自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第百十一話 「話が違うじゃねえか!」


「話が違うじゃねえか!」

 俺はジェヴェンに掴み掛かった。
 だって、こんなのおかしいだろ!?

 帝国が反旗を翻し、魔女を味方に引き入れた。
 魔女の墓場も、ルチアを聖女として祭り上げて反攻作戦を開始した。

 どう考えても、流れおかしいよな?

 俺達の敵は魔王だろうが!
 なんで、人と人が争ってるんだよ!
 この期に及んで!

「ヒルダ・フォン・ヴィッカネンハイムと協力して、魔女の墓場と戦う。
 それにより、勇者ファルドが魔王と戦える土台作りをすると」

「それがどうして、王国と戦争する流れになるんだよ!?」

「魔女の墓場は第一王子と完全に癒着している。病巣を取り除くには、これが最速であるという事だ。
 まして、聖杯が枢機卿の手に渡っているなら、尚更な」

「ぬふふふ! ファーハハハ! 素敵! 快適! 刺激的……ですぞ!
 我輩の為に争い合うなどと――フンゴッ!?」

 縛られたままのクロムウェルがまた珍回答をしだしたが、ジェヴェンのラリアットで気絶した。
 やっぱり、お前はそういう役回りがお似合いですぞ! クロムウェル~!
 ……いや、こいつはもうどうでもいいんだよ。

 こいつの手から、夏の聖杯は取り戻した。
 空腹からの激辛パイという(非常にえげつない)尋問で、いくつかの情報も仕入れた。

 ものすごく悪い言い方をしてしまえば、用済みだ。
 それでも処断は、しない。
 ここで処断なんてしようものなら、俺達もこいつらと同類になる。

 人が己を人たらしめているのは、誇りだ。
 時には足枷になるかもしれないそれを、後生大事に持ち歩く。
 誰かに笑われようとそれをやめないのは、自分で自分を裏切りたくないからだ。

 以上、沈黙をごまかすための心の独白終了。
 ジェヴェンが首を振ったから、余計な事を考えるのはやめにしておこう。

「時間はもう、あまり残されていない。魔王軍は間違いなく、この戦争に横から介入するだろう。奴等は二十年前も、同じ手を使った」

「……納得行かないな」

「故アリウス陛下の死を無駄にするつもりか!」

「テオドラグナ、そうではない。魔王軍とは交渉済みだ。引き続き、民を襲わせないようにした」

「でも、あんな奴らとの口約束なんて信用できるかしら」

「俺も信じられない」

「……気が変わる前に、こちらが事を成せば良いだけの話だ。
 勇者ファルド。貴殿らは戦争に乗じて、魔女の墓場から聖杯を奪還してくれ」

「ルチアは、どうすりゃいいんだ」

 メイとレジーナが協力して集めてきた情報によると、だ。
 我らが“聖女ルチア”は魔王に、魔女になるよう勧誘を受けたが、
「いかなる理由であろうと、そのような穢れた力には頼りません。私達は人間です。魔女とは違います!」
 と、これを一蹴。

 その後、魔女を引き入れる帝国に対しても、
「不条理で不正な力に手を出す、力に溺れた帝国よ! 私達は正義を騙る貴方達を決して許しはしません!」
 と帝国の非道を糾弾した。

 ……らしいんだが、どう考えても話を盛ったとしか思えない。
 アンジェリカを思い切り否定してるじゃねえか。

 だいたい、聖女ってどういう事だよ!
 確かにバブみ高いし「お前がママになるんだよ!」って言ったら「よしよし」ってなでてくれそうだが!
 お前らに祭り上げられても、迷惑だと思うんですがねえ!

 とにかく、ジェヴェンの言うとおりあまり時間がなさそうだ。
 聖杯はもちろん必要だ。
 だが、まずは――どうやって、ルチアを助ける?

 ヴェルシェの奴は、俺にこの世界を“見ていろ”と言った。
 ……あいつを挑発すれば、もしかしたら出てきてくれるかもしれないな。
 問題はルチアを引っ張り出してくるかどうかだが、ヴェルシェの性格を考えれば可能性は高い。

 万一連れて来なかった場合のケースは、テレポートができるメイとレジーナに上手くやってもらおう。

 戦争は短期間を前提とした戦い方になるだろう。
 それまで、絶対に死ぬなよ、ルチア……!


 *  *  *


 次の行き先が決まった。
 入江の港町ガルセナ。
 ジェヴェンの話では、小さな入江を覆うようにして建物が立ち並ぶ町並みだという。
 今は、魔女の墓場がそこを拠点にしているらしい。

 海を潰しておけば、攻め入られるルートが限られるっていう考え方なんだろう。
 だが、帝国には飛竜部隊があるからな。
 そっちの対応は……飛行船でも使うのか?

 まあいい。
 それより、ガルセナを解放する目的を確認しなきゃな。
 メイ曰く信用できる情報筋から、ガルセナの付近にあるギャリゾック半島にカグナ・ジャタが潜伏したという報せが入った。
 誰だかは知らないが、ありがたい。

 ルチアは確実に、王国のどこかにいる。
 だが今の戦力だけだと、下手すりゃ滞在した街ごと焼き払われる。
 もうでかい奴はカグナ・ジャタくらいだし、そのカグナ・ジャタにしたって俺達と敵対する理由もない。
 だが……飛行船を出してきたらカグナ・ジャタじゃないと対抗できない。

 いくらアンジェリカだって、空までは飛べないからな。
 そしてひーちゃん(本名はヒィネイス、命名はジェヴェン)だけじゃ、飛行船を相手にするには不足だ。


 ガルセナに向かうのはファルド、アンジェリカ、メイ、俺、ジェヴェン。
 ひーちゃんも、ジェヴェンと一緒だとテンションが上がるようだ。

「それにしても……」

 今回のお留守番を担当するテオドラグナは、早速オフィーリアにビシバシ稽古を付けている。
 そうとうキツいしごきだが、オフィーリアは充実しているそうだ。

 ……テオドラグナ。
 原作には影も形も無かったキャラが、こんなにも活躍するなんて。
 世の中、わからないもんだ。

 窓越しに中庭を見下ろしながら物思いにふけっていると、レジーナがふらりと現れた。

「その件について、かねてより疑問だったんじゃないかニャ?」

「訊く余裕が無かった。せっかくの機会だし、教えてくれ」

「もう、しょうがないニャ~! SAN値の備えは十分ニャ?」

「大丈夫だ、問題ない」

 元ネタは死亡フラグだが、問題ないったら問題ない。
 俺はこの世界について、きっとまだ半分も知らないんだ。
 もっとよく知らないといけない気がする。

「まず、転生者以外の、この世界の元々の住人をレジーナは“レギュラー”と呼んでいるニャ。
 ジラルドやネモみたいに他の世界からやってきた人は“ゲスト”」

 テレビの番組じゃねえんだから。
 解りやすい例えではあるが。

「じゃあ、ヴェルシェは」

「“インベーダー”とでも呼ぶべきかニャ?」

 なんて安直な……!
 まあ、解りやすいからいいか。

「インベーダーは他にもいるとは思うニャ……ただ、確証がニャ」

「マジかよ!」

「ただ、複数のインベーダーがいるとしても、おそらく同一の目的で動いているのは間違いないと思われるニャ」

「シナリオの改変か」

「そういう事ニャ」

 で、俺はそれに対抗する為に呼び出されたワケだな。
 メイはそのサポートと。

「……テオドラグナやペゼルは、どうやって生まれてきたんだ?」

 これだよ、本題は。

「一応、あの子たちも“レギュラー”だニャ」

「そうなのか」

「予言――原作の本文中では語られなくても、その背後を支える存在というものはあるニャ」

「モブとか、エキストラみたいな」

 レジーナが頷く。

「いわゆるモブからスピンオフの主役とか、その関係者に昇格しうるキャラクターがあの子たちだニャ」

 ただ……とレジーナは少し難しい顔をした。
 どうやら複雑な事情があるらしい。

「テオドラグナは、原作読者の何割かがオフィーリアに抱いた、こうだったらいいのにという願望が形になったのニャ」

「つまり、元々は同じ存在だったって事か?」

「何らかの原因で歪みが生じて、オフィーリアは魔王軍に付いてしまったニャ。
 その代理人として現れたのが、テオドラグナだニャ。身も蓋もない言い方だけどニャ」

 マジで身も蓋もない!
 だが、辻褄は合う。
 あのタイミングで仲間になったのも、そういう事か。

「それまでは、いなかったのか?」

「テオドラグナは辻褄合わせで、元からこの世界に生まれた事になっているニャ」

「じゃあ、ちゃんと生きているんだな。ある日、ふっと関係者諸々を含めた設定が湧いて出たワケじゃないんだな」

「そこはちゃんと、シンの元いた世界と同じだニャ。親がいて、友達がいて、先祖がいて……本人が今を生きているんだニャ」

 そうか……。

「総括すると、この世界で生まれ育った奴はレギュラー。
 召喚されたり転生してきた異世界出身者はゲスト。で、その中でも世界にとって脅威になりうる奴がインベーダーって事で間違いないな?」

「Exactly(その通りでございます)ニャ」

「副音声付けるのやめろ」

「レジーナ渾身のスキルが否定されたニャ! めそめそ……」

「棒読みで嘘泣きするのやめろ!」

 まったく……当時の俺はとんでもないキャラを作っちまったな。

「そろそろ準備が終わる頃かニャ?」

「ああ。行ってくるよ」

「今レジーナが話した内容は、頭の片隅にでも置いといてくれればいいニャ。
 きっと、あまりそれを考え過ぎないほうが、シンにとっては楽だニャ」

「オーケーだ」

 半ば、この世界を考察するみたいな話だったしな。
 それについて考えるのは、魔王とヴェルシェを倒してからだ。



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