天井裏のウロボロス

夙多史

Section5-1 再発火

 幻想島アトランティス――北北東の岩礁地帯。

 戦闘は既に終了し、葛木家の術者たちは待機を命じられた数人だけが留まっていた。
 彼らの任務は停泊しているクルーザーの警護と、捕縛した『黎明の兆』の構成員たちを監視することだ。『黎明の兆』の構成員は突入部隊が次々と拘束して連行して来るため、あっという間に三隻のクルーザーでは運べない人数に達してしまった。
 外に応援を呼べない以上、彼らが使用していた船を奪取するべきだろう。構成員たちは断固として口を割ろうとしないため、突入部隊をさらに分割して捜索している最中だ。
「自白させる術式でも使えれば楽なのだがな」
「そういう幻惑魔術は我々が不得手とする系統だ。仕方あるまい」
 岩場の上に立つ黒装束の男二人が警戒を怠らないまま雑談する。葛木家は陰陽剣士。戦闘に特化した集団だ。結界や式神など陰陽師として基本的な術式は使えるが、ほとんどが戦闘向けに偏っている。
 もちろん、全員が全員そうというわけではない。戦闘に不向きな者だっているし、その中には拷問や調査を得意とする者もいる。今回は戦闘優先のためたまたま同行しなかっただけだ。
「あれから、こちらに襲撃の気配はないな」
「油断は禁物だぞ?」
「わかっている。気は抜いていない」
「ならいいが」
「香雅里様、無事だといいが」
「余計な心配をするな、と言われそうだな。我々は我々の役目を全うするだけだ」
 彼らは肉眼に加えて式神を使って周囲を監視し、さらに定期的に自分を中心とした探知術を発動させている。その徹底した警戒網は羽虫一匹近寄ることも許さない。
 だが、彼らは警戒を『外』だけでなく『内』にも向けるべきだった。

 その瞬間。
 クルーザーの一隻がなんの前兆もなく、本当に突然炎上したのだ。

「な、なんだ!?」
「敵襲か!?」
 クルーザーの外を警備していた葛木家の術者たちは最初、遠距離魔術による敵の攻撃だと思った。
 だが、違う。
 そのクルーザーは燃えているのではない。
 アレは、炎そのもの・・・・・だった。
 クルーザーを構成する物質が全て『炎』という熱量に変換されている。
「なっ……」
「なにが……」
 戦慄する葛木家の術者たち。彼らの目の前ではクルーザーの中にいた者たちが悲鳴を上げて海に飛び込んで……いや、足場が唐突に炎に変えられたことで落下しているようだ。
 落下していない者はただ一人。
 轟々と燃える火炎の中に立つ、鮮やかな緑髪の女性。

「うがぁあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」

 まるで理性を感じない、獣じみた咆哮が空気をビリビリと振動させる。魔力が乗ったその叫びに葛木家の術者たちは一瞬意識を持って行かれそうになった。
 女性――幻獣ヴィーヴルの背中に生えた一対の竜翼が大きく羽ばたく。
 一瞬後、彼女の姿は爆風と共に消えていた。

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