絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三十一話 第一回戦2
崇人がリリーファーのままコロシアム、中心にあるステージへ向かうと群衆はわっと声を上げた。その声だけで、崇人は耳鳴りが聞こえてしまうほどだった。
「さぁ――、対戦相手は北ヴァリエイブル、アレキサンダー・ヴェロカーロック!!」
さらに、崇人が出てきた場所から対を為す出口より一台のリリーファーが出てくる。そのリリーファーはベスパより小型だった。そして、凡てが黒い――凡てを飲み込んでしまうほどの黒だった。それを見て崇人は思わず圧倒される。
「両者、歪み合っているぞ!? 確か両者は初対面! 何か結ばれる絆でもあったかーっ!?」
あまりにオーバーリアクション過ぎる実況の声はさておいて、改めて崇人は自らが考えた作戦をリフレインしていく。それは、至極簡単なものだった。
このリリーファーには所謂『飛び道具』というものがたった一つしかない。それこそが、小さなレーザーガンだ。勿論、国営リリーファーと比べれば質は劣るが、レーザーの種類はイットリウムであるし、その直径は六十センチであることを考えると、学校にある訓練用のリリーファーとほぼ同じスペックということになる。
つまり条件は相手も同じであるし、このレーザーのみで勝てる(言い方を変えれば、リリーファーの装甲を打ち破るという意味にもなる)ことはない。それはルールにも充分に明記されており、勝敗は『相手を行動不能にするか、場外に引きずり出すか』の何れかと決まっている。
だからこそ、相手を完膚無きまでに打ちのめす装備など、少なくともこの大会において必要ではない。必要なのは、このルールに従って相手を倒すための装備である。
「……そうだ。だから、やれば出来る……!」
崇人はそう言って、駆け出す。それと同時に、試合開始のゴングが鳴り響いた。
ゴングが鳴り響いたと同時にベスパは行動を開始した。黒いリリーファー向かって走り出したのだ。
「おーっと! ヴァリエイブルのタカト・オーノ選手が先攻をとったぁーっ!」
ベスパは走る、走る、走る。先手必勝、という言葉があるとおり、崇人はそれを実行しようとしていた。それが彼の考えた作戦のうちだからだ。
しかし。
黒いリリーファーはそれを『避けようともしなかった』。しようとおもえば出来るはずだったのに。
なぜ避けないのか。それは崇人にはまったく理解できなかった。
そんな余裕が――彼に隙を生み出した。
黒いリリーファーが突然『消えた』のだ。
「……!?」
崇人は慌ててベスパを止める。
「おおっと、北ヴァリエイブルのアレキサンダー選手! いったいどこへ消えたのかーっ!?」
その姿は、どうやら観客にも解らないようだった。ベスパはあたりを見渡す。一体どこへ消えたのか――それを探さねば試合の意味がないからだ。
「――どこへ」
消えたのか、と崇人が呟こうとしたちょうどその時だった。不自然にベスパの身体が浮き上がった。
「おおっと!? タカト選手の乗るリリーファーが突然浮き上がりだしたぞーっ……。そして……その下にいるのは、黒いリリーファーだーっ!!」
「なんだと!?」
崇人はその行動をまったく予想していなかったわけではなかった。
しかし、まさか実際にそれを行うとも思ってはいなかった。
「……まさか、実際にやるとは……!?」
そして、ベスパはそのまま逆さまの形になって、地面に落下した。
地面に落下する。それはつまりダウンを取られたということだ。テンカウントで凡てが終わってしまう。終わるということは、負けるということだ。勝つには、相手を場外に一発退場させる並みの力をかけなくてはならない。けれども、今の崇人にそれを考える力など、とうになかった。
ダウンがかかり、レフェリーがひとつずつカウントしていく。
ワン、ツー、スリー……。タイムリミットは刻一刻と迫っており、どうすればいいか、崇人は対策を考えなくてはならない。
フォー、ファイブ、シックス……。にもかかわらず、崇人はその対策が未だに浮かび上がらない。一先ず立つとして、それからどうする? ということが決まらないのだ。
セブン、エイト……。
ナイン――とレフェリーが言ったその時、ベスパはゆっくりと立ち上がった。観客からも響めきが聞こえる。
「おぉ――――っと! タカト選手! なんとカウント・ナインで起き上がった! なんとも憎い演出をしますねえ!」
勿論、そんなことは考えていなかった。演出なんてことをするつもりもなかった。ただ、彼は何も考えちゃいなかった。一先ず立ち上がり、戦っていくうちに作戦を立て直す。そういう考えしか、彼の頭には浮かんでいなかった。
「……一先ず、なんとかしなくちゃ……!」
最早、彼の頭に『余裕』という二文字はなかった。
勝つ。
その二文字が、彼の頭を支配していた。
再び、ベスパは走る。そのままでは再びやられてしまうことを、今の彼は最早考えてなどいなかった。
「……何とかすると言ったって…………どうすればいいんだ?」
それが彼の課題だった。
作戦通りに行くか、今の時点ではまったく保障はない。
だが、それしか――方法はないこともまた事実だ。
「やるっきゃねえ……やってやる……!」
そして、ベスパは黒いリリーファーに向かって走っていく。
それを見ていた、ほかのチームメンバー。
「タカトも所詮これくらいの男だったというわけだ。みろ。まったくもって怖気づいているじゃないか」
そう言ったのはヴィエンスだった。
「いや、誰だってああなるよ。特に戦闘に慣れていない人間ってのは。誰だってそうだ。君だって、若しくはそうじゃないかな」
そう言ったヴィーエックの言葉に、ヴィエンスは舌打ちする。そして、ヴィーエックの前に行き、彼を睨みつける。
「いいか。俺は……そんな甘い人間じゃねえ。弱い人間じゃねえ。況してやあいつのように、な。それを忘れないでいてもらおうか」
そう言ってヴィエンスは部屋を後にした。
「ヴィエンスくん――」
エスティがそれを追いかけようとしたが、アーデルハイトがそれを制した。
「あいつもあいつなりの考えがあるんだろう。……少し頭を冷やさせておけ」
その言葉に、エスティも頷くことしか出来なかった。
◇◇◇
その頃、黒いリリーファーに乗っているアレキサンダー。
「……いやあ、リリーファーに乗るとかどれくらいぶりだろうなあ……」
戦闘が続いているにもかかわらず、彼はリリーファーの内部をただただ眺めていた。それは、初めて買い与えられたおもちゃを嘗めるように見つめる子供のようにも見えた。
「ふうん……。やっぱこういう大会用のリリーファーでも今と昔じゃだいぶ違っちゃうなあ」
そんなことを言って、再び前方を眺める。
「さて……『大野崇人』くん。君はどうやってこれを切り抜けるかな?」
シニカルに、微笑んだ。
そして、崇人が乗るリリーファー・ベスパ。
走って、走って、走って――崇人はこれをタイミングとの勝負と考えていた。もし、それが失敗したなら凡てが水の泡となることだろう。それほどに、この作戦においてタイミングは重要なのだ。
そして、ベスパが黒いリリーファーの目の前に立つちょうどその瞬間――ベスパが跳躍した。それは黒いリリーファーにも予測出来なかったらしく、黒いリリーファーは空を眺める。
空は晴天で、ちょうど黒いリリーファーの視線の先には太陽があった。これにより、一瞬でも視界がホワイトアウトする。
そのタイミングを狙って――ベスパは黒いリリーファーの身体目掛けて鶏冠を突き刺した。
「さぁ――、対戦相手は北ヴァリエイブル、アレキサンダー・ヴェロカーロック!!」
さらに、崇人が出てきた場所から対を為す出口より一台のリリーファーが出てくる。そのリリーファーはベスパより小型だった。そして、凡てが黒い――凡てを飲み込んでしまうほどの黒だった。それを見て崇人は思わず圧倒される。
「両者、歪み合っているぞ!? 確か両者は初対面! 何か結ばれる絆でもあったかーっ!?」
あまりにオーバーリアクション過ぎる実況の声はさておいて、改めて崇人は自らが考えた作戦をリフレインしていく。それは、至極簡単なものだった。
このリリーファーには所謂『飛び道具』というものがたった一つしかない。それこそが、小さなレーザーガンだ。勿論、国営リリーファーと比べれば質は劣るが、レーザーの種類はイットリウムであるし、その直径は六十センチであることを考えると、学校にある訓練用のリリーファーとほぼ同じスペックということになる。
つまり条件は相手も同じであるし、このレーザーのみで勝てる(言い方を変えれば、リリーファーの装甲を打ち破るという意味にもなる)ことはない。それはルールにも充分に明記されており、勝敗は『相手を行動不能にするか、場外に引きずり出すか』の何れかと決まっている。
だからこそ、相手を完膚無きまでに打ちのめす装備など、少なくともこの大会において必要ではない。必要なのは、このルールに従って相手を倒すための装備である。
「……そうだ。だから、やれば出来る……!」
崇人はそう言って、駆け出す。それと同時に、試合開始のゴングが鳴り響いた。
ゴングが鳴り響いたと同時にベスパは行動を開始した。黒いリリーファー向かって走り出したのだ。
「おーっと! ヴァリエイブルのタカト・オーノ選手が先攻をとったぁーっ!」
ベスパは走る、走る、走る。先手必勝、という言葉があるとおり、崇人はそれを実行しようとしていた。それが彼の考えた作戦のうちだからだ。
しかし。
黒いリリーファーはそれを『避けようともしなかった』。しようとおもえば出来るはずだったのに。
なぜ避けないのか。それは崇人にはまったく理解できなかった。
そんな余裕が――彼に隙を生み出した。
黒いリリーファーが突然『消えた』のだ。
「……!?」
崇人は慌ててベスパを止める。
「おおっと、北ヴァリエイブルのアレキサンダー選手! いったいどこへ消えたのかーっ!?」
その姿は、どうやら観客にも解らないようだった。ベスパはあたりを見渡す。一体どこへ消えたのか――それを探さねば試合の意味がないからだ。
「――どこへ」
消えたのか、と崇人が呟こうとしたちょうどその時だった。不自然にベスパの身体が浮き上がった。
「おおっと!? タカト選手の乗るリリーファーが突然浮き上がりだしたぞーっ……。そして……その下にいるのは、黒いリリーファーだーっ!!」
「なんだと!?」
崇人はその行動をまったく予想していなかったわけではなかった。
しかし、まさか実際にそれを行うとも思ってはいなかった。
「……まさか、実際にやるとは……!?」
そして、ベスパはそのまま逆さまの形になって、地面に落下した。
地面に落下する。それはつまりダウンを取られたということだ。テンカウントで凡てが終わってしまう。終わるということは、負けるということだ。勝つには、相手を場外に一発退場させる並みの力をかけなくてはならない。けれども、今の崇人にそれを考える力など、とうになかった。
ダウンがかかり、レフェリーがひとつずつカウントしていく。
ワン、ツー、スリー……。タイムリミットは刻一刻と迫っており、どうすればいいか、崇人は対策を考えなくてはならない。
フォー、ファイブ、シックス……。にもかかわらず、崇人はその対策が未だに浮かび上がらない。一先ず立つとして、それからどうする? ということが決まらないのだ。
セブン、エイト……。
ナイン――とレフェリーが言ったその時、ベスパはゆっくりと立ち上がった。観客からも響めきが聞こえる。
「おぉ――――っと! タカト選手! なんとカウント・ナインで起き上がった! なんとも憎い演出をしますねえ!」
勿論、そんなことは考えていなかった。演出なんてことをするつもりもなかった。ただ、彼は何も考えちゃいなかった。一先ず立ち上がり、戦っていくうちに作戦を立て直す。そういう考えしか、彼の頭には浮かんでいなかった。
「……一先ず、なんとかしなくちゃ……!」
最早、彼の頭に『余裕』という二文字はなかった。
勝つ。
その二文字が、彼の頭を支配していた。
再び、ベスパは走る。そのままでは再びやられてしまうことを、今の彼は最早考えてなどいなかった。
「……何とかすると言ったって…………どうすればいいんだ?」
それが彼の課題だった。
作戦通りに行くか、今の時点ではまったく保障はない。
だが、それしか――方法はないこともまた事実だ。
「やるっきゃねえ……やってやる……!」
そして、ベスパは黒いリリーファーに向かって走っていく。
それを見ていた、ほかのチームメンバー。
「タカトも所詮これくらいの男だったというわけだ。みろ。まったくもって怖気づいているじゃないか」
そう言ったのはヴィエンスだった。
「いや、誰だってああなるよ。特に戦闘に慣れていない人間ってのは。誰だってそうだ。君だって、若しくはそうじゃないかな」
そう言ったヴィーエックの言葉に、ヴィエンスは舌打ちする。そして、ヴィーエックの前に行き、彼を睨みつける。
「いいか。俺は……そんな甘い人間じゃねえ。弱い人間じゃねえ。況してやあいつのように、な。それを忘れないでいてもらおうか」
そう言ってヴィエンスは部屋を後にした。
「ヴィエンスくん――」
エスティがそれを追いかけようとしたが、アーデルハイトがそれを制した。
「あいつもあいつなりの考えがあるんだろう。……少し頭を冷やさせておけ」
その言葉に、エスティも頷くことしか出来なかった。
◇◇◇
その頃、黒いリリーファーに乗っているアレキサンダー。
「……いやあ、リリーファーに乗るとかどれくらいぶりだろうなあ……」
戦闘が続いているにもかかわらず、彼はリリーファーの内部をただただ眺めていた。それは、初めて買い与えられたおもちゃを嘗めるように見つめる子供のようにも見えた。
「ふうん……。やっぱこういう大会用のリリーファーでも今と昔じゃだいぶ違っちゃうなあ」
そんなことを言って、再び前方を眺める。
「さて……『大野崇人』くん。君はどうやってこれを切り抜けるかな?」
シニカルに、微笑んだ。
そして、崇人が乗るリリーファー・ベスパ。
走って、走って、走って――崇人はこれをタイミングとの勝負と考えていた。もし、それが失敗したなら凡てが水の泡となることだろう。それほどに、この作戦においてタイミングは重要なのだ。
そして、ベスパが黒いリリーファーの目の前に立つちょうどその瞬間――ベスパが跳躍した。それは黒いリリーファーにも予測出来なかったらしく、黒いリリーファーは空を眺める。
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