黄金色の龍が愛したもの

黄金色の龍が愛したもの

遥かなる昔の話。


何もない暗闇のなかで、赤い瞳と黄金色の鱗を持つ龍が産声をあげた。


一筋の光すらない、とこしえの闇の中で生まれたその龍は、何もない中で自分に纏う黄金色の光しか目にすることなく、これもまた永の時間をただ闇雲に過ごした。


誰の声も姿も見えない。
風も雨もない。
緑も花もなく、一滴の水すらもない。


そんな闇の中で過ごすうち、巨大な体躯を食い破ろうとするほどに育まれたのは、孤独。


赤い瞳には何かを求めるような子供のような色が溢れ、黄金色に輝いていた鱗はその鮮やかな色を欠き、次第に龍は自らの身体を巣食う「闇」を持て余し始める。


孤独のなかで次第に龍は渇望し始める。
闇ではなくもっと温かく、触れ合えるものが欲しいと。


その思いが涙になり、抑え切れない感情は身を切り裂くような咆哮に変わる。


闇を震わせる咆哮とともに放たれた炎が、まさしく闇を焼き払い空を生み出し、また咆哮が空を裂き大地を出現させた。


涙が海を造り、空に舞い上がり雲を造り雨を降らせた。


雨の中で緑が育ち、そして花を咲かせる。


漆黒しかなかった空は時には青く、時には藍色に、そして漆黒に変化する。
その空に炎の塊の太陽と、冷め切った炎で造られた月が生まれた。



初めて目にした自分の起こした奇跡に龍は驚きながらも、心は震えるほど喜んだ。
そして、龍は自らの鱗をちぎり、砕いて大地に落とした。


鱗の欠片はキラキラとした光を纏いながら大地で変化する。
それが神となり精霊となり、数多の聖なる存在となり、その中の一部が更に独自に変化して、やがては人間となった。


神も人間もそれぞれに寿命も違えばすむ世界も違うが、子を成し脈々とその流れを受け継いでいくことができる。
長い時間を過ごす龍にとって、その姿を見ることが何よりも楽しく、そして幸せとなった。


そして自らも姿を変え、自分がこの世界を造ったと威張るわけでもない龍は、神々の世界を西と東に分けて、西に最高神を置く形で人型の神を中心にして繁栄を願い、東は自身が統べる形で後に生まれた同属である龍たちを統べることにした。


穏やかに過ぎていく時間の中で、黄金色の龍は家族を持つことも子を成すことも出来はしないが、それでもみなの幸せそうな様子を眺めているだけで、満たされた気持ちを持つことができた。


時々龍は本来の姿に帰り、空を泳ぐ。
赤い瞳を細めて穏やかに微笑んだ龍の体躯が、ぬけるような青空を駆け抜ける。



そこにはもう闇はなかった。
溢れんばかりの光と泣きたくなるような美しい景観が、龍の眼下に広がっていた。


   *おわり*

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