絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第十八話 ファースト・ミーティング
「これから、第一ミーティングを始めます」
アリシエンスの声とともにミーティングが開始された。メンバーは先程大会に選出された五人のメンバーである。
しかしながら、ひとりひとりメンバーを見ていくと彼らがこの大会に出る気があるのか疑うものであった。
例えばヴィーエックは窓からずっと外を眺めていて、まさに『心ここにあらず』といった感じで、アーデルハイトはやはりさっきみたくゲームに熱中している。ヴィエンスとエスティ、そして崇人だけが会話に参加しているといった感じだ。
今いる場所は視聴覚室で、ここはよく学生が自由に使ってもいいために勉強会などをするためには格好の場所として知られている。そして今、崇人たちはここで大会に向けてミーティングをしている次第だ。
「『大会』まであと三週間となります。とりあえず、ここで大会とは何なのか、もう一度確認しておく必要がありますね」
そう言って、ホワイトボードにアリシエンスはすらすらと書き始める。それは『大会』の概要であった。
『大会』は皇暦六百二十年、ヴァリエイブル帝国建国五百年を記念して開催されたものである。その目的は『戦争をショービジネス』とするためだった。
長き戦争が終わり、大きな戦争が終わったあと、その大きな戦争に使われた軍事技術は使い道を失った。そして、その軍事技術は戦争が終わったあとも進歩し続けた。
その受け皿として用意されたのが『大会』だった。『大会』によって戦争をショービジネスとして変化させ、進化する軍事技術をサンプルとして見せる。それによって、軍事技術を欲しがる組織も増え、技術を開発する組織も、結局はwin-winな関係となる。
それがいつからか各国の小競り合いがはじまり、『戦力の確保』をするために大会への参加者で優秀な成績を収めた者をヴァリエイブル帝国が直々に取ることになり、これが現在までに続くシステムとなっている。
「……そして、大体大会に出場する人間が三十五人ほどで、去年もそれくらいだったからきっとそんなものだと思うのだけれど」
「リリーファー起動従士訓練学校って七つもありましたっけ?」
訊ねたのはエスティだった。
「この国には五つしかないわ。あとは、ペイパス王国から二チームが参戦するということは聞いているわ」
「ペイパスからって、大会はヴァリエイブルのみじゃありませんでしたか?」
「今年の大会はハリーニャ・エンクロイダーさんが見に行くらしいから、それもあるんでしょう。ペイパスとはあまり嫌悪な仲を作りたくもないでしょうし」
この時代、各国は大きい戦争は起こしていないものの、国同士の小競り合いが多発している。そのため、各国は皮相上の軍事同盟を結ぶ。あくまでもそれは見かけ上のものなので、特に関係はない。関係はないというわけでもないのだが、実際にはそれは紙切れ同然であるので、その同盟を理由に戦争を拒否することなどは出来ない。
「そういうわけで、結構世界というのはややこしく出来ているものなのよ……。それは、私が起動従士に現役で乗っていた頃よりも、ね」
「先生が起動従士になられていた頃というのは、ちょうどいつごろの話なんですか?」
「そうねえ……たしか私が引退したのはマーズさんが就任する一年前だったかしら。マーズさんが選ばれた時の『大会』は素晴らしかったわ。私は王様から招待されたのよ。そして、起動従士を引退した人は自ずとこの学校に入って後任を育てるようになってね……。おっと、話がずれてしまったね、とりあえず話を続けると、『大会』には個人戦と団体戦が存在します。その中でも協調性があり、かつ個別の戦力として認められる優秀な技能をもって評価されます。君達は、それを狙っているのでしょう?」
エスティとヴィエンスは頷く。崇人もゆっくりと頷いたが、他のふたりは頷くばかりか話を聞いているかも怪しい。
「一先ず、それを狙うのならば、無論対策は必要でしょう。例えば、ペイパスにも当たり前ですがリリーファーは存在します。それに噂だとヴァリエイブルよりも高度な技術を有しているとも聞きます。……しかし、それは『リリーファーの技術』に過ぎません」
「……リリーファーでダメなら、起動従士自身が技術を高めればいい……、先生はそうおっしゃるのですか?」
「エスティさん、まさにそのとおりです」
アリシエンスは小さく微笑む。
「そのとおり。リリーファーの技術が高くても、それを操るのは所詮人間です。最近は、完全にコンピューターで制御したリリーファーも開発されているそうですが、それでも操縦者は人間に変わりません。つまり、過ぎた技術があったとしても、それを操縦者が完全に理解していなければ、意味がないし、それは寧ろガラクタに過ぎないということなのです」
ガラクタは言いすぎかもしれないが、確かにその通りだった。使うものが良くても、それを使う人間が馬鹿なら馬鹿なりにしか扱えない。使う人間が天才ならばそれは最大限に効用が保たれることだろう。
「そういえば、個人戦はどうなのをやるんです?」
崇人はふと気になったので訊ねた。
「ああ、それは――」
と、アリシエンスが説明しようと思ったその時だった。
「個人戦は例年通りならば各ステージを無作為に大会側が選ぶ戦闘になる」
アリシエンスに代わって答えたのは、ゲームをしていたアーデルハイトだった。アーデルハイトは今までゲームをしていたスマートフォンをポケットに仕舞い、テーブルに肘を置く。
「ステージは全部で五個だ。雪山エリア、砂漠エリア、ジャングルエリア、都市エリア、海中エリアだ。この中でも難しいのは海中エリアだろうな。雪山エリアは、雪が弱まったタイミングを狙って攻撃したり、雪が強まればそれを利用して隠れればいい。ジャングルエリアもそれは同様だ。砂漠エリアは砂漠といいつつも砂山も紛れているから、それを利用すれば戦法が大きく広まる。都市エリアは言わずもがなだが、問題は海中エリアだ。海中にも隠れる設備は確かに存在するんだが、そもそもリリーファーはコックピットの空気を循環する装置があるから、どこにいるかはバレてしまうんだ。だから、海中エリアでは隠れる戦法は一切通用しないと見たほうがいい」
「……アーデルハイトさん、詳しいようだけれど、大会の経験は一度だけ?」
「……そうだけど、正確には兄上の付き添いで言ったから二回目になる」
アーデルハイトはアリシエンスの言葉に答える。
崇人ははじめ、彼女はただ適当に、なんとなくここに出るだけの人間なのかと思っていた。つまりは、それほどこの大会にかけている思いも薄いのかと思っていた。
しかし、今の話を聞いて、崇人は彼女もやはり起動従士を目指す人間なのだ――ということを再確認した。
「……そして、団体戦についてなんだが……これも話しても?」
アーデルハイトはアリシエンスに許可を求める。アリシエンスも特に問題はなかったので、「どうぞ」と小さく頷いた。それを見て、アーデルハイトは話を再開した。
「団体戦は簡単なことだ。ある一つのフィールドを用いて、5VS5の戦いをするってことね。ここではやっぱり協調性が大事でしょうね。これがなくちゃ戦うこともままならないでしょうし……。ともかく、これが私の知っている限りの『大会』の情報かな」
「ありがとう、アーデルハイトさん」
アリシエンスは小さく微笑んで、ホワイトボードに小さな紙を貼り付ける。そこには今アーデルハイトが言ったことをある程度集約したものが書かれていた。
アリシエンスの声とともにミーティングが開始された。メンバーは先程大会に選出された五人のメンバーである。
しかしながら、ひとりひとりメンバーを見ていくと彼らがこの大会に出る気があるのか疑うものであった。
例えばヴィーエックは窓からずっと外を眺めていて、まさに『心ここにあらず』といった感じで、アーデルハイトはやはりさっきみたくゲームに熱中している。ヴィエンスとエスティ、そして崇人だけが会話に参加しているといった感じだ。
今いる場所は視聴覚室で、ここはよく学生が自由に使ってもいいために勉強会などをするためには格好の場所として知られている。そして今、崇人たちはここで大会に向けてミーティングをしている次第だ。
「『大会』まであと三週間となります。とりあえず、ここで大会とは何なのか、もう一度確認しておく必要がありますね」
そう言って、ホワイトボードにアリシエンスはすらすらと書き始める。それは『大会』の概要であった。
『大会』は皇暦六百二十年、ヴァリエイブル帝国建国五百年を記念して開催されたものである。その目的は『戦争をショービジネス』とするためだった。
長き戦争が終わり、大きな戦争が終わったあと、その大きな戦争に使われた軍事技術は使い道を失った。そして、その軍事技術は戦争が終わったあとも進歩し続けた。
その受け皿として用意されたのが『大会』だった。『大会』によって戦争をショービジネスとして変化させ、進化する軍事技術をサンプルとして見せる。それによって、軍事技術を欲しがる組織も増え、技術を開発する組織も、結局はwin-winな関係となる。
それがいつからか各国の小競り合いがはじまり、『戦力の確保』をするために大会への参加者で優秀な成績を収めた者をヴァリエイブル帝国が直々に取ることになり、これが現在までに続くシステムとなっている。
「……そして、大体大会に出場する人間が三十五人ほどで、去年もそれくらいだったからきっとそんなものだと思うのだけれど」
「リリーファー起動従士訓練学校って七つもありましたっけ?」
訊ねたのはエスティだった。
「この国には五つしかないわ。あとは、ペイパス王国から二チームが参戦するということは聞いているわ」
「ペイパスからって、大会はヴァリエイブルのみじゃありませんでしたか?」
「今年の大会はハリーニャ・エンクロイダーさんが見に行くらしいから、それもあるんでしょう。ペイパスとはあまり嫌悪な仲を作りたくもないでしょうし」
この時代、各国は大きい戦争は起こしていないものの、国同士の小競り合いが多発している。そのため、各国は皮相上の軍事同盟を結ぶ。あくまでもそれは見かけ上のものなので、特に関係はない。関係はないというわけでもないのだが、実際にはそれは紙切れ同然であるので、その同盟を理由に戦争を拒否することなどは出来ない。
「そういうわけで、結構世界というのはややこしく出来ているものなのよ……。それは、私が起動従士に現役で乗っていた頃よりも、ね」
「先生が起動従士になられていた頃というのは、ちょうどいつごろの話なんですか?」
「そうねえ……たしか私が引退したのはマーズさんが就任する一年前だったかしら。マーズさんが選ばれた時の『大会』は素晴らしかったわ。私は王様から招待されたのよ。そして、起動従士を引退した人は自ずとこの学校に入って後任を育てるようになってね……。おっと、話がずれてしまったね、とりあえず話を続けると、『大会』には個人戦と団体戦が存在します。その中でも協調性があり、かつ個別の戦力として認められる優秀な技能をもって評価されます。君達は、それを狙っているのでしょう?」
エスティとヴィエンスは頷く。崇人もゆっくりと頷いたが、他のふたりは頷くばかりか話を聞いているかも怪しい。
「一先ず、それを狙うのならば、無論対策は必要でしょう。例えば、ペイパスにも当たり前ですがリリーファーは存在します。それに噂だとヴァリエイブルよりも高度な技術を有しているとも聞きます。……しかし、それは『リリーファーの技術』に過ぎません」
「……リリーファーでダメなら、起動従士自身が技術を高めればいい……、先生はそうおっしゃるのですか?」
「エスティさん、まさにそのとおりです」
アリシエンスは小さく微笑む。
「そのとおり。リリーファーの技術が高くても、それを操るのは所詮人間です。最近は、完全にコンピューターで制御したリリーファーも開発されているそうですが、それでも操縦者は人間に変わりません。つまり、過ぎた技術があったとしても、それを操縦者が完全に理解していなければ、意味がないし、それは寧ろガラクタに過ぎないということなのです」
ガラクタは言いすぎかもしれないが、確かにその通りだった。使うものが良くても、それを使う人間が馬鹿なら馬鹿なりにしか扱えない。使う人間が天才ならばそれは最大限に効用が保たれることだろう。
「そういえば、個人戦はどうなのをやるんです?」
崇人はふと気になったので訊ねた。
「ああ、それは――」
と、アリシエンスが説明しようと思ったその時だった。
「個人戦は例年通りならば各ステージを無作為に大会側が選ぶ戦闘になる」
アリシエンスに代わって答えたのは、ゲームをしていたアーデルハイトだった。アーデルハイトは今までゲームをしていたスマートフォンをポケットに仕舞い、テーブルに肘を置く。
「ステージは全部で五個だ。雪山エリア、砂漠エリア、ジャングルエリア、都市エリア、海中エリアだ。この中でも難しいのは海中エリアだろうな。雪山エリアは、雪が弱まったタイミングを狙って攻撃したり、雪が強まればそれを利用して隠れればいい。ジャングルエリアもそれは同様だ。砂漠エリアは砂漠といいつつも砂山も紛れているから、それを利用すれば戦法が大きく広まる。都市エリアは言わずもがなだが、問題は海中エリアだ。海中にも隠れる設備は確かに存在するんだが、そもそもリリーファーはコックピットの空気を循環する装置があるから、どこにいるかはバレてしまうんだ。だから、海中エリアでは隠れる戦法は一切通用しないと見たほうがいい」
「……アーデルハイトさん、詳しいようだけれど、大会の経験は一度だけ?」
「……そうだけど、正確には兄上の付き添いで言ったから二回目になる」
アーデルハイトはアリシエンスの言葉に答える。
崇人ははじめ、彼女はただ適当に、なんとなくここに出るだけの人間なのかと思っていた。つまりは、それほどこの大会にかけている思いも薄いのかと思っていた。
しかし、今の話を聞いて、崇人は彼女もやはり起動従士を目指す人間なのだ――ということを再確認した。
「……そして、団体戦についてなんだが……これも話しても?」
アーデルハイトはアリシエンスに許可を求める。アリシエンスも特に問題はなかったので、「どうぞ」と小さく頷いた。それを見て、アーデルハイトは話を再開した。
「団体戦は簡単なことだ。ある一つのフィールドを用いて、5VS5の戦いをするってことね。ここではやっぱり協調性が大事でしょうね。これがなくちゃ戦うこともままならないでしょうし……。ともかく、これが私の知っている限りの『大会』の情報かな」
「ありがとう、アーデルハイトさん」
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