絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三十話 第一回戦1
そして。
「それではこれから『大会』第一回戦を開始したいと思います! 第一試合は、南ヴァリエイブルのエーゴン・ヴァッド対東ペイパスのアルミン・ノーティマスです!」
ついに第一回戦の日がやってきた。歓声がスタジアム一面に湧き上がる。
スタジアムはすでに満員である。大会はいつもこのような感じであるが、今日はいつもよりも熱狂に包まれている。
「すごいなあ……。昨日の開会式以上の熱気があるじゃないか」
崇人が呟くと、アーデルハイトがシニカルな笑みを零す。
「だから言ったじゃないか。開会式よっか本選の方が熱気も強けりゃ人も多い、ってね」
「……なるほどね。こういうことか」
そう言って、崇人はモニターを再び眺めた。
アーデルハイトはそんな面々を見ながら、あることを思い出していた。
昨日、ミーティング終了後。アーデルハイトは自分の部屋に戻り、休憩していたときのことだ。
「……ふう」
ベッドに座り、アーデルハイトは一息ついていた。
彼女が持つ衛星電話の着信音が鳴り響いたのは、ちょうどその時だった。
「……もしもし」
耳に当て、応答する。相手は、マーズだった。
『もしもし、マーズ・リッペンバーです。調子はどう?』
「まずまずですかね。なんとか協調性が見られたといいますか……ところで、そんなクダラナイ内容で電話をしてきたわけではありませんよね」
『……ええ、そうよ。あなたの言うとおり、本当の目的は――「赤い翼」について』
「『赤い翼』が行動を開始した……そう言いたいのですね?」
『ええ』
「『赤い翼』は……以前セントラルタワーを占領した連中が属していた組織でしたね。……それで、彼らはどこへ向かったというのですか」
『恐らく。いや、確実に……セレス・コロシアムへ向かうものだと思われる。セレス・コロシアムは大会会場だ。そこを占領して、自分たちの力を示すなどするのだろう。……バカバカしい。力からは力しか生まれない。争いから争いが生まれるのと同じようにだ。そういうことを、やつらに叩き込まねばならない。この長い戦いを打ち切るためにも』
「……そうね。たしかにそのとおりだ」
アーデルハイトはそう言って微笑む。今彼女が微笑んでいるのは、到底見えることはない。
彼女が考えていることなど、誰にも解ることはない。そう、ほかの誰にも。
『――どうしました? 調子でも悪いですか?』
「え、あ、ああ……いや、なんでもないです」
アーデルハイトはあくまでも平静を装い、話を続ける。
「それで、どうするつもりです? まさか私とタカトに戦わせるとは……ここのリリーファーは軍事用リリーファーとは大きく劣化したものです。こんなものでテロ活動を抑止できるとは到底思えないんですが」
『そんなことは軍だって解っている。私たちが今そちらに向かっている。……明日にはそちらに着くだろう。何をしでかすか解らないが、そう簡単にあいつらも手を出さないと思う。だが、だからといって油断は禁物だ。もし、そうなった場合は君たちに一任する。……私の言っている意味が、解るな?』
マーズが言わなくとも、アーデルハイトはそれがどう言う意味なのか理解できた。つまりは何かあったら煮るも焼くも好きにしていいということだ。それを聞いて、アーデルハイトは口元を緩ませた。
「……解りました。とりあえず、そのとおりにしましょう。それで、大会側には勿論……」
『ああ。今は秘密にしておいたほうがいい。最悪バレたとしても憲法で我々は守られる。君も勿論だ。それは安心してもらっていい』
「なるほど。解りました」
そう言って、アーデルハイトは着信を切った。
そして、ベッドに横たわる。考えていたのは、明日の戦いのことだ。それも自分の試合ではない、崇人の試合についてだった。
相手が――悪すぎる。
「まさか……直々にやって来るとはね……」
そう言って、アーデルハイトは眠りについた。
その頃。
「……いよいよ、明日が『大会』だったね」
「ああ。その通りだ」
白の部屋で少年と部屋が会話をしている。少年はシニカルに微笑み、林檎をひと齧りした。
「ほんとうに『大会』に向かうのか? ……あいつもいるというのに」
「なんというか、心配になるからさ。ハンプティ・ダンプティ。君だってそうだろう?」
「君がその名前で呼ぶのは、ほんとうに久しぶりだな。『帽子屋』」
「やめてくれよ」
帽子屋は微笑む。
「――僕は帽子も被っちゃいないんだぜ。なのに、その名前で呼ばれるのは少々辛いものがあるんだ」
「仕方がないだろう。『シリーズ』の中で空いているのが帽子屋、つまり君のポジションしかなかった。……もし帽子屋でなく『ハンプティ・ダンプティ』が空いていればそうもなっただろうがね」
「ふうん……。まあ、しょうがないよね。僕には運がなかった。それだけのことだ」
そう言って帽子屋は頷く。ハンプティ・ダンプティは小さくため息をつく。
「……そうかもしれないな。だが、一先ずは『インフィニティ計画』遂行が我々の最重要事項ということは忘れないでくれ」
「……解っている」
そして、会話は終了した。
どうやらアーデルハイトは眠りについていたらしい。彼女が目を開けたその時には、ちょうど崇人の姿はなかったからだ。
「……寝ていたようね」
アーデルハイトが自嘲気味に微笑んで言うと、
「ええ、それもまあぐっすりと。昨日眠れなかったんじゃない?」
エスティがそれに答えた。
「……ところで、タカトは?」
「次の試合だから、準備に出かけたわ。あなたも急いで準備をした方がいいのじゃないかしら? ……どうやらあと二つ先の試合らしいし」
「そうね」
そう言って、アーデルハイトは立ち上がり、廊下へと向かう。
廊下を歩いて、控え室へ向かうと、一人の少年とすれ違う。
――すれ違いざまに、少年が呟いた。
「……おかえり、『アリス』」
その声を聞いて、アーデルハイトは振り返る。すれ違った少年は、小さく笑っていた。
「なによ……今の悪寒は……?」
だが、アーデルハイトは悪寒の正体を突き止めることも出来ず、再び歩くこととした。
◇◇◇
そして、崇人の試合がやってきた。
対戦相手はすでにリリーファーに搭乗済み。準備万端のようだ。
崇人もリリーファーに乗り込み、すでにコントローラーを手に持っていた。
崇人はどう戦えばいいかなどと未だに考えていた。考えるだけで身震いする。おそらくは――武者震いだ。
「……怖い」
思わず、崇人はその言葉を口にする。
だが、それは言い訳に過ぎない。ここまで行くことを決めたのは、ほかならない彼自身なのだから。
彼は気合を入れるために、頬を叩く。
「……行こう」
そして、彼は――決戦のフィールドへと向かった。
「それではこれから『大会』第一回戦を開始したいと思います! 第一試合は、南ヴァリエイブルのエーゴン・ヴァッド対東ペイパスのアルミン・ノーティマスです!」
ついに第一回戦の日がやってきた。歓声がスタジアム一面に湧き上がる。
スタジアムはすでに満員である。大会はいつもこのような感じであるが、今日はいつもよりも熱狂に包まれている。
「すごいなあ……。昨日の開会式以上の熱気があるじゃないか」
崇人が呟くと、アーデルハイトがシニカルな笑みを零す。
「だから言ったじゃないか。開会式よっか本選の方が熱気も強けりゃ人も多い、ってね」
「……なるほどね。こういうことか」
そう言って、崇人はモニターを再び眺めた。
アーデルハイトはそんな面々を見ながら、あることを思い出していた。
昨日、ミーティング終了後。アーデルハイトは自分の部屋に戻り、休憩していたときのことだ。
「……ふう」
ベッドに座り、アーデルハイトは一息ついていた。
彼女が持つ衛星電話の着信音が鳴り響いたのは、ちょうどその時だった。
「……もしもし」
耳に当て、応答する。相手は、マーズだった。
『もしもし、マーズ・リッペンバーです。調子はどう?』
「まずまずですかね。なんとか協調性が見られたといいますか……ところで、そんなクダラナイ内容で電話をしてきたわけではありませんよね」
『……ええ、そうよ。あなたの言うとおり、本当の目的は――「赤い翼」について』
「『赤い翼』が行動を開始した……そう言いたいのですね?」
『ええ』
「『赤い翼』は……以前セントラルタワーを占領した連中が属していた組織でしたね。……それで、彼らはどこへ向かったというのですか」
『恐らく。いや、確実に……セレス・コロシアムへ向かうものだと思われる。セレス・コロシアムは大会会場だ。そこを占領して、自分たちの力を示すなどするのだろう。……バカバカしい。力からは力しか生まれない。争いから争いが生まれるのと同じようにだ。そういうことを、やつらに叩き込まねばならない。この長い戦いを打ち切るためにも』
「……そうね。たしかにそのとおりだ」
アーデルハイトはそう言って微笑む。今彼女が微笑んでいるのは、到底見えることはない。
彼女が考えていることなど、誰にも解ることはない。そう、ほかの誰にも。
『――どうしました? 調子でも悪いですか?』
「え、あ、ああ……いや、なんでもないです」
アーデルハイトはあくまでも平静を装い、話を続ける。
「それで、どうするつもりです? まさか私とタカトに戦わせるとは……ここのリリーファーは軍事用リリーファーとは大きく劣化したものです。こんなものでテロ活動を抑止できるとは到底思えないんですが」
『そんなことは軍だって解っている。私たちが今そちらに向かっている。……明日にはそちらに着くだろう。何をしでかすか解らないが、そう簡単にあいつらも手を出さないと思う。だが、だからといって油断は禁物だ。もし、そうなった場合は君たちに一任する。……私の言っている意味が、解るな?』
マーズが言わなくとも、アーデルハイトはそれがどう言う意味なのか理解できた。つまりは何かあったら煮るも焼くも好きにしていいということだ。それを聞いて、アーデルハイトは口元を緩ませた。
「……解りました。とりあえず、そのとおりにしましょう。それで、大会側には勿論……」
『ああ。今は秘密にしておいたほうがいい。最悪バレたとしても憲法で我々は守られる。君も勿論だ。それは安心してもらっていい』
「なるほど。解りました」
そう言って、アーデルハイトは着信を切った。
そして、ベッドに横たわる。考えていたのは、明日の戦いのことだ。それも自分の試合ではない、崇人の試合についてだった。
相手が――悪すぎる。
「まさか……直々にやって来るとはね……」
そう言って、アーデルハイトは眠りについた。
その頃。
「……いよいよ、明日が『大会』だったね」
「ああ。その通りだ」
白の部屋で少年と部屋が会話をしている。少年はシニカルに微笑み、林檎をひと齧りした。
「ほんとうに『大会』に向かうのか? ……あいつもいるというのに」
「なんというか、心配になるからさ。ハンプティ・ダンプティ。君だってそうだろう?」
「君がその名前で呼ぶのは、ほんとうに久しぶりだな。『帽子屋』」
「やめてくれよ」
帽子屋は微笑む。
「――僕は帽子も被っちゃいないんだぜ。なのに、その名前で呼ばれるのは少々辛いものがあるんだ」
「仕方がないだろう。『シリーズ』の中で空いているのが帽子屋、つまり君のポジションしかなかった。……もし帽子屋でなく『ハンプティ・ダンプティ』が空いていればそうもなっただろうがね」
「ふうん……。まあ、しょうがないよね。僕には運がなかった。それだけのことだ」
そう言って帽子屋は頷く。ハンプティ・ダンプティは小さくため息をつく。
「……そうかもしれないな。だが、一先ずは『インフィニティ計画』遂行が我々の最重要事項ということは忘れないでくれ」
「……解っている」
そして、会話は終了した。
どうやらアーデルハイトは眠りについていたらしい。彼女が目を開けたその時には、ちょうど崇人の姿はなかったからだ。
「……寝ていたようね」
アーデルハイトが自嘲気味に微笑んで言うと、
「ええ、それもまあぐっすりと。昨日眠れなかったんじゃない?」
エスティがそれに答えた。
「……ところで、タカトは?」
「次の試合だから、準備に出かけたわ。あなたも急いで準備をした方がいいのじゃないかしら? ……どうやらあと二つ先の試合らしいし」
「そうね」
そう言って、アーデルハイトは立ち上がり、廊下へと向かう。
廊下を歩いて、控え室へ向かうと、一人の少年とすれ違う。
――すれ違いざまに、少年が呟いた。
「……おかえり、『アリス』」
その声を聞いて、アーデルハイトは振り返る。すれ違った少年は、小さく笑っていた。
「なによ……今の悪寒は……?」
だが、アーデルハイトは悪寒の正体を突き止めることも出来ず、再び歩くこととした。
◇◇◇
そして、崇人の試合がやってきた。
対戦相手はすでにリリーファーに搭乗済み。準備万端のようだ。
崇人もリリーファーに乗り込み、すでにコントローラーを手に持っていた。
崇人はどう戦えばいいかなどと未だに考えていた。考えるだけで身震いする。おそらくは――武者震いだ。
「……怖い」
思わず、崇人はその言葉を口にする。
だが、それは言い訳に過ぎない。ここまで行くことを決めたのは、ほかならない彼自身なのだから。
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