天井裏のウロボロス

夙多史

Section0-1 プロローグ

 人肉に刃を通す感覚が手に伝わる。
 まだ小学校に上がるか上がらないかの年頃の、小さな子供の手。
 握られたサバイバルナイフから血が滴る。突き刺していた喉笛から引き抜くと、噴水のごとく赤い飛沫が飛び散った。
 返り血が少年を真っ赤に染める。光の代わりに虚ろな闇を宿した双眸が次なる標的を狙い定める。
 少年の周囲はローブを羽織った大人たちが取り囲んでいた。誰も彼もが殺気立ち、少年に向けて怨嗟の怒号を浴びせかける。
 彼らは仲間を殺されたのだ。
 一人や二人ではない。
 血溜まりの中に沈んだ死体はこの場に立っている人数の倍あった。ローブの大人が半分、もう半分は十歳にも満たない子供たちだ。
 後者は少年の仲間だった。大人たちの暗殺に失敗し、交戦し、そして力尽き倒れた少年のチームメイト。
 残るは少年一人だった。
 仲間はもういない。寧ろいらない。彼らを失った悲しみなど微塵も感じていない。そういう余計な感情は『改造』により省かれている。
「R-0108、貴様は天才だ! 他のガキ共とは違う! このまま順調に育てば最強の暗殺者となり得るだろう!」
 組織の魔科学者は少年をそう評していた。魔術師を専門に暗殺するために、幼子から魔改造を施し育成する。組織が集めた二百人の子供たちの中で、少年は群を抜いて才能があったらしい。
 それでも少年は思う。

 こんな世界はクソだ。

 いつか壊して抜け出してやる。そのためにはどんなことをしてでも生き延びてみせる。僅か六歳で魔改造の洗脳を打ち破り、少年はそんな風に考えるようになっていた。
 仲間たちが次々と倒れていく中、少年は戦い続ける。
 一人だろうと構わない。
 たとえ万の敵に囲まれようとも、相手が魔術師であるならば負ける気はしなかった。

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