絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第十六話 Deeds, not words.
「まあ……そんな話があったわけよ」
マーズの話を、歩きながら聞いていた崇人は何も言えなかった。
それを解っていたのかもしれない。そういうふうになることを、寧ろいつも感じているかのように、マーズは言葉を付け足した。
「だからといったって、彼女に哀れみとか必要ないからな? あいつは寧ろ、そういうのが大嫌いなんだ」
「なんかそんな性格してそうだものな」
「誰がそんな性格しているって?」
その声を聞いて崇人が振り返るとそこにはメリアが立っていた。しかし、その姿はなんだかこの前見た時よりも怠そうに見えた。
「どうしたのメリア、調子悪そうだけれど?」
「ああ……王様からプログラムの改良とか頼まれてしまってね……、おかげで徹夜だよ、ああ眠い……」
そう言ってメリアはひとつ欠伸をする。
「眠いのを承知で、ひとつお願いがあるんだけど。この前こいつから逃げたシミュレートをもう一度お願いできないかしら?」
「……もう一度?」
メリアは崇人の顔を見て、訝しげに笑う。
「お願いします」
崇人の目は、どことなく輝いていた。
そして、それを見て、メリアは崇人たちが歩いていた方向に向かって歩き出す。
「付いてきな。やってあげるよ、シミュレート」
その言葉を聞いて、ほっとした崇人はそのままメリアに付いていくのだった。
◇◇◇
シミュレートマシンに乗るのは、崇人はこれで二回目のことだ。その内、一回は目の前にして逃げ出した。
しかし、もちろんのこと今彼はそんなことなどしようとも思わなかった。当たり前だが、彼は逃げるつもりなんてまったくもってなかった。今度こそ、シミュレートを行う――彼はそう決めていた。
その決意を、メリアは崇人の顔から感じ取っていたのかもしれない。だからこそ、そう簡単に二回目のシミュレートを認めた。
二回目のシミュレートを認めるなど、そう簡単には出来ない。況してやこの人間は土壇場で逃げ出して、メリアが呆れてしまったくらいだ。
だが、彼女はその表情を見て、心を変えてしまった。
彼は今、前をむいていた。身体が、ではない。目が、その中に見える意志が、前をむいていたからだ。
流石は――あのリリーファーを操縦出来る人間だけあるか、とメリアは呟いたが、その声が崇人に届くことはなかった。
「やっぱり慣れないなあ……」
シミュレートマシンに乗るのは昨日に引き続きこれで二回目となるが、崇人は慣れてなかった。
『おいおい、さっき見せていたやる気はどうした? さっさとやってみろよ』
メリアに言われ、改めて崇人はリリーファーコントローラーを手にとった。次いで、今までの白の景色が絵の具を塗りたくるように別の景色へと移り変わった。
そして、「待っていたぜ」と言わんばかりに白のリリーファーが待ち構えていた。
つまり、この状況とは。
『昨日と同じ状況だぞ~、喜べよー。『二度目をやらせてくれ』と言ったんだから、同じシチュエーションにしないと、つまらないよなぁ?』
本当に、メリア・ヴェンダーという存在は鬼畜である。
それを、崇人は身をもって実感した。
しかしながら、今考えるのはそれではない。
「……どうやって、あいつを倒すか、だ……」
目の前に立つ、白のリリーファー。
それは崇人の乗るリリーファーを食らおうとするばかりに睨んでいた。
「このままだと……いや、やるしかない」
瞬間、崇人の乗ったリリーファーは白のリリーファー目掛けて走り出した。そして、それに答えるように白のリリーファーも崇人のリリーファー目掛けて走り出す。
そして、お互いがお互いに拳を向け、それはちょうどお互いにぶつかった。
「くっ……!」
衝撃をよけるように後退り、さらに対策を考える。
このリリーファーは、『最悪のパターンを考慮して』あるために、学校用のリリーファー並みの設備しか備わっていない。つまりは、設備に頼らずに戦えなどいった先人の言葉なのだろうが、今それはどうでもいいことでもある。
要は『何を使ってでも勝つ』のが戦場であるにもかかわらず、このようなシミュレートは果たして正しいと言えるのだろうか。
「……仕方ねえ」
この危機的状況を、彼は諦めた――
――のではない。
崇人はコントローラー横にあるスイッチを押した。そして、待ち時間ゼロでリリーファーからコイルガンが放たれた。
コイルガンとは電磁石のコイルを用いて弾丸となる物体を加速・発射する装置のことだ。レールガンとは、投射物に電流が流れないなど、基本的な電気回路の構成など、構造上において大きく異なる。
コイルガンはソレノイドコイル内にある心棒が通電時に突き出される力で物体をはじき出すというしくみでなっており、このリリーファーもそのしくみでなっている。また、限りなく入力されるエネルギーを小さくとっているために、限りなく動作音も小さいものになっている。
例えば、リリーファーが自らの駆動音で気づかないくらいに。
ズドン! と相手のリリーファーから音が響いた。
それは崇人の乗るリリーファーのコイルガンから発射された弾丸が、リリーファーの駆動部位に激突した音だった。
「まあなんというか、初めてにしては上々と言ったところかね」
メリアが紙パックのオレンジジュースを飲みながら、傍にあるソファーに腰掛ける崇人に言った。
「咄嗟の行動とはいえ……よくコイルガンの出力を最大に調整出来たな? あれは調整するための装置なんて、無論コックピット内にはあるはずないんだがな」
メリアから咎められ、崇人は言葉を失う。
「多分それは『パイロット・オプション』なんじゃないかしら、メリア」
助け舟を出したのは、意外にも(?)マーズだった。マーズの言葉にメリアは目を丸くさせた。
「……なるほど、『その性能を最大限にする』能力……そう考えれば話は早いな」
「あ、あのー……なんの話でしょう?」
話についていけなくなった崇人は、メリアに訊ねる。
「『パイロット・オプション』だよ。リリーファーの起動従士になれるってのは、無論あの学校を出るってのもあるが、最終的には運じゃないんだ。起動従士になるべく生まれた人間ってのは、生まれてして特殊能力を持っているんだと。そして、それはリリーファーに初めて乗ることで目覚めるらしい。それが……『パイロット・オプション』だ」
「『パイロット・オプション』……」
崇人はメリアが言った、その単語を繰り返す。
「……まあ、これでほんとうに起動従士になる人間ってのはようやっと判明したわけで……。どうする、名前でもつけるか、そのオプションに」
断るわけにもいかないだろう、と仕方なくではあるが崇人は頷く。マーズはそれを見て少しだけ笑顔になった。
「そうだね、『満月の夜』ってのはどうかな」
「どうして満月なんだ?」
「満月の夜に能力を解放するあれがいるじゃない。それからとってみた」
……それってもしかして狼男のことなんだろうか。崇人はそれを考えると、小さくため息をついた。
「でも、まあ、よく頑張ったとは思うかな。昨日見たく、逃げ出すこともなかったし」
マーズはそう言ってまた笑った。
そう面と向かって言われると、崇人もなんだかこそばゆく思えてきて、擽ったく思えてきた。
「…………照れてるのか?」
崇人はメリアに指摘されるまで、顔が林檎のように真っ赤になっていることに気付かなかった。
「べ、別に照れてないし……!」
「……まあ、いいか」
メリアはその光景を見て、思った。
タカト・オーノという人間は――なんだか変わっている、と。
マーズの話を、歩きながら聞いていた崇人は何も言えなかった。
それを解っていたのかもしれない。そういうふうになることを、寧ろいつも感じているかのように、マーズは言葉を付け足した。
「だからといったって、彼女に哀れみとか必要ないからな? あいつは寧ろ、そういうのが大嫌いなんだ」
「なんかそんな性格してそうだものな」
「誰がそんな性格しているって?」
その声を聞いて崇人が振り返るとそこにはメリアが立っていた。しかし、その姿はなんだかこの前見た時よりも怠そうに見えた。
「どうしたのメリア、調子悪そうだけれど?」
「ああ……王様からプログラムの改良とか頼まれてしまってね……、おかげで徹夜だよ、ああ眠い……」
そう言ってメリアはひとつ欠伸をする。
「眠いのを承知で、ひとつお願いがあるんだけど。この前こいつから逃げたシミュレートをもう一度お願いできないかしら?」
「……もう一度?」
メリアは崇人の顔を見て、訝しげに笑う。
「お願いします」
崇人の目は、どことなく輝いていた。
そして、それを見て、メリアは崇人たちが歩いていた方向に向かって歩き出す。
「付いてきな。やってあげるよ、シミュレート」
その言葉を聞いて、ほっとした崇人はそのままメリアに付いていくのだった。
◇◇◇
シミュレートマシンに乗るのは、崇人はこれで二回目のことだ。その内、一回は目の前にして逃げ出した。
しかし、もちろんのこと今彼はそんなことなどしようとも思わなかった。当たり前だが、彼は逃げるつもりなんてまったくもってなかった。今度こそ、シミュレートを行う――彼はそう決めていた。
その決意を、メリアは崇人の顔から感じ取っていたのかもしれない。だからこそ、そう簡単に二回目のシミュレートを認めた。
二回目のシミュレートを認めるなど、そう簡単には出来ない。況してやこの人間は土壇場で逃げ出して、メリアが呆れてしまったくらいだ。
だが、彼女はその表情を見て、心を変えてしまった。
彼は今、前をむいていた。身体が、ではない。目が、その中に見える意志が、前をむいていたからだ。
流石は――あのリリーファーを操縦出来る人間だけあるか、とメリアは呟いたが、その声が崇人に届くことはなかった。
「やっぱり慣れないなあ……」
シミュレートマシンに乗るのは昨日に引き続きこれで二回目となるが、崇人は慣れてなかった。
『おいおい、さっき見せていたやる気はどうした? さっさとやってみろよ』
メリアに言われ、改めて崇人はリリーファーコントローラーを手にとった。次いで、今までの白の景色が絵の具を塗りたくるように別の景色へと移り変わった。
そして、「待っていたぜ」と言わんばかりに白のリリーファーが待ち構えていた。
つまり、この状況とは。
『昨日と同じ状況だぞ~、喜べよー。『二度目をやらせてくれ』と言ったんだから、同じシチュエーションにしないと、つまらないよなぁ?』
本当に、メリア・ヴェンダーという存在は鬼畜である。
それを、崇人は身をもって実感した。
しかしながら、今考えるのはそれではない。
「……どうやって、あいつを倒すか、だ……」
目の前に立つ、白のリリーファー。
それは崇人の乗るリリーファーを食らおうとするばかりに睨んでいた。
「このままだと……いや、やるしかない」
瞬間、崇人の乗ったリリーファーは白のリリーファー目掛けて走り出した。そして、それに答えるように白のリリーファーも崇人のリリーファー目掛けて走り出す。
そして、お互いがお互いに拳を向け、それはちょうどお互いにぶつかった。
「くっ……!」
衝撃をよけるように後退り、さらに対策を考える。
このリリーファーは、『最悪のパターンを考慮して』あるために、学校用のリリーファー並みの設備しか備わっていない。つまりは、設備に頼らずに戦えなどいった先人の言葉なのだろうが、今それはどうでもいいことでもある。
要は『何を使ってでも勝つ』のが戦場であるにもかかわらず、このようなシミュレートは果たして正しいと言えるのだろうか。
「……仕方ねえ」
この危機的状況を、彼は諦めた――
――のではない。
崇人はコントローラー横にあるスイッチを押した。そして、待ち時間ゼロでリリーファーからコイルガンが放たれた。
コイルガンとは電磁石のコイルを用いて弾丸となる物体を加速・発射する装置のことだ。レールガンとは、投射物に電流が流れないなど、基本的な電気回路の構成など、構造上において大きく異なる。
コイルガンはソレノイドコイル内にある心棒が通電時に突き出される力で物体をはじき出すというしくみでなっており、このリリーファーもそのしくみでなっている。また、限りなく入力されるエネルギーを小さくとっているために、限りなく動作音も小さいものになっている。
例えば、リリーファーが自らの駆動音で気づかないくらいに。
ズドン! と相手のリリーファーから音が響いた。
それは崇人の乗るリリーファーのコイルガンから発射された弾丸が、リリーファーの駆動部位に激突した音だった。
「まあなんというか、初めてにしては上々と言ったところかね」
メリアが紙パックのオレンジジュースを飲みながら、傍にあるソファーに腰掛ける崇人に言った。
「咄嗟の行動とはいえ……よくコイルガンの出力を最大に調整出来たな? あれは調整するための装置なんて、無論コックピット内にはあるはずないんだがな」
メリアから咎められ、崇人は言葉を失う。
「多分それは『パイロット・オプション』なんじゃないかしら、メリア」
助け舟を出したのは、意外にも(?)マーズだった。マーズの言葉にメリアは目を丸くさせた。
「……なるほど、『その性能を最大限にする』能力……そう考えれば話は早いな」
「あ、あのー……なんの話でしょう?」
話についていけなくなった崇人は、メリアに訊ねる。
「『パイロット・オプション』だよ。リリーファーの起動従士になれるってのは、無論あの学校を出るってのもあるが、最終的には運じゃないんだ。起動従士になるべく生まれた人間ってのは、生まれてして特殊能力を持っているんだと。そして、それはリリーファーに初めて乗ることで目覚めるらしい。それが……『パイロット・オプション』だ」
「『パイロット・オプション』……」
崇人はメリアが言った、その単語を繰り返す。
「……まあ、これでほんとうに起動従士になる人間ってのはようやっと判明したわけで……。どうする、名前でもつけるか、そのオプションに」
断るわけにもいかないだろう、と仕方なくではあるが崇人は頷く。マーズはそれを見て少しだけ笑顔になった。
「そうだね、『満月の夜』ってのはどうかな」
「どうして満月なんだ?」
「満月の夜に能力を解放するあれがいるじゃない。それからとってみた」
……それってもしかして狼男のことなんだろうか。崇人はそれを考えると、小さくため息をついた。
「でも、まあ、よく頑張ったとは思うかな。昨日見たく、逃げ出すこともなかったし」
マーズはそう言ってまた笑った。
そう面と向かって言われると、崇人もなんだかこそばゆく思えてきて、擽ったく思えてきた。
「…………照れてるのか?」
崇人はメリアに指摘されるまで、顔が林檎のように真っ赤になっていることに気付かなかった。
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