自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第百五話 「……キャラが被っているではないかっ!」


 ここまでの状況を整理するぞ。

 魔女の墓場が屋敷を襲いに来た。
 目的はヒルダと俺の処刑だ。
 そしたら今度は魔王軍まで攻め込んできた。

 その最中の事だった。
 ジェヴェンは灰色連中の一部を連れて、魔女の墓場を離反。

 もちろんそのまま離反せず残留する奴等もいるみたいだが、正直のところ分が悪いだろうな。
 相手は腐っても元帝国騎士団の団長だ。
 凄惨な戦争を生き延びた、歴戦の猛者だ。

 しかも、ひーちゃんまで魔女の墓場を抜けた。
 再会を喜びたいが……それは後にしよう。


「組織を裏切った奴の末路を教えてやる! 死ねぇ!」

 あ。
 勇敢な灰色馬鹿野郎がクロスボウで狙い撃ちやがった。

「ふん!」

 ジェヴェンは放たれた太矢を、剣で叩き落とす。
 続いて何本か放たれたが、それも剣を回転させて弾き飛ばした。

「私はもうこれ以上、人の魂を裏切りたくないだけだ!」

「――ほう? フレイグリフ卿の首を獲ってやろうと思ったが」

 ドーラはようやく到着か。

 どんだけ時間稼ぎさせるつもりだったんだ。
 よく見ると戦傷が所々にあるから、つまりコイツは突撃しやがったんだな。

「貴公、どういう風の吹き回しだ」

「大陸各国の惨状を目の当たりにして、ようやく目が覚めた次第だ」

「阿呆め。遅すぎる」

 同感だ。
 こっちは王様が死んだり、第一王子が王国を乗っ取ったり、ファルドの両親が殺されたりと、散々だったからな。
 もっと早くに離反してくれれば、いくつかは未然に防げたかもしれなかったんだ。

「お前を含め、勇者一行には迷惑をかけた。これで償いきれるかは判らんが……」

 ジェヴェンの目配せと同時に、灰色連中の中でもジェヴェンを撃たなかったほうのグループがマスクを脱ぎ捨てた。
 見覚えのある顔だ。
 間違いなく、ドーラの取り巻きだった。

「――!」

 離反しなかった灰色共が、ざわざわとどよめく。
 そりゃそうだろうな。
 ドーラの喜色満面な顔を見たら、たとえドーラの取り巻きを知らなかったとしても。
 自分達が更に不利になったのが、あからさまなワケだからな。

「こうしてお目見え致す事を心待ちにしておりました!」
「カージュワック卿! 我々を覚えておいでですか!?」
「それがしは猛烈に感動している!」

 やっぱりうるせえ。
 だが……これでいいんだ。

「すまない。私は貴公らを見捨てて……」

「泣いてはなりませぬ!」
「然様! 涙は戦いの後にとっておきましょうぞ!」
「その通り! あ、ごめん、誰かハンカチ貸して」
「はい」
「うおおおおお! もう、辛抱、たまりませぬっ!」

 ハンカチで顔を拭いながら牽制するとか器用だな……。
 魔王軍は破竹の勢いで進軍してきた。

 いつまでも感動の再会ってワケにも行かないパート2!
 最近、こんなんばっかりだな。
 落ち着いたら歓迎会でもやるか……。
 いつ落ち着くんだか知らんが。

「私は勇者と共に、魔王軍を討つ! 志を同じくする者は私と共に、来てくれるか!」
「いいですとも!」

 パワーをメテオに!
 じゃなかった。
 そして、魔女の墓場にも大きな変化が訪れようとしていた。

「これより、勇者ファルド一行と協同で事に当たる! 矜持を捨てたくない者は、私と共に来い!」

 ジェヴェンが号令をかける。

「……フレイグリフ卿に続けぇええええッ!!」
「俺達の敵は魔王軍だ! 魔女をこれ以上生み出させるな!」
「そうだ! 災禍の根源を断て!」

 口々に魔王軍討伐を叫ぶ、灰色連中。
 どこまでが本音だろうな?
 ジェヴェンには勝てないから迎合した奴は多いだろう。

 だが!
 流れはこれで決定的に変わったぞ!

「居残り組ァすっこんでろ! 野郎共! 魔物をぶっ殺すぞッ!!」
「おおおッ!!」

 圧倒的だった筈の魔王軍は、瞬く間に勢いを失っていく。
 魔女の墓場は素人集団ばかりだが、その本質は数の暴力だ。
 一対一ではなく、囲い込んで殺す。


 ひーちゃんも巨体を活かして魔物どもを蹴散らしている。
 巻き添えで木々をなぎ倒すのはどうかと思うが、そのへんは俺が責任をもってヒルダに謝ろう……。

「俺も動かなきゃ」

「じゃ、任せるニャ。傷ついた友軍を治療して回るニャ」

「頼んだぞ、レジーナ!」

 もう何度も倒してきた連中だ。
 ゴブリンもオークも、その上位種共も。
 中には見たことのない魔物もいたが、もはや俺の敵じゃなかった。


「どけェ! 雑魚共ォ!」
「そこにいる石版の預言者は、この私が相手をする!」

 聞き覚えのある声に、俺は双眼鏡を使った。
 オフィーリアを牽引したグラカゾネクが、飛来するのが見えた。

 なんていうか、こういう時に言う言葉じゃないんだが……。
 ようやく本来のシナリオを取り戻したって感じがするな。

 とはいえ、気を引き締めて掛かるべきだ。
 俺がやるべきは、この続きだ。

 俺の取り戻し方は、こうじゃないんだ。


「フレイグリフ卿。あのカラス男には気を付けろ」

「分担するか?」

「そうだな。彼奴の首は貴公に譲る。私は、あの女騎士を」

「承知した」

 いやいや。
 まさかタイマン張ろうって魂胆じゃないだろうな!?
 魔王軍の幹部だぞ。下手すりゃ死ぬからね!?

 どっちの援護しようかな……危なくなったほうに行くか?
 俺は足手まといなんだよな。

 と思ったら、目の前にオフィーリアが飛び降りてきた。
 ダイナミック着地!

 パンチラ!
 色は……黒!

 ――俺のガッデム馬鹿野郎!
 パンツの色は、今はどうでもいいだろ!

「オフィーリア! また俺を連れ去りにでも来たか!?」

「風の噂で聞いたぞ! 泣き虫ファルドの坊やは、ようやく己を取り戻したようだな! レティシアも存外、良い策を思い付くものだ」

「何の話だよ?」

 レティシアについては、今は考えない。
 俺の知ってる名前だが、設定上の話だし、今は考えない。
 それより、策って何だよと訊きたいのだ。

「誰が言ってやるものか! ふははは! 私と踊れ、石版の預言者!」

 オフィーリアは両手に一本ずつ、剣を生成する。
 二刀流とはまた厄介な。
 これがオフィーリアの本気モードか?

「生憎だが、貴公は私が相手になる!」

「……む? 誰だ、お前は」

 まあそうなりますよね。
 二人は同じ脳筋女騎士という属性を持ちながらも、面識は無かったからな。

「私はテオドラグナ・カージュワック! 騎士の位は数日前に捨てたが、誇りまでは捨てておらぬ! 以後、お見知り置き願おう!」

 バシィッと決めポーズ。
 集中線がバーンと見えたのは、気のせいだろう。
 まさかそんな魔術は存在しないだろうし。

「……キャラが被っているではないかっ!」

 オフィーリアもまた、俺と同じ感想を持ったらしい。
 実際似た者同士だよな、こいつらは。

「奇遇だな。私もそう思っていた所だ」

「ふむ……面白くない。このままでは私の存在意義が霞む!」

「構わんだろう? 人は世に多い。似た者同士の鉢合わせなど、ままある事よ。もっとも、立場は異なるようだが」

 野球選手がバッターボックスで構えるみたいに、ドーラは右手で剣を構え、左手を肩に置く。

「ファルドを呼んできますか?」

 俺の問い掛けに、ドーラは首を振る。
 オフィーリアはそれを見て、軽く憤慨する。

「なめられたものだな。一人で充分と申すか」

「そうだな? 名乗り一つ挙げられぬ小者など」

「私は小者ではない! オフィーリア・アーケンクランツだ!」

「ではアーケンクランツ卿。貴公の武勇、如何程か! いざ!」

「と、その前に言っておこう! お前は、その小僧を守りきれねば負ける! 意味は、理解できるな?」

 ――!
 つまり、ドーラと戦いながら俺の首も狙うって魂胆か!
 オフィーリアなら不可能じゃないのが、恐ろしい……。

「やれやれ。三人分の命を守ると言うのか。荷が重いな」

「三人分だと?」

「シン殿と私と、そして貴公だよ」

「どこまで見下すつもりだ、お前という奴は!」

「シン殿、とにかく距離を取れ!」

「はい!」

 激しい剣戟は、火花を散らせる。
 オフィーリアが円を描くように移動するのとは対照的に、ドーラは前後に距離を調節する動きだ。

 あ、マズい。
 魔物の群れが、ディフェンスかましてやがる!
 オフィーリアに比べれば、楽な相手だと思いたい。

「うおおお! 正面突破だ!」

「ひょろっちいガキが、威勢だけは一人前か!」

「一人前なのが威勢だけだと思うなよ!」

 ひとつ、ふたつ、みっつ!
 次々と蹴散らして、ジェヴェンとグラカゾネクが見える所まで下がる。

 なんだ、この剣!
 虚勢を張ってがむしゃらに戦ってみたが、切れ味がヤバい。

 切り傷が爆発して、魔物共が大変な事になっていた。
 こんな代物、絶対に奪われちゃいけないな。
 宙吊り野郎の杖も、いつかは取り返したいな。

 ジェヴェンは……さすがは歴戦の猛者だ。
 束になっても敵わなかったあのグラカゾネクを相手に、善戦している。
 一閃車輪喰裂ソードサイクロンを完全に無力化させているのを見るに、むしろ勝ちじゃないか?

「屋敷の守りはどんなもんよォ! あァ!? 魔女の墓場ァ! オレ達も苦労したんだぜェ!」

「……」

「だからこうして大将首が前に出りゃァ、そこに群がるアホ共を尻目に別働隊が屋敷をブッ壊す! いい作戦だろォ!?」

「上も、同じ作戦を考えていたな。だが、見ての通りだ」

 ジェヴェンが指差す、その先。
 屋敷の前ではファルドとアンジェリカが戦っている。
 二人は見事なコンビネーションで、錆野郎の量産型っぽいのを次々と破壊していく。
 そしてその錆鎧からは、虫がうぞうぞとはみ出していた。

「アンジェリカは虫が苦手だったよね。俺に任せて、下がって!」

「今更ヘーキヘーキ。花火には丁度いい火種だわ! あっははははは!」

 ……どうやら、杞憂だったようだ。
 ちょっとアンジェリカが酔っ払ってるみたいだが、後で賢者モードになってくれる事を祈ろう。

「ヒャハハ! 面白ぇ! 邪魔しに行ってやる!」

「そうはさせんぞ」

 グラカゾネクは飛ぼうとしたが、上手く行かなかった。
 ジェヴェンが、グラカゾネクの足をガシッと掴んでいた。

「手合わせの途中で背を向けるのは、武人の風上にも置けない。オフィーリアとやらは、そう言うだろうな」

「カァー! わァーった、相手してやんよ!」

 ひとまず安心だな。
 他人の心配なんてしてる場合じゃないが、任せて良さそうだ。

 他の連中は……よし!
 メイも、レジーナも、テレポートを繰り返しながらバックスタブで魔王軍を倒していく。


 背後を見る。
 オフィーリアとドーラはかなり離れている。
 そうそう討たれないよな?
 心配だが、俺が加勢したら怒られるだろうな。

「シン君、ごめん! 遅れた!」

 と、ここでメイが戻ってきた。

「大丈夫、こっちは順調だ。オフィーリアに狙われてる事を除けばな」

 順調すぎて恐ろしいくらいだ。
 後詰めでレイレオスが来る、なんて事はないと思いたい。
 その流れだけは勘弁だぞ。
 来てもおかしくない状況だがな。



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