自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第百三十五話 「絶対に、諦めない!」


「――待たせたな」

「ヴェルシェ……?」

「それに、消えた筈のレイレオスもいるわ」

「すごい……こんなに沢山」

 光の扉を通って沢山の人達が、この暗闇の空間へとやってきた。

「これは! レイレオス達なのか……!?」

 その中には、魔王やドゥーナーク、これまで倒してきた魔物達。
 王様やエマやニールといった、死んでいった仲間達の姿もあった。

「こんなのが何になる! てめーらブッ殺す! 殺す!」

「大の大人がみっともないッスよ!」

 サレンダーも、これは想定外のようだ。
 ヴェルシェはそれを見て、舌をぺろりと出してみせる。

「目が覚めたんだよ」

「クソエルフはせっかく誘ってやったのに恩を仇で返すのか!? てめえ、わかってんだろうな!? おい!」

「最初はあんなクソ世界、滅茶苦茶にしてやるって思ったよ。でもさ、気付いちまったんだ。
 本当に今更だけど、信吾が本気でモノ作りを愛しているって事に気付いたんだ!」

「はいはいわかったわかった。もっかい死んで出直してきなさい」

「また死ななきゃ駄目か?」

 ヴェルシェは肩をすくめた後、俺達に振り向く。

「ナハト……いや、信吾。それとみんな。ありがとう。そして、ごめん。
 許してくれなんて言わないけど、迷惑掛けまくったからこそ、もう逃げたくないんだ。手を貸しても?」

「……茶番じゃないって証明できるならな」

 さんざん騙されてきたからな。
 申し訳ないが、ちょっと信用できない。
 ここまで含めてサレンダーの演出って線も捨てきれないんだ。

「じゃ、はい」

「うぐああ! 刺さった!? 何故!?」

 サレンダーの横腹に、ヴェルシェのダガーが深々と突き刺さっていた。
 ファルド達の武器が通用しなかったのに、こりゃどういう理屈だ?

「俺は今、現実世界では死人だ。そこにお前が目を付けた。
 仮想身体アバターを作ってこの世界に召喚してくれたとしても、もう死んでたとしても、俺だって立派な現実世界の住人だよ」

 オーケー、把握した。
 だから俺の怒りの喧嘩キックが通用したのか。

「だいたいな、計画に穴が多すぎッスよ。ファッションサイコ野郎がよォ! 今どんな気持ちッスか?」

「クソが! おい、お前ら、やっちまえ!」

「挙句、自分がレイレオスに言ったセリフをパクっちゃうッスか? ヒャー! どんだけ~!」

 ヴェルシェは灰色連中を指差しながら、抱腹絶倒する。
 足をばたつかせる程だったが、やがてピタリと止んだ。

「こういう時は、対抗しなきゃな? やっちまおうぜ、レイレオス!」

「わかった!」

 大軍勢がぶつかり合う。
 その大きな波の中心に、次のゲストが降り立った。

「ふう、間に合って良かったニャ」

「レジーナ!」

「いや、それだけじゃない! 上を見ろ!」

 空を見上げれば、城下町や大陸各地の人達が、この空間を見上げるようにして見ていた。
 逆さまで立っている……?

 いや、違う。
 俺達からはそう見えるだけだ。

 誰もが両手を祈るようにして握りしめ、真剣な眼差しで俺達のいる空間を見ている。

「この世界中の祈りを、みんなに届けたニャ」

 温かい……力が、湧いてくる!
 勇気が、湧いてくる!


 そこからの戦況は見違えたようだった。
 灰色連中はあっという間に数を減らしていく。

 その奥へと隠れていたサレンダーに、俺達は次々と攻撃を加えていく。
 今度はファルド達の攻撃は、すり抜けなかった。

「ぎゃあ! あああッ!」

 防ぎきれず、ガス状の身体から少しずつ粒子が霧散していく。

「嘘だ、嘘だァ! こんな事ォ!」

 赤黒いオーラはすっかり、消え失せていた。

「二人とも、とどめの一撃を!」

 ファルドが素手でサレンダーを抑えこむ。
 剣は、遥か後方……俺の目の前だ。

 アンジェリカとルチアも、既に魔力を使い果たしていた。
 膝をついて、ぐったりとしている。

「行くぞ!」

「うん!」

 ファルドの剣を手に取ると、再びそれは青白く輝く。
 できれば、入刀するのはケーキが良かったんだが。
 ……贅沢は言えないな。

「ふざけるな、テメー等あああああッ!! タダで済まされると思うなよッ!!」

「言ってやがれ! 俺達は……!」

「あたし達は……!」

 二人で一緒に、剣をサレンダーへと突き刺す。

「「絶対に、諦めない!」」

 爆発。
 赤黒い粒子がきのこ雲を形作り、サレンダーは散り散りになっていく。

「チクショォオオオオオオオッ!!」

 あまりにもひねりのない断末魔。
 サレンダーは裏からヴェルシェ達を言葉巧みに操り、この世界を滅茶苦茶にしようとした。
 いわば、不倶戴天の敵って奴だ。
 その断末魔の叫びが、それかよ。

「もっと気の利いたセリフを言ってみろよ……」

 だが、俺のつぶやきにサレンダーは反応しなかった。
 正確に言えば、俺がその言葉を発していた頃には、サレンダーは殆ど粉々になっていた。


 *  *  *


 暗闇が消えていく。
 やがて、視界はまた元の場所へと……あのドリトント鉱山の広場へと戻った。

「……倒した、のかな」

「でもアレ、中の人が居ないニャ」

 レジーナは、神妙な面持ちだ。

「どういう事だよ?」

「アレは、世の中の特定分野に関係した悪意が集まって、人格を持った存在だニャ。
 人が人で在り続ける限り、悪意は決して無くならないんだニャ。だからもしかしたら復活するかも……」

「でもな。世の中、悪い人ばかりじゃない。一人で戦う必要なんて無い。
 誰かに守って貰う事は、恥ずかしい事なんかじゃない。何度でも、退けてやる」

「そうだね」

「頼もしいニャ。まあ、お二人には元の世界で頑張って欲しいから、こっちの世界はファルド達……いや、みんなに頑張ってもらうよう、レジーナがお手伝いするニャ」

 確かに。
 俺達さえいれば安心っていうほど、世の中は単純じゃない。
 いつかは……それこそもうすぐ離れなきゃいけないから、俺達がいなくても守れるようにしなきゃいけない。

「とはいえ、それに関しては心配してないよ。もう、身にしみて解っただろ。力を合わせないといけないって事が」

「そうよね」

「ええ。もう無いとは思いたいですけど、新たな魔王が現れた時は、もう少し団結してくれるようにしてほしいものです」

 と、ここでメイがおもむろに俺の肩を軽く叩く。

「ねえ、信吾。あたし、気付いちゃったの」

「何に?」

「好きな物語を作ってもいいんだって。確かに人を傷付ける話もあるかもしれない。
 けど、それを読みたくないからって、それを作る人を直接傷付けていい理由にはならないよ」

 また随分と、唐突な。
 だが……やっと、心の中でケリが付いたのか。

「でしょ? ヴェルシェちゃん!」

「フヒヒ……お耳に痛い話ッスね」

「なあ、ヴェルシェ。身体がどんどん透けていってる」

「あー、これ? そろそろ、時間ッスね」

「……蘇ったんじゃ、ないのか」

「よくあるだろ。イベント戦闘限定で復活するの。ああいう奴だよ」

 やっぱり、そういうものなのか。
 じゃあ……今のうちに伝えたい事を伝えなきゃ。

「俺、元の世界に帰ったら、原作の続きを書くよ。そんで、お前もゲストにする」

「ははっ、そりゃあ、夢のある話だ。悪役か?」

「まさか。お調子者で空気が読めなくて……“なんたらかんたらッス”って喋り方する、ただのエルフだよ」

 そう。
 裏切る前の、初めてお前と出会った頃のような。
 ヴェルシェは予想外だったのか、目を見開いて固まった。

 そんなに驚く事は無いだろ。
 やった事は許されないだろうが、それでも、お前は騙されて道を踏み外した。
 犠牲者の一人なんだ。
 それに……もう、償っただろ。
 サレンダーは倒した。これでチャラだ。

「ほんっと、お人好しッスね。考えられないッスよ」

「そんなヴェルシェに朗報だニャ。いや、悪いニュースかも?」

「あんまり特別扱いしないでほしいッスね。慣れてないから苦手なんだ」

「転生先が、この世界に決まったそうだニャ。前世の記憶付きで。容姿は、変わるけどニャ」

「……」

「しっかりとやり直して、今度は悪意を退ける手伝いをしてもらうニャ」

 もう、じっくりと目を凝らさないと見えないくらい、ヴェルシェは姿が薄くなっていた。
 それでも俺は、アイツの声を認識していた。

「――自分、頑張るッス。今度は、誰も悲しませないように」

 最期に言ったその言葉を、俺は……いや、俺は、しっかりと心に焼き付けた。



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