絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三十四話 二人目
「そんな戯言紛いな発言はどうだっていい。問題は『赤い翼』だ。恐らくはセレス・コロシアムの何処かに紛れているに違いない。最優先事項はそれだ。それを先に片付けなくてはならない」
「……ヴィーエック・タランスタッドの件は」
「その件については赤い翼の件が片付いてから、ということになるな。もし赤い翼が関わっているとすれば、これはこれで大変なのだが……。まさか、アーデルハイト。あなた、甘えてないでしょうね? そんな甘いことで軍を長く続けて行けれるとでも?」
アーデルハイトは軍属の人間だ。だから、マーズにこんなことを言われる筋合いというのもなかった。
だからこそ、アーデルハイトは屈辱を感じていた。
それは、自分がミスをしたという事実にほかならないのに、だ。
「だとはいえ、ですが。私がそう言われる問題もなく、一先ずは赤い翼一本で絞らなくてはならないのでは? そんなことを考えていると、赤い翼に先を越されかねませんが」
そう言うアーデルハイトの言葉に、マーズは呻き声をあげた。
「……そうですね。先ずは『赤い翼』を――ひいては、ティパモールを平定する。そのように命令が下っているのですから」
「その通りだ」
そう言うと、マーズは小さく頷いた。
◇◇◇
その頃、崇人はベッドの上で今日のことについて考えていた。
今日あったことは、凡て反省しなくてはならないだろう。
途中で失敗し、その失敗をうまく切り返せずに敵に隙を与えてしまった。
「次の試合からはそれを対処しなくちゃな……」
まず、確実にそこが狙われる。
「なんとかしなくちゃ、な」
そう言って、崇人はゆっくりと目を瞑った――。
「動くな」
そう言われ、崇人は口を塞がれた。感触からして――若い男のようだった。
「……申し訳ないが、協力させてもらうぞ。最強のリリーファー、『インフィニティ』の起動従士よ」
「!」
男からそれを言われ、崇人は思わず目を見開く。
「私たちがなにも調べないと思っていたか? 残念だったが、私たちはお前を望んでいた。誰もが使えないリリーファーの唯一使える人間。いいではないか、寧ろ素晴らしい。それを捕まえたのならば、それはヴァリエイブルにとって良い交渉材料となるからな」
そして、そのまま崇人は眠りに落ちた。
◇◇◇
次の日。
アーデルハイトとエスティが廊下で会話をしていた。
「タカトが『赤い翼』に攫われた……!?」
エスティが思わず叫びそうになったが、アーデルハイトが唇に人差し指を当てるのを見て、声を小さくする。
「そう。『赤い翼』に攫われた」
「な、なぜ……!? 理由か何か勿論あってのことなんですよね……」
「ええ。そうよ。……これはオフレコだけれどね、」
そうはじめに言ってから、アーデルハイトは説明を始めた。
それは、崇人が最強のリリーファー、『インフィニティ』を唯一扱えることの出来る人間だということだった。
「……そんなことが」
崇人に関する説明を聞いて、エスティは絶句した。
「確かに急にそれを聞けば、驚いたことでしょう。時期は少々予想外でしょうが、仕方ない。……だが、それを言わなくては話が始まりません。ですから、今話したのですよ」
「……それで、大会は実行出来るんですか?」
「せざるを得ないでしょう。……ここで変に終わらせていたら、『赤い翼』が出動しかねない」
アーデルハイトは考えていた。
もし、ヴィーエックに次いで崇人も『赤い翼』に囚われているとするならば、それは問題である。
赤い翼はテロ集団だ。人を殺すことに、躊躇い等勿論存在しない。つまり、彼らは今命の危機に晒されていることになる。
「『赤い翼』は、私たちがどうにかするわ」
「マーズさん!」
会話がマーズに交代する。
「一先ず、我々に任せてはくれないか」
「……解りました。マーズさんが言うなら」
そう言って、エスティは頭を下げ、廊下を走っていく。
去っていくのを見て、見えなくなってから、アーデルハイトはマーズに頭を下げる。
「ありがとうございました」
「何が?」
「……私のこと、軍属だと言わなくて」
「ああ、あれ」
マーズはシニカルに微笑む。
「別に言っても言わなくても変わらないと思ったんだけれどね。まあ、今のところは言わなくても問題はないかな、という感じでそう決めただけよ」
「それでも……私はあなたにお礼を言わなくてはならない」
「いいや、大丈夫」
マーズは一歩、アーデルハイトに近づく。
そして、アーデルハイトの下腹部に手を近づける。
「な、何を……」
アーデルハイトの言葉を耳に貸さず、マーズはゆっくりと腕を動かしていく。
「だって……お互い様、でしょう?」
そう言うと、マーズは手を離し、来た方向へ歩いていった。
それを見て、アーデルハイトはずっとマーズを見つめていた。
アーデルハイトは一先ず自分の部屋へ戻ることとした。試合に向けて調整するためである。
「……汗かいちゃった。シャワーでも浴びようかしら」
そう言うと、ベッドに服を凡て脱ぎ、タオルを持って彼女はシャワールームへと向かった。
シャワーを浴びながら、彼女は考える。
『赤い翼』はティパモール地域の解放を目指しているテロ集団だ。そのためならば、『インフィニティ』を操ることのできる崇人は格好の交渉材料となる。
だが、問題はヴィーエックの方だ。彼は一般の学生である。家庭も一般家庭だ。そんな彼を誘拐しても『赤い翼』にはメリットがあまりない。
「だからこそ、だ。どうして、赤い翼はヴィーエックを誘拐したんだ……?」
しかし、それは今のアーデルハイトには解らない事だった。
◇◇◇
その頃。
崇人はある部屋で目を覚ました。どうやら、腕を椅子に縛られているらしかった。
「……目、覚ましたか?」
気がつけば、壁際にある椅子にひとりの男が座っていた。その男は迷彩服に身を包んでいて、右頬には大きな傷があった。まだ白髪がないことからして、それほど年はとっていないようにも見えた。
「……あなたたちは、いったい何をしようとするんですか」
「ああ、別に取って食おうとは思わねえよ。ただ、お前がちゃんとしてくれなくちゃ、それも保障は出来ないがな」
男はそう言うと、ポケットからビスケットの包を取り出し、それを開けて崇人の口に近づける。
「ほら。飯食え。今はこれくらいしか出せないが、もう少しすればお前にもちゃんとした飯を出せるはずだ。お前には一応、死んでもらっては困るとの命令が下っているからな」
それを聞くと、崇人はビスケットを口で受け取った。若干湿気っていたが、今はどうこう言っている場合ではない。
今の崇人は、所謂捕虜という立ち位置にある。捕虜をどうするかは、捕虜を捕まえた組織に一任されるのだから、即ち崇人の命は今、『赤い翼』に一任されていることとなる。
「……ああ、だから舌噛みちぎるとかしないでくれよ? したら俺が全責任負わされて殺されちまうからな」
男は再びニカッと歯を出して笑った。
「正直なところ、お前さんが最強のリリーファーの起動従士とか、思えねえんだよな」
そう男は独りごちる。
それはそうだった。崇人自身ですら、時折このステータスに違和感を覚える。
そもそも、彼はこの世界の住民ではない。元々いた世界では平平凡凡といた人間が、この世界で特殊な役割についている。
これは偶然なのだろうか?
もしかしたら、ここに崇人が来ることが解っていたのではないだろうか?
崇人は時折、そんなことを考えるのだった。
「まあ……、変な話だ。お前さんみたいな小さい子供が世界を救っちまうようなリリーファーを操縦できるってんだから。あー、俺も小さい時はリリーファーの起動従士になりたくてな、毎日訓練学校に行きたい行きたいと親にせがんでいたっけな……」
男の話は続く。
「俺の家庭は貧乏でさ。俺を学校に連れて行くことはおろか、俺を養うことすらきつかったんだとよ。けれど、母親がどうしても俺を連れて行きたかったんだ。学校にな。なんでも母親は遊女……といっても解らねえか」
崇人は遊女の意味を薄々ながら知っていたが、一先ず頷く。
「遊女ってのは宿場とかで男の相手をする女のことでな……。それで、うちの母親は、俺を妊娠したらしい。つまり、俺の父親は解らねえってこった。……おっと、慰めの視線を送らないでくれよ。こっちが困っちまうからな」
「……ヴィーエック・タランスタッドの件は」
「その件については赤い翼の件が片付いてから、ということになるな。もし赤い翼が関わっているとすれば、これはこれで大変なのだが……。まさか、アーデルハイト。あなた、甘えてないでしょうね? そんな甘いことで軍を長く続けて行けれるとでも?」
アーデルハイトは軍属の人間だ。だから、マーズにこんなことを言われる筋合いというのもなかった。
だからこそ、アーデルハイトは屈辱を感じていた。
それは、自分がミスをしたという事実にほかならないのに、だ。
「だとはいえ、ですが。私がそう言われる問題もなく、一先ずは赤い翼一本で絞らなくてはならないのでは? そんなことを考えていると、赤い翼に先を越されかねませんが」
そう言うアーデルハイトの言葉に、マーズは呻き声をあげた。
「……そうですね。先ずは『赤い翼』を――ひいては、ティパモールを平定する。そのように命令が下っているのですから」
「その通りだ」
そう言うと、マーズは小さく頷いた。
◇◇◇
その頃、崇人はベッドの上で今日のことについて考えていた。
今日あったことは、凡て反省しなくてはならないだろう。
途中で失敗し、その失敗をうまく切り返せずに敵に隙を与えてしまった。
「次の試合からはそれを対処しなくちゃな……」
まず、確実にそこが狙われる。
「なんとかしなくちゃ、な」
そう言って、崇人はゆっくりと目を瞑った――。
「動くな」
そう言われ、崇人は口を塞がれた。感触からして――若い男のようだった。
「……申し訳ないが、協力させてもらうぞ。最強のリリーファー、『インフィニティ』の起動従士よ」
「!」
男からそれを言われ、崇人は思わず目を見開く。
「私たちがなにも調べないと思っていたか? 残念だったが、私たちはお前を望んでいた。誰もが使えないリリーファーの唯一使える人間。いいではないか、寧ろ素晴らしい。それを捕まえたのならば、それはヴァリエイブルにとって良い交渉材料となるからな」
そして、そのまま崇人は眠りに落ちた。
◇◇◇
次の日。
アーデルハイトとエスティが廊下で会話をしていた。
「タカトが『赤い翼』に攫われた……!?」
エスティが思わず叫びそうになったが、アーデルハイトが唇に人差し指を当てるのを見て、声を小さくする。
「そう。『赤い翼』に攫われた」
「な、なぜ……!? 理由か何か勿論あってのことなんですよね……」
「ええ。そうよ。……これはオフレコだけれどね、」
そうはじめに言ってから、アーデルハイトは説明を始めた。
それは、崇人が最強のリリーファー、『インフィニティ』を唯一扱えることの出来る人間だということだった。
「……そんなことが」
崇人に関する説明を聞いて、エスティは絶句した。
「確かに急にそれを聞けば、驚いたことでしょう。時期は少々予想外でしょうが、仕方ない。……だが、それを言わなくては話が始まりません。ですから、今話したのですよ」
「……それで、大会は実行出来るんですか?」
「せざるを得ないでしょう。……ここで変に終わらせていたら、『赤い翼』が出動しかねない」
アーデルハイトは考えていた。
もし、ヴィーエックに次いで崇人も『赤い翼』に囚われているとするならば、それは問題である。
赤い翼はテロ集団だ。人を殺すことに、躊躇い等勿論存在しない。つまり、彼らは今命の危機に晒されていることになる。
「『赤い翼』は、私たちがどうにかするわ」
「マーズさん!」
会話がマーズに交代する。
「一先ず、我々に任せてはくれないか」
「……解りました。マーズさんが言うなら」
そう言って、エスティは頭を下げ、廊下を走っていく。
去っていくのを見て、見えなくなってから、アーデルハイトはマーズに頭を下げる。
「ありがとうございました」
「何が?」
「……私のこと、軍属だと言わなくて」
「ああ、あれ」
マーズはシニカルに微笑む。
「別に言っても言わなくても変わらないと思ったんだけれどね。まあ、今のところは言わなくても問題はないかな、という感じでそう決めただけよ」
「それでも……私はあなたにお礼を言わなくてはならない」
「いいや、大丈夫」
マーズは一歩、アーデルハイトに近づく。
そして、アーデルハイトの下腹部に手を近づける。
「な、何を……」
アーデルハイトの言葉を耳に貸さず、マーズはゆっくりと腕を動かしていく。
「だって……お互い様、でしょう?」
そう言うと、マーズは手を離し、来た方向へ歩いていった。
それを見て、アーデルハイトはずっとマーズを見つめていた。
アーデルハイトは一先ず自分の部屋へ戻ることとした。試合に向けて調整するためである。
「……汗かいちゃった。シャワーでも浴びようかしら」
そう言うと、ベッドに服を凡て脱ぎ、タオルを持って彼女はシャワールームへと向かった。
シャワーを浴びながら、彼女は考える。
『赤い翼』はティパモール地域の解放を目指しているテロ集団だ。そのためならば、『インフィニティ』を操ることのできる崇人は格好の交渉材料となる。
だが、問題はヴィーエックの方だ。彼は一般の学生である。家庭も一般家庭だ。そんな彼を誘拐しても『赤い翼』にはメリットがあまりない。
「だからこそ、だ。どうして、赤い翼はヴィーエックを誘拐したんだ……?」
しかし、それは今のアーデルハイトには解らない事だった。
◇◇◇
その頃。
崇人はある部屋で目を覚ました。どうやら、腕を椅子に縛られているらしかった。
「……目、覚ましたか?」
気がつけば、壁際にある椅子にひとりの男が座っていた。その男は迷彩服に身を包んでいて、右頬には大きな傷があった。まだ白髪がないことからして、それほど年はとっていないようにも見えた。
「……あなたたちは、いったい何をしようとするんですか」
「ああ、別に取って食おうとは思わねえよ。ただ、お前がちゃんとしてくれなくちゃ、それも保障は出来ないがな」
男はそう言うと、ポケットからビスケットの包を取り出し、それを開けて崇人の口に近づける。
「ほら。飯食え。今はこれくらいしか出せないが、もう少しすればお前にもちゃんとした飯を出せるはずだ。お前には一応、死んでもらっては困るとの命令が下っているからな」
それを聞くと、崇人はビスケットを口で受け取った。若干湿気っていたが、今はどうこう言っている場合ではない。
今の崇人は、所謂捕虜という立ち位置にある。捕虜をどうするかは、捕虜を捕まえた組織に一任されるのだから、即ち崇人の命は今、『赤い翼』に一任されていることとなる。
「……ああ、だから舌噛みちぎるとかしないでくれよ? したら俺が全責任負わされて殺されちまうからな」
男は再びニカッと歯を出して笑った。
「正直なところ、お前さんが最強のリリーファーの起動従士とか、思えねえんだよな」
そう男は独りごちる。
それはそうだった。崇人自身ですら、時折このステータスに違和感を覚える。
そもそも、彼はこの世界の住民ではない。元々いた世界では平平凡凡といた人間が、この世界で特殊な役割についている。
これは偶然なのだろうか?
もしかしたら、ここに崇人が来ることが解っていたのではないだろうか?
崇人は時折、そんなことを考えるのだった。
「まあ……、変な話だ。お前さんみたいな小さい子供が世界を救っちまうようなリリーファーを操縦できるってんだから。あー、俺も小さい時はリリーファーの起動従士になりたくてな、毎日訓練学校に行きたい行きたいと親にせがんでいたっけな……」
男の話は続く。
「俺の家庭は貧乏でさ。俺を学校に連れて行くことはおろか、俺を養うことすらきつかったんだとよ。けれど、母親がどうしても俺を連れて行きたかったんだ。学校にな。なんでも母親は遊女……といっても解らねえか」
崇人は遊女の意味を薄々ながら知っていたが、一先ず頷く。
「遊女ってのは宿場とかで男の相手をする女のことでな……。それで、うちの母親は、俺を妊娠したらしい。つまり、俺の父親は解らねえってこった。……おっと、慰めの視線を送らないでくれよ。こっちが困っちまうからな」
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