絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三十九話 作戦開始
崇人は隠し持っていたナイフを、ズボンのポケットの裏から取り出した。マーズから護身用に貰っていたナイフを、崇人はずっと大事に持っていたのだった。
そして、ナイフを用いて丁寧に縄を切っていく。縄は切りづらかったが、何もないよりはマシだった。
縄を切ってしまえば、後はこっちのものだった。鍵は不用心で、開いていた。部屋を出ると長い廊下があったが、幸い監視などは居ないようだった。カメラも見当たらない。
「これはチャンスか……?」
崇人はそんなことを独りごちって、廊下を歩いていく。
廊下の壁は白い煉瓦で出来ていて、等間隔に松明に模した照明が設置されていた。
「なんというか、近代的なアジトなこと」
崇人はそんなことを言いながら遂に丁字路まで辿り着いた。丁字路を左に曲がり(勿論、勘である)、更に進む。その間、崇人は注意深く進んでいた。罠が無いとは言いきれないが、ここは敵の総本山である。警戒するのは当然のことだ。
しかし、崇人には気になることが幾つもあった。人が居ないということは、何かの作戦に駆り出されているとして、部屋が一つも存在しないことが、全然解らないのだった。
「……どういうことだ? 部屋の入り口を隠しているとかか、いや、まさかなぁ……」
試しに壁を触ってみる。
すると、
――唐突に、壁が回転した。
「うわっ!?」
崇人は何が起きたのか、さっぱり理解出来なかった。そして、一瞬遅れて、事態を漸く理解する。
つまり、この壁は『仕掛け扉』だったわけだ。ここの殆どが仕掛け扉なのだろうか、それとも幾つかしか仕掛け扉の部屋は存在しないのか、今の崇人には解らなかった。
「……で、ここは何の部屋だ……へ?」
崇人が拍子抜けした声を出したのは、理由があった。
問題は、そこにいた可憐な少女だった。
少女は銀髪だった。長い髪は背中の方まであった。白いワンピースを着てニコニコと崇人の方を見ていた。
崇人はその奇妙な雰囲気を醸し出す彼女に柔かに微笑み、訊ねた。
「……君は、いったい?」
「………………わかんない」
「わかんない、と来たか」
崇人は一先ず地面に座り、考える。ここならば、見つかることもないだろう――そう思ったからである。
に、しても。
「どうしてここにいるんだ?」
「わかんない」
「敵か、味方か?」
「…………?」
「困ったな」
崇人はそう言って頭を掻く。嘘はついていないようだった。
「だとすれば捕虜か何かか……?」
崇人は独りごちるが、それが少女に聞こえることはなく、少女は首を傾げるだけだった。
少女は小さく呟く。
「……………………しろいおへやー」
「白い部屋?」
崇人が訊ねると、少女は横に首を振る。
「ううん、なんでもないよー」
少女はそのまま言ったので、崇人は考えるのをやめた。
◇◇◇
その頃。
「エスティ! あんたどうしてここに入っているのよ!?」
「どうも……タカトが攫われていると聞いて怖くなっちゃって……」
「どうもじゃないわよ!? リリーファーはもともと二人乗りを目的として設計されていないからね!? まあ、余裕があるコックピットで良かったことね……!」
アーデルハイトは『アルテミス』のコックピットで慌てていた。
何故ならば、コックピットの中にエスティが潜り込んでいたからであった。
「まったく……、一先ずここで下ろすわけにも行かないし、じっとしておくことね。バレたら私もあんたも仲良く懲罰対象だから」
アーデルハイトの言葉を聞いて、エスティは急いでコックピットの椅子の背もたれに隠れた。
「……ねえ、アーデルハイト」
「なによ」
「これは、いったい何を始めようというの?」
「最悪、戦争かな」
いとも簡単に出た、戦争というワードをエスティは飲み込めずにいた。
アーデルハイトはそれを見て、仕方ないと思っていた。
確かにこの世界はほぼひっきりなしに戦争が起きている。しかし、実際に『戦争に参加する』という意志をそう簡単には決められない。それはたとえ、そのように教育を施していたとしても、死が目前に迫っている時とすれば、後悔をするはずだ。
だからこそ、人は死の恐怖を知っているのだから。
「……戦争は怖くないの?」
エスティはアーデルハイトに訊ねる。
「怖かったらここには居ないし、そもそも戦争は怖いものじゃない。自然に起きる、争いだ。人間がこの世界にいる以上、必ず戦争は起きる。だからこそ、戦争を起こす者がいて、戦争を止める者がいる。戦争で金儲けする者もいるんだ。戦争により経済がまわり、戦争により意見がひとつになる。それは古代から決まっていることで、この今まで変えようともしなかった。……それは、人間の数少ない個性ってものだと思うね」
「そんなもんかなあ……」
エスティは首を傾げた。アーデルハイトはシニカルに微笑む。
「まあ、そんなこと一一考える人もいないな。ともかく、生きるために戦争をする。死にたくないから、銃を持つ。食うか食われるかの世界だ。ならば食ってやろうじゃねえか、ってわけだ。……ヴァリエイブルが当時小国だったペイパスと引き分けた『カンダール戦争』を覚えているか? 確か、二年前にあったはずだ」
「ええ。確か、ヴァリエイブルのカンダール大臣がペイパス軍に殺されたとかどうとかで戦争を仕掛けて……結局ペイパスの軍事力を舐めきっていたヴァリエイブルは戦争を休戦せざるを得なかった……ってものね」
「休戦と言っても、常に戦争を起こしているわけだから、そんな紙切れで決めたものなんて必要かどうかも怪しいがな」
そう言ってアーデルハイトはコックピット前方につけられた箱を開けた。すると中には大量のチューインガムが入っており、二つ出して、片方をエスティに手渡す。
「まあ……話を戻すと、カンダール戦争では、ペイパスが勝利というか、いい形での休戦へと持ち込んだわけだ。つまり、強者が必ず弱者を喰らうわけではない。弱者が強者を喰らう……まさに『窮鼠猫を噛む』状態だってわけ」
「窮鼠猫を噛む?」
「猫は鼠の天敵だろう? それで、いつもは猫にやられているんだけれど、鼠が逆に猫を喰らうこともあるってわけ。特に、絶体絶命のときは、な」
エスティはチューインガムを口に入れ、噛んだ。すぐにストロベリーのフレーバーが口の中に広がる。
「私はなんか噛んでないとやっていけなくてね。集中がすぐ切れちゃうんだよ。んなわけで、いつもこのリリーファー……『アルテミス』にはチューインガムを常備しているってわけよ」
「なるほどね……。確かに集中出来るかもね」
「だろう?」
アーデルハイトがそう呟くと、おおっ、と声を上げた。
「どうしたの?」
エスティが身を乗り上げる。
「着いたぞ。……ここが、ティパモール。作戦を行う場所だ」
「どんな作戦なの? 私、ずっとここに入っていたから解らなくて」
「簡単だよ」
無機質に答えて、アーデルハイトはコントローラーを強く握る。
すると胸部に格納されていた砲口が競り上がってくる。それはものの数秒で完全に出し切った。
そして、
「発射――!!」
その声を合図として、『アルテミス』とその場にいた『アレス』はティパモールの集落目掛けてレーザーガンを撃ち放った。
そして、ナイフを用いて丁寧に縄を切っていく。縄は切りづらかったが、何もないよりはマシだった。
縄を切ってしまえば、後はこっちのものだった。鍵は不用心で、開いていた。部屋を出ると長い廊下があったが、幸い監視などは居ないようだった。カメラも見当たらない。
「これはチャンスか……?」
崇人はそんなことを独りごちって、廊下を歩いていく。
廊下の壁は白い煉瓦で出来ていて、等間隔に松明に模した照明が設置されていた。
「なんというか、近代的なアジトなこと」
崇人はそんなことを言いながら遂に丁字路まで辿り着いた。丁字路を左に曲がり(勿論、勘である)、更に進む。その間、崇人は注意深く進んでいた。罠が無いとは言いきれないが、ここは敵の総本山である。警戒するのは当然のことだ。
しかし、崇人には気になることが幾つもあった。人が居ないということは、何かの作戦に駆り出されているとして、部屋が一つも存在しないことが、全然解らないのだった。
「……どういうことだ? 部屋の入り口を隠しているとかか、いや、まさかなぁ……」
試しに壁を触ってみる。
すると、
――唐突に、壁が回転した。
「うわっ!?」
崇人は何が起きたのか、さっぱり理解出来なかった。そして、一瞬遅れて、事態を漸く理解する。
つまり、この壁は『仕掛け扉』だったわけだ。ここの殆どが仕掛け扉なのだろうか、それとも幾つかしか仕掛け扉の部屋は存在しないのか、今の崇人には解らなかった。
「……で、ここは何の部屋だ……へ?」
崇人が拍子抜けした声を出したのは、理由があった。
問題は、そこにいた可憐な少女だった。
少女は銀髪だった。長い髪は背中の方まであった。白いワンピースを着てニコニコと崇人の方を見ていた。
崇人はその奇妙な雰囲気を醸し出す彼女に柔かに微笑み、訊ねた。
「……君は、いったい?」
「………………わかんない」
「わかんない、と来たか」
崇人は一先ず地面に座り、考える。ここならば、見つかることもないだろう――そう思ったからである。
に、しても。
「どうしてここにいるんだ?」
「わかんない」
「敵か、味方か?」
「…………?」
「困ったな」
崇人はそう言って頭を掻く。嘘はついていないようだった。
「だとすれば捕虜か何かか……?」
崇人は独りごちるが、それが少女に聞こえることはなく、少女は首を傾げるだけだった。
少女は小さく呟く。
「……………………しろいおへやー」
「白い部屋?」
崇人が訊ねると、少女は横に首を振る。
「ううん、なんでもないよー」
少女はそのまま言ったので、崇人は考えるのをやめた。
◇◇◇
その頃。
「エスティ! あんたどうしてここに入っているのよ!?」
「どうも……タカトが攫われていると聞いて怖くなっちゃって……」
「どうもじゃないわよ!? リリーファーはもともと二人乗りを目的として設計されていないからね!? まあ、余裕があるコックピットで良かったことね……!」
アーデルハイトは『アルテミス』のコックピットで慌てていた。
何故ならば、コックピットの中にエスティが潜り込んでいたからであった。
「まったく……、一先ずここで下ろすわけにも行かないし、じっとしておくことね。バレたら私もあんたも仲良く懲罰対象だから」
アーデルハイトの言葉を聞いて、エスティは急いでコックピットの椅子の背もたれに隠れた。
「……ねえ、アーデルハイト」
「なによ」
「これは、いったい何を始めようというの?」
「最悪、戦争かな」
いとも簡単に出た、戦争というワードをエスティは飲み込めずにいた。
アーデルハイトはそれを見て、仕方ないと思っていた。
確かにこの世界はほぼひっきりなしに戦争が起きている。しかし、実際に『戦争に参加する』という意志をそう簡単には決められない。それはたとえ、そのように教育を施していたとしても、死が目前に迫っている時とすれば、後悔をするはずだ。
だからこそ、人は死の恐怖を知っているのだから。
「……戦争は怖くないの?」
エスティはアーデルハイトに訊ねる。
「怖かったらここには居ないし、そもそも戦争は怖いものじゃない。自然に起きる、争いだ。人間がこの世界にいる以上、必ず戦争は起きる。だからこそ、戦争を起こす者がいて、戦争を止める者がいる。戦争で金儲けする者もいるんだ。戦争により経済がまわり、戦争により意見がひとつになる。それは古代から決まっていることで、この今まで変えようともしなかった。……それは、人間の数少ない個性ってものだと思うね」
「そんなもんかなあ……」
エスティは首を傾げた。アーデルハイトはシニカルに微笑む。
「まあ、そんなこと一一考える人もいないな。ともかく、生きるために戦争をする。死にたくないから、銃を持つ。食うか食われるかの世界だ。ならば食ってやろうじゃねえか、ってわけだ。……ヴァリエイブルが当時小国だったペイパスと引き分けた『カンダール戦争』を覚えているか? 確か、二年前にあったはずだ」
「ええ。確か、ヴァリエイブルのカンダール大臣がペイパス軍に殺されたとかどうとかで戦争を仕掛けて……結局ペイパスの軍事力を舐めきっていたヴァリエイブルは戦争を休戦せざるを得なかった……ってものね」
「休戦と言っても、常に戦争を起こしているわけだから、そんな紙切れで決めたものなんて必要かどうかも怪しいがな」
そう言ってアーデルハイトはコックピット前方につけられた箱を開けた。すると中には大量のチューインガムが入っており、二つ出して、片方をエスティに手渡す。
「まあ……話を戻すと、カンダール戦争では、ペイパスが勝利というか、いい形での休戦へと持ち込んだわけだ。つまり、強者が必ず弱者を喰らうわけではない。弱者が強者を喰らう……まさに『窮鼠猫を噛む』状態だってわけ」
「窮鼠猫を噛む?」
「猫は鼠の天敵だろう? それで、いつもは猫にやられているんだけれど、鼠が逆に猫を喰らうこともあるってわけ。特に、絶体絶命のときは、な」
エスティはチューインガムを口に入れ、噛んだ。すぐにストロベリーのフレーバーが口の中に広がる。
「私はなんか噛んでないとやっていけなくてね。集中がすぐ切れちゃうんだよ。んなわけで、いつもこのリリーファー……『アルテミス』にはチューインガムを常備しているってわけよ」
「なるほどね……。確かに集中出来るかもね」
「だろう?」
アーデルハイトがそう呟くと、おおっ、と声を上げた。
「どうしたの?」
エスティが身を乗り上げる。
「着いたぞ。……ここが、ティパモール。作戦を行う場所だ」
「どんな作戦なの? 私、ずっとここに入っていたから解らなくて」
「簡単だよ」
無機質に答えて、アーデルハイトはコントローラーを強く握る。
すると胸部に格納されていた砲口が競り上がってくる。それはものの数秒で完全に出し切った。
そして、
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