天井裏のウロボロス

夙多史

Section2-5 いざ行かん、海水湖の底へ!

 そういうわけで、紘也たちは人工海水湖のエリアへとやってきた。
 無駄に広い敷地面積を存分に利用した巨大な湖である。この中から一つの要石を発見するのはなかなかに骨が折れそうだ。
「要石は中心部の一番深いところですかね」
 ウロがピコンピコンと音が鳴るレーダーの画面を見て言う。
「どうやってそこまで行くんだ?」
「あそこにカモメさんボードがあるにゃ」
 ケットシーが指差した先には、『貸しボート』という看板を掲げた風が吹けば崩れそうなボロ小屋があった。その裏手にはアヒルさんならぬカモメさんの姿を模したボートがいくつか浮かんでいる。
「人間、みゃあと一緒に乗るかにゃ?」
「ああ? なに言ってんですかこのドブ猫がぁ!? 紘也くんと一緒に乗るのはこのあたしに決まってんじゃあないですか!? ささ、紘也くん、広大な湖の中心で二人っきりになってイチャイチャしましょう! わざとボートを揺らしてバランスが崩れたところを紘也くんが熱い抱擁でナイスキャッチ! そこから始まるムフフでウフフな展開が――」
「展開が?」
「……ナンデモナイデス」
 紘也がウロの両目に寸止めで指先を突きつけると、彼女は大量の冷や汗を流しながらガクガクと震えるのだった。
「というか、あのボートに乗って大丈夫か? 一人乗ったら底が抜けそうなくらいボロボロなんだが」
「やめときましょう。ボートじゃ潜れませんし」
 すすすっと紘也の指先から離れ逃げるウロ。これ以上はふざけないようなので、紘也も腕を下ろした。
「じゃあ、どうするにゃ?」
「ふふん、当然、ここでもウロボロスさんの秘密道具が大活躍ですよ」
 ウロは腰に手をあてて無駄に胸を張ると、海水湖の岸辺ギリギリに立った。
 そして――
「よいせっと」
 ナチュラルな仕草で空間を開いた。
 瞬間――ドシャアアッ! と巨大な質量が水面に落ちてきた。大量の水飛沫を上げてぷかぷかと浮かぶそれは、全体的に丸っこい近未来的なフォルムをした、二人分の座席が並ぶ乗り物だった。
「潜水艇にゃ!?」
 ケットシーが猫目をキラキラと輝かせた。
「凄いにゃ! カッコイイにゃ! みゃあが一番乗りにゃ!」
「あ、こら勝手に乗るんじゃあねえですよ!?」
 ウロの静止も聞かず、ケットシーは弾むような動きで潜水艇に飛び乗った。カチリとしっかりシートベルトまで締める。正直、紘也にはずんぐりとした丸いボディのどの辺がカッコイイのか理解に苦しむところである。
「チッ、本当は紘也くんと二人がよかったんですが……仕方ないですね」
 ケットシーに続いてウロも乗り込んだ。自然とケットシーが向かって奥側の座席、ウロが手前の座席となる。操縦桿は手前側にあるので、ウロが操縦する形だ。
 自分が乗らなくてよくなったことに安堵しつつ、紘也はそもそもの疑問を訊ねることにした。
「いやウロ、潜水艇なんてなんで持ってんだよ」
「うーん、確か百五十年前くらいに超絶暇だったんでなんとなく作りました。特に意味はないです」
 プラモデル感覚だった。
「百五十年前!? しかもウロボロスの自作にゃと!? これちゃんと動くにゃか!?」
 急激に心配になってきたらしいケットシーが青い顔をして叫んだ。
「大丈夫ですよ。ウロボロス流錬金術で土くれから錬成した潜水艇です。大船に乗ったつもりで安心してください」
「泥船だったにゃ!?」
「ていうかウロ、お前、潜水艇の操縦なんてできるのか?」
「馬鹿にしてもらっちゃあ困りますね、紘也くん。こう見えてあたし、自転車に補助輪なしで乗れるんですよ!」
「なら問題ないな」
「問題しかにゃいにゃ!? おい人間! おみゃあ自分は乗らないからってテキトーぶっこいてんじゃねえぞ!?」
「素が出てるぞ」
「人間も一緒に乗るにゃん♪」
「悪いな、キャシー。その潜水艇は二人乗りなんだ」
「それ絶対乗ってる側の台詞にゃ!?」
「エンジンかけますよ」
 ウロが操縦桿の下辺りをごそごそと弄ると、潜水艇は大きな駆動音を立てながら振動を始めた。

 ブロロロロロロロロプシュッロロロポコンロロロロベキブロロン!!

「今にゃんか変な音出たにゃよ!? もうやだ!? みゃあ降りるにゃ!? 人間みゃあと代われにゃあッ!? あ、あれ? シートベルトが外れにゃい……」
「あ、エンジンかかるとロックされるんですよ。てことで出発しますね」
 ウィイイイイン。半球状の透明なガラスが蓋をするように覆い被さった。涙目のケットシーがガラスを乱暴に叩くがビクともしない。なんという硬度。
「ではでは、出発進行全速前進!」
「やだにゃやだにゃやだにゃああああああああああああああああッ!?」
 ケットシーの魂からの叫び声も虚しく、潜水艇はその艇体を垂直に傾けた。
「は?」
 目を点にする紘也の眼前で、空を向く形となった潜水艇は――ゴオオオッ!! と凄まじい噴射音を響かせて文字通り天高く打ち上がった。
「たーーーーすーーーーけーーーーてーーーーにゃーーーーーーーーッ!?」
 ロケットのごとき噴射音にも負けない悲鳴が、そろそろ赤みがかってきた空の彼方まで響くのだった。
 ……。
 …………。
 ………………。
「あ、戻ってきた」
 打ち上がった潜水艇が星になったかと思えば、すぐにひゅるひゅると海水湖の中心に落下して盛大に水柱を昇らせた。そのまま何事もなかったかのように水中深くへと潜って行く。
「……マジで乗らなくてよかった」
 紘也はケットシーの心境を思い、特に信仰はしていないが十字を切っておくことにした。アーメン。

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