路に入ることのできる存在は、この世界を作ったお前しか居ないからな」
ケイスの言葉に、白ウサギは舌なめずりする。
「そっか。もうちょっと頑張れば良かったかなあ。いけねっ」
白ウサギはそう言って頭を掻く。
そういう問題ではないのだが、とケイスは言おうとしたが、そういうわけでもないし、今それを言うことでもなかった。
「……まあ、つまらないし、ここで一つ賭けをしようじゃないか。ケイスくん」
「なんで俺の名前を知っているのかは別にいいとして、なんだ」
「ふっふーん。まあ、気を抜いて。簡単なことだよ。……私と戦って、勝ったらここから出したげる。負けたらもう一回、さよならーってやつさ」
白ウサギはシニカルに微笑み、後ろを向いた。
まるで、ついてこいと言っているようだった。
それに素直に従って、ケイスはそのあとをついていった。
しばらく歩くと庭園のような場所に出た。周りが茨に囲まれていることは変わりないが、それに沿うように赤い彼岸花が咲いていた。
「……さて、私があなたをここに連れ込んだ理由、解るかしら?」
「決闘でもするということか。しかし、俺の方が不利じゃないか? なにせおまえは『シリーズ』のひとり。こちとら一般人だぜ」
「何が一般人だ。シリーズと関わりがある時点で、そいつはもう一般人じゃない。その境界を超えてしまった者だよ」
白ウサギはニヒルな笑みを浮かべる。そして、どこからか短剣を取り出した。
その短剣をケイスの方に放り投げると、白ウサギは両手を掲げる。
「……まあ、そう言うと思ったから、私からひとつのハンデを与えよう。君はその短剣を使って構わない。ただし私は武器を一切用いない。これでどうだ?」
「これはお前が用意した短剣だろ。種も仕掛けもないのか」
「ああ、勿論ない。そんなものを用意するとでも?」
白ウサギの言葉を、取り敢えず信じることとした。
ケイスが短剣を拾うと、その短剣は意外にも重かった。
握りの部分は蛇が畝っていた。中心に何か棒状のものがあるようだが、しかし棒状の物がないようにも思えた。それほどに、蛇が握りを構成していたのだ。
「それは切れ味が良くてね。あまりにも良すぎて、空気を切った跡が残るってくらいだよ。それで空気を切ると暫くはその空間が空気がない……だから誰も生きることができない空間へと仕上がるらしい」
白ウサギの言葉は半信半疑だったが、そう言われると試し切りも出来ない。もしそれが本当なのだとすれば、相当の威力を持つ短剣ということになり、これはかなりのハンデになるとケイスは思っていた。
「……どうだ。はじめるか?」
白ウサギの言葉に、ケイスは小さく頷く。
そして――決闘は、思いのほか静かに始まった。
◇◇◇
「さあ! 群衆よ、注目しろ!」
コロシアム。リーダーが壇上に上がり、そう高々と声を上げた。
群衆はざわつき、それを見てリーダーはほくそ笑む。
「これから、お前たちに面白いことを見せてやる。……タカト・オーノ、来い」
リーダーがそう言うと、背後に立っていた赤い翼の人間によって崇人は強制的に立たされた。自動的に群衆は崇人の方を見る。
そして、崇人は強引に歩かされ、リーダーのいる壇上へと上がらされた。
リーダーは崇人の顎を持ち、
「≪インフィニティ≫を呼べ」
そう言った。
「……そんなこと、出来るわけが……!!」
「いいから呼べ。お前には出来るはずだ。最強のリリーファー……≪インフィニティ≫の起動従士である、お前ならば」
リーダーは言うも、崇人は動揺していた。
インフィニティは、自律OS『フロネシス』が存在している。だからといって、ここまで来るものなのだろうか? インフィニティは今、ヴァリエイブルの城地下にある倉庫に保管している。そこまでの距離は約六十キロだ。そこまでどうやって伝えられるというのか。それが崇人には解らなかった。
「いいから、やれ」
しかし、それを知ってか知らずか、リーダーは焦る崇人を急かした。
「……選手を二名、確保した。適当な場所に座らせておけ」
そう言って、リーダーは崇人たちを別の人間に引き渡す。その人間は、銃で脅して、崇人たちを座らせた。
「ここで、おとなしくしていろ」
そう言って、その人間は、再び周りを彷徨き始め、リーダーはゆっくりと遠くにあるテントの方へと向かった。
「やあ」
崇人がどうしようか考えていたその時、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこに居たのは、茶がかったショートヘアの少女だった。桜の花びらをそのまま貼り付けたような唇と、見ていると全て吸い込まれそうな眼は、見ている者を圧倒させる。そして、その発せられた声は静かで、重々しいもので、それは誰のことだったのか、崇人は一瞬で思い出した。
「……コルネリア、だったか?」
「そう。にしても、あなたたちも捕まってしまったのね。……まあ、既に私が捕まっているから、何も言えないのだけれど」
コルネリアはそう言って小さく微笑む。
コルネリアには何か秘策でもあるのだろうか、内に何かを秘めた、そんな笑顔だった。
「……まさか、何か考えているのか?」
「だとしたら、どうする?」
コルネリアの言葉を聞いて、何となくではあるが、崇人は確信した。
――恐らく、彼女の力を借りれば、ここにいる人間を仕留めることが出来るかもしれない。
崇人はそう考えて、小さく頷いて、訊ねた。
「だったら、教えてくれないかな」
「あなたも何か考えがあるようね」
コルネリアは崇人の提案にシニカルに微笑んで、頷いた。
◇◇◇
その頃、迷路をひた進んでいたケイス。
茨の迷路はとてつもなく、彼が予想していた以上に広いものだった。
彼の迷路攻略法が『とりあえず通路を潰していく』ということなので、時間と労力が、ある意味としては無駄にかかってしまうのだ。
「……まさか、ここまで時間のかかるものだったとはな」
ケイスは呟くと、ひとつ深呼吸をした。
それは、ケイスの付近に誰かがいることを、最初から解っていたようだった。
「――居るんだろ、白ウサギ」
その言葉と同時に、茨の奥から一人の少女が出てきた。
それこそが、白ウサギだった。
白ウサギは口元を緩め、小さく微笑むと、ゆっくりとケイスの方へと歩いてきた。
「……いつ気づいたのかなあ?」
「別にいつという問題じゃないが、気配がした。そして、この茨の迷路に入ることのできる存在は、この世界を作ったお前しか居ないからな」
ケイスの言葉に、白ウサギは舌なめずりする。
「そっか。もうちょっと頑張れば良かったかなあ。いけねっ」
白ウサギはそう言って頭を掻く。
そういう問題ではないのだが、とケイスは言おうとしたが、そういうわけでもないし、今それを言うことでもなかった。
「……まあ、つまらないし、ここで一つ賭けをしようじゃないか。ケイスくん」
「なんで俺の名前を知っているのかは別にいいとして、なんだ」
「ふっふーん。まあ、気を抜いて。簡単なことだよ。……私と戦って、勝ったらここから出したげる。負けたらもう一回、さよならーってやつさ」
白ウサギはシニカルに微笑み、後ろを向いた。
まるで、ついてこいと言っているようだった。
それに素直に従って、ケイスはそのあとをついていった。
しばらく歩くと庭園のような場所に出た。周りが茨に囲まれていることは変わりないが、それに沿うように赤い彼岸花が咲いていた。
「……さて、私があなたをここに連れ込んだ理由、解るかしら?」
「決闘でもするということか。しかし、俺の方が不利じゃないか? なにせおまえは『シリーズ』のひとり。こちとら一般人だぜ」
「何が一般人だ。シリーズと関わりがある時点で、そいつはもう一般人じゃない。その境界を超えてしまった者だよ」
白ウサギはニヒルな笑みを浮かべる。そして、どこからか短剣を取り出した。
その短剣をケイスの方に放り投げると、白ウサギは両手を掲げる。
「……まあ、そう言うと思ったから、私からひとつのハンデを与えよう。君はその短剣を使って構わない。ただし私は武器を一切用いない。これでどうだ?」
「これはお前が用意した短剣だろ。種も仕掛けもないのか」
「ああ、勿論ない。そんなものを用意するとでも?」
白ウサギの言葉を、取り敢えず信じることとした。
ケイスが短剣を拾うと、その短剣は意外にも重かった。
握りの部分は蛇が畝っていた。中心に何か棒状のものがあるようだが、しかし棒状の物がないようにも思えた。それほどに、蛇が握りを構成していたのだ。
「それは切れ味が良くてね。あまりにも良すぎて、空気を切った跡が残るってくらいだよ。それで空気を切ると暫くはその空間が空気がない……だから誰も生きることができない空間へと仕上がるらしい」
白ウサギの言葉は半信半疑だったが、そう言われると試し切りも出来ない。もしそれが本当なのだとすれば、相当の威力を持つ短剣ということになり、これはかなりのハンデになるとケイスは思っていた。
「……どうだ。はじめるか?」
白ウサギの言葉に、ケイスは小さく頷く。
そして――決闘は、思いのほか静かに始まった。
◇◇◇
「さあ! 群衆よ、注目しろ!」
コロシアム。リーダーが壇上に上がり、そう高々と声を上げた。
群衆はざわつき、それを見てリーダーはほくそ笑む。
「これから、お前たちに面白いことを見せてやる。……タカト・オーノ、来い」
リーダーがそう言うと、背後に立っていた赤い翼の人間によって崇人は強制的に立たされた。自動的に群衆は崇人の方を見る。
そして、崇人は強引に歩かされ、リーダーのいる壇上へと上がらされた。
リーダーは崇人の顎を持ち、
「≪インフィニティ≫を呼べ」
そう言った。
「……そんなこと、出来るわけが……!!」
「いいから呼べ。お前には出来るはずだ。最強のリリーファー……≪インフィニティ≫の起動従士である、お前ならば」
リーダーは言うも、崇人は動揺していた。
インフィニティは、自律OS『フロネシス』が存在している。だからといって、ここまで来るものなのだろうか? インフィニティは今、ヴァリエイブルの城地下にある倉庫に保管している。そこまでの距離は約六十キロだ。そこまでどうやって伝えられるというのか。それが崇人には解らなかった。
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