絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第十一話 地下と暗躍
その頃、マーズは崇人から受け取ったメールを見て愕然としていた。
突然の『赤い翼』によるテロ行為。それはまったくもって予想ができない場所でのことだった。
まさか、突然彼らが中心部にほど近いセントラルタワーでテロ行為に働くなど、思いもしなかった。
なぜなら、彼らは国内で指名手配されており、検問を通ってしまうと捕まるからだ。検問を通らないという選択肢は通用せず、つまりはここまで辿り着くことができないはずだった。断じてそんなことなど有り得ないはずなのだ。
しかしながら、現に彼らはそこに居るという。なぜだ。なぜなのだ。マーズは考える。嘘なのか。否、とても崇人が嘘をつくとは考えられなかった。
だからこそ、彼女は今リリーファーのコックピットにいた。
彼女の愛機――『アレス』とはもう長い仲だ。彼女が初めて乗った国有リリーファーもこれであるし、それ以降彼女はずっとアレスに乗っていた。
「……信じる、べきだよな?」
マーズは誰ともわからないものに問いかける。勿論、返事などない。
だけれど、マーズには聞こえた気がした。誰かからの返事が。
「……行こう」
そして、マーズは握っていたコントローラを思い切り前へ突き出した。
◇◇◇
その頃崇人は脇道を抜け、二階へとたどり着いていた。二階はフードコートとなっており、たくさんの食べ物屋が軒を連ねていた。今は殆ど人もおらず、とても静かだった。
「どうやら誰もいないみたいだな……」
崇人は呟いて、大通りに抜ける。
当てもなく走る。走る。
「タカトくん、一先ずどこへ……?」
「何処に行くかな。隠れやすい場所があればいいんだけど……」
走って、漸く非常階段の扉を見つけ、そこに入る。
三人はようやく安堵の溜息をついた。
「……ここならなんとかなるかな……」
「でも、非常階段って危なくないかなぁ? もしここを利用していたら……」
「いや、それはないかな」
崇人はエスティの問いに答える。
「あくまでも勘でしかないけれど、テロリストってのは結構目立ちたがりというか、全てを探しておきたいものだけれど結局は大まかに見るに留まってしまうケースばかりなんだよ。だから、それは有り得ない」
「ふーん」
エスティは崇人の言葉を、あまりよく理解できなかったが、おざなりにして頷いた。
崇人は今現在の状況で、このままいれるのか不安でしかならなかった。
エスティにはそうと言ったが、本当に来ないという確証は勿論のこと無い。
だけれど、正直にそう言うのは間違いだ。
今、一番困ることはエスティが希望を失うことでもある。勿論彼女も最悪のパターンを考えているだろうが、それは『あくまでも』である。あくまでもなのだから、それを考慮しているとは考えにくい。つまりは、そうではなくて、エスティの覚悟は本物でない可能性もあるということを崇人は考えてもいた。
と、なると。
エスティがそのようなことを考えないように、崇人がアシストする必要があるということだ。
「……ねえ、タカトくん。顔色が悪いよ?」
エスティに言われ、崇人は我に返る。
「あ、いや、なんでもないよ」
「そう?」
エスティを心配させてはならない。
そのためには話の話題を逸らさねば――。
「……そういえば」
崇人は先程会った少女に声をかけた。少女はエスティの隣(つまり、崇人より一番離れた位置にいる)にいて、崇人に声をかけられて、肩を震わせた。
「名前はなんていうの?」
代わって、エスティが訊ねる。やはりこういうのは同性がいいというものだ――崇人はそれを思い知らされた。
「……レイリック・ペイサー」
少女――レイリックは小さく呟いた。エスティはうんうんと頷く。
「お父さんとはぐれたの」
ぽつり、またぽつりとレイリックは言葉を紡いでいく。
レイリックが言うには、父親と遊びにきていたところにこれがあったらしい。父親は彼女を置いて何処かへ行ってしまったのだとか。
「……いくらこんな非常事態だからってひどいよね」
エスティは顔を膨らませて言った。
「でもさ、大丈夫だよ。お父さんと必ず、再会させてあげるからね」
エスティはそう笑って言った。それにつられて、レイリックも笑顔で頷いた。
――崇人はそんな二人のやりとりを聴きながら、これからどうするか考えていた。
まず、ここは危険である。しかしながら、動かないほうがいい。そんな矛盾を孕んでいる今現在であるが、どうするか彼は決断できずにいた。矛盾を孕んでいるからこそ、危険な状況である。
ならば、どうすればよいか。
答えは、ただひとつ。
「……移動するぞ。地下に確か配電設備があるはずだ。特にこういったおおきな施設では、な」
それは崇人にとって大きな賭けだった。
「…………」
エスティとレイリックは何も言わず、ただ立ち上がった。
崇人も立ち上がり、三人は非常階段を降りていった。
◇◇◇
「ったく……やっと縛り終えたぜ」
ホールに居る黒い防弾チョッキを着た男はそう呟いた。
彼は今、先程仕組んだテロにより、千五百人もの人間を人質にとったことになる。実際にはもっと多いだろうが、ここに居る人間だけでも価値はあった。
彼がここまで来られたのには、理由があった。
検問を魔法でくぐりぬけ(それでも生体にある精神痕は消せないからあやふやにさせる程度ではあるが)、そしてセントラルタワーへのテロ行為もその人間の助言によって成立した。
「……まさか我々にそんなバックアップがあろうとは、誰も思うまい」
男は呟く。そして、彼は感謝をしていた。
これで、故郷ティパモールの解放運動がさらに世間へ知れ渡る。そうともなれば王は失脚、場合によれば帝国の解体にすらなりかねない。
そうなれば、彼らの思うつぼである。
ティパモール独立を堂々と世界へ公言し、理想の地を作り上げる。
それが彼らの目的だった。
(……しかし、あいつは何を企んでいる? あいつはもともと俺たちとは敵対する部類に入っていたのではないのか?)
男は考えるが、その結論へと結びつかない。
結局は、彼らも『その人間』の手の内にいるに過ぎないことを、彼らはまだ、知らない。
◇◇◇
地下は冷たく、暗かった。唯一壁面に等間隔とって置かれてある照明も切れかけていた。
「……寒い」
ワンピースを着ていたエスティは剥き出しになっている肩を震わせていた。
「……ほら」
崇人は自らが羽織っていたシャツをエスティにかけた。
「タカトくんは寒くないの?」
「エスティが寒がってるだろ」
それだけを言って、崇人はゆっくりと歩きだした。
「……ありがとう」
その言葉は、あまりにも小さくて、崇人に聞こえることはなかった。
地下は崇人の言うとおり配電設備となっていた。そこを歩く崇人たちだったが、歩いていくうちに寒さが増していくのを、感じていた。
「……なんだか徐々に寒くなっている気がするな……」
崇人は独りごちるその後ろではレイリックとエスティが二人並んで歩いていた。
「ねえエスティさん」
「どうしたの?」
レイリックが急に訊ねたので、エスティはもしかしたら体調でも悪くなったのかと心配そうな顔つきで答えた。
「……ぶっちゃけ、エスティさんってタカトさんのこと好きでしょ?」
「ぶぶっ!!」
思わずエスティは吹き出してしまった。
にしても最近の子供は背伸びしすぎだろう……! とエスティは心の中で叫んでいたが、そんな表情などレイリックには見せまいと必死に取り繕う。
「な、なんで……!?」
「だってさっきすっごい顔赤くしてたよ? それにずーっとタカトさんのほう見てるし……」
「わわーっ! 言わなくていいのっ!」
「ん、どうかしたか?」
エスティの大声に崇人も気がついたらしく、立ち止まって振り返った。エスティは必死に取り繕って、「なんでもないよ!! なんでもないからね!!」と答えた(取り繕えてなど居ないのは、見て解るのだが)。
「そ、そうか……」
崇人はそれに若干引き気味に答えて、また歩き始めた。
エスティは今自分の顔を鏡で見ようなんて思ってもいなかった。
(自分の顔は今、どれくらい真っ赤なのだろう……)
そんなことを考えながら、またふたりは歩き始めた。
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