絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第四十話 一発
レーザーガンから放たれたレーザーは、真っ直ぐにティパモールの集落を焼き付けていく。
集落は燃え、爛れ、人々の悲鳴が谺する。人にも容赦なく、レーザーは命中する。
それを見て、エスティは何も言えなかった。ただ呆然としていた。
「……、」
「どうした? ……あぁ、作戦の内容について不満があるのか。仕方ない。今回はティパモールを殲滅することだと、上が言っているのだし、それは間違っていないよ」
「どうして……!?」
そう言って、エスティはアーデルハイトの襟を掴んだ。
「……どうして、だって?」
「解らないよ……。同じ人間でしょう? どうして殺し合ったり、一方的に殺戮したりしなくてはいけないの……?」
「それが人間だからよ。そして、私たちがこれをしなくちゃいけないのは、組織に属しているからよ。組織に属しているからこそ、これをしなくてはならない。どんなに腹持ちならない上司でも、命令を聞かねばならない。どんなに辛い命令でも、聞かなくちゃならない。逆らったとすれば、自分の命がどうなるかも解らない。だからこそ、人間は自分の命が救われるほうへ自然と動き出す。……人間というものは、そういうものなのよ」
アーデルハイトが言っても、エスティは首を絞め続ける。
「……だとしても……、だからといって……罪のない人々を殺すなんて……!」
「殺さなくては、こちらが殺される。それが、生きていく上の術だ。そうしなければ、命令違反でこちらが銃殺刑などにされかねない」
「だったら、私はそれでもいい」
エスティの目はまっすぐアーデルハイトを捉えていた。
アーデルハイトはそれを見て、ため息をついた。
「……やれやれ。その強気。もうちょい別のところで使って欲しいもんだ。『人を殺さない起動従士』。その心意気、少し私も賭けてみることにするかな」
そう言って、アーデルハイトはコントローラーを再び強く握った。
◇◇◇
崇人と少女は、走っていた。
理由は簡単で、ここから脱出するためである。
少女と手をつなぎ、崇人は走る。崇人は時折、少女の様子を見る。見た目は自分よりも三つ四つ小さく見えるのだ。気にするのは当たり前だ。
「大丈夫か?」
声をかけるが、少女は頷くだけだった。
これからどうすればよいのだろうか――崇人はそれを考えていた。
そもそも、この少女は何者なのか。
「まあ、今は……そんなことを考える暇もない」
独りごちり、さらに先へ進んだ。
先へ進むと、鉄格子のついた扉が見えてきた。外を見ると、赤茶けた空が広がっていた。
「ここから出られるみたいだ」
少女に告げると、少女はニッコリと微笑んだ。
崇人はドアノブを握り、外へ扉を開いた――。
びちゃり。
足元から、水音が聞こえた。そして、それは、直ぐに正体がなにか理解できた。
大地は今、血で赤く染まっていた。白い瓦礫に、赤い肉片に、黄色い脂肪のぶよぶよに、白い眼球に、仄黒い肌に、茶色い大地に、黒い髪。その凡てが赤い血にぐちゃ混ぜにされている。一言で言えば、地獄絵図のような情景だった。
崇人はそれを見て、思わず吐きそうになったが、それを堪えて血の池を歩いていく。少女はあまりの状態にか無表情のまま崇人の手をぎゅっと握っていた。
「……大丈夫だ、俺がついているからな」
そう言って、崇人はぎゅっと手を握り返す。
歩いても、歩いても、血の池が続く。
果たして、これは誰がしたものなのだろうか? 瓦礫からして、ここには元々集落があったのだろうと推測出来る。
だとすれば、誰が――と思ったその時、崇人の目の前に黒いなにかが見えた。
よく見れば、それはリリーファーだった。そして、あちらも崇人に気づいたらしく、外側に向ける拡声器でこう告げた。
『もしかして、タカト!?』
「ああー! そうだー!」
『隣にいる女の子は?』
「解らん! だが、囚われていたみたいだから連れてきた!」
『……わかったわ。とりあえず、』
女性が言うと、リリーファーの左手を崇人の傍に置いた。
『これに乗って』
崇人と少女は言われた通りにリリーファーに乗り込もうとした――ちょうどその時だった。
タン。
非常にその音は軽い音だった。誰かが手を叩いたような、そんな軽い音だった。
しかし異変は、崇人の身体に現れた。
崇人の心臓が、撃ち抜かれていた。
「……え?」
崇人は思わず、それを見る。撃たれた場所は、血が滲んでいて、崇人の服を赤く染めんとしていた。
そして、力をなくした崇人は、地面に膝を落とした。
『タカトっ!!』
黒のリリーファーからも声が聞こえる。心なしか、崇人にはそれが二つの声に聞こえていた。
そして、それを高台から見ていたのは、リーダー率いる『赤い翼』の面々だった。
「……ターゲットに銃弾が命中したもよう」
「よし。そのまま観察を続けるぞ」
リーダーの言葉に、彼らは従う。
「リーダー……どうして、あいつを撃ってしまうんで? あれでは、ますますヴァリエイブルとの立場が悪くなるというか……厄介なことになりそうですが」
崇人を部屋で監視していた男が、ライフルから漏れる煙を息で吹いてから言った。
「よくは知らないが……、なんでもあいつは世界を変える存在になるらしい。つまり、私の誘いを完全に断るということを、前提としていたわけだ。まったく、小賢しいやつだよ……」
リーダーの蟀谷には血管が浮かび上がっていた。自分の行動が手を取るように解っているという誰かに怒っていた。
「まったく……。しかし、どうなるのか見ものだと言ったのは私だ。先ずはどうなるのかを、眺めさせてもらおうじゃないか」
そう言って、リーダーは再び崇人の監視を再開した。
場面は再び崇人へもどる。
崇人は血を流し、うつ伏せに倒れていた。リリーファーから降りてきたのは、アーデルハイトとエスティだった。アーデルハイトは持っていた衛星電話をどこかに繋いだ。
「もしもし。……ああ、そうだ。けが人がいる。いいから、さっさと来い。わかったな!?」
そう言って、アーデルハイトは強引に電話を切る。
「……一先ず、もうすぐ救助が来るはずだ……。タカト、しっかりしろ……! お前はまだここで死ぬようなやつではないだろう!?」
アーデルハイトは崇人の身体を揺さぶるが、もはや崇人の反応は薄かった。いつ反応をしなくなり、意識が無くなってもおかしくな状態にあった。
「なあ、タカト……。おい、目を覚ませよ……!」
揺さぶっても、崇人が起きることは、なかった。
◇◇◇
(……なんだ……死んでしまったのか……)
死、というものはあまりにも呆気ないものだったと崇人は独りごちる。
思えば、異世界という場所に飛ばされたのは、余命をここで生きることが解っていたカミサマとやらの悪戯だったのかもしれなかった。
「だとすれば、カミとやらは相当残酷な存在なんだな……」
シニカルに微笑むが、崇人は今度はこの空間について考え始めた。
この空間は、凡てが『闇』の空間だった。
闇で覆われている闇の空間は、一色で表せば黒であり、それを形容すべきものもまた闇だった。闇は闇であり、また、闇だった。
つまるところ、ここが上か下か右か左かだなんて理解も出来ないし、同様にして北か南か西か東かだなんてこともまた、理解できなかった。それほどに区別ができない『闇』だったのだ。
だから、崇人は今浮いているかもどうかの区別すらつかない。ただ、彼は一つだけ理解していたことがあった。
――彼は、確かに『死んだ』ということである。
集落は燃え、爛れ、人々の悲鳴が谺する。人にも容赦なく、レーザーは命中する。
それを見て、エスティは何も言えなかった。ただ呆然としていた。
「……、」
「どうした? ……あぁ、作戦の内容について不満があるのか。仕方ない。今回はティパモールを殲滅することだと、上が言っているのだし、それは間違っていないよ」
「どうして……!?」
そう言って、エスティはアーデルハイトの襟を掴んだ。
「……どうして、だって?」
「解らないよ……。同じ人間でしょう? どうして殺し合ったり、一方的に殺戮したりしなくてはいけないの……?」
「それが人間だからよ。そして、私たちがこれをしなくちゃいけないのは、組織に属しているからよ。組織に属しているからこそ、これをしなくてはならない。どんなに腹持ちならない上司でも、命令を聞かねばならない。どんなに辛い命令でも、聞かなくちゃならない。逆らったとすれば、自分の命がどうなるかも解らない。だからこそ、人間は自分の命が救われるほうへ自然と動き出す。……人間というものは、そういうものなのよ」
アーデルハイトが言っても、エスティは首を絞め続ける。
「……だとしても……、だからといって……罪のない人々を殺すなんて……!」
「殺さなくては、こちらが殺される。それが、生きていく上の術だ。そうしなければ、命令違反でこちらが銃殺刑などにされかねない」
「だったら、私はそれでもいい」
エスティの目はまっすぐアーデルハイトを捉えていた。
アーデルハイトはそれを見て、ため息をついた。
「……やれやれ。その強気。もうちょい別のところで使って欲しいもんだ。『人を殺さない起動従士』。その心意気、少し私も賭けてみることにするかな」
そう言って、アーデルハイトはコントローラーを再び強く握った。
◇◇◇
崇人と少女は、走っていた。
理由は簡単で、ここから脱出するためである。
少女と手をつなぎ、崇人は走る。崇人は時折、少女の様子を見る。見た目は自分よりも三つ四つ小さく見えるのだ。気にするのは当たり前だ。
「大丈夫か?」
声をかけるが、少女は頷くだけだった。
これからどうすればよいのだろうか――崇人はそれを考えていた。
そもそも、この少女は何者なのか。
「まあ、今は……そんなことを考える暇もない」
独りごちり、さらに先へ進んだ。
先へ進むと、鉄格子のついた扉が見えてきた。外を見ると、赤茶けた空が広がっていた。
「ここから出られるみたいだ」
少女に告げると、少女はニッコリと微笑んだ。
崇人はドアノブを握り、外へ扉を開いた――。
びちゃり。
足元から、水音が聞こえた。そして、それは、直ぐに正体がなにか理解できた。
大地は今、血で赤く染まっていた。白い瓦礫に、赤い肉片に、黄色い脂肪のぶよぶよに、白い眼球に、仄黒い肌に、茶色い大地に、黒い髪。その凡てが赤い血にぐちゃ混ぜにされている。一言で言えば、地獄絵図のような情景だった。
崇人はそれを見て、思わず吐きそうになったが、それを堪えて血の池を歩いていく。少女はあまりの状態にか無表情のまま崇人の手をぎゅっと握っていた。
「……大丈夫だ、俺がついているからな」
そう言って、崇人はぎゅっと手を握り返す。
歩いても、歩いても、血の池が続く。
果たして、これは誰がしたものなのだろうか? 瓦礫からして、ここには元々集落があったのだろうと推測出来る。
だとすれば、誰が――と思ったその時、崇人の目の前に黒いなにかが見えた。
よく見れば、それはリリーファーだった。そして、あちらも崇人に気づいたらしく、外側に向ける拡声器でこう告げた。
『もしかして、タカト!?』
「ああー! そうだー!」
『隣にいる女の子は?』
「解らん! だが、囚われていたみたいだから連れてきた!」
『……わかったわ。とりあえず、』
女性が言うと、リリーファーの左手を崇人の傍に置いた。
『これに乗って』
崇人と少女は言われた通りにリリーファーに乗り込もうとした――ちょうどその時だった。
タン。
非常にその音は軽い音だった。誰かが手を叩いたような、そんな軽い音だった。
しかし異変は、崇人の身体に現れた。
崇人の心臓が、撃ち抜かれていた。
「……え?」
崇人は思わず、それを見る。撃たれた場所は、血が滲んでいて、崇人の服を赤く染めんとしていた。
そして、力をなくした崇人は、地面に膝を落とした。
『タカトっ!!』
黒のリリーファーからも声が聞こえる。心なしか、崇人にはそれが二つの声に聞こえていた。
そして、それを高台から見ていたのは、リーダー率いる『赤い翼』の面々だった。
「……ターゲットに銃弾が命中したもよう」
「よし。そのまま観察を続けるぞ」
リーダーの言葉に、彼らは従う。
「リーダー……どうして、あいつを撃ってしまうんで? あれでは、ますますヴァリエイブルとの立場が悪くなるというか……厄介なことになりそうですが」
崇人を部屋で監視していた男が、ライフルから漏れる煙を息で吹いてから言った。
「よくは知らないが……、なんでもあいつは世界を変える存在になるらしい。つまり、私の誘いを完全に断るということを、前提としていたわけだ。まったく、小賢しいやつだよ……」
リーダーの蟀谷には血管が浮かび上がっていた。自分の行動が手を取るように解っているという誰かに怒っていた。
「まったく……。しかし、どうなるのか見ものだと言ったのは私だ。先ずはどうなるのかを、眺めさせてもらおうじゃないか」
そう言って、リーダーは再び崇人の監視を再開した。
場面は再び崇人へもどる。
崇人は血を流し、うつ伏せに倒れていた。リリーファーから降りてきたのは、アーデルハイトとエスティだった。アーデルハイトは持っていた衛星電話をどこかに繋いだ。
「もしもし。……ああ、そうだ。けが人がいる。いいから、さっさと来い。わかったな!?」
そう言って、アーデルハイトは強引に電話を切る。
「……一先ず、もうすぐ救助が来るはずだ……。タカト、しっかりしろ……! お前はまだここで死ぬようなやつではないだろう!?」
アーデルハイトは崇人の身体を揺さぶるが、もはや崇人の反応は薄かった。いつ反応をしなくなり、意識が無くなってもおかしくな状態にあった。
「なあ、タカト……。おい、目を覚ませよ……!」
揺さぶっても、崇人が起きることは、なかった。
◇◇◇
(……なんだ……死んでしまったのか……)
死、というものはあまりにも呆気ないものだったと崇人は独りごちる。
思えば、異世界という場所に飛ばされたのは、余命をここで生きることが解っていたカミサマとやらの悪戯だったのかもしれなかった。
「だとすれば、カミとやらは相当残酷な存在なんだな……」
シニカルに微笑むが、崇人は今度はこの空間について考え始めた。
この空間は、凡てが『闇』の空間だった。
闇で覆われている闇の空間は、一色で表せば黒であり、それを形容すべきものもまた闇だった。闇は闇であり、また、闇だった。
つまるところ、ここが上か下か右か左かだなんて理解も出来ないし、同様にして北か南か西か東かだなんてこともまた、理解できなかった。それほどに区別ができない『闇』だったのだ。
だから、崇人は今浮いているかもどうかの区別すらつかない。ただ、彼は一つだけ理解していたことがあった。
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