自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第九十八話 「すまんが、つもる話は後だ」


 なるほど、テレポートか。
 これを使えば確かに、俺達の足取りを掴まれずに事を進められる!

 俺達は自分達の手で情報を集めなきゃいけない。
 目撃者が増えると厄介なんだよな、実際。

 殺されはしないだろう。
 少なくとも、俺は。
 ヴェルシェの言葉を信用するなら、アイツの目的は俺に改ざん済みのストーリーを見せつける事だからな。
 はた迷惑なオ○ニーはやめてくれ!


 まず、最初の目的地。
 それは鉱山村ヴァン・タラーナだ。
 モードマンは味方だったが、今もそうとは限らない。
 せめて安否だけは確認したい。

 四人で一緒にテレポートする方法は一つだけある。
 まずメイの両隣に俺とアンジェリカが手をつなぐだろ。
 で、ドーラが両肩に手を置くんだよ。

 メイに直接触れていれば、一緒にテレポートできるらしいからな。
 あとは足並み揃えてテレポート先の方角に走るだけだ。


 *  *  *


「駄目。誰もいないみたい」

「手遅れだったのか……?」

 屋敷は玄関口を中心に、真っ二つに叩き割られていた。
 屋根は吹っ飛び、壁はボロボロだ。
 まるで、どでかい剣を振り下ろしたかのようだった。

 当然ながら屋敷の中は、もぬけの殻だ。

「ふむ。連合騎士団では腕自慢の為に交流試合があるのだが」

「どうしたんです? いきなり」

「建物の壊れ方に見覚えがあってな。重魔術と剣術を組み合わせた大技で、丁度このような形に力が動くのだ」

 倒壊した屋敷を指さし、ドーラが頷く。

「つまり、騎士団所属の誰かがこれをやったと」

「……魔王軍に同様の技を使う者はそうそうおるまい」

 魔女の墓場め。
 碌でもない真似をしやがって!
 ……モードマンは生きてる、よな?

「どうしよ……リントレアに向かってみる? それとも、ボラーロ?」

「まずはリントレアだな。ジラルドの見せしめに、村がやられてるかもしれない」


 リントレアに到着。
 こっちも静かだが、建物はどれも原形をとどめている。

 灯りも見えるし、遠巻きから見ても人の気配がある。
 ピリピリした雰囲気も無い。

「良かった。無事みたいね」

 俺達は、ほっと胸をなでおろす。

「とはいえ、魔女とは因縁浅からぬ村だ」

「そうなのか?」

 ドーラさん……文武両道って言葉とは縁遠い人だもんな。
 仕方ない、説明するか。

「ルーザラカが調子こいてた時に、吹雪の被害を受けた村なんですよ。だから魔女が大嫌いになっても、別に不自然じゃない」

「ふむ……憤懣ふんまんやるかたなし、か」

「俺達も同類と思われてたらマズい」

「じゃ、ボラーロだね」


 *  *  *


 で、ボラーロに辿り着いたワケだが……。

「ウェイヴスピアー!」
「アクアプレス!」

「うおお!?」

「だから水は相性悪いんだって! 今なら蒸発させられるけど!」

「絶対に手出しするなよ!」

「人間ごと蒸発させるって言いたいんでしょ、わかってるわよ!」

 一体、どうなってやがるんだ!
 いたるところに湾岸警備隊がいるし、俺達を見つけるなり攻撃してきやがった!


 だが違和感はある。
 さっきから、妙に狙いが甘いのだ。

「路地裏を抜けるぞ!」

「テレポートですぐ逃げられるじゃん!」

「確認したい事がある!」

 ミランダの仲間達はどうなったのか。
 魔女の墓場が国中を牛耳ったなら、あいつらもヤバいぞ。

「シン、前を見て!」

「ゲェーッ! 湾岸警備隊ィ!?」

 挟み撃ちかよ……冗談じゃないぞ!
 テレポートで逃げるにしたって、一定の距離を走らなきゃいけない。
 素直にメイの忠告を聞くべきだったかもな……。

 と、思っていた矢先だった。

「撃ち方、やめ!」

 前からやってきた警備隊の、リーダーらしい奴が号令を飛ばした。
 後ろ側からの魔術が止む。

「やい、馬鹿者共! てめえら恩を仇で返すとは何事だ! 歌い竜の一件を忘れたか!」

「うるせえぞ! こいつらがこの街を守ったのか? 違うね! 自作自演だ!」

「寝ぼけた事を抜かすんじゃねえ! 領主様は仰せられただろうが! 魔女の墓場なんざ知ったことじゃねえってよ!」

 仲間割れですかね……。

「抱き枕を踏み絵にさせた挙句、歌姫を追放した、あんな連中にこれ以上付き合いきれねえ。違うか」

 うわ、マジか。
 めちゃくちゃショックだ。
 王様が死んだ事に比べりゃ、そこまででもないが……。
 いや、合わせて全部ショッキングだ。

「ボラーロが生き残るには、ああするしか無かっただろうが!」

「あ゛ァ!? 責任者も通さず現場で判断させる奴等の手口なんざ知るか! ジャケットを置いて出て行けコノヤロー!」

 すると、何だ。
 魔女の墓場はボラーロに押し入って、湾岸警備隊を脅迫して、勝手にミランダ達を追放したのか。
 完全に悪質クレーマーの手口じゃねえか。
 店長来るまで待てないから今すぐ誠意を見せろ、的な。

 魔女の墓場へのヘイトが、すっかりうなぎ登りなんですが!
 どうしてくれるんですかねえ、これ!

「すいやせんね、皆様方……見ての通りの有様でさあ。あっしがケジメ付けさせるんで、今のうちに離れて下せぇ」

 リーダー、いきなり口調すげえな!?
 俺達はいつの間に任侠映画の世界に紛れ込んじまったんだ!?

 いやツッコミは後回しだ。
 今は、ありがたくご好意に甘えよう。

「メイ。状況は全て把握した。離れるぞ」

「オッケー。みんな、掴まって」
「承知した」
「わかったわ」

「最後に一言! そいつらも本意じゃなさそうだし、折檻はお手柔らかにお願いしますよ!」

「……へい。善処しときやす」

 寂しげに笑う、リーダー。
 俺はその笑顔を記憶に刻みつつ、テレポートで消える。

 嫌なことばかりじゃなかった。
 俺達はまだ、何もかもを奪われたワケじゃなかった。

 いるじゃないか!
 俺達の他にも、魔女の墓場に抗う奴が!

 だが、俺一人が希望を捨てずにいられるのはまだしも、だ。
 他のみんなも、希望を持ち続けられるか?

 ……いや、愚問だな。
 運命に抗う奴が他にもいる。
 ドン底には顔面タッチ済み。
 この条件で、誰が希望を捨てられるっていうんだ?

 もしも心が折れそうになったら、俺が支えてやるんだ。


 *  *  *


 さて、次のロケーションだが……。
 ここは見覚えが無い。

「メイ。ここはどこだ?」

「えっと、その……」

「歯切れが悪いな。まさか道に迷っちまったとかか?」

 半分くらいが焼け焦げた、ボロボロの建物だ。
 窓は全部割れてるし、ご丁寧に門まで潰されている。
 屋敷とか、城じゃあ、ないな……。

「ここ、知ってるわ」

「ごめんね、アンジェリカ……」

「いいのよ。丁度、見ておきたかったの」

 会話から察するに、まさかとは思うが。
 ……もしかして、この廃墟は!

「エスノキーク魔法学校よ」

「そう、か……」


 焼け果てた校舎を、俺達はしばらくぶらついた。
 アンジェリカは憂鬱な表情でうつむきながら、瓦礫の一つを拾い上げた。

 ……杖、だな。
 殆ど炭化しているが、よく見ると黄色いラインが引かれている。

「嫌な思い出ばかりだったけど、焼きたい程じゃなかったわ」

「あたしも、わかるよ。学校ってさ。一種の閉鎖空間なんだよね」

「うん」

「大人が頼りないと、馬鹿な奴が付け上がる。その足元で泣かされた人達は、きっと大勢いる」

「アンタも泣かされたクチ?」

「やってられなくなって、家に引きこもっちゃった!」

「いいなあ。私もそうすれば良かった。母さんが許さないだろうけど」

「あたしは、アンジェリカちゃんが羨ましいな。あたしの親、離婚しちゃったからさ」

「何があったの?」

「あたしの趣味に、父さんが付き合ってくれてね。あたしの作品を、雑誌にも乗せてくれたんだ。
けど、それが学校にバレちゃって。退学にはならなかったんだけど、いじめられて……で、両親はそれをきっかけに離婚。あたしは遠く離れた、おばあちゃんの家に逃げて、引きこもっちゃった」

「そっか、辛かったわね……ごめんね、軽々しく羨ましがっちゃったわ」

「いいよ。家出して冒険してるけど、外の世界は楽しいって思えた。嫌なことばかりじゃなかったし、素敵な仲間に出会えた」

 ドーラは俺と同じく、黙っている。
 以前のドーラなら、ここで情けないだの戦えだのと口を挟むのだろうか?

 いや、よくよく考えるとそういう奴じゃないな。
 空気を読んでというか、二人の邪魔をしたくないといった感じだ。

 と、思ったが。
 突如としてドーラは二人の肩を叩く。

「すまんが、つもる話は後だ」

 押し殺した声に、二人も口をつぐむ。
 何やら、良からぬ予感がする。

「先客を発見したのでな」

 先客。先客ねえ……。
 アンジェリカを処刑した(と世間は思っている)今、ここはもう用済みの筈だ。
 誰がここに来てるっていうんだ?



「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く