絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第五十一話 知る
ケイスは迷路を歩いていた。それは順調なようにも思えた。
迷路は入り組んでいたが、そのスタイルはシンプルそのもので、分岐した場所を見つけたら、そこから踏み入っていく。もし、そこで行き止まりに達してしまったら、何らかの目印をおいて、戻る――その繰り返しであった。
「……うーん。迷子になったつもりはないんだがなあ」
迷子だと自覚しないのが、迷子でない手段の一つだというならば、世の中にごまんといる迷子は一瞬にしてその定義から消え去ることだろう。
ケイスは一先ず自分は迷子ではないと考えて、さらに歩を進める。
茨の壁は触ることができない。触ったら、確実に怪我をしてしまうことだろう。また、あの白ウサギのことだ。もしかしたら、茨は茨でも毒の茨かもしれなかった。
「……この迷路、まさか出口がないとか言わないだろうな……」
ケイスは呟くが、それはただの気休めにしか過ぎなかった。
ケイス・アキュラという人間は、諦めるということを知らない。
選択したことがないのだ。
だから、彼はただ前に進む。進んで、進んで、結果がどうあろうとも、ただ前に進むだけだった。
茨の迷路は、彼に錯覚すら覚えさせた。
同じような風景が続けば、遠近感が取りづらくなるのを想像してもらえば解るだろう。ケイスは今、そんな状態に陥っていた。
それを空から眺める白ウサギは小さく笑っていた。
だが、少しだけつまらなくなってしまったのか、大きな欠伸を一つした。
「……ああ、なんだか眠くなってきちゃったな。どうしよっかなー」
白ウサギは伸びをして、そして立ち上がった。
「そうだ。少し、遊んであげよう」
そう言って、ぴょいっとジャンプした。
眼下に広がる茨の迷路へと、白ウサギは飛び降りていった。
◇◇◇
「着い……た……」
崇人たちは漸くリリーファーが保管されている倉庫へと辿りついた。
彼らがリリーファーを選択していた時とは違い、整備士も居ない倉庫はとても静かだった。リリーファーだけが静かに陳列されているその状況は、おもちゃコーナーにあるロボットの玩具を思い起こさせる。
リリーファーを眺めながら、奥の部屋へと向かっていた。
「ここまで来ると、リリーファーという存在が恐ろしく思えるな」
崇人の呟きに、エスティは訊ねる。
「なんで?」
「リリーファーってのは、今こそオートで動くシステムを開発しているってのもあるが、元は操縦者という人間が乗ってこそ成立するもんだろ? つまり、操縦者が居なければただのガラクタってことにはならないか」
エスティはそれを聞いて、首を傾げる。
「そうかな……。よく解らないや」
「まあ、僕も解らない事だ。特に話すことも、なかったから、ただ思い出したことを言っただけだ」
崇人は冗談交じりに微笑み、さらに通路を進む。
「――止まれ」
そこで、崇人たちは冷たい気配を背中に感じた。
振り返らずとも解る。これは――。
「よう、タカト・オーノ……だったか? 覚えていないもんでね、私はどうも記憶力ってもんが衰えていてね。一回会った人間の顔は覚えているが、それと名前をくっつけることは出来ないもんだ。どうにかならないかねぇ」
「僕に言われても困るな。……そして、何の御用かな」
「勝手に逃げ出しておいて、よく言うよ。心は決めていただいたかな。……私たちと共に、元の世界へと戻る手段を探るということを行うか、否かについて」
その言葉を聞いて、エスティは崇人の方を向いた。その表情は、とても驚いたものだった。
それを見て、リーダーは訊ねる。
「どうやら、隠していたのかな? そりゃ、そうだよな。そう簡単に『別の世界から来た人間』だなんて言ったら、変人呼ばわりされるのがいい例だ」
「……タカト、そうだったの?」
「…………黙ってて、ごめん」
「別に謝ることじゃないよ……。けど、本当なんだね」
エスティの言葉に崇人は頷く。
リーダーはシニカルに微笑み、
「伝えていないのは、良くないな。タカトくん。我々は、この世界を捨てる。そして、君が居た世界へと向かうのだ。協力しても、損はないはずだぞ?」
「それって……、タカトが居た世界を滅ぼすと言っているようなものじゃない!!」
答えたのは、エスティだった。
エスティの鬼気迫る表情に、リーダーは肩を竦める。
「やれやれ……淑女がそんな表情をしてはならないよ。確かに、我々はタカトくんの居た世界へと侵攻する。だが、人類の歴史には多々あったはずだ。『弱肉強食』の世界がな。強い者が勝っていく世界、強い者が我が物顔で生きていける世界なんだよ。それは、どの世界だってかわりないはずだ。だから、その法則が適用されるだけに過ぎない。そうだろう? 恐竜が死んだのは、偶然だ。弱肉強食の世界で頂点に立っていた恐竜が死んだことで、様々な生き物が台頭した。そして……哺乳類、ひいては我々人類が今のピラミッドの頂点に立った。そうとは言えないかね?」
「ふざけるな。そんなもので、元々居た人間を滅ぼすようなこと……」
「お前らがしたじゃないか。今、さっき。罪もない人々を火炎放射器で、燃やしたじゃないか。殺したじゃないか。あのときの轟轟と燃え盛る炎の中で、妬み苦しんで死んだ人々を……忘れるんでないよ」
「そんなこと――」
「お前がやっていない、とでも言いたいのか? お前がやっていないんだから、俺は悪くない……お前はそうとでも言いたいのか?」
リーダーの言葉は、至極そのとおりであった。
だが、崇人は未だに自分は悪くないと思い込んでいた。
人間とは、自分が悪いと確実に思っていたとしても、それが自分のせいだとは自覚しないものである。
だからこそ、人はその失敗を誰かに擦りつけたり、見て見ぬふりをするのだ。
「……御託はここまでにしよう。長く時間をかけすぎると、観客が協力して私たちを倒しかねないからな」
「観客たちをどうするつもりなの!?」
訊ねたのはエスティだった。
それに対して、小さく微笑み、リーダーはエスティの両腕を持つ。
「別に取って食おうとは思わないさ。……君たちが静かにコロシアムまで来てくれれば、の話だがね」
その言葉に、二人は小さく頷いた。
そして、それを監視カメラを通してアーデルハイトは眺めていた。
「ちくしょう! タカトとエスティが攫われちまった!」
アーデルハイトは思わずコックピットにある机を叩く。
『落ち着け、アーデルハイト。一先ず、どうするか確認するぞ』
「どうするだと? この期に及んで何を考えているんだ。突入するに決まっているだろう! このままだと、奴ら何をしでかすか解らんぞ」
アーデルハイトの明らかに激昂した様子に、マーズは小さくため息をつく。
『あのな、アーデルハイト。君は焦っている。それで、軍人としての自覚を持っていないんだ。だからこそ、今は落ち着くべきだ。そして、それが今行う最善の手段だよ』
アーデルハイトはその言葉を聞いて、そのとおり一回深呼吸をした。
落ち着くと、違った世界が見えてくるものである。
だから、マーズもアーデルハイトにそう言ったのだ。
『……どうだ、アーデルハイト? 少しは落ち着いてきたんじゃないか?』
「ええ、すまなかったわね」
アーデルハイトは小さく頭を垂れる。
『さあ、それじゃ落ち着いた頭で今度こそ考えましょうか。どのように、コロシアムを取り戻すか、その方法について』
迷路は入り組んでいたが、そのスタイルはシンプルそのもので、分岐した場所を見つけたら、そこから踏み入っていく。もし、そこで行き止まりに達してしまったら、何らかの目印をおいて、戻る――その繰り返しであった。
「……うーん。迷子になったつもりはないんだがなあ」
迷子だと自覚しないのが、迷子でない手段の一つだというならば、世の中にごまんといる迷子は一瞬にしてその定義から消え去ることだろう。
ケイスは一先ず自分は迷子ではないと考えて、さらに歩を進める。
茨の壁は触ることができない。触ったら、確実に怪我をしてしまうことだろう。また、あの白ウサギのことだ。もしかしたら、茨は茨でも毒の茨かもしれなかった。
「……この迷路、まさか出口がないとか言わないだろうな……」
ケイスは呟くが、それはただの気休めにしか過ぎなかった。
ケイス・アキュラという人間は、諦めるということを知らない。
選択したことがないのだ。
だから、彼はただ前に進む。進んで、進んで、結果がどうあろうとも、ただ前に進むだけだった。
茨の迷路は、彼に錯覚すら覚えさせた。
同じような風景が続けば、遠近感が取りづらくなるのを想像してもらえば解るだろう。ケイスは今、そんな状態に陥っていた。
それを空から眺める白ウサギは小さく笑っていた。
だが、少しだけつまらなくなってしまったのか、大きな欠伸を一つした。
「……ああ、なんだか眠くなってきちゃったな。どうしよっかなー」
白ウサギは伸びをして、そして立ち上がった。
「そうだ。少し、遊んであげよう」
そう言って、ぴょいっとジャンプした。
眼下に広がる茨の迷路へと、白ウサギは飛び降りていった。
◇◇◇
「着い……た……」
崇人たちは漸くリリーファーが保管されている倉庫へと辿りついた。
彼らがリリーファーを選択していた時とは違い、整備士も居ない倉庫はとても静かだった。リリーファーだけが静かに陳列されているその状況は、おもちゃコーナーにあるロボットの玩具を思い起こさせる。
リリーファーを眺めながら、奥の部屋へと向かっていた。
「ここまで来ると、リリーファーという存在が恐ろしく思えるな」
崇人の呟きに、エスティは訊ねる。
「なんで?」
「リリーファーってのは、今こそオートで動くシステムを開発しているってのもあるが、元は操縦者という人間が乗ってこそ成立するもんだろ? つまり、操縦者が居なければただのガラクタってことにはならないか」
エスティはそれを聞いて、首を傾げる。
「そうかな……。よく解らないや」
「まあ、僕も解らない事だ。特に話すことも、なかったから、ただ思い出したことを言っただけだ」
崇人は冗談交じりに微笑み、さらに通路を進む。
「――止まれ」
そこで、崇人たちは冷たい気配を背中に感じた。
振り返らずとも解る。これは――。
「よう、タカト・オーノ……だったか? 覚えていないもんでね、私はどうも記憶力ってもんが衰えていてね。一回会った人間の顔は覚えているが、それと名前をくっつけることは出来ないもんだ。どうにかならないかねぇ」
「僕に言われても困るな。……そして、何の御用かな」
「勝手に逃げ出しておいて、よく言うよ。心は決めていただいたかな。……私たちと共に、元の世界へと戻る手段を探るということを行うか、否かについて」
その言葉を聞いて、エスティは崇人の方を向いた。その表情は、とても驚いたものだった。
それを見て、リーダーは訊ねる。
「どうやら、隠していたのかな? そりゃ、そうだよな。そう簡単に『別の世界から来た人間』だなんて言ったら、変人呼ばわりされるのがいい例だ」
「……タカト、そうだったの?」
「…………黙ってて、ごめん」
「別に謝ることじゃないよ……。けど、本当なんだね」
エスティの言葉に崇人は頷く。
リーダーはシニカルに微笑み、
「伝えていないのは、良くないな。タカトくん。我々は、この世界を捨てる。そして、君が居た世界へと向かうのだ。協力しても、損はないはずだぞ?」
「それって……、タカトが居た世界を滅ぼすと言っているようなものじゃない!!」
答えたのは、エスティだった。
エスティの鬼気迫る表情に、リーダーは肩を竦める。
「やれやれ……淑女がそんな表情をしてはならないよ。確かに、我々はタカトくんの居た世界へと侵攻する。だが、人類の歴史には多々あったはずだ。『弱肉強食』の世界がな。強い者が勝っていく世界、強い者が我が物顔で生きていける世界なんだよ。それは、どの世界だってかわりないはずだ。だから、その法則が適用されるだけに過ぎない。そうだろう? 恐竜が死んだのは、偶然だ。弱肉強食の世界で頂点に立っていた恐竜が死んだことで、様々な生き物が台頭した。そして……哺乳類、ひいては我々人類が今のピラミッドの頂点に立った。そうとは言えないかね?」
「ふざけるな。そんなもので、元々居た人間を滅ぼすようなこと……」
「お前らがしたじゃないか。今、さっき。罪もない人々を火炎放射器で、燃やしたじゃないか。殺したじゃないか。あのときの轟轟と燃え盛る炎の中で、妬み苦しんで死んだ人々を……忘れるんでないよ」
「そんなこと――」
「お前がやっていない、とでも言いたいのか? お前がやっていないんだから、俺は悪くない……お前はそうとでも言いたいのか?」
リーダーの言葉は、至極そのとおりであった。
だが、崇人は未だに自分は悪くないと思い込んでいた。
人間とは、自分が悪いと確実に思っていたとしても、それが自分のせいだとは自覚しないものである。
だからこそ、人はその失敗を誰かに擦りつけたり、見て見ぬふりをするのだ。
「……御託はここまでにしよう。長く時間をかけすぎると、観客が協力して私たちを倒しかねないからな」
「観客たちをどうするつもりなの!?」
訊ねたのはエスティだった。
それに対して、小さく微笑み、リーダーはエスティの両腕を持つ。
「別に取って食おうとは思わないさ。……君たちが静かにコロシアムまで来てくれれば、の話だがね」
その言葉に、二人は小さく頷いた。
そして、それを監視カメラを通してアーデルハイトは眺めていた。
「ちくしょう! タカトとエスティが攫われちまった!」
アーデルハイトは思わずコックピットにある机を叩く。
『落ち着け、アーデルハイト。一先ず、どうするか確認するぞ』
「どうするだと? この期に及んで何を考えているんだ。突入するに決まっているだろう! このままだと、奴ら何をしでかすか解らんぞ」
アーデルハイトの明らかに激昂した様子に、マーズは小さくため息をつく。
『あのな、アーデルハイト。君は焦っている。それで、軍人としての自覚を持っていないんだ。だからこそ、今は落ち着くべきだ。そして、それが今行う最善の手段だよ』
アーデルハイトはその言葉を聞いて、そのとおり一回深呼吸をした。
落ち着くと、違った世界が見えてくるものである。
だから、マーズもアーデルハイトにそう言ったのだ。
『……どうだ、アーデルハイト? 少しは落ち着いてきたんじゃないか?』
「ええ、すまなかったわね」
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