自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第百二十二話 「……帰ろうぜ」


 光の柱が、空に広がっていく。
 その中に闇も入り混じっているが、これが本来の姿なんだ。

 完璧な光、完璧な善なんて存在しない。
 ほんの少しの闇が必ずどこかに混じっている。
 それこそが人の在りようなんだ。

 魔王が作り出した闇の柱は、対照的だ。
 大きな闇の中に、まるで毛細血管みたいに光の筋がある。
 とはいえ、ファルド達の技に比べると弱々しい。

「ハハハ! 大きけりゃいいってもんじゃねえぜ! そら、ぶつけてこい!」

 それぞれの柱が徐々に角度をつけていき、交差する。
 更に傾斜は水平になり、柱がぶつかり合う。

 もう充分頑張ってるとは思うから、敢えて「頑張れ」以外の事を言わせてくれ。
 俺のなけなしの力を、受け取ってくれ。
 世界中の祈りを、こいつらにくれ!

「こ、の……!」

 おい、ファルド!
 なんでそこで距離を詰めようとするんだよ!
 このタイミングで格闘を挑むとか、自殺行為だろうが!

「信じるからこそ、俺は、俺なりに、一歩先の答えを見つけたい」

 馬鹿野郎が……大怪我で済まされりゃ御の字だぞ。

「あと一歩でも近付いてみろ! 俺のマジカルステッキが火を噴くぜ!」

「構うもんか。痛みも、苦しみも、今この瞬間は忘れる!」

「上等だ! 来いよ!」

 柱は少しずつ短くなっていき、爆発した。
 吹き飛びそうになった俺の死体は……メイが瞬間移動してキャッチしてくれていた。
 アンジェリカも一人で踏みとどまって、ファルドを見据えたままだ。

 土煙が晴れる頃、ついに決着が付いた。
 ファルドは魔王の心臓に、剣を突き立てていた。

「やったじゃねえか、ファルド・ウェリウス……」

「俺の名前を知ってるのか」

「俺は、魔王だ……ぜ……」

 魔王は血反吐を床に撒き散らし、倒れ伏した。
 もう動く気配は、無かった。


 ――魔王との戦いは、これで終わったのだ。
 呆気無い最後だったな。

「終わったよ、シン君……」

 メイが、俺の死体の頭を撫でる。
 さっき沢山泣いたばかりなのに、また両目から大粒の涙をぽろぽろとこぼしている。
 ファルドも、アンジェリカも同様だ。

「ねえ、目を覚ましてよ、シン。リントレアで馬車の中みたいに……アンタ、いっつもそうだったじゃない! ねえってば!」

 ……流石に、今回ばかりは無理だったよ。
 燃やされなかっただけまだマシだろ。
 そういやレイレオスはどこ行った?
 どこにもいないぞ?
 さっきのどさくさで飛び降り自殺でもしやがったか……?

 いや、そんなキャラじゃないだろう、アイツは。
 これは要警戒案件ですねえ……。

 って、おーい。
 みんな聞こえてるか?
 緊急事態ですよ!

 ……駄目だ、届かん。
 アレか?
 魔王マジックで一時的に死者の声が届くようになってたとか、そういうオチか?

『その通り! 俺は魔王だからな!』

 うわあああああッ!!!

『おいおい! 何もそんなに驚く事ぁないだろ! 傷付くぜ』

 いや、驚くに決まってるだろうが!
 何突然現れてくれてるんですかねえ!

『で? どうだった。俺の魔王っぷりは』

 不完全燃焼だったが、頑張ったほうじゃねーの?
 お前の言う通り、ルチアも結局ここには来られなかったし、計画通りとは言えないがな。
 だが、もうベストの状態でやり直せる段階じゃないだろ。
 これからだよ、大事なのは。

『お前さん、変わったな』

 俺の何を知ってるんだかは確かめる気がしないが、そうだな。
 前に進めるようになったのは、大きな成長だと自分でも思う。

 だから魔王。
 ぶっちゃけ威厳も何もあったもんじゃないが、お前は間違いなく魔王だったよ。

『そりゃあ良かった。俺は、悪を為すというそれだけの為に生まれた存在だ。
 お前さんの事は、よぉ~く知ってるぜ。信吾』

 お前もメタ視点がどうとかってクチじゃないだろうな?

『いや、その気になればできなくはないが、そこまでやったらお前さんが白けちまうだろ』

 今でも充分、白けてるんだよなあ……。
 どうすんだよ、これから。
 声が届かないって事は、ここから先は成仏するまでこの世界の行く末を見届けるしかないんだろ?
 信じて見守るのが親心だとは言うが、懸念事項が多すぎるんだよ。

『じゃあ手短に本題だけ言うぜ。お前さんが生き返る方法はまだある』

 マジかよ!?
 ……眉唾だな。

『俺の血を使うのさ』

 はあ……それはまた随分と死霊術ネクロマンシーめいたアレだな。
 飲むんだろ?

『違う違う。夏の聖杯の守人……誰だったと思う?』

 うっわ、その訊き方。
 お前一択じゃん。

『ご名答。かの皇帝が己を生け贄に俺を召喚したって設定、知ってるか?』

 知らなかった……。
 ていうかな、この世界は俺の知らない裏設定が多すぎるんだよ。
 把握するのにどんだけ手間かかると思ってんだ。

『とか何とか言って、どうせ楽しんでたんだろ?』

 まあな。
 辛い事も、思い通りにならない事も、いっぱいあった。
 だが、それ以上に楽しい思い出が沢山あった。
 俺はこの世界に呼び出されて、後悔なんてしてないよ。

『……レジーナに俺の言った事を伝えろ。アイツならお前さんの姿が見える』

 そうなのか。
 なんだかんだ言って、お前は誠実だったと思うし、信じるよ。

 ところで、二つ訊いていいか?

『いいぜ。今の俺は若干機嫌がいい』

 若干か……えーっと、ドゥーナークがやられただろ。
 恨んだりはしないのか?

『そのへんは了承済みさ。こっちから喧嘩を仕掛けたんだ。そりゃあ殺されても文句は言えないだろうさ』

 ……世界中の悪党がお前みたいにさっぱりした奴だったらな。

『続いてもう一つの質問を特別に受け付けてやろう!』

 あー、はいはい、どうもありがとう。
 六人の魔女は、どうなった?

『或いはファルドに復讐しに行くだろうし、或いは人間としての生活を細々と送るだろう。
 はたまた或いは、ひょっこり現れたりしてな? 一人、お前さん達がよーく知ってる奴がいるだろうぜ』

 誰だよ、その知ってる奴って。

『それは秘密だ。質問は締め切るぜ。残りは自分で調べりゃいいんだ。生き返った後、ゆっくりとな』

 ……悪の親玉のクセに、妙に親切だよな。

「……帰ろうぜ」

 そうだな、ファルド。
 ヴィッカネンハイム邸には、俺も用がある。
 直行してくれるとありがたいんだが。

『それでは、暫しのお別れさ。また会おうぜ。物語の、外側で――』

 ああ。
 じゃあな、魔王。



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