自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

エピローグ1 勇者と魔女の後日談


 この世界に平和を取り戻してから、七年の月日が経った。
 フェルノイエに建てた家から、馬車を出す。
 これから七年ぶりに、城下町へ向かう為だ。
 自警団の仕事は部下のピーターに任せたし、やる事は済ませた。

「エミリー! リノン! しっかり掴まってろよ!」

「はーい、パパ!」

「うん!」


 ――俺、ファルド・ウェリウスは、アンジェリカと結婚した。

 ヴィッカネンハイムという苗字は、俺にはやっぱり合わない。
 だから、あくまでウェリウスを名乗る事にした。
 もちろん、母さんとしっかり話し合った結果だ。

 それでも親子の繋がりが消えたわけじゃないから、たまに世間話をしたりもする。
 夫婦生活のアドバイスも。
 ……ルドフィート家の両親からもアドバイスを貰うけど、両者ともそれぞれ異なる視点からだから、色々と考える材料ができて楽しい。


 そのあと二年間、冒険の旅に出た。
 遠洋に出て、大陸の外の世界を見てみようと思ったんだ。

 新しい大陸を見つけたけど、少しして引き返した。
 アンジェリカの体の調子が良くないから。

 でも、戻ってきてルチアに診てもらったら、それは妊娠が理由だった。
 数ヶ月して、双子の姉妹が生まれた。
 その双子が、エミリーとリノンだ。

 魔女の子である俺と、魔女であるアンジェリカの間に生まれた二人の娘は、どっちも目が赤い。
 けれど、それは世界を救った勇者の血族であるという形で、周囲に歓迎された。
 ……昔じゃ考えられないよ。

 ところで、名前なんだけど……実を言うと、けっこう悩んだ。
 育ててくれた父さんと母さんの名前を付けるべきか、シンとメイと名付けるべきか。
 結局、そのどちらもやめた。

 代わりなんていないんだ。
 過去に縛られ続けちゃ駄目だ。
 シンとメイにしたって、もし万が一この世界にまたやってきたらと考えると、呼ぶ時に困る。

 だから、エマの綴りから、エミリー。
 ニールの綴りから、リノン。
 過去を忘れないようにしながらも、新しい別の名前にした。

 ひーちゃんは、ジェヴェンの所へ戻った。
 元の主人と一緒のほうが、やっぱり落ち着くらしい。
 たまに、パトロールを兼ねて会いに来るけど。


「ファルド! また忘れ物してるわよ。ほら、これ!」

「……あー、ごめん」

「もうっ! 自慢のお父さんどころか、これじゃ笑い者になっちゃうわよ」

「そこまで言わなくたっていいじゃないか」

「そうだよママ! もう近所では、笑い者だよ?」

「はぁ……アンタね。早くも威厳が台無しよ?」

「いざって時は頑張るよ」


 ……フェルノイエを出発して、城下町へ到着するまでに半日もかからない。
 そう、たったそれだけで着いちまう!

 昔じゃ考えられなかった。
 ロカデール国王が、俺の功績をたたえて(ホントは、みんなの功績って言って欲しかった)直通の交易路を作ってくれたお陰だ。


 目的地は、ルチアのいる教会だ。
 ビルネイン教の城下町支部は、ドレッタ商会と提携している。

 新しく発見した大陸の国家と国交を結ぶにあたって、色々とやらなきゃいけない事が増えた。
 それで、幅広くやっているドレッタ商会が取り計らっているとか。

 俺は難しい政治の事は解らないけど、あの人達のやろうとしている事は心配しなくていいんじゃないかって思っている。

 エミリーとリノンが生まれたばかりの頃にも思ったけど、あれだけ忌み嫌われていた魔女も、今ではすっかり仲間だ。
 掛け替えのない、みんなの一員なんだ。


 もちろん、近衛騎士団へと昇格したテオドラグナ――ドーラさんの呼び掛けも大きい。
 オフィーリア先輩(あの人は先輩って呼ぶと怒るけど)が、頑張って復興支援に力を尽くしたのを、ドーラさんが広めてくれた。

 王国に根強く残っていた女性差別も、今は殆ど影も形もない。
 宮廷魔術師の女の人達は、もしかしたら男の人達以上に活躍しているかもしれない。
 生活に役立つ魔術を沢山、人々に広めていったのもある。


 生活水準も、昔よりずっと良くなった。
 俺は馬車があるからあんまり縁がないけど……汽車というものが作られた。

 これは、モードマン伯爵が自動トロッコの理論を改良して作り上げた。
 物流は大きく改善されて、田舎の村や集落は飢饉に困る事が殆ど無くなった。

 もちろん商人や乗合馬車の人達は、最初は職を失うかもしれないって反対した。
 そこに上手く再就職先を手配したのが、キリオさんだ。

 車掌……とか、運転手……とか、駅員?
 そういう役職を、その人達に割り当てた。

 汽車のレールを通せない場所に関しては、今までどおりに馬車が必要になる。
 上手いことやってるみたいだ。


 *  *  *


「お疲れ様。到着だよ」

「すごーい! でかい!」

「まあ、城下町だからね」

 けど、あまり代わり映えはしないかな。
 七年前と、殆ど同じ町並みだ。
 変わった所といえば、王城の前の大通りに『ブレイヴメイカー通り』という名前が付いた事と……、

「ねえ、二人とも、どうする? 銅像は見ていく?」

 そう……俺達の銅像が中央広場に建てられたくらいだ。
 俺としては、ちょっと恥ずかしいんだけどな。

 だって、必要以上に男前に作ってくれたから。
 確かに並んでみると、それを見た人達はそっくりって言っている。

「わたし、見る!」

「リノンも!」

「だってさ、お父さん?」

「わかった。見に行ったら、ご飯を食べに行こう」

「うん! おなかすいちゃった!」


 銅像の一つ一つを、丁寧に見せていく。
 俺とアンジェリカについては別に説明しなくていいかな。
 アンジェリカが、ご飯の時と寝る時に、エミリーとリノンに話しているから。

 ルチアが出版してくれた本を、寝る前に読み聞かせている。
 けれどあの本は、わざと幾つかの記述を省いているんだ。
 それは、俺達に語り継がせる為に。

 ルチアは、そういう所まで抜け目がない。
 お陰で俺は、色々と質問される。

 残りの銅像は、ルチア、シン、メイだ。
 台座に碑文が彫り込まれていて、どんな活躍をしたか、どんな性格なのかを細かく書いてある。

「ねえパパ、このシンとメイって人とはまだ会ったことないね。どんな人なの?」

「パパとママの大切な盟友、いや、心の兄弟と言ってもいい」

「へぇ~! 会えるかな?」

 うう……難しい事を訊かれちゃったな。
 どう答えたらいい?

「……」

 アンジェリカは視線で伝えてくる。
 この目つきは、そう。
 俺に任せるって意味だ。

 できない約束は、しないでおこう。

「判らない。遠い世界からやってきたから。けれど、もしも来たら、ちゃんと歓迎しなきゃね」


 *  *  *


 雪の翼亭は、サレンダー討伐からずっと大繁盛のようだ。
 店の広さも従業員も昔の十倍になっているのに、それでも忙しそうにしている。

「馬鹿野郎ィ! また焦がしちまって! いいか、見てろ! それから俺の言った事を、思い出せ!」

 厨房からは怒鳴り声が聞こえてくる。
 俺は思わず苦笑してしまった。

「昼間っから怒鳴り散らして、客が逃げちまうよ、親方」

「不味い飯を出したら迷惑が掛かっちま……うおお! ファルドの坊主、元気にしてたか!」

「俺まで坊主呼ばわり? 勘弁してくれよ……」

「ウハハハ! まァいいじゃねェか! ほら、指定席は開けてある!」

 お店は何度も拡張した形跡が見られる。
 けど、その席の周りは昔のままだった。

「ちなみに、そちらの新人さんは?」

 見たところ、まだ十歳にも満たない少年だ。
 子供を雇うなんて、やっぱり人手不足なのかな?

「あー、そうか。あの頃は赤ん坊だったか」

「……! もしかして!」

「そう。せがれだよ。筋はいいんだがな。ほら、自己紹介しろ」

「ど、どうも……ロゼニスです」

「よろしく、ロゼニス君。俺は、ファルド。妻のアンジェリカと、娘のエミリーとリノン」

「はい、よろしく、です……? 嘘ォ!? じゃあこの人達が勇者の!?」

「お前ェな……顔を見て気付かねえのか」

「ほら、銅像と実物は違うし……」


 なんて、談笑しつつ食事を注文した。
 アンジェリカがかつて教えていたレベッカという女の子も、この店の常連だった。
 俺達を見るなり、食事の手を止めて駆け寄ってきた。

「アン先生! 久しぶり!」

 レベッカはポニーテールの髪を揺らしながら、再会を喜ぶ。
 話を聞くと、レベッカは王立魔法学校に入学したらしい。
 理由は単純で、デュバル先生がエスノキーク魔法学校から王立魔法学校へ移籍した為だ。
 そうして色々と近況報告や世間話に花を咲かせた。


 *  *  *


 昼食を終えて、教会へ。

「ファルドさん、アンジェリカさん! お久しぶりですね!」

 大人になったルチアはあの頃と変わらない、柔らかい笑みで俺達を迎えてくれた。

「ええ、久しぶり」

「さあ、子供達。ご挨拶なさい」

 ……見違えた。
 ルチアはすっかり成長して、子供嫌いを克服していた。

「こんにちは!」

「こちらの方々は、誰に見えるでしょう?」

 優しく微笑みながら、問い掛ける。

「ひろばのどうぞうのひと!」

「そうですね。あとすこし! 頑張って、思い出してみましょう!」

「ファルドとアンジェリカ!」

「そう、正解です! けれど、ちゃんと敬称をつけないといけません。めっ、ですよ!」

「めっ、のアクセントは昔と変わらないね……」

「ホント、最初は人違いかと思ったけど、やっぱりルチアだわ」

「でしょう? 私も二十半ばですもの。父からは結婚相手を見つけろとせがまれます」


 子供達の世話をルチアの友人であるクレスタに任せて、俺達は中庭へと場所を移す。
 今は大陸各地で治療や、習得が難しい加護の講習会なんかをやっているという。

 ただ、この時は娘もいるから話さなかったけど。
 ルチアは裏の顔もすごい。
 シンによく似た男を主人公にした、ラヴロマンスな小説を出版している。
 いいのかなとも思うけど、寛容を是とするビルネイン教では裏のベストセラーになっているらしい。

 ちゃんと本人シンに許可を取ったという話らしいし、それならいいのかな。


 ……だいたい、こんな感じかな。

 シン。
 こっちは上手くやっているよ。

 だから、俺達に関しては心配いらない。
 そっちでも上手く行っている事を祈るよ。

 会いたくなったらいつでも、メイと一緒に来てくれ。
 子供に自慢できる親として、歓迎するぜ!



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