絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二十七話 仲間
「ペイパスにもペイパスなりの考えがあるのだろう。恐らく」
「だとすればいいんだがな。ペイパスは結構淡白だ。そういうので、何かを狙っていてもまったく考え取れない。ポーカーフェイスがうまいとはまさにこのことだ」
フレイヤの言葉は、確かにそうだった。ペイパスは黙りを決め込んでいる。おそらくは、この事件の殆どをヴァリエイブルに解決させるのではないかとも考えられる。その後、疲弊したヴァリエイブルにペイパスが戦争を持ちかけることすらも考えられる(アーデルハイトが国内にいる限り、可能性は低いが)。
「……まあ、一先ずはこれから始まる作戦会議でなんとやらというわけだ。どうなるかはさっぱり解らないがな」
「実際にどう転がるか、ね」
そして、彼女たちは目の前にある扉を開けた。
◇◇◇
その頃、セレス・コロシアム。
崇人たちはその中にあるホテルの一室で暇を持て余していた。
「……にしても、明日かあ。明日とはいえ、やることもない。どうすりゃいいかねえ……」
崇人はベッドに寝転がって、呟く。
「適当に時間を潰しているのは君くらいのもんだ。ほかの人たちは既にいろいろ調査に出かけているぞ。そう、例えば……リリーファーのチェックに回ったり、とかな」
アーデルハイトはベッドに腰掛けて、言った。
「リリーファーのチェック、か……。よし」
そう呟いて、崇人はベッドから立ち上がる。
「どうした?」
「あんたの言ったとおり、リリーファーのチェックに向かうんだよ。ちょっと遅いかもしれないがな」
「そう。ならば私もついていこうかしらね」
「ついていく?」
アーデルハイトが言った言葉に、崇人は怪訝な表情を示す。
対して、アーデルハイトは笑顔を崩さない。
「ダメかしら?」
――ダメ、とは言えなかった崇人であった。
リリーファーが保管されている倉庫は、コロシアムの地下にある。場所を捜索され、リリーファーに細工をされないよう、毎回場所は変わるし、幾つかダミーを設置しておくし、入るには選手の指紋が必要である。だから、そう簡単には入れない。
そんな場所へ、二人はやってきた。
「……地下と聞いたから暑苦しいと思っていたが、案外涼しいな」
「そりゃここにあるのは精密機械だからね。そう簡単に壊れないとはいえ、万全を期しているわけだ」
「はあ、なるほどね」
崇人が興味のなさそうな表情を示すと、アーデルハイトは苦笑する。
「なんだ。君がこれから乗るリリーファーをチェックしに来たのに、なんだそのやる気のない表情は。それでは、一回戦で勝ち残ることすら危ういぞ」
「余計なお世話だ」
崇人はそう一瞥して、あたりを見渡す。
まわりにはたくさんのリリーファーが居た。幾人もの整備士が居たのは、その全員がリリーファーの整備にあたっているためだろう。大会にはどんなミスがあってもいけないということからだろう。
「ミスが命取り、とはいえここまで整備士はいらないんじゃないか……?」
「整備士といっても整備クラスの連中も居るけれどね。合わせて……ってわけだ。ここでいい整備をすれば、同じく国仕えになる」
「彼らにとってもチャンス、ってわけか……。解らんな、なんだか」
崇人はそういいながら、倉庫を巡るために歩き始めた。リリーファーの周りには整備士のほかに、整備士に話を聞いている人間も居た。おそらくは、彼らが選手なのだろう。彼らはリリーファーのスペックを学び、研究するのだ。
崇人が歩いていると、見知っている顔を見かけたので、それに向けて声をかけた。
「エスティ!」
声をかけると、エスティは振り返った。
エスティの隣にはヴィエンスとヴィーエックがいた。ヴィーエックは崇人に気づくとこちらを見て柔かに微笑んだが、対してヴィエンスは顔を顰めた。
「ここまで相反する反応をされると逆に面白いよ」
崇人はシニカルに微笑むと、ヴィーエックがゆっくりと近づいてきた。
「君とちゃんと話すのは、初めてかな。タカト・オーノくん」
ヴィーエックはそう言ってニコリと笑う。なんというか、崇人は今この男の底が見えないことを不安に思っていた。別にチームメイトであるのだから、そんなことは気にする心配もないように思えるが、しかしそれはチームメイトだからこそ気にすることなのである。
チームメイトの中でミステリアスな存在がいるとすれば、それは少々ネックである。
団体戦というものは、『チームの団結力』が問われる。だからこそ、できることならオープンにしていなくてはならない。こういう論に至っては、各々の考えがあるが、少なくとも崇人はそのような考えを抱いているようだった。
「……初めてといえば初めてになるな。それで? 何か用か?」
「まあ、そう固くなるなよ。僕は穏便に話がしたいんだからさ」
「穏便、ねえ」
正直、チームメイトの中で一番掴みづらい人間であったヴィーエックを、まだ信じてはいなかった。
いつも笑っているからだ。彼の母親から受け継いだアースガルズの血は美しい金髪で残っている。アースガルズ人は差別の対象にあり、それはハーフである彼も例外ではなかった。しかし、今彼は笑っている。それが『喜び』のものか『嘲笑』であるのかは、崇人には解らないのだが。
「……疑うのも解る。けれど、チームメイトだ。お互い頑張ろうじゃないか」
「言いたいことは解るんだがな。はっきり言わせてもらうと、どうも胡散臭い。信じようにも信じられないね」
崇人がそう言うと、ヴィーエックは小さくため息をついた。
「……済まない。エスティくん、アーデルハイトくん。少しここで待っていてもらえないかな。僕はタカトくんと少し作戦会議をしたいものだから」
ヴィーエックがそう言うと、二人は頷いた。それを見て、ヴィーエックは崇人を半ば強引に連れ出し、どこかへ向かった。
ヴィーエックと崇人が着いたのは、倉庫の奥にある素材置場だった。ここには使われなくなった素材がたくさん置かれているようで、人もあまり立ち入らない空間のようだった。
「……ここまで呼ぶとなると、どうにも重要なことらしいな」
崇人が呟くと、ヴィーエックはシニカルに微笑む。
「申し訳ないね。流石にあそこでこの話は出来ないと思って」
「それほど重大なことらしいな」
「ああ。特に『君にとっては』、ね」
ヴィーエックが言ったその言葉に、崇人は少し引っかかった。
しかし、崇人は直ぐにその意味を知ることとなる。
「――なあ、タカトくん。実は僕も、君がいた世界から来た人間なんだよ」
その言葉を聞いて、崇人は愕然とした。次に、感激した。この世界に前の世界から来たという人間がいる。仲間がいる。それだけで、感極まってしまっていた。
いくら崇人と仲が良いとはいえ、エスティたちはこの世界の住人であって、崇人が元々住んでいた世界の住人ではない。だからこそ、崇人は不安でもあり、気にもなっていたのだ。
崇人はこの世界で永遠に過ごさねばならないのか――ということに。
もともとの世界を嫌いになったわけでもないし、そうかといえば今の生活が嫌という訳でもない。ただし、仮に元の世界へ戻れなくなったとなれば話は別である。やはり、人間というのは元々生まれ育った世界に執着するものである。だからこそ、崇人はこの生活が嫌ではないものの、元の世界へ戻る術を考えていた。しかし、そう簡単には見つからなかった。
だが、それも今までのことだった。
目の前には、元の世界からやってきた『友』がいる。仲間がいる。ならば、元の世界へ戻る方法を探すのも若干は楽になるだろう。
今はそれを飲み込んで、崇人は答える。
「……それは、ほんとうなのか」
「ああ。嘘はついてないよ。この世界で生き抜くには、一人で大変だったでしょう。僕もそうだったから」
ヴィーエックは優しく微笑む。崇人から見ればそれはまるで天使の微笑みにも見えた。
「……まだ、時間はかかる。だが、いつか必ず元の世界へ戻る方法が見つかるはずだ。気を落とさずに……行くしかない」
そう言って、ヴィーエックは右手を差し出す。それに崇人は答えるように右手を差し出し、握手を交わした。
「だとすればいいんだがな。ペイパスは結構淡白だ。そういうので、何かを狙っていてもまったく考え取れない。ポーカーフェイスがうまいとはまさにこのことだ」
フレイヤの言葉は、確かにそうだった。ペイパスは黙りを決め込んでいる。おそらくは、この事件の殆どをヴァリエイブルに解決させるのではないかとも考えられる。その後、疲弊したヴァリエイブルにペイパスが戦争を持ちかけることすらも考えられる(アーデルハイトが国内にいる限り、可能性は低いが)。
「……まあ、一先ずはこれから始まる作戦会議でなんとやらというわけだ。どうなるかはさっぱり解らないがな」
「実際にどう転がるか、ね」
そして、彼女たちは目の前にある扉を開けた。
◇◇◇
その頃、セレス・コロシアム。
崇人たちはその中にあるホテルの一室で暇を持て余していた。
「……にしても、明日かあ。明日とはいえ、やることもない。どうすりゃいいかねえ……」
崇人はベッドに寝転がって、呟く。
「適当に時間を潰しているのは君くらいのもんだ。ほかの人たちは既にいろいろ調査に出かけているぞ。そう、例えば……リリーファーのチェックに回ったり、とかな」
アーデルハイトはベッドに腰掛けて、言った。
「リリーファーのチェック、か……。よし」
そう呟いて、崇人はベッドから立ち上がる。
「どうした?」
「あんたの言ったとおり、リリーファーのチェックに向かうんだよ。ちょっと遅いかもしれないがな」
「そう。ならば私もついていこうかしらね」
「ついていく?」
アーデルハイトが言った言葉に、崇人は怪訝な表情を示す。
対して、アーデルハイトは笑顔を崩さない。
「ダメかしら?」
――ダメ、とは言えなかった崇人であった。
リリーファーが保管されている倉庫は、コロシアムの地下にある。場所を捜索され、リリーファーに細工をされないよう、毎回場所は変わるし、幾つかダミーを設置しておくし、入るには選手の指紋が必要である。だから、そう簡単には入れない。
そんな場所へ、二人はやってきた。
「……地下と聞いたから暑苦しいと思っていたが、案外涼しいな」
「そりゃここにあるのは精密機械だからね。そう簡単に壊れないとはいえ、万全を期しているわけだ」
「はあ、なるほどね」
崇人が興味のなさそうな表情を示すと、アーデルハイトは苦笑する。
「なんだ。君がこれから乗るリリーファーをチェックしに来たのに、なんだそのやる気のない表情は。それでは、一回戦で勝ち残ることすら危ういぞ」
「余計なお世話だ」
崇人はそう一瞥して、あたりを見渡す。
まわりにはたくさんのリリーファーが居た。幾人もの整備士が居たのは、その全員がリリーファーの整備にあたっているためだろう。大会にはどんなミスがあってもいけないということからだろう。
「ミスが命取り、とはいえここまで整備士はいらないんじゃないか……?」
「整備士といっても整備クラスの連中も居るけれどね。合わせて……ってわけだ。ここでいい整備をすれば、同じく国仕えになる」
「彼らにとってもチャンス、ってわけか……。解らんな、なんだか」
崇人はそういいながら、倉庫を巡るために歩き始めた。リリーファーの周りには整備士のほかに、整備士に話を聞いている人間も居た。おそらくは、彼らが選手なのだろう。彼らはリリーファーのスペックを学び、研究するのだ。
崇人が歩いていると、見知っている顔を見かけたので、それに向けて声をかけた。
「エスティ!」
声をかけると、エスティは振り返った。
エスティの隣にはヴィエンスとヴィーエックがいた。ヴィーエックは崇人に気づくとこちらを見て柔かに微笑んだが、対してヴィエンスは顔を顰めた。
「ここまで相反する反応をされると逆に面白いよ」
崇人はシニカルに微笑むと、ヴィーエックがゆっくりと近づいてきた。
「君とちゃんと話すのは、初めてかな。タカト・オーノくん」
ヴィーエックはそう言ってニコリと笑う。なんというか、崇人は今この男の底が見えないことを不安に思っていた。別にチームメイトであるのだから、そんなことは気にする心配もないように思えるが、しかしそれはチームメイトだからこそ気にすることなのである。
チームメイトの中でミステリアスな存在がいるとすれば、それは少々ネックである。
団体戦というものは、『チームの団結力』が問われる。だからこそ、できることならオープンにしていなくてはならない。こういう論に至っては、各々の考えがあるが、少なくとも崇人はそのような考えを抱いているようだった。
「……初めてといえば初めてになるな。それで? 何か用か?」
「まあ、そう固くなるなよ。僕は穏便に話がしたいんだからさ」
「穏便、ねえ」
正直、チームメイトの中で一番掴みづらい人間であったヴィーエックを、まだ信じてはいなかった。
いつも笑っているからだ。彼の母親から受け継いだアースガルズの血は美しい金髪で残っている。アースガルズ人は差別の対象にあり、それはハーフである彼も例外ではなかった。しかし、今彼は笑っている。それが『喜び』のものか『嘲笑』であるのかは、崇人には解らないのだが。
「……疑うのも解る。けれど、チームメイトだ。お互い頑張ろうじゃないか」
「言いたいことは解るんだがな。はっきり言わせてもらうと、どうも胡散臭い。信じようにも信じられないね」
崇人がそう言うと、ヴィーエックは小さくため息をついた。
「……済まない。エスティくん、アーデルハイトくん。少しここで待っていてもらえないかな。僕はタカトくんと少し作戦会議をしたいものだから」
ヴィーエックがそう言うと、二人は頷いた。それを見て、ヴィーエックは崇人を半ば強引に連れ出し、どこかへ向かった。
ヴィーエックと崇人が着いたのは、倉庫の奥にある素材置場だった。ここには使われなくなった素材がたくさん置かれているようで、人もあまり立ち入らない空間のようだった。
「……ここまで呼ぶとなると、どうにも重要なことらしいな」
崇人が呟くと、ヴィーエックはシニカルに微笑む。
「申し訳ないね。流石にあそこでこの話は出来ないと思って」
「それほど重大なことらしいな」
「ああ。特に『君にとっては』、ね」
ヴィーエックが言ったその言葉に、崇人は少し引っかかった。
しかし、崇人は直ぐにその意味を知ることとなる。
「――なあ、タカトくん。実は僕も、君がいた世界から来た人間なんだよ」
その言葉を聞いて、崇人は愕然とした。次に、感激した。この世界に前の世界から来たという人間がいる。仲間がいる。それだけで、感極まってしまっていた。
いくら崇人と仲が良いとはいえ、エスティたちはこの世界の住人であって、崇人が元々住んでいた世界の住人ではない。だからこそ、崇人は不安でもあり、気にもなっていたのだ。
崇人はこの世界で永遠に過ごさねばならないのか――ということに。
もともとの世界を嫌いになったわけでもないし、そうかといえば今の生活が嫌という訳でもない。ただし、仮に元の世界へ戻れなくなったとなれば話は別である。やはり、人間というのは元々生まれ育った世界に執着するものである。だからこそ、崇人はこの生活が嫌ではないものの、元の世界へ戻る術を考えていた。しかし、そう簡単には見つからなかった。
だが、それも今までのことだった。
目の前には、元の世界からやってきた『友』がいる。仲間がいる。ならば、元の世界へ戻る方法を探すのも若干は楽になるだろう。
今はそれを飲み込んで、崇人は答える。
「……それは、ほんとうなのか」
「ああ。嘘はついてないよ。この世界で生き抜くには、一人で大変だったでしょう。僕もそうだったから」
ヴィーエックは優しく微笑む。崇人から見ればそれはまるで天使の微笑みにも見えた。
「……まだ、時間はかかる。だが、いつか必ず元の世界へ戻る方法が見つかるはずだ。気を落とさずに……行くしかない」
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