絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第四十二話 解らない事
崇人は一先ずアーデルハイトの指示を受けて、会場へ戻ることとした。その、リリーファーに搭乗した道中のことである。
「……結局、どういうことか、何も言われていないし、脅迫的なこともされていない……。そういうことでいいのね?」
アーデルハイトの言葉に、崇人は頷く。
「だとしたら、少々おかしな話なのよね……。もしかして、『インフィニティ』については何も言われていない?」
「インフィニティは既にあいつらも知っているようだった。なんでも内通者が居るような口ぶりだった」
「……なぜそれを言わない?」
「言おうとしたら、お前がそう言ったんだろ。だから、お前が悪い」
「そのイチャモンやめてくれないかしらー?」
アーデルハイトと崇人は会話が盛り上がっている。それをエスティはずっと見ていた。
まずは崇人が無事で良かったと喜ぶべきだろう。しかし、今アーデルハイトと話している状況が彼女にとって何か面白くないのであった。
「……一先ず、あなたたちを会場で降ろすことにするわ。それから私たちはまた『作戦』を途中で放棄してはいけないから、そのまま参加し直さなくてはいけないから」
「ちょっと待てよ。それじゃ、団体戦はどうするんだ? 団体戦は確か、明後日だった気が……」
「それまでに解決すればいいけれど、解決しなかったら……その時は諦めてもらうほかないね」
「そんなの!!」
会話に割り入ったのは、エスティだった。
エスティがここで割り入ったのは、崇人は知っていた。
エスティは、起動従士になりたかった。それは、エスティの家に言って話を聞いて、大会の時の気合を見て、崇人はそれを感じていた。
だからこそ、エスティの嘆願は、崇人にとっても耳が痛かった。
「エスティ、どうした?」
「もしかして……あなたは、そのためにこのチームに入ったというの!? ほかの人が、どれだけ起動従士になりたいか! 知っているはずでしょう!? リリーファーに乗れるのは、学校に行ってもほんのひと握り! たとえ、勉強し続けていたとしても、振い落されることだって充分可能性がある世界、その中で一番起動従士となる可能性の高い選択肢、それがこの『大会』だった。そして、私はこの大会で、評価をもらい、起動従士になろうとした。にもかかわらず、あなたはそんなことを言う。……ねえ、それって、私たちのことを『捨てて』いるってことだよね? 私たちの将来を捨てたということだよね?」
「……まあ、そういうことだね。捨てたということになる。けれど、それは国のためだ。私は別に間違ったことをしたなんて思っていないよ。間違った……というか、理解に苦しむのは私のほうだ。だとすれば君はどうしてここにいる? 別に個人戦には参加出来るのだから、参加してくればいい話だ。勝てるか勝てないかは別にしろ、パフォーマンスを国王にアピールすることだってできたはずだ。だが、それを捨ててまでここに来た。それはもう……自業自得としか思えないがね」
エスティはそれに言い返すことが出来なかった。自分のしたことが間違っている、などと否定されたからではない。自分がここに来た本当の理由を崇人に知られたくなかったから、黙ってしまったのだった。
アーデルハイトはエスティが黙りこくったのを見て、小さくため息をつく。
「……まあ、そんな時間がかからないだろうし、二日もあれば凡てかたがつく。だから、少しは待ってもらえないかね」
その言葉に、崇人はゆっくりと頷いた。エスティはそれに反応することは、しなかった。
◇◇◇
さて、戻ってみたというものの、先ず崇人たちがすることは謝罪から始まった。
「タカトもエスティも、どこに行っていたんだ!? 俺たち、チームだろうが!! しかも個人戦すっぽかして! やる気があるのか、やる気が!」
「すまん……」
「ごめんなさい……」
ヴィエンスは開口一番、そう告げた。蟀谷には青筋が立っており、彼が起こっていることが見て取れる。
ちなみに、ヴィエンスは崇人が攫われていたことは知らないので、彼は『勝手に何処かへ行った』と思い込んでいる。崇人としてはそのあたりを弁解したかったが、アーデルハイト曰く、「部外者に話してはいけない」ということでそれは口を噤むよう命じられていた。
「……まあ、団体戦は明後日だから、それまでに間に合えばいいのかもしれない。アーデルハイトとヴィーエック、彼らもどこに行ったのか知らないが、明後日までには来て欲しいものだね」
そう言ってヴィエンスはミーティングルームを後にした。
「……どうしようか」
「……どうしようね」
エスティと崇人は顔を見合って、言う。
箝口令を敷かれているために、ヴィーエックがどうなっているのか言うこともできない。ヴィーエックが捕まっていることを、ヴィエンスは果たして予想できているのかといえば、それは違うだろう。
「だからといって、教えると団体戦のコンディションに影響しかねないからな……」
「となると、やはり黙っている方が賢明ということになるのよね……」
そう言って、二人はため息をつく。
今はそれしか、することが出来なかった。
◇◇◇
アーデルハイトはマーズと合流して、一先ずのことについて話した。
「……つまり、タカトは見つかったのね。そこは一安心と言えるかな」
「まあ、そうだね。目的がひとつは達成できたということだから」
「となると……やはりもうひとりはどこに消えたのかね……」
「それが解れば、苦労しない」
そりゃそうよねえ、とマーズは手元にある水筒を傾ける。
アーデルハイトは、ひとり考えていた。
このことは解らないことだらけだったからだ。
先ずは、ティパモール殲滅。こちらはやはり何れ何らかの拠点とするならば、完全に焼き払うことによるヴァリエイブルの旨みが解らない。
さらに『インフィニティ』の起動従士が赤い翼に知れ渡っていたこと(アーデルハイトは事前にマーズより知らされていた)。しかも内通者が居るということだ。
そして、最後はヴィーエックは何処へきえたのかということ。
まったくもって見つからない。
なぜ、攫ったのかという理由も、だ。
しかし、一つだけ言えることがあった。先程、崇人に訊ねたことがあった。
それは、『ヴィーエックが攫われた理由』についてだ。崇人は知らないと答えたが、一瞬動揺したような表情を見せた。
タカト・オーノは何か知っている。それも、重要な事実を。
しかし、それは所詮アーデルハイトの戯言に過ぎなかった。まだきちんとした証拠がないためである。
だから、マーズにはまだ言えなかった。
「……そうだ、マーズ。これからの作戦について、少し話したいのだけれど。あなたはどこへ行っていたのかしら」
不意にアーデルハイトは言った。マーズは水筒を仕舞い、中空で指を右にスライドさせる。すると、アーデルハイトの目の前に地図が表示された。その地図には赤い点が幾つか描かれていた。
「その赤い点が描いてある場所に向かったわ。一応言うと、戦果はゼロ。まったく、ここまでしたというのに結果がまったく得られないとなると、逆にやる気は愚か、もう帰りたくなるね」
「……そうですか」
アーデルハイトはそう言うと、地図に幾つか指を置き、それを右にスライドさせる。
「これが、私の行った場所です。そこに、タカトは居ました。それと……」
「それと?」
アーデルハイトが一瞬悩んだのには理由があった。彼女が言おうとしたのは、崇人と一緒にいたあの少女のことだった。
崇人と一緒に出てきた少女だったが、気がつけば居なくなっていた。エスティという第三者(観察者)がいたにもかかわらず、だ。
崇人に訊ねても、「解らない」の一点張りだった。崇人が嘘をついているようにも思えないし、何しろ全員が少女が消えたのを目撃していなかった。
だから、あれは幻覚ではないかとアーデルハイトは考えていた。
だから、そんな馬鹿らしいことは報告すべきではないのではないか、と考えてしまった。
そして、
「――いや、それだけでした」
やはり、自分の思い違いだとアーデルハイトは思って、それを心の奥に仕舞いこんだ。
「……結局、どういうことか、何も言われていないし、脅迫的なこともされていない……。そういうことでいいのね?」
アーデルハイトの言葉に、崇人は頷く。
「だとしたら、少々おかしな話なのよね……。もしかして、『インフィニティ』については何も言われていない?」
「インフィニティは既にあいつらも知っているようだった。なんでも内通者が居るような口ぶりだった」
「……なぜそれを言わない?」
「言おうとしたら、お前がそう言ったんだろ。だから、お前が悪い」
「そのイチャモンやめてくれないかしらー?」
アーデルハイトと崇人は会話が盛り上がっている。それをエスティはずっと見ていた。
まずは崇人が無事で良かったと喜ぶべきだろう。しかし、今アーデルハイトと話している状況が彼女にとって何か面白くないのであった。
「……一先ず、あなたたちを会場で降ろすことにするわ。それから私たちはまた『作戦』を途中で放棄してはいけないから、そのまま参加し直さなくてはいけないから」
「ちょっと待てよ。それじゃ、団体戦はどうするんだ? 団体戦は確か、明後日だった気が……」
「それまでに解決すればいいけれど、解決しなかったら……その時は諦めてもらうほかないね」
「そんなの!!」
会話に割り入ったのは、エスティだった。
エスティがここで割り入ったのは、崇人は知っていた。
エスティは、起動従士になりたかった。それは、エスティの家に言って話を聞いて、大会の時の気合を見て、崇人はそれを感じていた。
だからこそ、エスティの嘆願は、崇人にとっても耳が痛かった。
「エスティ、どうした?」
「もしかして……あなたは、そのためにこのチームに入ったというの!? ほかの人が、どれだけ起動従士になりたいか! 知っているはずでしょう!? リリーファーに乗れるのは、学校に行ってもほんのひと握り! たとえ、勉強し続けていたとしても、振い落されることだって充分可能性がある世界、その中で一番起動従士となる可能性の高い選択肢、それがこの『大会』だった。そして、私はこの大会で、評価をもらい、起動従士になろうとした。にもかかわらず、あなたはそんなことを言う。……ねえ、それって、私たちのことを『捨てて』いるってことだよね? 私たちの将来を捨てたということだよね?」
「……まあ、そういうことだね。捨てたということになる。けれど、それは国のためだ。私は別に間違ったことをしたなんて思っていないよ。間違った……というか、理解に苦しむのは私のほうだ。だとすれば君はどうしてここにいる? 別に個人戦には参加出来るのだから、参加してくればいい話だ。勝てるか勝てないかは別にしろ、パフォーマンスを国王にアピールすることだってできたはずだ。だが、それを捨ててまでここに来た。それはもう……自業自得としか思えないがね」
エスティはそれに言い返すことが出来なかった。自分のしたことが間違っている、などと否定されたからではない。自分がここに来た本当の理由を崇人に知られたくなかったから、黙ってしまったのだった。
アーデルハイトはエスティが黙りこくったのを見て、小さくため息をつく。
「……まあ、そんな時間がかからないだろうし、二日もあれば凡てかたがつく。だから、少しは待ってもらえないかね」
その言葉に、崇人はゆっくりと頷いた。エスティはそれに反応することは、しなかった。
◇◇◇
さて、戻ってみたというものの、先ず崇人たちがすることは謝罪から始まった。
「タカトもエスティも、どこに行っていたんだ!? 俺たち、チームだろうが!! しかも個人戦すっぽかして! やる気があるのか、やる気が!」
「すまん……」
「ごめんなさい……」
ヴィエンスは開口一番、そう告げた。蟀谷には青筋が立っており、彼が起こっていることが見て取れる。
ちなみに、ヴィエンスは崇人が攫われていたことは知らないので、彼は『勝手に何処かへ行った』と思い込んでいる。崇人としてはそのあたりを弁解したかったが、アーデルハイト曰く、「部外者に話してはいけない」ということでそれは口を噤むよう命じられていた。
「……まあ、団体戦は明後日だから、それまでに間に合えばいいのかもしれない。アーデルハイトとヴィーエック、彼らもどこに行ったのか知らないが、明後日までには来て欲しいものだね」
そう言ってヴィエンスはミーティングルームを後にした。
「……どうしようか」
「……どうしようね」
エスティと崇人は顔を見合って、言う。
箝口令を敷かれているために、ヴィーエックがどうなっているのか言うこともできない。ヴィーエックが捕まっていることを、ヴィエンスは果たして予想できているのかといえば、それは違うだろう。
「だからといって、教えると団体戦のコンディションに影響しかねないからな……」
「となると、やはり黙っている方が賢明ということになるのよね……」
そう言って、二人はため息をつく。
今はそれしか、することが出来なかった。
◇◇◇
アーデルハイトはマーズと合流して、一先ずのことについて話した。
「……つまり、タカトは見つかったのね。そこは一安心と言えるかな」
「まあ、そうだね。目的がひとつは達成できたということだから」
「となると……やはりもうひとりはどこに消えたのかね……」
「それが解れば、苦労しない」
そりゃそうよねえ、とマーズは手元にある水筒を傾ける。
アーデルハイトは、ひとり考えていた。
このことは解らないことだらけだったからだ。
先ずは、ティパモール殲滅。こちらはやはり何れ何らかの拠点とするならば、完全に焼き払うことによるヴァリエイブルの旨みが解らない。
さらに『インフィニティ』の起動従士が赤い翼に知れ渡っていたこと(アーデルハイトは事前にマーズより知らされていた)。しかも内通者が居るということだ。
そして、最後はヴィーエックは何処へきえたのかということ。
まったくもって見つからない。
なぜ、攫ったのかという理由も、だ。
しかし、一つだけ言えることがあった。先程、崇人に訊ねたことがあった。
それは、『ヴィーエックが攫われた理由』についてだ。崇人は知らないと答えたが、一瞬動揺したような表情を見せた。
タカト・オーノは何か知っている。それも、重要な事実を。
しかし、それは所詮アーデルハイトの戯言に過ぎなかった。まだきちんとした証拠がないためである。
だから、マーズにはまだ言えなかった。
「……そうだ、マーズ。これからの作戦について、少し話したいのだけれど。あなたはどこへ行っていたのかしら」
不意にアーデルハイトは言った。マーズは水筒を仕舞い、中空で指を右にスライドさせる。すると、アーデルハイトの目の前に地図が表示された。その地図には赤い点が幾つか描かれていた。
「その赤い点が描いてある場所に向かったわ。一応言うと、戦果はゼロ。まったく、ここまでしたというのに結果がまったく得られないとなると、逆にやる気は愚か、もう帰りたくなるね」
「……そうですか」
アーデルハイトはそう言うと、地図に幾つか指を置き、それを右にスライドさせる。
「これが、私の行った場所です。そこに、タカトは居ました。それと……」
「それと?」
アーデルハイトが一瞬悩んだのには理由があった。彼女が言おうとしたのは、崇人と一緒にいたあの少女のことだった。
崇人と一緒に出てきた少女だったが、気がつけば居なくなっていた。エスティという第三者(観察者)がいたにもかかわらず、だ。
崇人に訊ねても、「解らない」の一点張りだった。崇人が嘘をついているようにも思えないし、何しろ全員が少女が消えたのを目撃していなかった。
だから、あれは幻覚ではないかとアーデルハイトは考えていた。
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